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ぐだぐだダンジョン探索記  作者: 寿 安清
9/10

第八話 救助活動をしよう

 

 水戸ダンジョン15階層。

 アヤシイと思った広い通路に向かった昴と拓巳。だが、そこには何もなかった。

 くまなく調べたが何も見つからず、仕方がなくマップに残された二つの大部屋へ攻略しに向かう。

 そして現在、二人はオーク二匹と戦っていた。

 残り二つの大部屋のうち、一つはゴブリン小隊に囲まれ、残り一つは段階を飛ばしていきなりのオークである。

 ゲームなどでは、大抵が犬の頭を持つコボルトが定番だ。しかし現実は非情なもので、いくら周辺のモンスターが弱くとも、ボスも弱いとは限らない。

 ゲームでも雑魚扱いのオークではあるが、馬鹿げた耐久力と力は脅威であった。


「ここに来て、ファンタジーの定番かよ! 挑戦者が死ぬだろ」

「今までと、段違いだね!」


 棍棒を振り回し、力任せに攻撃をしてくるオーク。

 大振りの動きは見切りやすく、昴は攻撃を避けて近距離戦に持ち込み、忍者刀を持ち替えの居合い斬り。拓巳も棍棒の攻撃を叩いて軌道を反らし、そこから踏み込んで首を落とした。

