告白
イルジオの質問に思わず身をこわばらせたシュトナだったが、やがて諦めたように体を弛緩させた。
「…………いいわ。私はあなたに助けられた訳だし、どうせあなたと彼女相手だとすぐばれてただろうから、話すわ。私のことを」
シュトナの言葉にイルジオは何も言わずに黙って耳を傾ける。
「私ね––––––魔族、なの」
そう告白すると、イルジオがそれに何か返すのを恐れるようにシュトナは一息に話を続けた。
「私は魔族だから寿命は人間より遥かに多くて、イルジオが思ってる年齢よりずっと上だし。人間が殆ど忘れているとはいえ、昔はお互いの種族を滅ぼそうていてたわけだし、信用ならないでしょ? だから、イルジオは早く私を見捨てたほうが良いわ。いつ攻撃してくるか心配でしょう?」
そう告げた彼女の顔と声は、その言葉と裏腹に見捨てられたくない、と言っているようにイルジオには見えた。
だから。いや、そうでなくてもイルジオは同じように返しただろうが。
「見捨てるわけないだろ。シュトナ。お前はニクを助けてくれたし本当に危害を加えるつもりならそんな悲しい顔しないだろ? それに––––」
そう一度言葉をきったイルジオは足を止め、泣きそうな顔をしたシュトナの目を見て言った。
「––––それに、俺はもうお前のこと仲間だと思ってるから」
そのイルジオの言葉を聞いた途端、シュトナは顔をくしゃりと歪め、堰を切ったように涙を流し始めた。
「くうっ……うぅ…………」
不安だったのだろう。弱りきったまま頼れる相手がいなくなることが。なにより、イルジオに拒絶されてしまうことが。
シュトナにとってイルジオは大陸を渡ってから初めて自分を助けてくれた人間だったのだから。そんなイルジオが自分を仲間と言ってくれて一気に安堵したのだ。
そんなシュトナの泣き声を聞きながら再び走り出したイルジオは静かに彼女が落ち着くのを待つのだった。
やがて落ち着いたシュトナが泣くのをやめると、彼女は気を使ってくれたイルジオに礼を言い、彼にあることを尋ねた。
「……くすんっ…………もう、大丈夫よ。落ち着いたわ。待っていてくれてありがと。まだ聞きたいことがあるんでしょう?」
「気にすんな。そんな質問する雰囲気じゃなかっただけだ。
俺が聞きたかったのは、なんで魔族が魔法についてそんなに詳しいのか、てことなんだが」
「やっぱりそのことよね。最初は魔族の私からしたらむしろ人間が魔法を知らなすぎて驚いたわ。だって魔族の大陸––––ハイレ大陸では本を読めば学べることだったから。
少し人間を調べてみてわかったことだけど、どうも詳しい魔法のことは昔のこと過ぎて記録を残していなかったみたいなの。魔族は歴史や過去を重んじる風潮があるから千五百年前までの事なら大体残ってるの。それより前のことだとはっきりしないけど……」
「んー……魔族が歴史を重んじてて昔のことをよく知ってるのはわかったがそれと魔法はそんなに関係が強いのか?」
「ええ。そもそも魔法の詠唱には"古代語"というものが使われているの。古代語は千五百年よりももっと前のものだけど古代語について書かれた本はハイレ大陸にはすごく多いの。それで古代語を詳しく学べる魔族はその属性の特性を人間よりも強く引き出せるのよ……それでも深淵魔法は使えないけどね」
「それでニクの深淵魔法を見てあんなに驚いてたのか」
「そうよ。その魔法について詳しければ詳しいほど魔法の制御が楽になるのだけど、彼女が古代語を学んでいたとは思えない。そもそもどこであの魔法の存在を知ったのかしら」
そうシュトナが溢すとその疑問に対して思わぬところから答えが返ってきた。
「学院で見つけた」
「ひゃっ!?」
突然の返答にシュトナが悲鳴を上げて声の方を見るとニクがいつの間かに目覚めていたようだ。
驚いてなかった様子を見るとイルジオは気づいていたらしい。
「……もう! イルジオも気づいてたなら教えてよ!」
「すまん。言うタイミングがなくてな。それより学院で見つけた、てのは?」
「魔法刃について載っていそうな古い本を探して読んでいたらその中に見つけたの。古代語についてはある程度自分で解読できてたからどんな魔法かはわかってた。同時にどれだけ難しいかもわかったから使えるとは思っていなかったけど……」
「自分で解読って……とんでもないわね。それにほとんど完璧に古代語を理解できる人でも深淵魔法は使えるかわからないほどなのに……」
「まあそれほどニクが天才、てことだろ。それよりちょうどニクも目を覚ましたところだし、これからどうするかを決めるぞ」
「なんだか腑に落ちないわ……」
イルジオの軽さに呆れつつもこれからについて決めることには賛成だったためシュトナはそれ以上言わず、三人は話し合いを始めるのであった。




