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ぐだぐだダンジョン探索記  作者: 寿 安清
8/10

第七話 初挑戦、水戸ダンジョン

 

 水戸ダンジョン。茨城県県庁前に出現した中規模ダンジョンである。

 突如として起きた地殻変動により、東京ドーム一つ分の敷地が陥没し、その巨大な穴からせり上がってきたのがこのダンジョンである。

 四方に四本のオベリスクが聳え立ち、周囲を巨石が正方形に並べられ内部は環状列石で構成されている。

 内部にある全ての巨石によって上部の屋根が支えられていた。

 この屋根も材質不明な石でできており、昼は太陽光を通す。そのため水戸ダンジョン内部は常に明かりで照らされ常に明るい。

 四方に地下へ続く入り口が四つ点在し、そこを多くの探索者が下りてゆく。

 この水戸ダンジョンの周囲をセメントで作られた防壁が囲い、唯一の出入り口には探索者ギルド協会の建物が建てられている。

 ここで入場手続きを取るだけでなく、ドロップアイテムの鑑定や買い取り、武器や防具の販売などが行える。当然だが探索者が食事をとれるように複数の店が点在していた。

 中には行政に許可を取り、敷地内で屋台を出す者もいる。

 ちょっとしたお祭り状態が毎日続いていた。


「ご当地ヒーローショーをやってるね?」

「昴、見たいのか?」

「いい……そんな歳じゃないし」


 駐車場前もダンジョン敷地内にも、様々なイベントが行われていた。

 水戸ダンジョンの存在は、茨城の観光アピールをするのに有効だと思われたのだろう。

 元より茨城県は観光客を呼び込めるような観光名所がない。いや、少ないと言わざるを得ない。

 有名な偕楽園は、梅の花が咲き誇る春先以外には見所がない。

 嬉々として訪れるのはよほどの歴史好きか、あるいは年配の旅行者くらいだろう。近くにある歴史館もどちらかと言えば寂しい。


「……賑やかだね。海浜公園もこれくらい賑わえば良いのに」

「むりじゃね? せいぜい夏場のロックフェスか、花火くらいしか見所がないだろ。絶叫マシンがあるなら少しは変わるかも知れないが、年齢層が極端になるし、な」

「冷たいね。拓ちゃんには地元を愛する心がないの?」

「お前はあるのか?」

「ない!」


 昴は偽善者だった。

 そもそも若者が目を惹くような観光地がないのだ。

 牛久なら多少有名な場所はあるが、日立や袋田、水戸やひたちなか市、笠間などマイナーすぎて微妙だった。

 行政も何とか観光客を呼び込もうと努力はしているが、とにかく田舎臭が抜けきらず残念感が半端ない。中には『茨城? どこよ、そこ』などと言う者もいる。

 水戸は某時代劇でそれなりに名が知られているが、どこの県にあるかまったく知らない人もいる。同じ関東圏内に住んでいる人にもだ。

 そんなわけで、水戸ダンジョンはある意味で救世主とも言えた。

 犠牲になった人達には申し訳ないことだが――。


「まぁ、のんびり体を休めるには良い場所だな。東京モンには憩いになるだろ」

「二、三日なら良いけど、一ヶ月いたら苦痛になるよ。それよりアレ、水戸のご当地キャラだよね?」

「あぁ、初代はユルキャラとして人気が出たが、二代目に変わったら極端に落ち目になったな。正直俺も好かん」

