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貰ったチートは貧乏神

 その日も俺は仕事を終えて家に帰ると、いつものようにスマホを覗き込んでいた。

 半年程前にサービスが開始されたゲーム『エレメンタルファンタジーオンライン』、通称『エレファン』はよくあるスマホゲーの一種で、ガチャで装備とキャラを充実させて物語を進めていくRPGものだ。


 サービス開始前から美麗イラストと濃密なシナリオ、そして多様なジョブを駆使してストーリーを進めるという売り文句で、テレビの宣伝なんかでも事前登録実施中、なんてやっていた。


 だが、実際に配信されイベントが始まると阿鼻叫喚の地獄絵図がそこにはあった。


 基本プレイは無料でも課金をしないと全然進められない、しかし狙って高レアリティを出すのには云十万必要、高レアリティの排出率が一パーセント未満、等々重課金ありきのゲームバランスとなっていたのだ。


 案の定、某巨大掲示板なんかでは『詐欺乙』、『優良誤認キター』、『おまいら今のうちに石買って桶』、『十万使って爆死した』、等々、運営に対する不平不満が多数溢れていた。

 とはいえ、キャラのイラストがどストライクだった俺は現状に概ね満足しており、配信当初から『エレファン』にのめり込んでいた。


 勿論、重課金・廃課金と言ったレベルの課金はしていない。微課金者だ。精々、月千円から三千円くらいだろう。ガチャから目当ての物が出ることは少ないが、それでも半年もやればそれなりに高ランクの物は出てくる。それで装備を整えてメインストーリーを進めていれば別段不満は無かった。外れ枠で出てくるようなキャラでも可愛いし。


 そんな俺でも、これだけは譲れない、というキャラが何人かいたが……今回がまさにそれだ。


 イベント特攻キャラ『砂漠の星・イロリナ』、金髪・褐色・踊り子、俺の嫁ゲージが一発で振り切れるくらいどストライクな属性、ましてイラストは元々が美麗で売っている『エレファン』のキャラだ。これは全力を出さざるを得ない、そう考えて一万円を課金しガチャをしたが……


「で、出ねぇ……」


 流石は『エレファン』クオリティ。微課金者が手に入れられるランクのキャラではないらしい。

ちなみに、イロリナは五ツ星。最高レアリティが七ツ星であることを考えると当たりそうな気がしたんだが……


「あー、今月余裕あるし、もっかい課金するかなぁ……ついでにコンビニ行ってジュースでも買ってくっか」


 普段は課金するのにカードを使用したりはしない。スマホの料金払いで済ましているが、たまたま今日に限ってジュースが飲みたくなったんだ。子供の時に飲んだ薬みたいな甘ったるい味がする、緑色のあれ。


「なんか中毒性があるんだよなー、あれ。まあ、明日は休みだし、今からコンビニ行ってジュースとカード買って、イロリナ引き当てて……よしっ、ちょっくら行ってくるか」


 なんて、気軽に自転車に乗って最寄りのコンビニに行く途中でトラックに轢かれそうになって、慌ててハンドルを切った……ところまでは覚えている。そこから先は思い出せない。そもそも、ここ何処だ?


「あー、そこのキミ、残念ながら君は死んでしまったのだよー」


 なんか残念そうな女の子が俺に向かって話しかけてくる。

 何が残念って、髪は青くてすらりとした長身に白一色のワンピース。一見美少女に見えなくはないのだが、豊満な胸の所に『ひん』って書いてある。頭の弱い子なのか、単に一部女性に喧嘩を売っているのか、いずれにしろせっかく美少女に見えるのに残念な限りである。


 髪の毛が青いからおそらくはコスプレの類なんだろうが、それは何のコスプレなのか……ある程度オタク文化に馴染みのある俺だったが元ネタはさっぱりわからなかった。


「あー、めんどくさ。キミさ、黙らないでくれるかなー? キミは、三条悠護、二十歳、スマホゲーの課金をするところでトラックに轢かれて死亡。ここまでオーケー?」


 あ、やっぱりあそこで俺死んでたんだ。


「あー、わかってくれたかなー。で、非常にだるいんだけど、キミを転生させなくちゃいけないのよね。私達みたいな神様がキミ達人間の転生を司っててー、私がキミの担当。一人一人説明するの面倒だからさ、もう転生先もどこでもいいかな?」


