1話2
そろそろ何か言いたげだ。
疾走する馬の上、懐に寄りかかった件の客が しきりに瞬きをくり返し、そわそわ周囲を見回している。
案の定、ちらと盗み見て、くいくいシャツを引っぱった。「んねえ、ケネルぅ~」
「飯は食ったばかりだろ」
けんもほろろにケネルは一蹴。馬の手綱を淡々とさばく。
客は、むう、とふくれっ面。いや、めげずににんまと笑みを作った。
「あっ、ううん、そっちじゃなくて。そうじゃなくて、ちょっと喉が、」
「水なら、そこの水筒だ。そう言ったろ」
「だから、そーゆーことじゃなくって。あのねケネル。だから、その、」
「なんだ」
「──うっ。やっ、だから、そのぉ~」
「まったく!」
心底うんざり、ケネルは見やった。
「なんだ、あんたは。さっきから。少しは黙ったら、どうなんだ」
「や、でも、だって、その」
客は懐で上目づかい。「だってね。えっと──だから、そのぉ~」
ケネルは額に青筋立て、馬の手綱を苛々と握る。
「なんだっ!」「おしっこ!」
「……お、」
総勢六十騎からなる蹄の音が、ひらけた原野に満ちていた。
うららかな陽射しの降りそそぐ青く晴れ渡った空の下、大陸を南下し、駆けぬける。
並走していた副長を、ケネルは「……ファレス」と呼びつけた。
すぐに馬を寄せてきたファレスに、馬群停止の指示を出す。だって、それでは致し方あるまい。
そろりと脇に目をやったまま目を合わせようとしない懐の客を、首を傾げてつくづく見た。何があったというでもない。具合が悪いようでもない。
まったく、どうしてこの客は、そんなに馬を止めたがるのだ?