令嬢「さあ、次は御爺様ですわね!!」
初めましてこんにちは。
この度は御愛読いただきありがとうございます。
みんな大好き令嬢のものです。
拙い作品ではございますが、暖かい目で見ていただけると幸いです。
「大旦那様。こちらが報告書になります」
「ご苦労」
儂の名前はグリード・グラード・フォン・ヴァイスター。
儂には大切な孫娘がいる。
名をルナマリア・グラード・フォン・ヴァイスター。
孫が学園に入る歳になり、帰郷する度に彼女の成長を報告してもらっている。
「この報告書に本当に間違いはないのか?」
「はい。間違いないです」
「う~む…」
どうしたことか、学園での成績があまり芳しくない。
週に2度ほどくる手紙では、今日は○○を学びましたといった内容が届いている。
その内容は学のない儂でも難しいのが分かる。
しかし、どういうことか成績は中の中といったところ。
「孫はそんなに頭がよくなかったかの」
「大旦那様。それは違うと考えます。
お嬢様は学園では手を抜いていると思われます」
「ほう。どうしてそう考える?」
執事長が新たに報告書を差し出してきた。
内容は、屋敷での孫の様子である。
「勉学の方は、教師であるティスティア様を唸らせています。
何より彼女のテストでこれだけの点数を維持するのはお嬢様の学園での成績と矛盾しています」
「ティスティア……なるほど」
確かに、この高い点数を維持するのは苦労するのは目に見えている。
ティスティアには息子のバーディアスも世話になった。
その仕事ぶりから彼女が手を抜くということはありえない。
彼女の性格からそれは決してありえないのだ。
ならば、どうして成績の方は芳しくないのか。
「まさか、学園側が不正な評価を下しているというのか…?」
あの伝統のある学園が?
そんなことまさかあるまい。
「調査の結果、学園側にそのような事実はないと報告書が上がっております。
ティスティア様によりますと、すでに学園卒業までに必要な知識は修業済みとのことです。聞いてみてもやはり…お嬢様手を抜いていると考えるのが妥当だと愚考いたします」
「何故...何故手を抜く必要があるのか?」
頭がいいことを悟られないようにしているのか?
だが、そんなことをして何になるというのだ。
「私にはお嬢様の考えていることが分かりかねます」
「ますます分からんな」
「そうですね」
「一度孫に会う必要があるようだな」
そうして儂は久しぶりに孫のルナマリアに会うことを決めた。
――――――――
「こちらです大旦那様」
案内された場所。
儂はこの屋敷には場違いなほどの修練場にいた。
というよりも、いつの間にこのような場所ができたのだろうか。
「この場所は?」
「……」
「どうした執事長?」
「そ、それが……お嬢様が“御一人”でお作りになられましたそうで」
「馬鹿なッ!」
儂は周囲を見渡す。
儂の持つ軍の修練場より広いではないか!
それをルナマリアがたった一人で!?
それよりも驚くとは儂がこの屋敷を出てたった一年程度の出来事ということだ。
たった一年ほどでこれほどのものができるわけがない。
「ああ!ああッ!
御爺様!!御爺様ではありませんか!?
話は聞いていましたがもう此方に帰ってきてましたのね!!」
孫のルナマリアが自然に儂に抱き着いてきた。
そして儂を歓迎するかのように毎回頬にキスをしてくる。
終わると同時に今度は頬ずりを開始する。
まるで犬や猫がマーキングするかのように。
「お、おう。元気であるか?」
「はい!
こ、これは失礼しました御爺様。
少しはしたなかったですわね」
と、物足りなそうに儂から孫が離れる。
スキンシップが激しいものも困ったものだ。
もう齢17になろうとする孫が今もこうやって儂を受け入れてくれるというのはどこか恥ずかしながらも嬉しいものがある。
「……?
そんなにお爺様に見られると照れますわ」
孫を改めてみる。
そこには少女の面影はすでにない。
身長は儂より頭一つ低いくらいだから多分170メルチ前後。
その女性として高い身長がさらに孫の美を強調させる。
母から受け継いだであろう銀の髪を揺らし、その先端は腰まである。
何より注目すべきはその雪のような白肌とその美貌。
そして視線を誘導するかのように主張する張りのある大きな胸。
ルビーの様な紅く大きい魅惑的な熱の籠った瞳は乾いた儂でも勘違いしてしまいそうだ。
戦場出である儂の腕では誤って折れてしまうのではないかと心配してしまうほど軽く細く愛らしい。
「それより御爺様!
どうですこの修練場は!?」
「そうだな…儂の持つものより数倍は大きいだろう」
「そうですわよ!
私一人で作るのには苦労しましたの!
聞いてくださる、御爺様!!
私たくさん話したいことがありますのよ!!」
「ああ。儂もルナに聞きたいことがある」
「まあまあまあッ!?
