仮説
「……あんた、誰?」
イルジオの隣の牢に入っていたのはまだ十二か十三歳程に見える褐色の肌をした少女であった。
少女は食事がろくに与えられていないのか力がでないようであった。
少女の髪は何日も水浴びができていないのかくすんだ色をしているが本来なら白銀に輝いて美しいのだろう。
また、ややつり上がった目も綺麗な紅色をしており勝気な印象を与えるのだろうがその目にも今は力が無い。
想像できる姿と現実のそのギャップが余計に少女を弱々しく見せる。
「イルジオだ。それよりお前大丈夫か?」
イルジオは簡潔に自分の名前を名乗り衰弱した少女を心配する。
しかし少女はそんな弱りきった目をしながらもイルジオをじっと観察するように見る。
(いや、俺ではなくレムナントをみているのか?)
そうイルジオが感じた通り、よく見るとその目はイルジオではなくイルジオの剣を見ているかのようだ。
剣を見逃されたのはもしかして魔宝刃の力なのかとイルジオは思っていたがどうやら違うのかもしれない、あるいは……
「あー、この剣がどうかしたか?」
そう尋ねたイルジオに返ってきたのは思いもよらない言葉だった。
「あなたの背中のそれ、魔宝刃よね。どこで手に入れたの?」
「! お前、魔宝刃のこと知っているのか?」
「ええ、知ってるわ。私は魔宝刃のことを調べて旅してたんだけど、そしたらここの諜報部とかいう所に捕まっちゃって今はこのざまよ。魔法には自信があるんだけどここの牢は魔力が常に乱されてて魔法を使うこともできないの」
見ためよりも大人びた口調で自嘲するように話した少女にイルジオはある提案をする。
「そう嘆くな。俺がここから出してやる。そのかわりと言ってはなんだがお前が魔宝刃について知ってることを教えてくれないか?」
「出してやるってどうやって? できないことは言うものじゃないわよ。牢だけじゃなくてこの手を縛る縄も特別性よ? 剣すら握れないじゃない」
「わすれたのか?お前が言った通り俺の背中のコイツは魔宝刃だぜ?」
イルジオの中にはある考えがあった。
国の諜報部にいるほどの人間が、捕まえた敵の武器を見逃すことなどあるだろうか。普通に考えてそれはあり得ないだろう。
つまりなんらかの力によって彼らには見えなくなったのだと考えるのが自然だ。その力とは当然霊剣の力だろう。
長さがかわり、見られたくない相手には見えなくさせる魔宝刃。それはつまり––––
「––––変幻自在の魔宝刃、てことだ」
そう言ったイルジオはすでに自分を縛る縄を断ち切っていた。
立ち上がるイルジオの横には宙に浮かぶ魔宝刃、霊剣レムナントの姿があった。
「剣を握れなくても斬ることぐらいできる」
「…………嘘。魔宝刃を使いこなしてるの?」
「使いこなしてるとまでは言えないな。ようやく最初の一歩を踏み出したとこだ」
呆然とする少女に軽く返しながらイルジオは二人の牢と少女の縄を斬っていく。
「それで、お前が魔宝刃について知ってる事を教えてくれないか?」
イルジオのその言葉を聞き少女は無理やり納得したのか諦めたかのように溜め息をついて言う。
「分かったわ。それと、わたしの名前はシュトナよ」
「ああ、よろしくシュトナ」
「ええよろしく。んと……イルジオ、でいいのかしら?」
少女の問いに頷き、イルジオは早速質問する。
「それで、なんで俺の持つ魔宝刃が見えてたんだ?」
そう。魔宝刃の力がイルジオの立てた仮説通りならばシュトナには見えないはずなのだ。
イルジオは無意識に霊剣が周りから見えないようにしていたのだが、それならば出会ったばかりのシュトナにも見えないようにされているはずだろう。
そう考えたため、イルジオは自分の仮説にまだ自信がなく、シュトナに原因がないか確かめるために訊いたのだった。
そしてその答えによってイルジオの仮説が正しかったことが分かる。
「それは多分私の眼の力だと思う。私の眼は"霊視の魔眼"と言って、ものに宿る力をいくつかのイメージとして視ることができるの。はっきり視るには近くでみつめる必要があるけど、姿が隠されているぐらいなら普通に視ることができるの」




