クリスタルゴーレム
「ゴォォォンッッ!!!!」
集合化した水晶の塊……言ってみればクリスタルゴーレムは、俺に向かって駆け出してきている。その動きは単調かつスローだ。隣をハヅキが駆け抜けていっても完全にスルーしたし、魔力を持った相手を追い回すようになっているんだろう。
この分なら、捕まらなければどうってことはないが……徐々にクリスタルゴーレムは巨大化している。一撃でももらったらヤバそうだな。
「ここは、ヒット&アウェイといくかっ!」
手にした『紅蓮の煙管』を懐にしまい、今まで使ってこなかった『紫電輪』を構える。
コンプガチャで出てきた五ツ星装備で、形状はまんま円月輪そのものだ。ブーメランみたいな投擲武器らしい。遠距離から攻撃する機会がなかったこともあって、ずっとお蔵入りしていたが、今回は十分活躍してくれると思う。
「ゴォォッム!!」
その間にもクリスタルゴーレムは近づいてきている。既に相手の間合いに入ってしまったようだ。クリスタルゴーレムは振りかぶった腕を大きく振り回してきた。
が、当然そんなテレフォンパンチは当たらない。落ち着いて軌道を読み、体をのけぞって躱す。その勢いのままバックステップを踏んで、再度距離を広げた。
よし、この距離ならイケるだろ。『紫電輪』をクリスタルゴーレム目掛けて思いっきり投げつける!
「おりゃ……あ?」
考えてみれば、俺は円盤投げなんぞしたことがない。フリスビーくらいはしたことがあるが、あくまで遊び程度のものだ。
円月輪の正しい投げ方なんて知らないし、そもそもちゃんと戻ってくるかもわからない……これ、大丈夫だろうな……?
「ユ、ユウゴ!! 前っ! 前っっ!!」
イロリナの叫び声に気付き前を見ると、クリスタルゴーレムは既に腕を振り上げている。
いや、さっきより随分と速くなってないか!?
慌てて後方に飛びのいて拳を躱す。やっぱり、さっきより速い……
「ちょ、大丈夫!? 傷、開いてない!?」
「ああ、まだ大丈夫だ……でも、あんまり悩んでもいられないな……」
ハヅキから内臓のダメージはまだ完全に治ってないって言われてたんだったな……何でかゴーレムはスピードアップしてきてるし、短期決戦に持ち込まないと分が悪そうだ……
こうなりゃ投げつけて戻ってこなくても仕方ない。五ツ星なんだからきっと上手くいくだろう。
「よっ、と!!」
今度は躊躇わずに『紫電輪』を投げつける。投げ方は考えず、一番目標が狙えそうなフリスビーみたいに投げてやった。
取りあえずは真っ直ぐにゴーレムへと向かっていったが、あまり速いものでもないし、期待した効果は得られないかもしれない……そう思った矢先の事だった。
「ゴォォォォォ!?」
ゴーレムの胴体に直撃した『紫電輪』はそのまま勢いを失い、水晶の体に突き刺さった。それだけではなく、激しい光を伴ってゴーレムの巨体を包み込んでいる。
「ゴム! ゴム!!」
ゴーレムは全身を振り回そうともがいているようだが……『紫電輪』は強力に拘束しているようだ。一向に動き出す気配がない。
この機を逃す訳にはいかないよな!