 何とも嫌な感触が手に残るが、倒されたオークはドロップアイテムを残して消滅した。


「スキルが上位で助かったね。初期スキルで低レベルだったらと思うと、正直ゾッとするよ」

「耐久力があるんだろうが、俺達だと一撃で片がついたな。やはり、スキルレベルを上げるのは必要だな。ポイントを稼がないと……」

「……なんで、僕を見るの?」


 拓巳はポイントを上げるのに、昴を利用しようと思っていた。

 言い方は悪いが、それにも根拠がある。昴にコスプレさせると、なぜか膨大なポイントが加算されるからだ。

 昴のポイントが無限である以上、いずれ自分が足手まといになる可能性が高い。

 レベルが同じでも、スキルを問答無用で全てを獲得できる昴と、限られたポイントでやり繰りしなくてはならない拓巳とでは、戦闘力の面で大きな差ができてしまう。


「昴……俺は、お前をコスプレさせてポイントを稼ぐつもりだ」

「なんで、義理すら捨て去るような怖い目で見るの?」

「このままでは、俺はお前に差をつけられる。多くのスキルを獲得するには、コレしか手がないんだ。わかってくれ……」

「それ、堂々とポイントを稼ぐために、僕を犠牲にするって宣言しているよね!? レベルを上げてもポイントが加算されるのに!」

「ふっ……所詮、レベルで上がるポイントなんて、せいぜい1~2ていどだ。楽して稼げるなら、俺は悪魔に魂を売る覚悟がある! 少し楽しいし……」

「『楽しい』って言っちゃった!? 本音がダダ漏れだよ、拓ちゃん!! 実は本気で面白がってるでしょ!」

「思ってなんか…………ないし。こう見えて、結構心苦しいこともないかも知れない」

「その間は、なに!? 全然悪いと思ってないよね!? 酷いよ、拓ちゃん!!」


 なぜか拓巳の手には、豚耳カチューシャと尻尾の飾りが存在していた。

 おそらくだが、今、この場で手にいれたドロップアイテムなのだろう。

 それを構えながらジリジリと距離を狭めてくる。


「ハァハァ……覚悟を…決めろ」

「アヤシイよ!? 息づかいがとんでもなくアヤシイよ、拓ちゃん! 僕に何を求めているわけぇ!?」

「無論、ポイントだ! それ以外に………………何がある!」

「だから、その間は何なの!? く、くるな……僕は、そんな物は着けないよ!」

「問答無用! さぁ、俺にポイントを稼がせろぉおおおおおおおおおおおおおおぉっ!!」

「にゃぁ~~~~~~~~~~~~~っ!?」


 哀れ、昴は豚耳カチューシャと尻尾を装着させられ、拓巳にポイントを稼がせた。

 しかし、二人は忘れている。

 迷宮にはドローンが飛び交い、常に探索者を監視していると言うことを……。

 この光景は探索者ギルド協会の職員に目撃され、彼等の萌Seoulを激しくBURNINGさせたという。

 映像をプリントアウトする者が後を絶たなかったとか……。

 何にしても、地味にファンを増やしていく昴であった。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※



 15階層を一組のパーティーが探索していた。

 彼等の3人は18歳以上で、免許証さえあればダンジョンの攻略が可能な年齢である。

 2人がダンジョンの未経験者であり、保護者同伴でなければ探索することもできない未成年者の少女であった。

 本来であれば、この15階層にまで下りてこられるレベルではない。

 だが、上の階層には多くの探索者がおり、レベルやスキルを上げるにもモンスターが少なすぎた。何よりも少女達の保護者役がパーティーリーダーだったのである。

 なかなかモンスターと遭遇できなかった彼等は、先輩の探索者と数回しか来たことしかない15階層まで下りてきてしまった。

 それが、いかに危険であることかも自覚せずに――。


「兄さん、もう帰ろうよ。あたし達じゃ、この階層は無理よ」

「モンスターが強すぎるし、私じゃ戦力にならない……」

「大丈夫だろ。俺達が着いているし、このダンジョンは雑魚ばかりだからな」

「そうそう。いざとなったら俺達が守ってやるから、安心して見てなよ」

「ゴブリン程度なら楽勝さ。ビビるこたぁ~ねぇ~って」


 比較的若い世代の探索者は、ゲーム感覚でダンジョンに潜る。

 モンスターを倒すと、ドロップアイテムを残し消滅する現実が、彼等のゲーム感覚をよりいっそう高めてしまう。

 それが、いかに危険な考え方であることを忘れて――。


「ようやく手応えが出てきたんだ。もっと手強い相手が欲しいよな」

「さっきの犬なんか、簡単に倒せたよな。これじゃ、レベルが上がんねぇよ」

「弱いやつなんて、面白くもない。もっと強い相手をだせぇ~~~って、な」


 この場にいる青年達よりも、少女達の方が現実を弁えていた。

 確かに、15階層のモンスターは彼等には物足りないかも知れないが、ダンジョンは予定外の強さを持つモンスターを出現させることがある。

 現実はゲームと異なり、人間が思う以上に冷酷に牙を剥く。


「おっ……おい。アレを見ろ」

「ん? なんだ? ありゃ……」

「壁が、蠢いているぞ?」


 固い石壁で作られたダンジョンの通路。

 その石壁――いや、壁でなく床や天井も生物のように蠢き、そこから数匹のモンスターが現れる。

 まるで体内から生み出されたかのように、モンスターの体には粘液がまとわりつき、生まれたことを喜ぶかのように高らかに鳴く。


 ――ブキィイイイィィィィィィィィィィィッ!!


 オークが3匹、更に倍の大きさのオークが1匹。計4匹のモンスターが現れた。

 

