高校デビューは甘くない 5話
6話は頑張ってGWまでにあげます
俺は急いで着替えて体育館に向かったので、無事授業開始までに間に合った。
あいつ、来てるかなー
そう、残念ながらこの時間だけはオレはボッチではない
いつも余ってペアになるぼっち同士の仲間がいるのだ
その相手は俺の高校デビューがバレる前の仲の良い集団で一緒だった
そして、デビューがバレた後も態度を変えずに接してくれる数少ない友達の1人
そんな彼も彼で、いろいろと問題を起こして結局ぼっちになっていて今では互いに傷を抉り、舐め合っている仲だ
俺が彼を探していると体育館の端の方で退屈そうに座っている見た目はヤンキーの男子を見つけた
金髪で耳には幾つかのピアスという、いかにも酒とタバコが似合いそうな典型的なヤンキーである
そんな彼を見つけた俺はこっそり近くにあったバスケットボールを取って、手のひらを思いっきり打ち付けるようにしてパスをした
「喰らえ、イグナイトパス‼︎」
「うおっ、危ねっ!」
彼は、間一髪のところで俺のパスを避けた
「チッ」
「何がチッ、だよ!危うく怪我するところだったじゃねぇかよ、それにイグナイトパスは攻撃手段じゃねぇぞ!お前はバカか⁈」
そう、今、怒涛のツッコミをしてきたのが先ほどお話したぼっち仲間の鳴島 八雲くんです。
見た目はヤンキー素顔はぼっちその名はぼっちヤンキー鳴島…
「おい!今なんか変な事考えてなかったか?」
な、なに⁈こいつ俺の思考を直接読んでやがるのか?
「ま、まさかね〜。」
「お前、後で覚えてろよ…」
「ヒェッ!これだからボッチヤンキーはダメなんだよ」
「うっせぇ、お前もぼっちだろ」
「俺は八雲みたいに皆から恐れられてないしー」
「あ?お前は普通に嫌われてんだろ」
「ゔぐっ…何も言え…な…い…」
という風に2人でいつも傷を抉りあっているわけだ
「まぁ、それはさておき、お前今日顔がゲッソリしてるけど何かあったのか?」
「置いといていいのかよ。んー…あぁー…そういえば、色々とあったな……」
「なんかヤバそうだな…。なんとなく聞きたくねぇわ。」
八雲はそっと両耳に手を当てた。
「なんで耳塞いでんねん!、そっちがきいてきたんだろ」
俺は強引に八雲の手を耳から離した
「いや…だって、重そうだし、ぶっちゃけ関わりたくない…」
「まぁ、なかなかヘビーな話であることは確かだな。実際のとこ、早めに消化したい、そして気持ちよく便と一緒に流したい。八雲、ここじゃなんだし、とりあえず帰りにウチでも寄ってくれ」
「しょうがねぇなー…」
そのあと、しばらくたわいもない雑談をしていると体育の先生がやってきた
「みんなおはよう!、今日はバスケだ!、元気良くいこう‼︎イェーイ‼︎」
真っ赤なジャージ姿で元気だけが取り柄みたいなこの先生は笹野葉先生の恋する富士 熱男先生だ
ゔっ、頭痛が…
ホント、こんな先生の何が良いんだか…
熱血先生なんて一昔前に流行ったけど、今は…ね……
「えーと、今日はまずパス練習して、その後に試合形式のゲームをしようと思う。じゃあ2人組になってそのあと5人で1組になってくれ!」
その指示を皮切りに、みんなは仲の良い者同士でペアになっていった。
俺と八雲も段々と人がいなくなって、あくまでしょうがないといった感じでペアになった
あんまりくっついて仲良さそうにしていると陰で色々言われかねないからな
「ちょい、八雲どうするよ?2人組まではいけるけど5人は無理やぞ」
「はぁ?何、今更気にしてんだよ。どうせ俺たちいつも余りもんじゃねぇか」
「あ……それな。」
とりあえず、俺と八雲2人でペアになってパスの練習をした。
俺はもう一度八雲に向かってイグナイトパスを打った。
