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剣の王と七つの魔宝刃  作者: 水無月 平
魔剣エラディオン
12/27

決意と覚悟

 



「なるほどね……ん? なら俺のこの魔宝刃のことももっとよく視れば詳しくわかるのか?」



 霊剣についてより詳しくわかればその分より上手く扱えるかもしれない。

 そう考えたイルジオはシュトナにもっと視てもらえるよう頼んだ。



「ええ、そのはずよ。元からこの眼を頼りに魔宝刃を探してたのだもの。これで視えなかったら笑えないわ。

 ……さて。それじゃ、視させてもらうわね」



 シュトナの言葉に頼む、と短く返したイルジオがレムナントを地面に突き刺す。



 シュトナは地面に刺さった剣に顔を近づけてじっくりと視ていった。



 視始めてから数秒後、シュトナの頭にいくつかのイメージが浮かんでは消えていく。



「霊剣レムナント……夢幻の魔宝刃…………扱う者によって変化する姿かたち……強固、(なまくら)、幻影………………内に眠るは夢幻にして無限の精霊……?」



 そこまでつぶやいたシュトナはふっと力が抜けたように倒れた。



「おっと、大丈夫か?」



 咄嗟にそれを支えたイルジオだったが、霊視をすると体力が消耗されると言ってくれれば後で頼んだのに、と申し訳なく思った。



「ありがとう。いつもこんなことにはならないのに……やっぱり魔宝刃はそれだけ強力みたいね」


「そうだったのか……霊視の方はまだ何ともわからないな。うちに眠る精霊、てのも気になるが今わかることじゃないだろう。

……よし、それじゃ疲れてる所申し訳ないがいつ諜報部の連中が来るかわからないからとりあえずここから出るぞ」


「それもそうね。待って今立つか、らぁ!?きゃっ…………ちょっと待って! 自分で立てるからぁ」



 シュトナは突然の浮遊感に驚くもすぐに自分の状況––––お姫様抱っこをされている––––に気づき、顔を真っ赤にしながらもイルジオの腕から抜け出そうとする。



「無理するな。元々弱ってたんだし歩くのもつらいだろ。それにこうした方が速く移動できる」



 イルジオが優しく諭すように言うのを聞いてシュトナはイルジオが自分を想ってしてくれているのを感じ、顔はまだ赤らめたままものの大人しくなった。



 シュトナが大人しくしたのを見てイルジオはレムナントを再び宙に浮かばせ、牢の外へと走り出した。



 *



 イルジオが牢を抜け出してからしばらく経った頃、本を読むことに集中していて昼食が遅れていたニクは食事をとるための店をさがして街を歩いていた。



 しばらく歩いていると、ニクはあることに気がつく。街のいたるところで衛兵がせわしくなく走り回り誰かを捜索しているようなのだ。



 それを見てニクはイルジオに何かあったのではないか、という嫌な予感がしていた。



 そこでニクはさりげなく衛兵達の会話を盗み聞きした。



「見つかったか?」


「東の市街地で少女を抱きかかえた男が走っていくのが目撃されたそうです」


「そのまま門から逃げるつもりか。急いで東の門へ兵を先回りさせろ」


「はっ」



 その会話を聞いてニクは事情を察した。



 理由はわからないがイルジオが帝国に追われているのだ、と。そしてニクは自分がどうするべきか考えた。



 すなわち、イルジオと共に行くのかそれとも関わりを絶つのかということである。



 イルジオと一緒に魔宝刃を探す旅をするのなら二度と魔法学院へ通うことはできなくなるだろう。それは魔法の知識を求めるニクにとっては辛いことだ。

 それだけでなくこれからは帝国から追われることになり、故郷へ帰ることもできなくなる。それでも––––




(それでも、私はイルジオと一緒に行きたい……!)



 ニクの中でイルジオの存在はそれだけ大きなものとなっていたのだ。

 イルジオとの会話や一緒に過ごした時間はそれだけニクにとってかけがえのないものだった。



 そうして、イルジオを追いかける決意をしたニクは東の門目指して走り出した。








 ニクがしばらく走ると十数人の衛兵達の背中が見えてきた。



 そこにいたのは少女を横抱きにしたイルジオとそれを取り囲む幾人もの衛兵達であった。



 ニクがイルジオのことを見つけるとイルジオがこちらにちらりとだけ視線を向けた。



 衛兵越しに二人の目があった瞬間、イルジオは声に出さず口の動きでニクに意思を伝えた。



(––––––じゃあな)



 それだけ伝えると、イルジオは素早い動きで囲いを抜け出し、進路を北に変えながら走っていった。



 *



 牢から脱出したイルジオは何も言わずに出て行くのをためらい、ひとまずニクを探すことにしていた。



 しかし、なかなか見つけ出せず動き回っているうちに、イルジオ達が逃げたことに気づいた帝国が街中を衛兵に探し回らせていた。



 そしてついにイルジオは衛兵達に囲まれてしまうことになった。



 イルジオがこのまま逃げ出すことも視野に入れ始めたちょうどその時、衛兵達の向こう側に見覚えのある金色の髪をした少女の姿が見えた。



 イルジオが視線を向けるとすぐにニクもこちらを見たため二人の目があった。



 ニクを巻き込みたくなかったイルジオは直接声には出さずに別れを告げた。



(––––––じゃあな)



