行き先
ひとり、山から続く森へ下りたイルジオは当面の目標を決めることにした。
魔宝刃を探しその過程で様々な強者達と戦えればいいとは思ったが、まずどのように、どこから、などの方針が定まっていなかったのだ。
特に水と保存食も数日分しかなく、魔宝刃を探すにしてもその前にやらなければならないことが山積みである。
ただ、何故か妙に詳しい地図を師匠から譲ってもらっており、地理に関しては問題なさそうであった。
「まず旅をするのに必要なのは、と。とりあえず食料に水だろ。魔宝刃の情報を集めるのには町に行かなきゃだし、町に行くにしろ先立つもの––––金も必要だな」
イルジオは物心ついた時には山で師と暮らしていたが、一般的な常識などは師匠から教わっていた。
その師匠はといえば、まさか最初から山で暮らしていた訳ではなく、山に住む前は普通に町に住んでいたのであろう。でなければあれ程世間一般の知識はおしえられまい。
もっとも、師はあまり自分の昔話をしなかったためイルジオは彼がどこの国で何をしていたのかも、かつてはその剣の腕前から剣聖、とまで呼ばれていたことも知らないのだが。
そんなイルジオは地図を眺めながらこれからの旅に必要なものを考え、最低限のものを列挙していく。
そして一先ず、これからやることを決めたイルジオは次に、向かう方角を考えた。
「ええと……今いるこの山は一応アイシン帝国に属するんだっけ。このまま南東へ行けば帝国の中心に着くんだよな。ならまずは帝国の首都––––帝都シンゼリアを目指すか」
大陸南部を東西に亘り支配しているアイシン帝国。その北西部の端に位置するのが、今イルジオが下りた"嵐の山"だ。
そして帝国の首都シンゼリアはそこから東寄りの南西方向、帝国中央部よりの西部にある。
イルジオが帝都を目指したのは単純に人が最も多いであろう、つまり情報が集まるであろう場所を考えたためである。
そうして、イルジオはまず当面やるべきことを決めていった。それから––––
「あとはコイツ、霊剣レムナントの力を使いこなせるようにしないと。できればそれ以上、より強力な力を引き出せるようにしたいな。コイツの力はあれだけじゃないだろうし」
それに、とイルジオは続けてひとりごちる。
「師匠との時みたいにいざって時に必要になるかもしれないしな」
食料を集めるにしても町までの道のりにしても、狩りや外敵から身を守るのに使う機会はいくらでもあるだろう。
そして彼ならばその道中で次期に使いこなせるようになるのだろう。
彼は僅か十余年で"剣聖"と死合える程までになった剣の才能を持つのだから。