深淵魔法
「…………深淵魔法って……嘘でしょ」
シュトナがそうつぶやいたのとほぼ同時にニクが倒れ込みそうになったため、イルジオがそれを支え、ゆっくりと地面に寝かす。
シュトナのつぶやきも気になるがニクが弱ってしまっているためそれは後回しだ。
「おい! ニク! まさかこれは……」
「魔法の過剰使用の代償ね。体内魔力の残量が足りないと普通は魔法を使用できないけど、それでも魔法を行使した場合空気中の魔力を一度体内に取り込んでから魔法に変換する必要がある。
そのため魔法に使われる魔力は空気中のものと体内のものが混ざった異質なものになって、それでも魔法は発現するけど体は拒絶反応を起こしてしまう…………
このままじゃ彼女が危ないわね」
シュトナがイルジオの考えと同じことを言うも、まったく焦る様子がないのを見てイルジオが苛立つ。
「……随分と他人ごとみたいに話すな」
イルジオの鋭い目線に肩をすくめるとシュトナはなだめるように続けた。
「そう怒らないでよ。このままじゃ確かに彼女は危ないわ……このまま、ならね」
そういうとシュトナは跪いてニクの体に触れ、魔法を唱え始める。
「境界よ線を引け
混じり合うものを区別せよ
異なるものは離れ
類なるものは寄れ––––」
「空間識別・交わらぬ併合」
シュトナの魔法によりニクの体がぼんやりひかり、しばらく経って光がおさまるとニクの苦しそうだった顔がやわらいでいた。
「ふう。これで後は時間経過で魔力が回復すれば大丈夫よ」
そう言うとシュトナは疲れたように再び地面に腰を下ろした。
「……すまん。お前も疲れてるのに怒るような真似して。ニクを助けてくれてありがとう」
ニクの無事を確認して冷静になったイルジオはバツが悪そうにシュトナにお礼を言った。
「まあ私も驚いてて言い方が悪くなってたからそれはいいわ。それよりはやく国境を越えたほうが良いわ。新しい追っ手が来る前にね。だから、その…………また抱えてくれるかしら?」
最後の方になるにつれシュトナは照れてだんだんと小声になっていったが、両腕を開いて差し出してきたのを見たイルジオは軽く頷いてシュトナを脇に抱え、反対側に意識のないニクを抱えた。
「色々と気になることがあるのでしょう?」
イルジオが走り出すとシュトナがそう話をきりだした。
「ああ。ひとまずシンエン魔法? について教えてくれるか?」
「いいわ。けどとりあえずあなたも知っていそうなところから説明するわね。
まず魔法の六大属性は知っているかしら? 主に火炎を操る属性、水を操る汎属性、風や雷を操る天属性、土や樹木を操る地属性、隠密や弱体の魔法の闇属性、そして回復や補助の魔法の光属性よ。炎は汎に汎は天に天は地に地は炎に弱くておおよそ一つ下の階級の魔法で対抗できるようになってるの」
基本的なことを説明したシュトナは一度そこで区切り、イルジオがわかっているのを確認する。
大事なのはここからだわ、そう前置きして彼女は本題に入っていった。
「六大属性にはそれぞれ特性があるの。
"熱"、"流"、"空"、"時"、"奪"、"与"と言う特性がね。
例えば私がさっき使ったのは天魔法の一つなの。魔力不足の場合は光魔法で魔力を分け与えるけど魔法の過剰使用の場合はそうはいかないわ。人同士の魔力は混ざり合っても問題ないけど、空気中のものは体を蝕む。そうなったらいくら魔力を回復させても意味はないから。
だから私は彼女の体内の魔力を把握、識別して彼女本来のものと外から入ってきたものを分けた。そして彼女の魔力は彼女の中に、外からのものは再び外へと馴染ませたの」
「なるほどね。それがシンエン、つまり深淵魔法てことか?」
言葉に当たりをつけたイルジオがそう尋ねるもシュトナは首を横に振る。
「いいえ。その特性を直接操ることができて初めて深淵魔法と呼べるの。私の魔法は精々特級魔法、と言ったところかしら」
シュトナの説明を聞いてイルジオはおおよそ予想がついた。
「つまり天魔法の深淵なら空間を捻じ曲げたり瞬間移動したりできるわけか。それでニクが使った魔法は熱を一瞬で集めてまたそれを開放したから深淵魔法と呼べるわけだ。
……シュトナの説明はよくわかったが一つ聞いていいか?」
「……何かしら?」
「どうしてお前はこんなことまで知っているんだ?」




