高校デビューは甘くない 2話
昼休みが終わってからも授業が始まるまでは少し時間があるのでギリギリまで騒いでいる生徒は多い
しかし、俺みたいなぼっちは、そういうことをすることは許されない
なぜなら過去に一度体験したのだ、トイレに行ってギリギリで戻るとみんな教室移動でいなくなっていて、移動先の教室を伝えられてない俺はどうしようもなく、意味のわからない理由で保健室に仮病を使うという地味な地獄を。
だから、それ以降はギリギリの時間にトイレには行かずに、昼休みの終わる5分前には教室で寝たふりをしている。
やはり、寝たふりはぼっちの必須スキルだろう
因みに俺は寝たふりスキルをカンストしている。
俺が寝たふりをしながら周りの音に耳を傾けていると本当の授業の始まりを告げるチャイムが鳴った
そして、それを合図に廊下に出ていた生徒や他クラスにいた生徒はそれぞれ教室に戻っていった
俺はそのチャイムと同時に頭を上げて授業を受ける体勢に入った。
しかし、次の授業の先生はまだ来ておらず、教室は休憩時間のようにざわざわしている
そういえば屋上にいた転校生ってどこの席だったかな、てか名前なんだっけ?と気になったので俺は辺りを見渡してみた
右にはいないかー…ってことは左かー、いや、居ないな
出席番号順だし名前がわかればなぁ
俺が右を向いたり左を向いたりキョロキョロ辺りを見渡していると、なんか後ろの方から視線を感じた。
あれ〜っ、もっ、もしかして俺の後ろですか、、?そ、そんな、馬鹿な……
これ、振り向いた方が良いやつ⁈
いやっ、でも今はダメだ…
プリントを渡すついでにとかにしよう
そうだな、いきなり後ろに振り向くのはおかしいからな、それになんかすごい怖いし……
そうして俺は何事もなかったように前を向き直した
ん?……なんか後ろから明らかに何か尖ったものでチクチク刺されている気がするんですけど……
痛いんですけど〜、刺さってます、刺さってます‼︎
段々と強くなっていく痛みに俺は観念して後ろを向くとやっぱりあの転校生だった
まさか、こんな近くだったとはな……まさに、灯台下暗しってやつだな…
「どうもー」
俺は目を合わせないようにしながら軽く挨拶した
「ちょっと!今、絶対私のこと探してたでしょ?」
「まさか……ね、そんなわけ…ちょーっと自意識過剰なんじゃないかな〜、たまたま偶然友達に借りてたマンガ返そうと思って来てるかどうか探してただけだって〜」
「嘘つけ!だいたいあんた友達いないじゃん」
「ゲッ、いやいや、あれだよエア友達のトモちゃんだよ」
「余計気持ち悪いわ!てかどうやってエア友達とマンガの交換すんのよ⁈」
近くにあった教科書で頭をぶっ叩かれた。なんか暫く人と話していなかったせいか久しぶりのツッコミで気持ちいいのでさらにふざけてみたくなってきた
「ハッハッハッ、良くぞ、見破ったなワトソンくんよ‼︎
君のような勘の良いガキは嫌いだよ…」
「ワトソンくんが見破ったってことは……もしかして犯人はホームズ!あなたなの⁈…………とでも言うと思ったか!」
もう一回教科書でぶっ叩かれた。
「痛っ!、なんか…さっきより威力が上がってる気がするんですけど…」
「ふん」
転校生はそっぽを向いて誤魔化した
やっぱ、急に馴れ馴れしくするのは良くなかったか、反省しよう
俺が頭を押さえて涙目になっているのには目もくれず、転校生は俺の方に向き直して話を続けた
「それで、さっきの話なんだけど…結局のところ、こんなに近くの席だったのに今まで存在すら認識してなかったってこと?」
「まぁ…簡単に言えばそういうことになる。ついでに言うと名前も覚えてなかったです」
「えっ⁈名前も覚えてなかったの??
