冒険者ギルド
「でもさ、どうやって装備が個人認証してるんだ?」
俺は『百花繚乱』を眺めながら、受付のお姉さん――マーシャと言うらしい――に尋ねてみた。
「『ガチャ』から出た装備には必ず星が刻まれています。そして、その星は各個人にも必ず体のどこかに入っています。個人によって星の形は様々となっており、『ガチャ』をした者と出てきた装備の星が一致していない場合、認証に失敗したとして装備ができないよう弾かれます」
へー……俺の体のどこかにも星があるのかな?
気になって足から肩まで露出している部分を探してみたが見つけられなかった。夜、入浴するときにでも探してみよう。
「個人間で星の形が違うのか?」
「はい。色であったり、形であったり、大きさだったり……組み合わせは無限にあると言えます。そのため、全く同じ星であったということは今までにありませんでした」
「ちなみに、あたしは星の上に蝶の羽が付いてる形よ」
そう言うとイロリナは腰のスカートを少し下にずらした。
腰骨の辺りに確かに五芒星の右上に羽みたいなのが付いたマークが刻まれているが……色々きわどすぎるので目に困る。
「あ、ああ。ありがとう。その、しまってくれ……」
「んー照れてるの? 初心ねぇ、まったく」
「あなたはもう少し恥じらいを持ちなさい……私は二の腕にこの通り。皆、形は違うでしょう?」
そういうマーシャの星は三角形に尖った形をしていた。あれは星と言うのだろうか……
「で、ユウゴの星はその『百花繚乱』と同じのが体のどこかにあるってわけ」
「そういうことみたいだな。まだどこにあるのか見つけられてないけど……多分服の下のどっかにあるんだろ」
「ええ、後で探してみてください。それと、クランを組むのでしたらサントスに声かけてくださいね。私はあくまで『ガチャ』の受付なので……」
サントスってさっき識石を借りるときに放してた男の人か。カウンターの奥にいたから声だけでしか判断できないが、多分そうだろう。
「わかったわ。じゃ、マーシャまたね」
「ええ、ユウゴさんも今度は自分の石で引きに来てくださいね」
「わかりました。自分の武器も欲しいですからね」
マーシャに礼を言い、今度はクランを組むためにサントスの居るカウンターへ向かう。
「サントスー! ちょっと早く来てー!!」
イロリナが大声で呼んでいる。マーシャと言い、イロリナはどうやら、ここのギルドの職員とはだいぶ仲が良いようだ。
「へいへい……どうしたってんだよ? さっきまで識石でステータス見てたんじゃないのか?」
そう言って出てきた男は結構おじさんだった。若い兄ちゃんを想像していたが……っていうかこういうのは綺麗なお姉さんがやるのがテンプレじゃないの?
「それがさぁ、このユウゴさんが七ツ星の装備出しちゃったのよ。で、あたしに使っても良いよ、って言うからクランを組みたいんだけど……」
「な、七ツ星!? マジか!? はぇー……生きてるうちに見られるとは思わなかったぜ……」
サントスは相当驚いているようだ。じろじろと俺の手にある『百花繚乱』を眺めている。そりゃ七ツ星だけど……そんなに珍しいもんかね。
「まあ、クランを申請することは問題ないけどよ。その、ユウゴって言ったか? お前、冒険者ギルドに登録してないだろ?」
「ええ、多分」
本当は絶対にしていないが、記憶喪失としている手前濁して答えておく。
「多分ってなんだよ……ユウゴって冒険者はいねぇから登録してないな」
サントスはペラペラと本を捲って何かを確認するとそう教えてくれた。多分、冒険者名簿なのだろう。このまま記憶喪失を演じておこう。
「じゃあステータスを見てわかったのは名前とLUKが異常に高いってことだけか……」
「でも『百花繚乱』も手に入ったし、あたしも一緒に手伝ってあげるからさ! 良かったじゃない!」
