師匠を訪ねて(出発前段階編)Ⅳ
「おいしかった。まさかこんな所でこんな凄い料理と出会うとは思わなかった」
よほど、至福だったのだろう。
アリシアの顔は蕩けた様な笑みを浮かべている。
「なんだかこの宿いいよね。このまま根付いてしまいそう」
「いや。さすがに今日中には出るからなこの町を」
さすがに、約束を反故にする訳にもいかない。
しかも、相手がこの町の領主であるのなら尚更だ。
「この町で一体何が起こってるんだろうね」
「興味本位で首を突っ込むなよ。突っ込むならある程度、情報を手に入れてからにしないと町に被害が及ぶ」
「そんなものなの」
「そんなものなんです」
興味深々だが町に被害が出ると聞き渋々諦めた感じだろうか。
俺も気には成っているから気持ちも解らなくない。
だが、判断材料となる情報がまったく無いため、現状打つ手も無い。
領主が、悪人なのか善人なのか。
起こって居る事が、町の内的要因なのか外的要因それすら解らない。
ただ、解っているのは俺達が早めに出て行ったほうが町に被害を与えない可能性が高いと言う事だけ。
ならば、保留にし放置して置く。
これが正解だろう。
運がよければ、別の町で情報が入るだろう。
俺達を追い出したい領主は何故か、行き先を気にしていた様だったからな。
きっと、関係者は他にも居る。
接触してくる奴も居るかもしれない。
「それで、どっちから先に行く。食糧確保か魔法ギルドか」
「魔法ギルドは最後がいいかな」
どうやら何かしら有るのだろう余り芳しくない表情を浮かべている。
深くは追求しないほうがいいだろう。
「じゃあ、食糧確保に行きますか」
☆
宿の従業員に食べ終わった食器を片付けても貰うに指示を出した後、市場へとやって来た。
この市場は、活気にあふれ呼び込みの声が飛び交っている。
いろんな食べ物匂いが漂ってきている。
新鮮な肉や野菜の香り、そして独特な匂いを持つ塩漬けの魚や乾物の匂い。
高級な香辛料の香りまで匂ってきてこの町が、裕福だと言う事を証明する。
「おにいちゃん。そのリュックを持ってきたの」
アリシアの少し呆れた瞳が此方を向く。
「念のためな。もしかしたら、直ぐに町を出ないと行けなくなるかも知れないし」
現状にやはり折り合いが付かないのだろう。
彼女の顔が少し歪む。
確かに悪い事してないのに追い出されるのは気持ちがいいものではない。
「おい、こんなんしか無いってどういう事だよ」
男の怒号が市場に響いた。
なんだ………。
野次馬に混じりその様子を伺いに行く。
そこには冒険者達と八百屋のおばちゃんが口論をしていた。
「なんども言わせなんあ。今うちにはこんなんしかないよ」
おばちゃんの手には芽が生えたジャガイモが握られていた。
「馬鹿を言うな。ジャガイモだぞ。大量にあるもん全部そうなってるって言うのか」
「大量になんかあるもんかい。今ここにあるもんが全部だ」
顔を真っ赤にして怒りだす冒険者達。
「ふざけんな。ジャガイモなんて何処でも大量に有るだろうが」
「嘘だと思うなら、他を回ってみな他もみんな似たような状況だろうがね」
「俺を学の無いやつだとおもって舐め腐ってるな」
冒険者の一人が剣を抜こうと塚に手をかける。
おばちゃんは『ひぃ』と後ずさる。
まずい。
人ごみから飛び出す。
なんとか剣を抜く前に奴の塚を押さえ抜かせないように出来た。
剣を引き抜くとき奴が少しもたついてくれて助かった。
お陰で奴に剣を抜かせないように出来たからな。
「邪魔するな」
剣を抑えられた男は一生懸命抜こうと抵抗してくる。
「落ち着け犯罪者になりたいのか。お前」
俺の言葉に躊躇い。
顔を歪ませ抜くのを辞めた。
「芋が欲しけりゃ。乾物屋でさっき干し芋を見つけたぞ」
冒険者は干し芋だとでも言いたそうな嫌そうな顔を浮かべた。
「保存が利く上に安くてそこそこ美味い。冒険者向けのだと思うが」
冒険者達は話し合うと、干し芋を買いに行くのだろう。
おばちゃんに謝ることもせずにその場を離れていく。
冒険者達が離れると同時に野次馬達も蜘蛛の子を散らすように居なった。
「おにいちゃん。びっくりしたよ」
アリシアが近づいて来て感想を述べるが、その表情には驚いた様にも心配した様にも微塵に感じられない。
信頼されてるの証拠なら嬉しいのだけれど。
「あんた。助かったよ」
おばちゃんが安堵したした様子を浮かべ近寄ってくる。
「それより、聞きたいのだがここに有る芋が全てなのか」
芽が出た芋を指差す。
「そうだい」
「何か事情があるのか」
おばちゃんの顔が歪む。
「わからない」
「わからないとは」
「いつも野菜を届けてくれる商人がこないんだ」
「商人ギルドは何と」
「さぁね。あいつらは貴族様との取引に必死で私たちのことなんて気にも留めやしないよ」
おばちゃんは憤っているのか険しい顔になる。
ふむ・・・。飯の種になるかも知れないな。
「ジャガイモならトポの村辺りか」
「あんた。よく知ってるね」
目を真ん丸くさせる、おばちゃん。
「ちょっとした特技でね」
「もしかして行くの」
クイクイとアリシアがおばちゃんに聞こえないような小声訪ねてくる。
「冒険者ギルドに行ってから考える」
「依頼がある事を調べに行くのね」
彼女は考えは少し間違っている。
依頼が無い事を調べに行くのだ。