本当は『嘆きの匕首』も使いたいところだが、たぶん鉱物には斬撃よりも打撃の方が効果的に思う。
ここはいつも通り、『紅蓮の煙管』で……
「だらっしゃあぁっ!!」
バラバラと音を立てて水晶が散っていく。
うん、思った通り、打撃はよく効いているようだ。まだ体は残っているが、腕一本吹き飛ばしてやったぞ。
「ユウゴ! その調子よ!!」
イロリナは後方で軽やかに舞っている。その動きはしなやかでとても流麗だ。初めて見たときよりもキレがあるように思える。彼女も成長しているんだな。なんか、いつもより力が湧いてきてる気がする。
「ゴオォオムッツ!!」
ゴーレムはまだ暴れようとしているようだが……
無駄だな。さっさとやっつけてしまおう。
クリスタルゴーレムの右足、左足と順番に足を破壊し、巨体を倒す。
尻餅をつくようにして後ろに倒れたゴーレムは、なおも抵抗しようとしているようだが『紫電輪』がそれを許さない。しっかりと光で縛りつけている。
落ち着いてゴーレムの頭部に狙いを定めると、一直線に煙管を振り下ろした。
「なんか……動けない奴にトドメを刺すと、悪人になった気分だな……」
「まぁ……気持ちはわかるけどね……」
クリスタルゴーレムは頭部を破壊すると、完全に動かなくなった。赤い光を放ち消えていくと、巨大な水晶の塊と、胴体に刺さっていた『紫電輪』が後に残されていた。それらを回収し、今はハヅキを追いかけている。
「原理はわからないけど、光に包まれて消えたって事は、あれも魔物の一種だったんだよな?」
「たぶん……でも、あの妖精族の人達どうしようか……?」
「とりあえず秘宝とやらを回収して、その後はドワーフの連中に任せるか……魔物もやっつけたし、もう水晶が襲ってくる事もないだろう」
たぶん、だけどな。俺達三人で連れて帰るにはちょっと多すぎる。
しかし、ハヅキはどこまで行ったんだ……水晶に阻まれていた道は、やはり一本道だったが、随分と先が長い。延々と続くんじゃないか、と思った時に、ようやく開けた場所に出た。
「ハヅキ!!」
「イロリナさん!! 悠護さんも……怪我はありませんか?」
「ああ、大丈夫だ。ここが最深部か?」
「おそらくは……ですが……どこにもそれらしい物がなくて困っていたのです……」
そう言ってハヅキは肩を竦める。
辺りを見回してみると、たしかに何もない。四方を岩壁で囲まれた広場といった感じだ。
「もしかして……行き止まり……?」
「それはないだろう。先に行ったハヅキに迷わず辿り着いたんだ。複雑な道にもなっていなかった筈だ」
「そうですね……やはり、ここに何かあるのでしょうけど……」
「手分けして探してみるか……不自然な物を見つけたら声をあげてくれ」
「うん」
「わかりました」
とりあえず不自然な物と定義つけてみたが、目標物がわからない以上、アタリのつけようがない。大臣が言っていた、綺麗な装飾を探してみるか。
「あ! これ綺麗だよ!!」
しばらく探していると、イロリナが声をあげた。ハヅキと二人で近寄っていくと、イロリナは黄土色をした水晶を持っていた。
「これは……珍しいですね。水晶の中に琥珀が混じっているようです」
「琥珀?」
「はい……普通はありえないのでしょうけど……ここの水晶は魔力によく反応するようですし、琥珀が魔石となっていればこんな風になるのでしょうね……」
あー……そういやアンバーレッドが言ってたな。宝石に魔力がこもると魔石になるんだったか?
ん?
琥珀……アンバー……偶然か?
「普通、水晶と琥珀って一緒に採れるのか?」
「さ、さあ……? そこまではわかりませんけど……」
そりゃそうだ。別に鉱夫って訳じゃないんだから、ハヅキが知ってる筈もないな。あんまり困らせても悪い。すまない、と告げて琥珀の入った水晶を受け取る。
「……たぶん、この琥珀が何か意味を持ってる気がするんだよな」
「琥珀が? どんな?」
「わからないけど……一度取り出してみる価値はあると思うんだ」
「では……」
そう言うとハヅキは襦袢の袖をめくり、握り拳を固めた。
「ちょちょちょちょ!!!! 待て待て待て!! 水晶なんだから、魔力に反応するだろ? もう一度、ここで魔力を込めてみるよ」
「あ……そうでしたか……」
ハヅキは恥ずかしそうに俯いてシュンと、ちっちゃくなってしまった。何この子、可愛い。
「ま、まあ、とりあえずやってみるよ。ダメだったら、ハヅキに頼むな」
「は、はい! お任せください!!」
さっきの様子を見ていれば駄目な筈はないんだが、フォローはしておこう。
さて、じゃあ魔力を集中させて……っと。
お、動いてる動いてる。段々琥珀が露になってきたな。もうちょいで水晶が完全に剥がれる。よしっ、と。
こっちの取れた水晶は……特にいらないかなぁ……でも一応持っていってもいいか。売れるかもしれないし。
それより琥珀の方だな。取り立てて何の変哲もない琥珀だけど……水晶が取り込むくらい強い魔力が込められてるんだよな?
どうやってその魔力を開放するんだろう?
「魔石の魔力はね、いつもポチッと押すと開放されてたよ?」
イロリナが説明してくれた。どこかにスイッチがあるのか……
手探りでベタベタ触っていると、本当にポチッという感触があった。同時に、琥珀が眩く光始める。
「な、なになに!? どうなるの!?」
「わ、わかりませんけど! 眩しくて見ていられませんっ!!」
「くっ……」
光が収まった時、目の前には綺麗な、だけどどこか儚げな雰囲気をした女の人が立っていた。
どこかで会ったことがあるような気がするんですけど……誰でしたっけ……?