 そう言って身をひるがえし、目を見開くニクを肩越しに見てからイルジオは囲いを突破した。








 あれから進路を変え、イルジオは北の門から街を出ることに成功したが帝国の追っ手は離れない。



 それどころかシュトナを抱えて速度が落ちているイルジオは追いつかれつつあった。



 街道を外れ、木々の中を進んでいったイルジオだったが、ついに帝国の者達に追いつかれてしまった。



「ようやく追いついたぞ。どこで我が国の宝刀のことを知ったのか話してもらうぞ。拷問してでもな」



 そう言い放ったのは騎士の格好をした男で、諜報部でなかったのは戦いが専門の者で確実に捕らえようという考えなのであろう。

 それも騎士の男はかなり品質の高い装備を身につけており、地位も実力も高いのだとわかる。



 つまりはそれほど帝国が本気だということだ。



「勘違いしているようだが俺は宝刀なんて知らんぞ。まあ、お前らの反応から予測するのは簡単だがな」


「ほざけ!」



 もとより捕らえる前に会話をする気は無いのか騎士は全力で斬りかかってくる。


 それをイルジオはレムナントを飛ばして受け止め、宙のレムナントと競り合っている騎士へと蹴りをいれた。


 ふきとんだ騎士を追いかけながらイルジオはシュトナを左手だけで抱え、宙に取り残されたレムナントを掴むと勢いそのままに騎士を斬りつけ、ようとしたその瞬間––––



燃ゆる(イヴン・)魔弾(イム・ドビル)


穿つ水(サイ・オクイズィ・)(ヘイス)


先鋭の塵芥(アールオニム・クル)



 イルジオ目がけて三つの中級魔法が飛んでくる。



「っ!」



 それをなんとか捌くも騎士には距離を取られてしまった。



 魔法が飛んできた方を見るとそこには三人のローブを着た魔法使いがいた。



 イルジオが魔法使いを見た一瞬で体勢を整えた騎士が再びイルジオへと斬りかかり、その間に魔法使いは詠唱を始めた。

 その魔力の高まりは中級魔法以上のそれで三人はそれぞれ上級魔法を唱えているのだろう。



 イルジオほどの強さをもってしても上級魔法を三つ同時には対応できないかもしれない。



 そうイルジオが覚悟したその時だった。



全てを燃(ゼントイヴン)やせし黒炎(・ヴェルトニク)



 三人の魔法使いを黒き炎が呑み込んだ。



「ニク……!」



 金色に輝く髪をゆらして現れたのは魔法の天才と謳われた少女であった。



「イルジオ……置いていくなんて酷い」


「ニク。わかってんのか? 俺と来たらもう後戻りできないぞ」


「わかってる。全部わかってて、それでも私はイルジオを追いかけてきた。もっとイルジオといたいと思ったから」



 ニクの想いを聞きイルジオは驚いて目を見開いたあと、呆れたようにそして、嬉しそうにそうか、とだけこたえた。

 しかし再開に喜ぶ間も無く、敵はすぐに体勢を立て直してきた。



 それに対しニクは再び黒き炎を放つ。



「––––全てを燃(ゼントイヴン)やせし黒炎(・ヴェルトニク)


「なに! 上級魔法を詠唱無しに放つだと!?」



 そう。全属性を扱えるほどの天才のニクは最も得意である炎属性に限り、上級魔法すら無詠唱で放てるのだ。だが、アイシン帝国の魔法使いは冷静だった。



加護(カンテリーヴズ)の水纒(・オクイ・ドセイン)

 慌てるな。汎属性を使えば中級魔法で防げる。奴も流石に炎属性の魔法以外では同じようにできまい。私が防御に回ろう。その間に二人は数で圧倒しろ」



 そこからイルジオとニクは防戦一方となった。

 イルジオが騎士を上回るも魔法使いの牽制により深く斬り込めず、ニクも敵の連携に封殺されてしまっていた。


 ニクはその精密な魔力制御で天才と呼ばれるに至ったが、魔力量は他の魔法使いー人と半分ほどである。

 それでも多いことには変わりないが、長期戦になるにつれ徐々に不利になっていき、ついに体に力が入らなくなり膝をついてしまった。


 その致命的な隙を敵が見逃すはずもなく、ここぞとばかりに敵はニクを集中砲火した。


 なんとかイルジオが割って入り捌いていったが、敵の総攻撃に一人でどれだけもつことだろう。


 自分の後ろの地面にシュトナを置き、もの凄い速さで攻撃を捌くイルジオの背中をただ見ていることしかできず、ニクは悔しさに歯を食いしばっていた。



(また、私は助けられてるだけなの? 私はイルジオと一緒にいたい。でも足手まといになんかなりたくない……! 私は何度もイルジオに助けられた……だから、今度は私が助ける番っ!)



 そしてニクは詠唱を始める。

 学院で魔法刃について調べた時に見つけた魔法。

 その時はまだ今の自分では扱えないと思い、いつか使えるようになった時の為に覚えていたもの。


(だけど……いつか、じゃだめ。

 今、使えるようになるのっ!)



「来たれ、停止の世界


  来たれ、灼熱の世界––––」



 ニクは詠唱を続けながらも、荒れ狂って今にも暴発してしまいそうな魔力を必死に抑えつける。



「熱を奪いて蹂躙し


  その熱をもって全てを掻消せ––––」



 その場が徐々に変質した魔力で満ちていき、帝国の魔法使いが異変に気づきニクを止めるべく力を振り絞る。



 しかしそれをイルジオが更に上回り全てを叩き落し、切り裂いた。



「色も音も空気さえも––––」



「頼んだ! ニク!」



 イルジオの言葉に応えるようにニクは最後の力を振り絞って立ち上がり、イルジオの横に並んでその名を紡いだ。








「––––全て拒絶(ゼントザクト)す虚無の(・ノイラズィ)世界(・ローレ)









 一瞬の轟音と静寂の後、ニク達の前の世界が消えた。



「…………深淵魔法って……嘘でしょ」



 シュトナの呆然としたつぶやきが、静寂のなかぽつりと響いた。



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