「それじゃぁ……隣の筋肉質なじいさんは、なに?」

「あれか? 何でも新しいキャラにしようと一般から募集して、試しにどれがいいか反応を見ているらしい。ちなみにアレはマッスル……」

「言わなくて良いから! 馬鹿なの? 広報の人は馬鹿なの!? あんな凶暴そうなガチムチ爺さんに、人気が出るわけないじゃん!」

「実際のご老公は若い頃、かなりの暴れん坊だったぞ? まぁ、そこから学問にハマり、ちょい悪グルメ爺になったようだが……」


 若い頃は、かなりグレた遊び人の水戸光圀。

 遊郭にいくわ、辻斬りはやるわ。かなりやさぐれていた。

 学問に傾倒して多少は丸くなるも、生類憐れみの令を無視して肉を食うなど、興味を持ったらとことん突っ走る濃い人であった印象が強い。

 不良青年から、インテリ極道にジョブチェンジを果たしたと認識した方が良いだろう。


「昔の人なんてどうでも良いだろ? 今はダンジョンアタックだ。中級ダンジョンで俺達がどれだけ通用するか、知りたいしな」

「なんか黄門様の人生って、暴走族から某有名大学に受験し卒業して、政治の世界に足を踏み入れたとしか思えない」

「こだわるな? それより入場券を買うぞ。所詮、正義の黄門様なんて幻想だ。創作と藩のプロパガンダで広められた偽りの姿だと思っとけ。だいいちあの爺さん、日本を漫遊なんかしてねぇぞ? 部下に全部任せて、ほっといただけだろ」

「身も蓋もないね!」


 拓巳に腕を引かれ、駐車場からダンジョンに向かう昴。

 そんな二人の背中を、半裸でモストマスキュラーをキメた筋肉質の爺さんが見送っていた。

 イラストとはいえ、凶悪なまでに不敵な笑みを浮かべて。

 

 

 ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※



 ダンジョン入り口に立てられた【探索者ギルド協会】。

 別名を【ギルドハウス】と呼ばれ、内部はデパ地下かショッピングモールを思わせる構造をしている。

 この【ギルドハウス】は東側に位置し、その先に別のゲートが存在していた。

 水戸ダンジョンを囲う防壁は、このギルドハウスと別の第二ゲートを挟む二重防壁で、モンスターによる【暴走】が起きたときにシャッターを下ろし、外に出ることを防ぐ役割がある。

 民間人の避難を早く行うための措置であった。


「賑わってるね。ところで、入場券はどこで買うの?」

「奥に行けば自販機があるぞ? 駅の乗車券を買うのと同じだな。入場券にはナンバーが刻まれ、購入時に自販機のカメラで顔が記録される。そんでデータベースに記録されんだよ」

「その前にステータス・プレートを係員に見せるゲートがあるね。探索者以外が侵入するのを防ぐためかな?」

「まぁな。以前、無断で侵入した高校生がモンスターの餌食になったらしい。それからこうした管理が厳しくなったんだよ」

「へぇ~」


 係員にステータス・プレート見せ、自販機で入場券を購入し、改札口を抜ける。

 そこにあるゲートは、まるで城塞都市の門のように見えた。


「第二ゲートを抜けると、着替え用の個室型更衣室が壁際に作られていて、な。そこで自分の装備に着替えるんだ。まぁ、見た目は仮設トイレが並んでいるように見えるが、男女問わず自由に使える仕様になっている」