…どうりで、転校生としか呼ばないと思ったわ。いい加減覚えなさいよ、こっち来てからもう三ヶ月くらい経つんですけど。てか、去年も一緒のクラスだったよね⁈」
「しょうがねぇじゃん、その頃は他人に興味がなかったんだし……」
「うわ〜…なんか……闇が深そうなんだけど…」
「うるせぇ、俺だって昔は、イケイケだったんだよ……」
「ふ〜ん、そうなんだ。」
って、そんなに俺を憐れむような目で見ないで
「まぁ、あんたに何があったかは知らないけど、これからもずっと転校生って呼ばれるのは嫌だし……とりあえず、私の名前は奈良花 椿!よろしくね!」
「……ん⁈てことは、もしかしてお前奈良県出身か?」
「え、えっ⁈何で分かったの⁇もしかして……訛りとか出てた??
う〜、恥ずかしいぃ、こっち来る前に練習して直して来たのにぃ……」
後半につれて声が小さくなっていたのであまり聞こえなかった。
俺は何のことか分からなかったが奈良花の顔が急に赤くなって頭を机に伏せた
俺はとりあえず前半の内容についてフォローを入れてみた。
「あっ、いや、訛りとかじゃなくて……名前に奈良って入ってるからなんとなく言っただけなんだけど……」
「バカッ!」
再び教科書で叩かれそうになった
しかし、俺は前回、前々回で学習しているのでボクサー並みの動きで頭を後ろに下げてかわした
そしてそこで俺はニヤっとしてドヤ顔を決めた
しかし、奈良花ひ叩けなかったことにイライラしたのかつま先で俺の脛を思いっきり蹴ってきた
「痛った!、なんでもありかよ!」
「バーカ」
俺が涙目になりながら脛を抑えていると奈良花はベーっと舌を出してきた
そして、それ以降は奈良花はそっぽを向いてしまった
前途多難だな……これは……
俺は果たしてこの席で平穏に生きていけるのだろうか
まずは、更生させて暴力を辞めさせるところから始めないとな……俺の平和な生活が……
そんな風に考えているとドアがガラッと開いて、ようやく日本史の先生が入ってきた
先生は入ってくると教卓に荷物を置いて15分ほど遅れたことには1ミリも触れずに授業を始めた
先生の見た目は中肉中背でメガネを掛けていて、いかにも日本史の先生って感じ
そして、そのマイペースな先生の名前は中谷 素数
因みに下の名前はどう読むのかは知らない、多分”もとかず”とかだろう
みんなは先生のことを数学の素数にちなんで素数先生と呼んでいる
そんな素数先生はこの学校では眠りの魔術の使い手としても有名であり、彼の授業を丸々受けれる者は一学年に11人しかいないという噂があるほどだ
そして、もう早速何人かは寝始めている
まだ、1分も経っていないというのに……恐るべし力…
特にこのクラスは理系が多いのでその力の浸透具合も凄い
まぁ、日本史なんて理系にとっては全く必要のないことだし、それも当然のことだろう
だが、来年文転しようと思っている俺にとっては必須の授業であるから必死に耐えねばならない。
これが非常にキツイ、毎回後半戦では眠気との闘いに気を取られて授業どころではない。
…ぐぬっ、授業が45分を超えた辺りから太陽の気持ち良さと食後の睡眠欲も重なって、俺もヤバくなってきた
辺りを見回すと起きている生徒はほとんどいなくなっていた
俺は必死で手が真っ赤になるほどにつねったり、頰を引っ張ったりして耐えていた。
しかし、その5分後ついに俺は睡眠欲に負けて倒れるようにして机に突っ伏してしまった
すると、突然後ろからチクッと何かで刺された。
「痛っ!」
突然のことに俺の体はビクンと反応し、痛みのあまり声が出てしまった
「鷹宮くん…何か質問ですかね?」
先生が俺の声に気づいて質問してきた
「いやっ、な、何でもないです…」
俺は動揺しながらも何とか誤魔化した
「そうですか、では授業を続けますね」
ちょっと待って先生!、何で反応するの俺の声だけ⁈もっと気づくところがあるでしょうよ‼︎