「オークだ……へへへ、コイツは歯ごたえがありそうだな」

「今まで弱いやつが相手だったんだぞ? どうせ雑魚だろ」

「直ぐに倒してやんよ」 


 青年達が武器を構え、オークに向けて走り出す。

 オークもまたそれぞれが棍棒を構え、迎撃の態勢を取った。


「オラァ!!」


 気合いの入れた一撃であった。

 だが、その攻撃は簡単に受け止められ、押し切ることもできない。


「こ、こいつ……。クソ、援護を頼む!」

「何やってんだ!」

「ただのオークだぞ! 楽勝だろ」


 彼等はまだ、自分達が相手にしているモンスターを雑魚と思っていた。

 今、起きていることが、自分達の生死に関わることであるなど気付きもしない。

 援護に入ろうとした二人の前に、2匹のオークが立ち塞がる。


「どきやがれ!!」


 手にした斧を振り上げ、オークの腕に目掛けて振り落とす。

 だが、返ってきた手応えはまるで石のように固く、攻撃がまったく通じていないようだった。いや実際に通じていない。

 オークの腕からわずかに血がにじむが、その程度であった。

 攻撃を受け止めたオークは、青年の一人補蹴り飛ばす。


「ゲハッ!?」


 胃の中の者が逆流してくる衝撃を受け、青年の一人が倒れる。


「光彦!?」

「待ってろ、今、ガハッ!!」


 援護に廻ろうとしたもう一人の青年だが、背を向け走り出した瞬間オーク追いつかれ、背後から脇腹に向けて棍棒を叩き込まれる。

 辛うじて腕が脇腹を守ったようだが、骨が砕ける音と共に吹き飛ばされ、痛みで動くことができない。


「達哉!? クソ……二人とも、逃げろぉ!! 助けを呼んでくるんだ!!」


 兄である青年は、妹二人に逃げるように促す。

 目の前のオーク達は明らかに格が違う。このままでは二人が危険だった。

 少女達は言われるがまま走り出したが、目の前に淡く光る透明の壁が出現していた。

 その壁に塞がれ、助けを呼びに行くことができない。


「な、なんで……出して! ここから出してぇ!!」

「や、やだ……こっちに来る!?」


 2匹のオークは青年二人をいたぶるように暴行を加え、残り2匹のうち一番大きなオークがこちらに向かってきていた。

 口元から唾液を流し、酷く興奮しているようである。

 そう、オークは他の種族の子宮を苗床に繁殖することができる。それはダンジョンでも同じであった。

 何よりコレはゲームではない。

 その非情な光景をドローンだけが観測していた。



 ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※



 探索者ギルド協会本部の監視室で、その光景はモニターに映し出されていた。

 先ほどの萌え映像で盛り上がっていた職員は、一気に緊張感が変わり緊急事態の行動に移す。


「こいつ……広島ダンジョンで出現した」

「あぁ……間違いなければ【サディスティック・オーク】だ。やつに七つのパーティーが全滅させられ、女性探索者が酷い目に遭っている」

「近くに探索者はいるか! 至急救援に向かわせろ!!」

「近くには二人しかいない。さっきの萌っ娘と、変態だ……」

「クソッ! 万事休すか……」


【サディスティック・オーク】は、とにかく残虐なオークで、気性も荒く弱者をいたぶる習性を持っている。

 また、倒した獲物をその場で解体し、暴食なまでの異常な食欲で、骨すら残さず喰らい尽してしまう。

 探索者にもダンジョンの危険性に対して注意勧告が出されているが、遊び感覚の若者にはあまり意味がなかった。

 自分達が犠牲者になる可能性を考慮せず、安全だと思い込んでいる。


「やむを得ん……15階層を封鎖しろ。他の者達を避難させるんだ」

「待て、さっきの二人が現場に向かっている! もうじき接触するぞ!?」

「なにぃ!? 早過ぎるだろ! なにで移動してんだ!!」

「バ、バイクだ。ストレージに収納していたんだろう」

「なんてことだ……犠牲者が増えるぞ! あんな美少女が、獣の餌食に……ゴクリ」

「お前、少し期待してないか? それどころじゃないだろ!」


 職員達は、最悪の事態を覚悟した。

 それでも緊急避難警報をドローン通達する。



 ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※

 