顔を綻ばせながら話しかけてくるイロリナ。相当嬉しかったんだな。まあ、本当は記憶もばっちり残っているので何の問題も無いのだが。
「で、だ。クランを組むにはギルドに登録して相応の実力が無いと駄目なんだよ。だから、今日はとりあえず登録だけしておけよ。七ツ星の装備なんて持ってたらその内すぐ組めるようになるからよ」
「実力ってどうやって示すんだ?」
「そりゃまあ、ギルドのクエストをこなして達成率とか試験で評価だよな」
「あとはレベルとかね。ってクランはすぐ組めないんだっけ!?」
イロリナが今日はクランが組めないと知って慌てて尋ねている。せっかく目の前に欲していたものがあるのに使えないのは堪えるよなぁ……
「クランが組めるようになるのは三ツ星、かつレベルが20以上だな。しばらくは魔物狩りでもして、実績を作るんだな」
「はぁい……」
無精無精に返事をしている。相当ショックだったようだ。
「とりあえず登録しておこうかな。何か必要なものとかあるのか?」
「登録自体は特別必要なものはねえよ。ただ、クランを発足するには発足料として金貨一枚が必要だ。あと、登録証も発行するなら金が要る。こっちは銅貨三枚だな。二回目以降だと手数料として銀貨一枚になるから気を付けろよ?」
う、ううむ……俺一文無しなんだが……
「登録証はあると便利よ。宿代が安くなったり、関所なんかでも身分証明になるし。『貸して』あげるから作っておきなさいよ」
イロリナは何かと貸したがるよな。まあ、有難く銅貨三枚を受け取ってギルドに登録、登録証も発行してもらった。
「んじゃ、簡単にギルドの説明しておくか。冒険者ギルドの役割は簡単だ。その地域の困ったことを解決する、それだけ。んで、困ったことと言ってもピンキリでな。常設クエストと単発クエストが分かれている。常設クエストに関しては魔物退治がほとんどだ。どこどこで魔物が発生しているからある程度駆除して数を抑えてほしい、何かが該当する。単発に関しては内容も様々だ。お使いだとか迷い人探しだとか……色々あるから出来そうと思ったものを選んでみると良い。クエストが無事クリアできたらこの金銭と一緒にこの『輝石』をやる。輝石は五個で一回ガチャができるから……ってそっちは知ってるのか」
「ああ、ガチャはさっきやったからわかってる。輝石の入手方法は他にあるのか?」
「稀に魔物が落とすこともあるが……大体がガチャで使われた輝石をここでリサイクルしてるからな。ギルドのクエストをクリアするってのが大半だ」
「……ギルドの旨味が少なくないか?」
「そうでもないさ。お前が七ツ星を出してくれたおかげで、しばらくしたらこの村も大忙しだろうよ。ひょっとしたら町になるかもしれないな」
「要するに、良い装備が出たら自分も出るかもーって人が集まってくるのよ。そうするとその町の活気が上がるでしょ? それに、良い装備を求めているってことはそれなりに腕のいい冒険者ってこと。だから魔物退治もお手の物。治安も良くなり人口も増えてゆく、ってわけ」
「結局、自分の生活が豊かになるんだ。それに、ギルド内のランクアップには金を貰っているからな。無償でやってるわけじゃないんだぜ」
なるほど。それなりに循環しているんだな。課金要素が無いのは一安心だ。もし課金で石が買えたのなら恐らくランクアップは見込めない。お目当ての物が出るまで延々と魔物退治して、その金でガチャしてただろう。
「ま、そういうわけだからよ。とりあえずは常設クエストの一つでも受けて、金と石ゲットしてこいよ」
「ああ、とりあえず簡単そうなクエストからやってみるよ」
「初めてだし、道案内もかねてあたしも一緒に行くね……最初はこれが良いんじゃないかな?」
そう言ってイロリナが手渡してきたのは『ゴブリン退治:五匹 報酬:銅貨十枚 輝石 一個 初心者限定』と書かれた紙だった。
またベタなものを……