あんたは、この死体の山を見て何も感じないのかよ⁈
俺は心の中で思いっきり訴えたが先生には届かなかった。
「ヒッヒッヒッww」
口元を押さえながら笑いを堪えている声がすぐ後ろから聞こえる
明らかに犯人は奈良花だろう
クソっ、てめぇ、後で覚えてろよ〜
俺はそのまま怒りをエネルギーにして眠気を最後まで耐え切った
そして授業が終わった瞬間に後ろを振り向くと奈良花が逃げようとしていた俺は逃すまいと奈良花の手をグッと掴んだ
「……逃げられるとお思いですか?」
俺がそう言うと、奈良花は何度か引っ張ったりして俺の手から逃れようとしたが俺が思いっきり掴んで離さずにいると、しばらくして逃げることは諦めたのか、そっと席へ戻った
「いや〜、何か、眠そうにふらふら〜ってしてたから……つい…」
「つい…じゃねぇよ。おかげで先生に当てられて、恥かいたじゃねぇか」
「テヘッ、」
舌を可愛くペロッとだして奈良花がまた逃げようとしたので、俺はもう一度手をグッと掴んだ
「そんなんで誤魔化せると思ってんのかぁ?」
俺が鬼の形相で言うと、やっと本当に観念したのか大人しく席に着いた
「ごめんなさい!、どーしても背中を突きたくなって、我慢したんだけど手が勝手に…」
奈良花は厨二病の腕が勝手に疼いて…みたいな感じで手を押さえながら謝ってきた
「ごめんで済んだら警察は要らんのよ」
「うん、…ゴメス。…」
「って、誰が元阪神の外国人選手の名前言えって言った‼︎」
俺は勢いで脳天にチョップした
「痛った‼︎」
奈良花は涙目になりながら頭を抑えている
これが俺が味わった痛みだ!……精神的な…
だんだん可哀想になってきたので俺は奈良花を許してあげることにした
「まぁ、謝ってる人を責めるほど俺は人でなしじゃないし、今回はとりあえず許すことにする。」
俺がそう言うと奈良花は頭を抑えながら聞いてきた
「本当に?」
「本当に。…てか、正直な話そんなに怒ってなかった。むしろ、起こしてくれてありがとう、助かった」
「なによ、急に……。怒ってないんだったら別にいいけどさぁ…」
奈良花は毛先を指でクルクルしながらすこし恥ずかしそうに言った
「それより、お前よく素数先生の授業で起きてられるな。奈良花みたいなヤンキーは普通寝てるもんだと思ってたわ」
「ヤンキー言うなし。私はギャルのつもりだし」
「ギャルは自分のことギャルって言わねぇよ、って…もしかして、実は…真面目だったりして………な〜んてな」
「何よ!真面目で悪かったわね。私だって……色々…努力してんのよ……」
最後の方は声が小さくて良く聞こえなかったので俺は聞き返した
「何?」
「何でもない‼︎、私帰るね、バイバイ!」
そう言うと奈良花すぐに荷物を抱えて帰ってしまった
あぁ〜、なんか怒らせること言っちゃったかな〜
後でラインで謝っとかないとな…
…って、俺、奈良花のライン知らないじゃん、てか、クラスラインすら入ってないじゃん俺。
マジ辛杉内俊哉 背番号18 身長175cm 体重82kg 左投左打
あ〜ホント、こういう時ってぼっちだと困るわー、情弱はつらいわー
「はぁ」
俺はため息をついた後、帰りの準備を始めた
その時ブブッ、と携帯が鳴った
ん、誰からだ?
アマゾンでは何も注文してないぞ。
俺がメールを開くと連絡主は妹だった
-お兄ちゃん、帰りに牛乳とキャベツとベーコンとチーズ買ってきて-
って、多っ⁈、だいたいこういうのって普通牛乳切れたから買ってきてとかいうパターンでしょ、これじゃあただのパシリじゃねぇかよ
-了解-
まぁ、なんだかんだ文句言いつつも家族には逆らえないので大人しく言うことを聞くことにした
そういえば、ベーコンで思い出したけど……今日って何かのゲームの発売日じゃなかったっけ。
えーと、たしか…ドラゴン・ファンタジーⅫだっけ…
まぁ、今日は暇だし近くのゲーム屋寄って帰るか