「原付、持ってきて正解だったな。移動が楽だ」

「………」

「機嫌直せよ。元はと言えば、お前のポイント無限が、チート過ぎるのが悪い」

「それ、僕のせいじゃないんだけど……」

「理由はどうあれ、その無限ポイントを持っているのがお前だろ? 俺の身にもなってみろよ。俺が強くなる前に、お前は一足飛びで一気に強くなっちまうんだぞ?」

「スキルが強くても、使いこなせないんじゃ意味ないじゃん。まだ、スキルに振り回されているような状態なんだけど……」

「それは今後の課題だな。だが、俺もポイントを稼がなくちゃならん。レベルでは追いつけても、スキルがあるのと無いのでは、できることの幅が変わるからな」


 昴と拓巳は、原付スクーターで二人乗りをしながら移動していた。

 公道なら道路交通法違反なのだが、ダンジョン内では法律適応外。しかも広いので実に便利であった。

 しかし、万が一にも事故の可能性もあるので、法定速度は守っている。

 二人が向かっている場所は、アヤシイと思っていた広い通路であり、大部屋のボス戦を攻略したに下の階層へ続く階段が出現しなかったので、もう一度確認をしに戻ってきていた。


「拓ちゃんの言いたいこともわかるよ? けど、人が嫌がることを強要するのはどうかと思う」

「お前の言い分もわかっているつもりだ。だが、楽にポイントを稼げるなら、多少の無茶はやるつもりだ」

「それがもし、全裸でダンジョン内を歩き回ることでも?」

「…………………………無論だ」

「今、もの凄く躊躇したでしょ?」


 実際に拓巳は状態異常を起こし、ダンジョン内で全裸になったことがある。

 その時は実に爽快で開放的な気分だったが、後になって精神的にかなり追い詰められた。

 状態異常は、様々な意味で危険なものであると身をもって知った。


「お前は良いよな……簡単に状態異常耐性を取得できて。絞め殺したくなるくらい羨ましい」

「怖いよ! だいたい、宝箱に考えナシに突撃したのは拓ちゃんじゃないか。それは僕のせいじゃないからね?」

「だからこそスキルが欲しいんだよ。そのためのポイント……なんだ?」


 後を着いて飛んでいるドローンが突然に加速し、スクーターの前に出る。

 下部に取り付けられた円筒形の部品。そのランプが赤く点滅していた。


「昴、緊急事態だ! なにかヤバイ事が起きている!」

「えっ? なに? 目的地まで目の前………なんだい? あれ……」


 通路の先では、誰かがパントマイムをしているように見えた。

 だが、良く見ると、その先にはやたらと大きいオークの姿も見る。

直ぐに襲われていると気付いた。


「拓ちゃん。なんか、緊急事態だよ?」

「遅かったか……仕方がないな、救援活動をするぞ」

「何が遅いのかよくわからないけど、わかった」


 昴はストレージから取り出した槍を左手に、原付の速度を更に加速させ、拓巳は背中の剣を引き抜き右手に持つ。

 この時二人は透明な壁に気付くことは無かった。


「騎兵隊だぁ、当たると痛いぞぉ!!」

「とら、トラ、虎!!」


 加速した原付に少女二人が気付くと、その場から一斉に退避。

 昴達はそのまま加速し、手にした槍をオーク目掛けて突き出した。


「ブキィィイッ!?」


 リーチの差で槍が大オークの脇腹に突き刺さり、怯んだところを右側からすり抜け、青年と唾競り合いをしているオークに目掛けて突進する。


「オラオラオラ、邪魔だぁ!!」

「拓ちゃん、暴走族みたいだよ?」


 一人と1匹の間を割り込むように進み、その隙に拓巳がオークの首を目掛けて剣を振るう。

 拓巳の剣は致命傷とまでは行かないものの、オークに手痛いダメージを与えた。

 首筋の頸動脈が切られたのか、血液が噴き出す。


「チッ、浅かったか……」

「次を狙うよ!」

「おう! 先ずは3匹の子豚を血祭りに上げてやんぜぇ。今日はとんかつだぁ!!」

「なんか、オオカミさんになった気分だよ。寝ている間に、お腹に石を詰め込まれないかな?」

「それは赤頭巾だぁ!!」


 ドリフトで反転すると、倒れた探索者に暴行を加えている2匹きに向けて突進。

 最大加速で昴はランスチャージ。

 槍はオークの頭部を貫き、即死した。


「残り、3匹!」

「次はアイツだ!」


 もう暴行犯のもう1匹が、危険を察したのかその場を退避しようとし、逃がさないように昴は槍を構え追尾、突撃敢行。

 オークは辛うじて避けるも、原付の後ろで剣を左手に持ち替えた拓巳によって、左足を斬り飛ばされた。

 

