第一話「序章+α」
前作というかプロトタイプ「天玉の守護者」がだれてしまい心機一転この作品を小説におこそうという事になりました。
是非見てください!
天暦二六七七年、皇國は最大の危機に瀕していた。
国の歴史が始まってから続くと言われている鬼との戦いはこれまで皇國の外州たる「葦原外州」を絶対防衛圏としていたが、六年前の「煉獄の乱」による国内情勢の乱れを見抜いた始祖鬼「日光・月光」率いる鬼道國軍は尚龍王諸島を占領し、いよいよ皇土たる葦原大八洲に攻め入ろうとしていた。
事の危険性に、仮初めの平和を甘受していた政府は恐れ戦き早急に政令を行使し国内全土に非常事態宣言を発令し、軍編成の後に尚龍王諸島へ二個師団を派遣したがその場しのぎの軍隊編成であったため全滅。後に講和条約「陽留呼条約」を結んだがその内容は皇国領尚龍王諸島の割譲、及び鉱山都市の租借という不平等なものであった。これが超大陸史上皇國が負けた初の戦であった。
皇国太政官府はこの敗戦を受け総辞職、戦時中という事もあり、軍部たる「武士聖堂院」の総帥たる「我部 天獄」が太政大臣に就任した。天獄は「錆びた皇国の刀を研ぎ直す」をスローガンとして様々な軍事政令を発布、民間政府議会たる「人院」との交渉の末、戦時中の税金の減税を条件に皇国全領土に「武士徴兵令」を発令する事を承認され、即座に実行、全土から若者を招集した。
この物語はそんな時代の潮流に巻き込まれながらも、真っ向から立ち向かう若者達の戦いの記録である。
MONONOHU大戦
【帝都行き龍車内】(4/6 12:50)
龍車から見ることが出来る車窓を眺めながら、少年は帝都へ向かっていた。
名前は「荒覇吐 武道」
齢十五歳、思春期真っ只中の子供である。
戦況の悪化及び国内情勢の乱れによる養父の経済的状況の悪化により、「武士徴兵令」に先立って軍学校「士道学院」に入学することになった。高等学府進学にはそこそこの費用がかかるが、武士聖堂院直轄の教育機関たる士道学院に進学すれば、学費免除はおろか給与を僅かながらに貰えるため、寧ろこれ以外の道が無かったとも言えた。
弘原海海峡大橋を龍車が渡り始めると同時に武道はため息をついた。
「はぁ……」
この1年間の並々ならぬ努力は目を見張るものであった。皇国の高等学府の中で最も競争倍率が高い士道学院は生半可な気持ちでは入れない。彼も血反吐を吐く思いで勉学に努めてギリギリ合格出来たのだ。とはいえ、いざ合格して受験生活が終わってみると、何とも形容し難い虚無感が胸を襲い魂が抜ける様な感覚をおぼえた。しかし安心はできない、学院での学業は筆と剣の両方を使いこなす事が求められるため、これまで以上に過酷な三年間が待っているだろうからだ。
(「高学入学までに少しでも休んでおこう……」)
と心の中で唱えながら、龍車の揺れと微睡みに身を任せ、武道は目を閉じた。
【武士聖堂院 総帥執務室】(4/6 14:35)
「入れ」
ドアをノックした者に総帥は言った。入室したのは士道学院院長 徳照 宮光、八大武家の一角「徳照家」の当主である。
「こちらが今年の入学名簿です」
「御苦労、そこにに置いててくれ」
総帥は徳照を傍目に様々な法案書類に目を通していた。
「どうですかな? この國の政治を御覧になられた感想は」
「金に卑しい人院の御老公が更なる減税を求めておるわ、自分の事しか頭にないのだろう。嫌になりそうだ」
彼はそう言うと同時に微笑を含みながらこう続けた。
「もっとも、儂は集団に重きを置き過ぎると天君から日々お叱りを受けておるがな……」
政務の書類に追われ張り詰めていた執務室の雰囲気が和んだ。これが頂点に立つ者の魅力だ、と阿蘇は心の中で思う。
「ハッハッハッ……お戯れを……」
徳照もすっかり寛いでおり阿蘇の心も穏やかになろうかとした矢先、総帥が彼に声をかけた。
「慶生、この書類を天君に奏上しろ」
「はい、総帥。それでは徳照様失礼致します」
「うむ、御苦労であった。阿蘇殿よ」
阿蘇は執務室を出て、出口までの長い廊下を歩きながら今の皇国の情勢を鑑みたが、現在の状況下で三院にもこの國を建て直せる器はいない考えている。もし仮に我部総帥が何かしらの理由で職務を全う出来なかったら──国が終わるな。
そんな事を考えると同時に、この国を建て直せるのは「我部 天獄」唯一人だと再確認した。
【帝都行き龍車内】(4/6 18:05)
目を覚ますと磐井県と帝都の丁度あいだ、「皇心府駅」の駅構内に停車していた。車内放送によると一時間の間停車するらしい。
「売店で夕飯でも買うか……」
重いまぶたを眉に力を入れながら開けて、武道は駅構内に降りると、眼前に広がるのは忙しなく動く人の群れだった。どうやらここも磐井とさして変わらないらしい。
「そんな事はどうでもいい! さて飯だ飯ぃー!」
子供らしく飛び上がりながら売店を向くと、そこには見知らぬ顔があるものだから、
「うおっ?!」
思わず声を上げてしまった。
「『うおっ?!』とは失礼やな君、何も別に取って食うたりはせぇへんから安心しぃや。」
驚いていると目の前の少年は苦笑いでそう言った。そして、なにを思ったのか神妙な面持ちで、
「ん? ……君も、もしかして士道学院に入学するン?」
と聞いてくるので。
「あぁ、そうだけど。もしかして君も?」
と返事し武道は質問を重ねる、すると
「おぉ!そうかそうか!ほいたら僕の客室にきいや!」
予想以上の返事が帰ってきたので、
「(グイグイくるなこいつ……。ってか待てよ、客室だと?!)」
そう、この龍車には客室があるのだがこれが相当高いのだ。例えるなら、武道が一年間馬車馬の如く働いて、ギリギリ乗れるくらいの値段である。
「なぁ〜無視せんといてや〜、行こうや!」
「わかった!わかった!行くから、荷物取らせてくれよ!」
少年の強引さとその財力に呆れと驚きの気持ちを持ちながらも従う事にした。そして赤子の鳴き声と咳払いや新聞紙を揺らす音の中を通りながら、彼の客室へと向かった。
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