「うん、便利だね。男女別の更衣室だったら、正直どうしようかと思ってたよ」

「……あっ、その場合、お前はどっちを使うことになったんだ?」

「男子の方でしょ!? なに言ってんのぉ!!」

「いや、昔プールに行ったとき、係員に女子更衣室に連れて行かれたよな? 海パン一丁で更衣室から出てきたら、係員にパーカー着せられてたし」

「………」


 思い出したくもない黒歴史。

 それ以来、昴は海やプールには行かなくなった。

 男に見えない自分の容姿が恨めしい。

 気分がブルーになりながらも、その後、第二ゲートをくぐり抜け、二人は更衣室で着替えるのであった。



 ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※



 そこは、一言で言えばコスプレ会場。

 探索者の全てが自前の装備に身を包み、巨大な石造建築物の前を歩き回っていた。

 昴はいつもの忍者娘装備。拓巳は迷彩の武装クオーターバック。あるいはダイア○ロン。

 だが、そんな二人の姿も、この場ではさほど目立たない。

 もっと奇抜な連中がいた。


「……セ○バーさんがいるよ? それも、十人くらい」

「キ○トと、どこかの勇者もいるけどな。見た限りでは六人いた。○トの剣も自作か? 使い物になるなら良いけど」

「こうして見ると、拓ちゃんの剣は割と地味だね。ムカデの甲殻を使って真っ赤なのに、この中だとまったく目立たない」

「勘違いした連中が多いからな。アレを見てみろよ」


 拓巳が指を指して方向には、チャラい男達が二人の女性探索者に言い寄っていた。

 おそらくはパーティーのメンバー探しのためと思われるが、中には別の目的がある者もいる。見た目も格好良さ重視装備であり、無駄に派手な色合いだ。


「このダンジョンは初めてなんでしょ? 俺達が案内してあげるよ。こう見えて15階層まで行ったことがあるから、サポートは任せてよ」

「そうそう。こう見えてもレベルは14。みんなプロだし安心して良いよ」

「えっ? で、でも私達、未成年者だし……」

「親戚と潜るから、ちょっと……」

「なら、その親戚の人も一緒にどう? それなら文句はないっしょ」


 正直プロには見えない。

 どう見てもナンパが目的であり、ダンジョンに潜るのはムードを盛り上げるための手段なのだろう。吊り橋効果の悪用である。


「いくか。マップもあるし、15階層まではいけると思う」

「う~ん……平均レベルがどれくらい必要かわからないよね? 上の階層でもいきなり強い奴が出てくることもあるし」

「全国の探索者平均レベルは、大体が30前後だな。トップにいる連中はレベル150を超えているらしいけど、実際はわからん」

「なんか、平均レベルとトップクラスの探索者のレベル差が、酷いね」

「民間人ならそれくらいだろ。俺達は平均レベルってところだ。現在、お前がレベル39で、俺がレベル35。理屈でなら15階層までは余裕でいけるはずだ」

「けど、それが当てにならないのがダンジョンだよね。我が家のダンジョンがそうだし」


 大山家の敷地に出現したダンジョンは、出現するモンスターの強さが稀に変わるときがある。最近になって気付いたことだ。

 昆虫も個体差によって強さが異なり、ゲームのようにレベルが均一というような物ではない。現実的なダンジョンと言っても良いが、考えようによっては恐ろしい事実だ。

 突然に桁外れな強さを持つ魔物が現れる可能性があるからだ。


「北西側の入り口から行くことにする。探索者も少ないし、マップによると下へいく階段の距離が近い」

「そのマップ、どこで手に入れてきたの? 今朝は持っていなかったよね?」

「【冒険野郎】で買った。15階層までマップは全部で87500円。ついでにマップ帳も購入しておいた」

「高っ! それに用意周到。そのお金はどうしたのさ」

「素材を売ったときに、ちょっとな。んじゃ、いくべさぁ~」


 二人の目的は色々あるが、取り敢えずの目的は腕試しである。

 高揚する気分を押さえ、二人は初の水戸ダンジョンに潜った。



 ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※



「セヤァ―――――ッ!」


 空中で飛び回る巨大コウモリを、昴の鎖鎌はたやすく斬り裂いた。

 鎖を手で引き、投げたカマを手元に戻すと、拓巳に襲いかかろうとする別のコウモリに向け、分銅を投げつける。