「うっし、戦力をだいぶ削ったな。原付から降りるぞ」

「デカ物の相手をしているから、拓ちゃんは直ぐ片をつけてよ。なんか、デカオークはタフそう」

 

 最初は混乱したが、新たな敵の存在に冷静になったのか、大オークは昴達に向かって猛突進してくる。

 その大オークの前に昴は立ち塞がり、腰の鎖鎌を持って迎撃態勢に移った。


「ブキィィイッ!!」

「おっと」


 巨大な棍棒を振りかざす大オーク。

 速く重い打撃が昴を襲うが、大振りなために避けるのは簡単だった。

 昴は鎌を逆手に持ち替え、脇腹をすり抜けると同時に斬りつける。


「ブキャァアアアッ!?」

「むっ、思ったよりも固い。それにお腹の肉が分厚いなぁ~」


 予想外に頑丈だと判断した昴は、分銅を振り回し大オークの出方を覗う。

 その間に拓巳は残り2匹の小オークに向けて走り抜け、左足を失ったオークを真っ先に始末した。動けないオークは楽勝だった。


「さて、もう1匹は……」


 首に傷を負ったオークは、その場で地団駄を踏んでいた。

 見ている限りではコミカルで面白い。


「おら、さっさと死ね。後がつっかえてんだよ!」


 赤い剣を構え、オークに向けて走り出す拓巳。

 振りかざした剣とオークの棍棒がぶつかり合う。


「ッツ、思ったよりも力が強い……。だが!」


 力の方向を反らし、棍棒を床に向けてずらすと、そこから横凪で斬る。

 オークの腕と胸に一筋の傷が生じる。


「ブキキィィイィッ!?」


 痛みで怖じ気づき、後ろに逃げようとする間もなく、拓巳は剣をオークの喉元に向けて突き入れた。


「遅ぇ! 判断は悪くなかったようだが、飛んで逃げるべきだったな……って、もう聞こえんか。そもそも人間の言葉がわかるとも思えんし」


 残り1匹。

 ひときわ大きいオークが、仲間を倒され鼻息を荒くしていた。


「うっわ、怒っちゃった?」

「仲間がやられたんだ。それりゃ~怒るだろうよ。さて、俺もそっちに加わるぞ?」

「うん。正直、コイツってば、すんごいタフ。普通にやったら時間が掛かるから、一気に倒そう」

「そうだな。んじゃ、さっさとケリをつけようぜ」

「拓ちゃん、今日はなんだかハイテンションだね」


 大山家ダンジョンでは見たことのない大型モンスター。

 それと相対することは大きな経験となる。

 しかも、大山家ダンジョンのモンスターよりも強いことが、拓巳のテンションを更に高くする。

 雑魚ばかりを相手にしていたので、少し鬱憤が溜まっていた。

 

