2話3
「……なんで、こいつが、ここにいるんだ?」
翌朝、ケネルは、あぐらで首をひねっていた。
腕にはなぜか、引っ掻かれたような赤い線。真横で寝入った頭とぬくもり。
土間をはさんだ北側の、毛布がめくりあげられた寝床を確認、己の横へと目を戻す。
心当たりは、とんとない。
ふと、顎をなで、首をかしげた。
「……夜這い、かな」
……ま。ないな。
それはない。
しかし、不思議だ。
一体どうやって寝ぼけたら、こんな所まで転がってこられる。
間に土間を挟んでいるのに。寝相が悪いにも、ほどがある。
「なんにせよ、さっさと戻すとするか」
気づけば、わめくに決まってる。
起こさぬように注意しながら、背をかがめ、担ぎあげる。
体を動かしたその拍子に、腕の寝顔が、かくりと落ちた。
瞼を閉じた無防備な顔。薄桃色の半開きの唇……
はた、と室内の無人を確認。
密かに胸をなで下ろし、寝入った客を担ぎあげる。
「……まったく、しょうもない奴だ……」
すたすた土間の北へと歩いた。
寝床にうつ伏せに転がして、普段より更にぶっきらぼうな手つきで、ぱたぱた寝具を整えてやる。
ゲルの戸口へそわそわ向かい、出口の仕切りを払いのけ、
戸枠に蹴っつまづいて出て行った。