 その間に、拓巳は地上を走り回る奇妙な猫を剣で倒し、勢いをそのままに横から襲うコウモリを叩き飛ばす。そしてトドメの一撃を加えて戦闘は終了した。


「……七階までは、スムーズに来れたね」

「だな。思ったよりも弱かったぞ。苦戦すらしなかった」

「スキルのせいだと思うよ。油断したら駄目だからね? まぁ、ボスもたいしたことはなかったけどさ」

「ゴブリンだったよな……。一撃で倒せたぞ」

「小さかったよね。僕の半分くらいの大きさだったし、ドロップが棍棒って……」

「俺達のサイズには合わねぇ……。結局、捨てるしかなかったな」


 水戸ダンジョンは、五階おきにボス部屋が存在する。

 四箇所ある入り口と同じで、ボス部屋も四箇所存在した。ただし出てくるモンスターは全部同じらしい。

 調べた探索者は暇だったのかと、昴は思う。


「今は七階層だったよな? なら、一気に10階層まで下りるか……。張り合いがない」

「うん……うちのダンジョンの方が、明らかに強かった気がする」

「まっ、慎重には行くけどな。何が起きるかわからんし、罠もある可能性がある」

「そだね。あっ、拓ちゃん。そこは落とし穴があるよ?」

「マジっ!?」


 マップはあっても、そこに罠の位置は記されていない。

 その理由が、罠の位置が頻繁に変わるからだ。しかも種類も異なることがある。

 落とし穴が多いようだが、下の階層に落ちるシュータータイプや、鋭利な針や槍衾が仕掛けられていることもある。

 忍者職にいる昴が見つけてくれるので、拓巳も進むことができて楽であった。


「盗賊がいると、パーティーは楽らしいが、回復役になるヤツはいないよな」

「そうなの? 普通なら僧侶とか、司祭がいたりしない?」

「そういうのは魔法職……あっ!」

「なに? どうしたのさ、拓ちゃん」

「昴……お前、回復魔法が使えるよな? 魔法はイメージの具現化だ。なら、ゲームみたいな回復魔法も使えるはずだろ」

「…………………あっ!?」


 今頃気付いた昴。

 武器で攻撃することを優先し、魔法はいざという時の切り札扱いだった。

 魔法が攻撃の手段という認識が強く、そのため傷を治療するということに思い至ることかなかったようである。器用貧乏これに極まり。

 そう、普通に考えて、やろうと思えば怪我を治すこともできるはずなのだ。


「けど、回復魔法ってどうやるの? イメージがしづらい」

「普通に考えて、赤血球が傷を塞ぎ、細胞分裂を促進させて傷口を塞ぎ、怪我を治す」

「神経が切れていた場合は? アキレス腱とか、血管が切れていたりとか……骨折なんかも」

「試してみんとわからんか……。医療知識がないと駄目なのか? だが、家庭の医学書でそんなことは書かれていないぞ。応急措置の講習を受けるとか……」

「むり。僕にそこまで覚えろと言われても無理だからね? ただでさえ持て余し気味なのに……」

「適当に怪我人を見つけ出して、試してみるしかないな」


 回復魔法は、あれば便利であるが実際に使えるかどうか、わからない。

 仮に使えたとして、実際に怪我人で試してみなければならず、そのためにダンジョン内で怪我人を探すのも非効率的だ。

 病院のように多くの怪我人や患者がいるならともかく、回復魔法を試す機会は限られている。それ以前に、実証実験のためだけに怪我人を実験体にするわけにもいかない。

 下手をすると訴えられる可能性が無きにしも非ず、実際はモグリのヤブ医者と同じだった。


「……凄く、デリケートな問題なんですけど」

「だな……やめておくか?」

「保留にしておくことにするよ」


 医療に携わる者達に大きな変革をもたらしかねない内容だった。

 それでも歩きながら、回復魔法の魅力を考えていた昴であった。



 ・・・・・・・・・・・・・



 水戸ダンジョン地下10階層に到達した昴達は、魔物を倒しながら探索する。

 この階層までがマップが完成している階層であり、そこから先は未知の領域と言っても良い。この階層より下の階層はマップが存在していないのだ。

 実際、16階層に進んでいる探索者はいる。しかし地下の階層は進むにつれて広大になってゆく。当然だがどんな罠やモンスターが生息しているかわからない。

 モンスターも普通にゴブリンが現れており、弓や投石、あるいは魔法で攻撃してくる個体もみられた。

 一メートルくらいの蜘蛛から伸縮性の糸がドロップし、大きなハエトリソウからは薬草らしき物と、強酸性の甘い香りを放つ蜜をゲット。

 そんな二人の前を、動きの遅い大きなハエなどが行く手を阻んだが、二回ほど攻撃したら消滅した。

 