何でも聞いてくださいまし御爺様!!?」
「ああ…」
何故だか異様に孫が張り切っているのが分かる。
こういうところは成長しても変わらないということなのか。
儂はこれまでの学園生活とその成績のことを孫に問うた。
「ああ、それですの。
私は別に勉学に興味があるわけではないのです」
「そうなのか?
手紙の方ではそのようには見えなかったが」
「そ、それは……ま、まあいいじゃないですか!!
もしかして御爺様は私にそのことを聞きたかったのですか?」
「まあ、そうなんだが」
「はっ…!
もしかして私、馬鹿な孫だと思われたのでしょうか!?」
ピンク色の唇わななかせ、声を張り上げる。
怒るのに向いていないのか、それとも怒り慣れていないのだろうか。
孫には似合わないと思った。
「いや…そこまで言ってないのだが」
「それでしたら、今度からトップ5入りしてみますわ!!
もし入ったら御爺様は褒めてくださりますよね?」
「ああ…勿論だともルナマリア」
さも簡単そうに孫が言う。
どうやら手を抜いていたと考えて間違いなかったようだ。
“孫は儂との約束を違えたことはないのだ。”
だからこんどもきっとそうなのだろう。
「それでは、今度は御爺様に見せたいものがありますの!!」
そう言って孫に連れられてやってきたのは修練場の真ん中だった。
――――――
「御爺様には私の今までの成長を見てもらいたかったのです!!
見てくださいませ御爺様!!」
「怪我をしないような」
「はい御爺様!!」
報告書には今も武術やってあると書かれていた。
かつて大の男の攻撃を往なせる体術の一つである護身術を儂は孫に見せたことがある。
孫は目を輝かせながら習いたいと言ったのでそれから学ばせていた。
最低限のつもりで学ばせていた令嬢が身を守る為の護身術がいつの日か役に立つかもしれぬと儂は考えていたからだ。
“いつか孫が大きくなったとき相手をしてやるとも約束した。”
微笑ましいその光景は今でも鮮明に覚えている。
孫は儂が命に代えても守る。
それが儂の最後の役目であり使命だ。
「それでは…」
「おいルナマリア……」
今までの孫が纏っていたふわふわとした雰囲気が一瞬でガラリと変わる。
このまま雰囲気に飲まれれてしまう。
別人かと見間違うほどの変化だ。
儂はこれを知っている。
戦場で幾度と経験してきた。
肌から伝わる空気と感覚。
それからは驚きの連続だった。
まずはその魔力量。
今まで抑えていた魔力量がこれほどとは。
目を見張るは身体強化魔術。
魔力回路を解放し全身に魔力が巡る巡る。
それが肉体強度を極限まで押し上げる。
そして一気に爆発した。
前へと突き出した掌底。
遅れて乾いた音がパンと響く。
吹き荒れる風。
衝撃波が炸裂し、地面を抉る。
そこからの怒涛の三連撃。
儂は呆然として動けなくなった。
武術の達人域に達すると、周囲の人にもそれを見ることができるらしい。
今、孫は影演武と呼ばれる、いわば仮想相手との組み手を儂に見せているのだ。
そして影と距離を取るように下がる。
瞬間場を重苦しい空気が包む。
来る!!
孫が地面を這うように高速で駆け抜ける。
それは加速度的に勢いを増し影との距離を詰める。
身体を捻ると同時に竜の咢に見立てた両の脚が開く。
交差するその瞬間に不可視の刃が空間に生じ影に食い込んだ。
「これで最後ですわ!!!」
その言葉が口火だった。
周囲に旋風が巻き上がる。
深く陥没し隆起したその地面からは身体強化された尋常ではない脚力が伺えた。
パン。
その乾いた音を皮切りに、突き出した拳の衝撃が空間を飲み込む。
地が裂ける。
空気が激しく振動する。
熱を帯びた地面がガラス化する。
打ち抜いたという表現よりもやはり飲み込んだの方が正しかった。
「……」
これは危険だ。
喉がヒリついて、つばが飲めない。
己の心臓が早鐘を打つのが分かる。
経験ではない。
ほとんど本能の域でそれを理解する。
影はそこに居たのが嘘のように霧のように霧散し掻き消えた。
「…………」
ここの空間だけ、水でも打ったように静まり返る。
皆口をぽかんと開けて唖然としていた。
そして、影演武を終えた孫は嬉しそうな顔でこちらを見た。
「さあ、次は御爺様ですわね!!」
今度ばかりは顔が青ざめるしかなかった。
なんてたって“孫は儂との約束を違えたことはない”のだから。
御爺様大好き系女子が頑張った結果がこれだよ!!
成績が良くないというのは、御爺様が脳筋ということを知っていたため。
御爺様が話についていけないかもしれないということで控えめにした結果である。
と同時に成績を上げるれば褒めてもらえるかもしれないという期待の結果でまる。