「喰らえ」
「って、おい!お前は学習しねぇのかよ。お前がやってるのはパスじゃねぇ」
「なら次はこれだ!超長距離3Pシュート、オラーッ」
俺は思いっきり天井に向かってボールを投げた
「お、おい⁈、もはやシュートかよ‼︎てか、全然届いてないじゃねぇか!」
俺が投げたボールは八雲と俺のちょうど間に落ちてちょっとだけ凸凹しているところで跳ねて変な方向に飛んで行ってしまった
「あっ、ヤベッ」
跳ねたボールは、コロコロと転がっていって、よりに寄って一番関わりたくないやつのところへいってしまった
「うわっ、ヤベっ」
そこにいたのは明らかに学校で人気があるであろう部類の人間、要するに高身長イケメンクソ男子
俺が急いで取りに行くと、そいつは作ったような笑顔で俺にボールを渡してきた
「やぁ、鷹宮。鳴島と一緒で楽しそうだね。」
「お、おぉ、サンキュー…」
俺はボールを受け取って、すぐに走ってさっきの場所に戻った
くそっ、嫌味な奴め
すかした顔で毒吐きやがって
あいつの名前は早稲 慶一
全知全能の高身長イケメン男子で俺と八雲が属していたグループの中心的な存在だった。
俺の高校デビューだのなんだののゴダゴタのせいでグループが集まらなくなったのを恨みにでも思っているのだろう
はぁ、出来れば今後も関わりたくない相手ランキング第一位だ。
八雲も俺の帰還の様子で察したのか少し申し訳なさそうな顔をしている
俺もそんな空気を察して、さっきの悪ふざけから反省してその後は普通にパス練習をした
「ピーッ」
先生の集合の合図がなった
「じゃあ予定通り5人1組になってチームを作ってくれ!できたところから試合開始してていいぞ!」
「イェーイ、よっしゃチーム組もうぜー」
「ええで、はよ試合しようや」
みんな和気あいあいとチームを組み始めた
続々とペアが完成していき、みんな試合を始めていった
ただ、俺と八雲は安定の余り物なので、その場に取り残されていた。
すると、先生が
「よし!んじゃー余った奴らは先生が適当にペアを組ませるぞ!」
と言って
どんどんグループを作っていった
俺と八雲は、運良く同じグループになることができた
しかし、余り物ということで運動苦手な奴か地味な奴しかいないため明らかに弱いチームができてしまった。
俺と八雲は運動は出来る方なのだが、こういう機会が多い為どうしても楽しむことはできない
今日もどうせ、相手を退屈にさせない程度に接待プレーするだけだ
俺のチームは八雲と丸メガネが特徴的な丸弁くんと将棋部仲良し双子の一郎、二郎
いかにも弱そうだ
残り時間的にもせいぜいやれても2試合くらいだろう
最初の相手は、ラッキーなことに俺たち同じような余り物の集団だった
俺と八雲は適当にスラムダンクごっこをしたりしながら楽しむことができた。
どうせ、相手もやる気ないしと思ってのびのびできたので意外と楽しかった
そんな中でも丸弁くんは意外にもシュートが上手いことが分かった
何回か心の中でメガネくんと呼んで、スリーポイントシュートが打てる場所にパスをすると、フォームこそ変だが何本かスパッとゴールに吸い込まれて入っていた
しかし、一方、将棋部の双子は正直まるでダメだ
2人で固まって喋っているだけで、これじゃあまともに試合にすらならないだろう
ただ、残念なことに社会的地位的でぼっちの方が劣っているので偉そうに文句を言うことができない。
そんなこんなで1試合目が終わって、次の相手を待っていると
まさかまさかのさっきのイケメンクソ野郎の早稲のグループだった。
しかも、予想通り早稲のチームには運動の出来る5人が集まっていた