「拓ちゃん……なんか、モンスターの強さの基準が、うちのダンジョンと比べておかしくね?」

「あぁ……正直、物足りないな。まだ罠の方が手強い」

「カマドウマやダンゴムシの方が強かったよ?」

「お前、あれも一撃で倒してたじゃねぇか。おそらくだがスキルのせいだな。お前の場合はチートスキルの完全強化だし、俺は中堅レベル。一階層の相手だから簡単に倒せたんだろう」

「スキルの強さかぁ~。けど、完全に体がスキルに追いついていないよね。油断したらとんでもないしっペ返しがきそう」

「実際、チートスキルの力を過信して、無茶やらかして病院で寝たきりになった探索者がいたぞ? 俳優みたいなことしてたし、バラエティーにも出ていたな」

「地道にスキルを把握しながら慣れていった方が良いよね。堅実が一番」


 堅実な探索者ほど強い傾向があり、そうした者達の大半が高レベル者である。

 個人のプライバシー保護のために、顔や名前は【日本探索者ギルド連盟】によって秘密にされているが、一般の探索者と比べてレベル差が極端に開いていた。

 要は職業として探索しているか、遊び感覚でダンジョンに来ているかの違いである。

 職業探索者はダンジョンをくまなく調べ上げるのが目的であり、大抵が公務員として雇われている。当然危険に挑むわけなので日本政府からはかなり待遇の良い扱いを受けていた。しかし彼等のほとんどは立場に溺れず、慎重に狡猾に探索を進めていた。

 プロフェッショナルゆえに頼りにされるのは当然だろう。

 だが、遊び感覚の探索者は小遣い目当ての場合が大半で、ダンジョンを攻略するような気概は持っていない。命懸けの未知なる世界に飛び込む気もないので、中途半端なレベルの者が多かった。得てして若者がその傾向が強い。

 ネット上でかき込んでいる者の多くがそんな探索者であり、攻略した階層の情報は限られてくる。プロの探索者は倍の階層を攻略していると世間では思われており、水戸ダンジョンも公表されている階層は15階層だが、実際は更に奥まで進んでいた。