「え、えーっと……いきなり言われても正直理解が追い付かないんだけど……」


「あー、やっぱ説明しなきゃダメ? かいつまんで言えば、キミは本来死ぬはずじゃなかったのよ。普段通りスマホで課金していれば死なずに済んだものを、何でか外に出ちゃったからさぁ。でも、そのおかげで本来死ぬはずだったトラックの運転手が生き長らえちゃったのよねー。んで、その功績を称えて転生させてあげよーってわけ」


「え? じゃあ生き返れるの?」


「元の世界には流石に戻せませーん。別の世界で暮らしてもらいまーす」


「そっか……そりゃそうだよな。別の世界はどんなところなんです?」


「それを決めるのがめんどくさいのよ……ってかさなんでも良いでしょ? おまけで神の誰かが守護神になれるようにしてあげるからさ」


「え? 守護神?」


「あー、そっからかー。守護神ってのはね、ある程度有名になるような人間は皆憑いてるの。それが豊穣の神だったり、愛の女神だったり、はたまた戦の神だったりはするけどね。で、そういうのが憑いてると自分の運って言うのかな、何をやっても上手くいくような感じよ。まさに神懸ってるのよね。それをつけてあげる」


「それで何の神が憑くか自分でわかってたらもの凄くチートなんじゃ……」


 どう考えてもチートだろう。仮に豊穣の神が俺に憑くとわかっているのなら、わざわざ営業の仕事になんか就かずに農業でもやっている。自分の天職がわかるようなものなんだ。


「そうね。だから、別の世界は私が適当に決めるわ。それで良いでしょ?」


 折角チートを貰えるってわかっているんだ。そこは神様に任せても良いだろう。どんな世界だろうと、天職がわかっていればなんとでもなると思う。


「ええ、世界は任せます。だから、その守護神? はよろしくお願いします」


「ん。じゃあ、世界は……そうね、キミがハマってたスマホゲーの世界にしよ。なんたらオンラインだっけ? それに決定。んで、守護神は誰にしようかな……あ、そうだ! そのゲームにちなんでガチャで決めるのもアリかもね! 決めるのも運だし、手っ取り早いし」


 そう決めたら早速……と彼女は右手を大きく振るとよくあるガチャガチャが出てきた。白い箱にコインを入れてガチャガチャするオーソドックスなタイプだ。


「あ、あれ? 『エレファン』の世界ってゲームの中でしょ? そんなとこに入ったらゲームのキャラになっちゃうんじゃ……」


「ん? 大丈夫よ。別の世界に同じような世界が無いか探して、それでヒットしたものを選んであるから。まるっきり同じじゃないけど、構造はほぼ似た様になっている現実だから安心しなさい」


 それなら安心……なのか?

 よくわからないが、ある程度勝手がわかっている世界の方が心配事は少ないか。


「じゃ、早速守護神を決めましょう。このガチャ、コインはいらないわ。ぐるっと一回転、そこから守護神となる神が出てくるからね。ちゃんと挨拶しなさいよ」


 言われるがままにガチャを回す……前に確認しておきたい。


「リセマラは無し……?」


「無しに決まってんでしょ! とっととしなさい!!」


 怒られてしまった……ちょっとでもいい神様に当たりたいのは誰でも思う事だろうに……大体、神様っていう割にはめんどくさがりが全面に出ていて、なんか神々しさを感じないんだよな。


 なんて、不信心なことを考えながらガチャを回すと黄色いカプセルが出てきた。こんなところまでそっくり作ってあるのか。

 ぐっ、とカプセルを握って隙間を作ると簡単にカプセルは開いた。中には白いメモ紙が一枚。いきなり神様が出てくるわけでもないらしい。


 どれどれ、なんて書いてあるのかな……


『貧乏神』



 は?


 思わず二度見したが書いてある文字は同じ。『貧乏神』の三文字。そもそも貧乏神って人を守護できるような徳の高い神様なん?


 少し――時間にして三秒ほどだろうか――混乱していたところに、ボフッと煙が出てきた。それと同時に煙の中に何かのシルエットが見える。どうやら守護神である『貧乏神』が出てきたようだ。


「やあ」


「ってお前かよ!!」


 何のことは無い、先程まで俺に転生が云々語っていた残念美少女、それが貧乏神だったのだ。よーく見ると胸元の字も『ひん』ではなく、点々が付いている。『びん』だったわけだ。


「いや、まさか私を引くとは思わなかったわ……非常に不本意でひっじょーにだるいんだけど……あぁ、めんどくさ……しょうがないから私が守護神になってあげるわ。――ちゃんと祀りなさいよ?」

ガチャの高レアリティ表記を修正しています。

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