そんなガチ勢の空気に当てられてか一郎、二郎コンビもちゃんとしないといけないと感じ始めていた
今回は、おそらく本気の接待プレーをすることになるだろう。
「よろしく」
早稲がキャプテン同士の挨拶みたいなかんじで握手を求めてきた
「おう…」
俺はとりあえず挨拶だけして握手を交わさずに戻った
「チッ」
明らかに聞こえるに早稲が舌打ちした。
ヒーッ、怖い、怖い、これだからイケメンは…
そう思っていると試合開始の笛がなった。
ジャンプボールは真っ直ぐ高く上がり案の定、身長の高い早稲のチームに渡った
すると、いきなり早稲は1人でドリブルをしながら徐々に俺たちの陣地に入ってきた
まずは八雲がディフェンスしに行った。
しかし、あっさり交わされてしまった。
さすがの運動神経だ。
しょうがないので、俺がカバーに行くとドリブルで俺の方に突っ込んできた。
俺が少し後ろに下がりながらディフェンスをすると、早稲は勢いそのままにジャンプしてゴールに向かって叩きつけるように思いっきりダンクをした。
ゴーン。ゴールが揺れる音が体育館に響き渡って他の奴らも一瞬こちらを振り返った。
なんてやつだよ…
俺はすんでのところで何とか左に交わしたが危うくひざ蹴り喰らうとこだった
って、待てよ、おい、高校生だろ⁈
あいつのどんなジャンプ力してんだ⁈
早稲は決めた後に、これでもかというくらいにドヤ顔してきた
ちょっと、いや、かなり腹が立ったが、俺がここで言い返すといろいろとマズい
絶対1点はとってやる。
俺はそう決心して拳に力を入れて、そのままボールを拾って試合を再開した。
俺はとりあえずボールをドリブルして相手の陣地に入っていった。
しかし、双子は後ろで守ってるだけだし八雲くんもガッツリマークされている
って、あっ、そういえば丸弁くんは?
俺が周りを見渡すと丸弁くんはもちまえのステルス性能でフリーの位置で立っていた
俺は相手を惹きつけるため、わざとドリブルで突っ込んでギリギリでフリーの丸弁にパスした
「メガネくん!スリー‼︎」
俺がそういうと丸弁くんはビクッとしてドリブルするのをやめて一気にシュートをうった。
そして、丸弁くんの放った球は、綺麗に弧を描いてゴールに吸い込まれていった
「スパッ」
ゴールネットの音が心地よく響いた
「おー!ナイス‼︎丸弁くん!」
俺はたまらず丸弁くんとハイタッチしてしまった
今まで全然仲良くなかったのだが、勢いでしてしまった
そんな俺に続いて双子と八雲もハイタッチしていた
丸弁くんも表情では分かりづらいが喜んでいるのだろう
って、何舞い上がっているんだ俺、まだ試合始まったばっかりだぞ…
その後は、何とか食らいついていたが丸弁くんへのマークが強くなってきて点も入らなくなってきていた
点差は8対9で早稲のチームがリードしている
やはり、こちらのディフェンスに対して相手のオフェンスが強すぎる
俺が何とかパスコースを探そうしてドリブルしていると一気に早稲が迫ってきて俺からボールを奪った
そして、俺の後ろに双子がいたが、一瞬で交わされてそのまま思いっきりダンクを決められた。
「くそっ」
これで、一気に3点差になった。
残り時間僅か5分、時間的にも厳しくなってきた
クッソ、やっぱり強ぇ
まずは2点返さないと
俺はもう一度ドリブルで相手の陣地までボールを運んだ
だが、早稲はさっきのように突っ込んでこない
ただ、俺がここからシュートを打っても入る確率はほとんどないだろう
なら丸弁くんは?と思って見たが、しっかりとマークが付いている
どうするか、残り時間は3分、ここで時間をかけるわけにもいかない
俺は、まぐれでもなんでも良いからと思ってドリブルでギリギリまで敵ゴールに近づいてゴールに向かって適当に投げた
