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剣の王と七つの魔宝刃  作者: 水無月 平
魔剣エラディオン
21/27

越えるべきもの

 


 死の塵を倒してから再び進み出したイルジオ達は周囲への警戒は怠らずも話をしながら進んでいた。



「シュトナが魔宝刃を探し始めた理由は何なんだ? 今までは黙ってたからこっちからは聞かないようにしてたんだが」



 シュトナはイルジオがそのことを気にしながらも黙っていてくれたことに気づいていた。


 そして、それを無理に聞かずにいながらも旅に一緒に連れてきてくれているイルジオの信頼に感謝をしていた。


 ただシュトナにとってはある意味話しづらかったのだが、この際できる限り話しておこうと思い話し始める。



「私にもなんて言ったらいいのかわからなくてね……はっきりとしないまま話しても信じてもらえるような話じゃないし。けどイルジオならちゃんと聞いてくれると思ったから、話すわ」



 そこでシュトナは一度深く呼吸をしてから説明をし始めた。



「時々ね、朝起きた後に不思議な焦りに駆られるの。夢で何か見たんだろうけど覚えてるのはぼんやりとした魔宝刃のこととその変な焦燥だけ。

 霊視の力によるものだと思うけどはっきりしたことはわからないの。ただの夢かもしれないし話さない方がいいかなって」



 そう語ったシュトナの瞳はどのように返されるのかという心配で不安そうに揺れていた。

 それを見てイルジオはその不安を拭い去るような優しい声で返答する。



「俺はシュトナを信じるよ」



 イルジオのその優しげな声を聞いてシュトナはほっと息を吐くとともにつぶやく。



「やっぱり、イルジオは優しいわね」



 そのつぶやきが聞こえたイルジオは顔を少し赤くしたあと、二人のやりとりを温かい目で見るニクに気づき誤魔化すように言った。



「……あー。これでますます魔宝刃は諦められなくなったな」



 そんな黒き森の中とは思えないあたたかな雰囲気を出しているとそれを遮るように魔物が現れた。



 のっそりと姿を現したのは真っ黒な体毛を持った巨大な獅子だった。



 その獅子は威嚇するように唸りながらイルジオ達の斜めに回り込むように近づいてきた。



 イルジオ達はそれに正対するよう立ち回りながら情報を共有する。



魔獅子(イムヘルゼ)だわ。これもあの資料に乗ってた。単純に硬く速く鋭い。それも尋常じゃなく、ね」



 シュトナの言葉を聞きながらイルジオが開戦するころ合いを計っていると闇の奥からどしん、どしん、という一定の間隔の響くような音が聞こえてきた。



 その音は徐々に大きくなっていきイルジオ達の方へ近づいてくるのがわかる。



 そしてその音が最大まで達した時、目の前に一本の黒い足が現れた。



 否。


 イルジオ達の視界で捉えられたのがその足のみであるほどに大きな体であったのだ。



 全身を現したそれを見上げるとそこには黒い肌をした人間のような魔物であることがわかった。



 それは巨人(ヒルゼリア)という魔物であり古代の資料でも見ていたが、実際のそれは絵で見る以上の圧倒的な威圧を放っていた。



「グアウゥ!」



 巨人のあまりの大きさに気を取られたその隙を突いて魔獅子が襲いかかる。



「っ!」



 イルジオがなんとか魔獅子を弾き返すもこの状況の最悪さに全員の背に冷や汗がつたう。



「ニク、シュトナ。悪いが今回は魔力の温存とか言ってられなさそうだ」


「ん。私達でイルジオを援護する」



 シュトナと一瞬目を合わせて意思の疎通をしたニクが応え、それを見たイルジオが静かに頷いて二つの魔物を見据える。



 イルジオはこの状況を最悪だと思いながらもそれと同時に心の奥では歓喜していた。


 師匠との修行以来久しく感じていなかった命の危険がともなう戦いの状況に。



 イルジオはどこかで思っていたのだ。


 自分は本当に剣聖である師匠を越えられたのか、と。

 そして自分が剣聖を越えたことを証明するための戦いの場、強大な敵を望んでいた。


 魔宝刃を探す旅をしたのも、もしかしたらそれほどの力を振るう敵を無意識のうちに探していたのかもしれない。



 そうして今回潜った黒き森という危険な場所で最初に遭遇したのが死の塵という魔物だった。



 死の塵は特殊な魔物であり、ニクとシュトナにとっては危険であったが魔法を使わない自分には危機とは言えなかった。


 また、初めての仲間を危険には晒せず心の声を押し込めて引き返すことを提案したのだろう。



 だが今回は違う。


 ニクとシュトナは覚悟を決めており、そして敵は自分を殺し得る強敵が二匹。



 この状況にイルジオは意識せず口角を上げていた。



 そんなイルジオに巨人が足を振り下ろし、それをイルジオは剣で音も無く受け止めた。


 そう、音も無く。



 あれほどの質量とのぶつかり合いで、イルジオは衝撃も音も残さずに受け止めてみせた。



 それは師との戦いで身につけた技ではない。今この瞬間で初めて使ってみせたのだ。



 イルジオの成長は止まってはおらず強敵の戦いでより強くより速く、そしてより高度な技術を習得していく。



 巨人と魔獅子を両方を同時に相手取ってなおイルジオが押していた。



 イルジオの戦いの質にニクとシュトナはついていけず、魔法での援護をはさむことができないでいた。



 しかしイルジオが押しており二匹にいくつもの傷を負わせていると言っても、傷が増えていくのは相手だけではなかった。

 二匹との同時の戦いでイルジオのその体にも浅くない傷が増えていっていた。



 その体につける傷の数が増えていくイルジオを見て、それを助けようとニクがシュトナにある提案をする。



「シュトナは自分が使える一番強力な天魔法をお願い。私の炎魔法をそれに合わせる」


「……それって合成魔法を使うってこと?」



 合成魔法とは二種類の魔法を合わせることでより強力な別の魔法を創り出すものだ。



 合成魔法は合わせる魔法が高度になればなるほどその制御が難しくなり、この魔物に通用するものともなればそれこそ深淵魔法に匹敵する難易度だろう。



「例の深淵魔法は味方を巻き込まないために、使う瞬間は味方より前に出ている必要がある。けど今回はその一瞬でも私は危ない。だから放った後も制御が効く合成魔法を創り出す」


「でも私にニクほどの魔法制御はできないわ」


「ん。だからシュトナは自分の魔法にだけ集中して。私が自分の魔法と全体の制御をする」



 それは口で言うほど簡単なことではない。シュトナもそれは分かっているため、答えに詰まっていた。



「シュトナ。私はイルジオを助けたい。そのためには今までやってきた以上のことが必要なの。絶対に成功させるから、信じて」



 イルジオを助けたいのはシュトナも同じであり、ニクがここまで言うのにどうして自分だけ諦められるだろうか。



 そう考えたシュトナは強い意思を込めた目でニクを見つめながら答えた。



「わかったわ。でも全体の制御を全部ニクに任せたりはしないわ。私も自分の限界ぐらい越えてみせる」



 ニクはシュトナの言葉に一瞬目を丸くして、それから微笑んで言った。



「ん。二人で限界を越える。イルジオみたいに」





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