死の塵
黒き森に入ったイルジオ達は僅かな日差ししかなかったため、ニクの光魔法による明かりを頼りに奥へと進んでいった。
イルジオ達は、黒き森の探索にどれだけの時間がかかるかわからなかったため、ニクとシュトナに魔力を温存させようと魔物はイルジオが主だって倒していった。
「流石にここの魔物は外のに比べて斬りごたえが違うな」
「そうだったのね。イルジオがさくさく倒していくから私には違いがわからなかったわ」
イルジオの感想に対してそうシュトナが返したように彼はいつものように魔物を難なく倒していっていた。
やはり森の浅い部分にはそれほどの魔物が出てこないのかあまり魔物達には時間をかけずにどんどんと森の奥の方へと進むことができ、何事も無く一日の探索が終了した。
三人が順番に見張りをしながら睡眠をとり、僅かに入ってきた日差しから朝の訪れを感じてイルジオ達は黒き森の探索を再開させた。
二日目ともなると魔物の強さも変わってきてゆっくりと進む速さが落ちてくる。
一度補給のための休憩を取ったあともイルジオ達は奥へと進んでいく。
森はさらにその暗さを増し、日差しなどまったく入ってこなくなりニクの光魔法だけが頼りとなっていった。
その異様さからか三人の口数も減っていき気づけば誰も喋らなくなっていた。
完全に暗闇になった森を進み始めてからしばらくした後のことであった。
魔物の姿がなかったため前進していたイルジオが唐突に立ち止まったのである。
それを不審に思ったニクがイルジオに尋ねた。
「イルジオ? なにか見つけた?」
「いいやなにも見えない、が。なんとなく嫌な予感がする」
確かにイルジオの目には木々以外のなんの姿も映っていなかったが、イルジオは自分の勘を信じて臨戦態勢をとっていた。
そんなイルジオを見てニクとシュトナも同じように身構えた瞬間のことだった。
ニクの光魔法が消え、あたりが闇に包まれたのである。
突然のことに誰も事態をつかむことができず三人は焦燥にかられた。
黒い、靄のような埃の様な無数の極小の羽虫のようなものが三人へと纏わりついてきていた。
「ニク! 大丈夫か!」
「ん、私は大丈夫。でも魔法が使えなくなってる。魔力は操作できるのに魔法に変換できないの」
ニクの落ち着いた声に余裕ができたのかシュトナは必死にあの古代語の資料を思い出そうとし始める。
「……ええと、魔法が使えない? なにかあったような……魔法が使えなくて魔力がなくなって––––––死ぬ?」
そうつぶやくと同時にシュトナはある魔物の記述を思い出した。
「そうよ! "死の塵"だわ! 魔法を魔力に変換してその魔力を食べるんだわ!」
「それで私の光魔法が消えて、そのあとも魔法を構成できない? でもそれだけなら死ぬことはない……」
「変換された魔力を食べ尽くしたら次は人の魔力を狙うの! 身体接触で魔力を捕食できて死の塵に魔力を食べられた人では普通この深さの魔物に殺されて死んでしまうの!」
シュトナがそう魔物の名の由来と特質を説明しているうちにも無数の死の塵が三人の魔力を奪っていく。
イルジオの剣は正確無比だが、ニクとシュトナの不意の動きにこの暗さの中かわすことができなくなるのを恐れて、イルジオは剣の振りを控えるしかなかった。
そんな時だった。
死の塵を振り払おうと体を振っていたシュトナの胸元からぼんやりとした光が飛び出し、首のあたりで跳ねていたのだ。
「あれ? この明かりは? ってこれ魔貝の明かりだわ!」
そうそれはイルジオが露店でニクとシュトナに買った魔貝のネックレスだった。
魔貝と言っても色々あり、それは明かりを溜め込んで暗いところで光るという性質を持つものだった。
「でかした、シュトナ! ニクもネックレスを服の上に出してくれ!」
魔貝の光に照らされニクとシュトナが見えるようになり、イルジオはようやくとばかりに反撃を開始した。