「クルクルクルクル」
俺の投げたボールは運良くリングの周りを転がった
頼む、そのまま入ってくれ
俺は、神に祈った。
すると
「ポスッ」
祈りが通じたのかそのままボールはゴールに入った
「よーーーーーーし!」
俺はガッツポーズをした
残り時間は2分、あとワンゴールで試合は終わりだ
丸弁くんや双子はもう疲れきっている
勝ち筋があるとすればカウンターだ
俺は八雲にゴール前で待つように言った
試合は相手ボールで再開し、早稲は反撃とばかりに鬼の形相でボールを持って、そのまま突っ込んできた
お前なら、そうくると思ってた。
俺は何度かマッチアップしていて気づいたことがある
それは、あいつは、やっぱり経験者じゃないってこと。
身体能力があるからダンクとかができて得点力も高いが、ドリブルに関してはテクニックというよりスピードで、何度かフェイントはかけるものの最後の最後で早稲から見て右に抜ける癖がある
俺はジッと待った。
あいつの重心が左から右に移る瞬間を。
早稲はシュートフェイントやパスフェイントで誤魔化してるが俺は絶対に引っかからない
なぜなら、あいつはこういう場面で絶対に自分で決めたいと思ってるからだ
俺がジッと待っているとついに、早稲の重心が左から右に移る瞬間がきた
俺は手を出して早稲のボールを弾いた
そして、俺はそのままボールを取って、ドリブルした
残り時間1分、俺は八雲にニーツと歯を見せて笑って八雲に合図した
あいつなら絶対にわかるはず
俺の後ろからは鬼の形相で早稲が全力でボールを取りに来ていた
八雲は俺の合図を見てゴールに向かって走っていった
俺はそこでドリブルをやめて、勢いに乗せてゴールに向かってボールを投げた
喰らえ、伝家の宝刀、アリウープだ!
「八雲いけー‼︎」
「おー!、って、おい、外れすぎだろ⁈」
ゴールに向かって放ったボールは右に少し外れていた
しかし、八雲はそこから右に思いっきり飛んでボールをそのままゴールに向かってぶん投げた
「ゴーン‼︎」
八雲の投げたボールは大きな音を立ててリングに思いっきり当たってゴールに入った
「よっしゃー!」
俺は、丸弁くんや双子と一緒になって八雲の方に向かって行った
「ナイス!八雲‼︎」
「すごいです!」
「これで逆転だ!」
残り時間2秒くらいで勝利を確信した俺たちが喜んでいると
早稲はボールをすぐに取って、そのまま俺たちのゴールに向かって投げた
………パスッ
早稲の投げたボールは笛が鳴るギリギリでゴールへ吸い込まれた
「ピーーッ」
そして、無情にも試合終了を告げる笛が鳴った。
「しゃーーー‼︎」
早稲のチームは最後の最後でブザービートで逆転勝利した
「え、おい、マジかよ…」
俺たちはみんな唖然としていた
そんな空気などお構いなしに先生は集合の合図をした
「よーし、じゃあみんなボール片付けて教室に戻ってくれ!」
富士先生は、そう言って授業を終わらせて片付けに入った
俺と八雲は片付けをしながらも少しポカンとした表情だった
丸弁くんや双子も少し余韻に浸っていたがすぐに切り替えて教室へ戻っていった
「なぁ、八雲」
「あ?」
「なんなんだろうな、これ」
「それな」
「神様も一回くらいは俺たちに優しくしてくれてもいいんじゃないかな」
「まぁ、言っても所詮の体育の練習試合だからな」
「だけどさー、ただの体育の試合でさえあいつには勝てないのかよって…」
「まぁ、そこがデビューの俺たちと元からスターのあいつとの差だろ」
「そうかなー…」
「とりあえず、教室戻れよ。どうせまた、会うんだろ。」
「あぁ、そうだった。じゃあ、またな」
俺は少しモヤモヤしながら体育館を去った