4話1
まだ明け方の陽をあびて、ゲルはひっそりと静まっていた。
夜気で冷えた絨毯を、ケネルは踏みしめ、北側へ歩く。
寝入った客の寝床の脇に、無言でたたずみ、見おろした。
背をかがめ、片膝をつく。
客を片腕で抱き起こし、寝巻きの襟についている白絹のリボンを引いて解く。
一番上のボタンをはずした。
上から二番目の胸のボタンも。
しどけなくひらいた襟元を、そのまま無造作に肩へ剥ぐ。
くしゅん、と彼女がくしゃみをした。
むずかるように顔をしかめる。
「……ケネ、ルぅ……」
ケネルは面くらい、手を止めた。
腕にあおむいた白い顔。心許ないほど細い首、銀の鎖の首飾り──。
舌打ちして、目を背けた。
指がためらい、包帯の上をさまよう。白い包帯に覆われた、鎖骨の浮いた薄い肩──。
手のひらを握り、顔をそむけた。
彼女は少し口をあけ、無邪気に眠りこけている。
あの言葉を疑いもせずに。
くしゅん、と体を震わせて、客がもそもそ身じろいだ。
迷惑そうに顔をしかめる。
ケネルは苦笑って襟を戻した。「──わかった。わかった。寒かったよな」
元の通りにボタンをはめた。
客の身体をうつ伏せにして、元の通りに慎重に寝かせる。
寝床の脇で後ろ手をつき、足を投げて天井を仰いだ。
「俺も存外いくじのない──」
外で、小鳥が鳴いていた。
天窓から射しこんだ朝日が光の帯となり、土間を白々と照らしている。
手放しで寝入ったその顔を、もてあまし気味にケネルはながめた。
こうも信用されると御しがたい。
考えが甘いとわかっている。
きのうの今日で目覚める気使いがないことも。
またとない好機のはずだった。
こうして手をこまねく間にも、時はじりじりと過ぎていく──。
そう、早く確認すべきだ。
あの話が事実なら、客への対処は一刻を争う。
肌を覆う包帯の下に、傷の縫合の跡は
ない。