『これだよ。コレがダンジョンの醍醐味……。ビリビリくる。たまらんなぁ~』


 拓巳は少し戦闘中毒者になっていた。



 ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※



 少女達二人は、その光景に呆然としていた。

 突然に原付バイクで突撃してきた二人組は、難なく自分の兄たちが敗れたオークを倒し、今も最後の大きなオークを相手にしていた。

 一人は迷彩色のアメフト選手か、あるいはアメコミヒーローを思わせる剣士で、2匹のオークを危なげなく倒した実力者。

 信じられないのはもう一人の方で、どう見ても自分達より年下の少女だった。

 紫のくノ一装束に、背中に忍者刀、今は鎖鎌を装備している。

 自分よりもはるかに大きいモンスターを相手に翻弄し、確実に分銅や鎌でダメージを与えていく。しかもオークの攻撃をかすりもさせない。


「強いね……あの子」

「うん………どうしたら、あそこまで強くなれるんだろう」


 それは一つの理想型であった。

 強者に挑み、確実に勝利する英雄の憧憬。

 それが幻想であったとしても、現実に彼女達が救われたことは事実である。そこに憧れを抱かない者はいない。


「大丈夫か、光彦! 達哉!」

「うぅ……腕が折られた。肋も……」

「うぁ……痛ぇよ。死ぬ………」


 二人はどう見ても重傷であった。

 遊び感覚と勢いだけでダンジョンに入り、その結果が手痛い強者の洗礼を受けた。

 力を過信し、油断から仲間の命を危険に晒した。

 その上、他人によって助けられている。無様であった。


「拓ちゃん、左!」

「おうさ!」


 わずかなかけ声だけで役割をやりとりし、自分達を恐怖に陥れたオークを追い詰めている二人の探索者。

 その決着も、もうすぐ終わりそうであった。

 大オークは腕を切り落とされ、足は引きずりまともに動くこともできない。

 体力だけはまだあるようだが、もはや攻撃力も防御もままならないだろう。


「てやぁ!」

「うらぁ!!」


 前後から二人同時に剣と忍者刀で斬りつけ、腹は斬り裂かれ、大オークの首が宙を飛ぶ。

 勝負が決した瞬間だった。

 全てのオークが倒されると、骸は黒い霧となってダンジョンの中に消えてゆく。


「拓ちゃん、拓ちゃん! 豚肉のブロック肉だよぉ!!」

「マジでとんかつが作れるな。帰りにパン粉を買っていこう」

「僕は酢豚が良い」

「手間が掛かるだろ! むっ、オークの睾丸か……精力剤が作れるな」

「……拓ちゃん。それ、何に使うつもり?」

「飲めば誰でも『ファイト一発!』だ。売れるぞ?」

「夜の意味じゃないよね? 嫌だよ? 僕はバイアグラなんて作りたくはない」


 あれだけの戦闘を熟しながら、二人はまだ余裕綽々だった。

 ドロップアイテムを暢気な会話をしながら回収している。


「……すみません」

「ん? なにか、用か?」

「いえ、助けてくれたお礼をと思いまして……。あなた達のおかげで死なずにすみました」


 兄が申し訳なさそうに頭を下げる。

 だが、その後の言葉に耳を疑った。


「運が悪かったな。この広い回廊は、四つのボス部屋を攻略すると、五つ目のボス部屋に変わるようだ。現に、あそこに最下層へ続く階段が現れている」

「なっ!? つまり、俺達はあなた達のせいでこんな目に遭ったと!?」

「ある意味では、そうだな。ただ、お前らにも問題はあるぞ。大した実力もないのに下層に下りて、あやしい場所にのこのこと進んでいったんだろ」

「ふざけんなぁ、あんた達のせいで仲間が重症になったんだぞ! 責任を取りやがれ!!」

「責任? お前、ダンジョンに入る規約を読んでいないのか? ここでは危険な場所で、常に命のやりとりが行われている。契約書に『命の保証はしません』と書かれてたろ? 読まなかったのか?」

「そ、それは……」


 そう、ダンジョンで死んでも国は保証してくれない。

 何が起こるかわからない危険地帯に自ら飛び込むのに、危機的状況下で他人を助けるなど自殺行為に等しい。仮に見捨てても罪にはならないのだ。

 