 マップを公表しないのは、無謀な若者達の動きをある程度制限させるためと、【日本探索者ギルド連盟】のホームページで公表していた。

 確かに、未知のエリアに向かうには慎重さが必要であり、その勇気がなければ下の階層までおりようとも思わないだろう。

 中には無謀な挑戦をする若者もいるが、そうした者達はダンジョンから戻ってくることはない。

 堅実で在る者達こそが生き残り、今も活躍しているのだ。


「あれ? 確か、アイドル探索者なんて言うのもいたよね? ネットでも有名だってテレビで見た気がする」

「あれは、ネットアイドルの進化版だ。実際はホームページで言っていることよりも下の階層には進んでいない。ブラフだと気付かれて叩かれていたぞ?」

「ガセネタなんだ……。そこまでして『いいね!』と言われたかな?」

「まぁ、中にはマジモンのネタもあったけどな。熊本ダンジョンだったが……」

「へぇ~」


 のんびり話をしながらも、向かってくるモンスターは倒していた二人。

 そして、ついに10階層のボス部屋に到着した。


「思ったより、早く着いたね」

「あぁ……襲ってくるモンスターも少なかったからな。やはり、ここまで広いとエンカウント率が低くなるな」

「うちは狭いからね。代わりにモンスターはたくさんでてくるけど。何度か他の探索者とはでくわしたけど、見た限りではあまり戦っていないみたいだったね」

「レベル上げするのも苦戦してんだろ。客が多いからな」


 そう言いながらボス部屋の扉を開くと、二人は一瞬目が点になる。

 なぜなら、そこにいたのは――。


「パンダだな」

「パンダだよね」


 笹をモシャモシャと食べているパンダだった。

 正直、倒すのにも苦労した。精神的な意味合いで――。

 絶滅危惧種を倒すのは、心にクルものがあったという。

 二人とも凄く悲しかった。

 なぜなら、茨城の動物園にパンダはいない………。


 余談だが、この10階層ボスパンダは、既に探査者を17人喰っていたという。



 ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※  ※



「……15階層、簡単にきちゃったね」

「あぁ……そんで、目の前にはボス部屋が。いや、階段から近すぎるだろ」


 14階層でやけに入り組んだ通路を辿っていけば、あっさり下層へ行く階段が見つかった。モンスターも倒したが、強さが大山家ダンジョンの1~3階層程度の強さ。

 ようやく気分が引き締まり、二人は階段を下りて15階層へと下り、そこから300メートルほど歩いたら、簡単にボス部屋が見つかった。

 購入したマップにはボス部屋が記されておらず、そこをチェックするのが探索者の醍醐味らしい。しかし二人は納得できない。


「倒していく?」

「だな……」


 二人は扉を開いた。

 そこには黒いカマキリが二頭、天井と壁に張り付いている。


「一人一殺」

「了解した」


 拓巳が壁際の黒いカマキリに向かい。昴は魔法でカマキリを攻撃。

 火達磨担ったカマキリは地面へと落ちて息絶え、もう一匹も拓巳に足をすべて切り落とされ、腹から上を剣で両断された。


「前に戦ったカマキリの方が強かった」

「そうだな。こいつらは弱すぎる……」

「ところで、この部屋に下層へ下りる階段がないんだけど」

「確かに……それに、あの壁の彫刻は何だ? 水晶が角に填め込まれているな」


 四体の魔物と戦う戦士達の彫刻。額縁を思わせる彫刻の縁取りに、四つの水晶が填め込まれていた。

 そして、北西の水晶が輝いている。


「つまり、残り三体のボスを倒さないと階段が現れないわけか。お約束な仕掛けだな」

「ここに来て面倒なシステム……。まぁ、マップがあるし、ボス部屋の場所は簡単にわかるね」

「ボス部屋はわかるが、問題はボスが回廊に現れる場合だな。以前、蜂の巣の中にボスの女王蜂がいただろ。例外はある」

「そうなると、マップにある広い大部屋のうち、ダミーが存在するかも」

「あやしいな……」


 二人はマップを凝視した。

 四角い大部屋が三つ存在し、うち一つに自分達がいる。

 そこにチェックを入れると、残り二つの大部屋と、円形の部屋が普通ならボス部屋候補となる。だが、それだと簡単すぎる。

 ダンジョンはそんな単純な物ではない。


「……なぁ、昴。俺、ここの通路がアヤシイと思うんだが」

「ん? 通路の一箇所だけ、広さが違うね。あやしいよ」

 


 15階層マップを見る限り、ダンジョンを構成する通路の一箇所が不自然に広かった。

 約二倍の広さがある通路があり、人型サイズならダンジョンの広さと考慮すると、戦えるだけの余裕が充分にある。部屋というよりは広場であろう。

 待ち伏せには最適の環境だった。


「パターンだと、この丸い部屋に下に続く階段がでると思うぞ? もしくは扉が開く仕掛けかも、な」

「う~ん、裏をかいて四角い部屋のどちらか一方かも。一つはボス部屋と判明してるから。それに、扉が開く仕掛けのタイプって、必ず五匹目のボスがいるパターンがあるよね?」

「おぅ……そのパターンがあったか。じゃぁ、それを前提に調べていくか」

「マップだと円形の部屋が近いから、早めに調べていく?」

「それで行こう。扉が開かなければ、下層へ行く階段とボスがいる可能性が大だからな」


 結論から言えば、円形の大部屋にはボスがいた。

 しかもレッサーパンダだった。しかし下層へと続く階段が現れない。


 残る大部屋は二箇所と、アヤシイと踏んでいる広い通路である。

 またも楽勝だった昴達は、通路を調べてから他の部屋を目指すのであった。



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