「だいいち、大部屋で戦っていた俺達に、この場所で何が起きているかなんて分らんだろ? 責任を負う必要はないし、そもそもお前ら、モンスターの遭遇率が少なくてこの階層に下りてきたんだろ? しかも、なりたての新人探索者を連れて」

「うっ……」

「自分達のミスを棚上げにして、良く俺達を責められるよな? ついでにドローンで映像が本部に送られている。危機感が足りねぇんだよ」


 ダンジョンで死ぬほとんどが、力を過信した末に先に進み、強力なモンスーと遭遇して全滅である。

 特に若い世代が多く、ゲーム感覚でダンジョンに潜るから始末に悪い。


「情報不足、認識の甘さ、力の過信、実力不足、準備不足。その全てが足りないせいで死にそうになったんだろうが。ダンジョンを舐めてんのか?」

「拓ちゃんはよく調べてるもんね。用意周到なくらいに」

「どれだけ準備万端でも、死ぬときは死ぬ。それがダンジョンだ」


 心構えがまったく違う。

 少女達の兄を含めた者達は、準備が万全とは言いがたかった。

 危険地帯だと分っているのに油断し、遭遇したモンスターが弱いことでダンジョンの難易度を見誤った。更にオークを見た瞬間、真っ先に挑んでいった。

 危険に対しての認識度が低すぎたのだ。


「……たく、ようやく16階層に行けるのに、こいつらを連れて戻らなくちゃならない。何の冗談だよ!」

「まぁまぁ、次に来れば良いよ。ダンジョンは逃げないから」

「せめて、転移門は体験したかったぞ。16階層にあるらしいんだが、こいつらを運びながら行くのはキツイ」

「そうだね。取り敢えず怪我の治療をして、地上に連れて行こうよ。一応救急箱も持ってきてるでしょ?」

「応急処置なんてしたことがないが、やらないよりはマシだな」


 転移門は、地上とダンジョンの階層を繋げる直通ルートのことだ。

 一定の階層に存在し、一度使用することで探索者が登録され、次からは一気にその階層まで移動できる。

 ただし、ダンジョン内のどこにあるか分らず、探索者は常にマッピングせねばならない。

 水戸ダンジョンは15階層までが完全に攻略されているが、16階層は更に広大な迷宮が広がっているらしい。未だにその全てを解明できてはいなかった。


「あっ……あの~」

「ん? なに?」

「確か、水戸ダンジョンの最初の転移門は、16階層を下りたところにあると聞いたことがあります。その……ネットで」

「「マジ!?」」


 おずおずと言った少女の言葉に、二人の探索者は食いついた。

 試しにくノ一装束の少女が下りてみると、階段の直ぐ傍に光る魔法陣のようなものがあった。

 その後、五人は16階層まで下り、転移門で地上へと戻ってきた。

 だが、戻ってくるなり職員に捕まり、怪我人は担架で医療室に運ばれていく。事情聴取のためであった。


 解放されたのは、西の空に日が沈みかけていた。



 ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※

 

 

【二人組の探索者、お手柄。無謀な若者を救助する】。

 翌日、そんな見出しがが新聞の一面を飾った。

 新聞では、迷彩色のアメコミヒーローとくノ一装束の少女姿が、写真で半分以上を占めている。


「これ……兄さんよね?」

「……」


 新聞を見た昴の妹ゆかりは、彼に対して思うところがあるようだ。

 眉間に指を当て、躊躇いがちに重く口を開く。


「……とうとう、女装癖に走ったの?」

「違うからね!? 別に、そっちの趣味があるわけじゃないから!! それに、この装備は以前にも見たよね!?」

「正直に言ってよ。…………目覚めたんでしょ?」

「だから、違うって言ってるでしょぉおおおおおおおぉぉぉぉぉっ!?」


 大々的に写真に写され、実の妹にあらぬ疑惑を持たれてしまった。

 小柄で美少女顔の青年、昴は、これからも受難の日々を送ることになる。

 新聞に素顔が晒されたことによって―――。


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