6-4
天井まで届く書棚に四方をぐるりと囲まれた書斎の奥で、おばあさまは大きな椅子に座って、俺を見つめていた。
黒い質素なローブとその袖からのぞく乾燥し艶を失った細い腕、幾重にも刻まれた顔の深い皺を見ると、弱々しい印象を受けるが、わずかに開いた目の奥から発せられるどんな刃物よりも鋭い眼光を向けられると、おばあさまの内にある荒々しい熱情を否応なしにも思い知らされる。
先代当主の妻であり、現当主である俺の親父の産みの親、そしてファテルベルク家の実質的な支配者、それがおばあさまだ。おばあさまがひとたび怒れば、館中は文字通り炎と烈風に包まれる。ファテルベルク家にこの人ありと外からも内からも恐れられ、その昔、おばあさまの一睨みで魔人族の頂点に立つ魔王がちびった、というのは有名な噂話だ。
俺は書斎に入った瞬間から急激に喉の渇きを覚えて、一方額は汗ばみ始めていた。
おばあさまは椅子に深々と腰掛けたまま、顔も体も動かすことなくただ視線だけを、俺をここに連れて来て、今は書斎の入り口に控えている老使い魔に向けた。そして、
「お前は、下がっていろ」
一言告げると、老使い魔はそそくさと足早に書斎から出て行ってしまった。
——裏切り者め。
そう思いながら、俺の存在をおばあさまに告げ口した老使い魔の背中を一瞥した。
しかし、老使い魔にとっては裏切りでも何でもないのだろう。老使い魔が一番崇拝しているものは、俺でも親父でもない。おばあさまなのだ。老使い魔にとって、ファテルベルク家とは栄光に包まれていた時代のことであり、それを体現しようとしているのが昔はおじいさまで、今はおばあさま、というわけだ。
「さて、レノン。……何か言うことはないのか?」
おばあさまの冷たい言葉に、俺の思考は何もかも吹っ飛んだ。脈拍数が一気に跳ね上がる。
「あっ……、お、おばあさま。本日もお元気そうで、な、何よりです……」
「馬鹿者!」
おばあさまの怒号に、俺の肩が反射的に強張り、背中から一斉に汗が噴き出した。
「そんな、くだらない挨拶を求めてんじゃない。どうして戻ってきたと聞いてるんだ! あっちの世界の征服は済んだのかい?」
「あっ、いえ、まだ、です……」
おばあさまの眼光に耐えきれなくなって、俺は俯いた。
「じゃあ、たった数日でのこのこ逃げ戻ってきたというのか!」おばあさまの大音声に、書斎に並んだ古い書物がガタガタと音を立てて震えた。「それでよくもまあ、この私に顔を見せられたものだね」
「いや、呼び出したのはおばあさま……」
「黙れ!」
おばあさまの一喝に、今度は心臓が飛び出しそうになった。このわずかな会話の間で、寿命が十年は縮んだ気がする。
「情けない、ああ情けない。……息子は他の貴族に世辞ばかり言ってファテルベルク家の誇りを捨て、孫はどうしようもない意気地なしで弱虫ときたもんだ。どうして今のファテルベルクの男どもは……。これじゃあご先祖様に顔向けできやしない」
「お、おばあさま。俺は逃げてきたわけじゃないんです」
俺の弁明に、おばあさまの真っ白い眉がピクリと動いた。
「世界征服はまだ終わっていない。しかし逃げてきたわけでもない。じゃあ何だってんだい? まさか、母親のお乳が恋しくなった、なんて言うんじゃないだろうね」
違います、まあ妹の顔は見たくてしようがなかったですけど、なんて言ったら、間違いなく業火で尻を焼かれる。
おばあさまの前では嘘も冗談も通じない、ただ事実を述べるしかなかった。
「実は、薬を取りに戻ったのです」
「薬……、まさか、また体調でも悪いのかい」
おばあさまの眼光がわずかに弱まったような気がした。
「体調が悪いのは俺じゃないです。あっちの世界の人間が……」
それから俺はおばあさまに向かって、あっちの世界で約一週間過ごした中で起こった出来事をかいつまんで話した。その間、おばあさまは椅子に深く腰掛けたまま、目をつむって黙って聞いていた。そして俺がこっちの世界から持ち込んだ病気のせいで、聡美やその周囲の人々が重大な危機に陥っていて、彼らに薬を届けるためにこっちの世界へ戻ってきた、という説明まで終えると、おばあさまは突然、かっと目を見開き、天井を仰ぎ見た。俺もつられて天井を見る。かつてそこには荘厳な絵が描かれていたのだろう、しかし今は見る影もないただの汚れた天井だった。
「レノンが言っていることは、ほとんど意味が分からん」天井を見つめたままおばあさまが口を開いた。「ただ、私たちの世界では魔法がすべてだが、あっちの世界では、科学というまったく別の原理が幅を利かせ、ご先祖様が残して下さった見聞録とは似ても似つかない世界に様変わりしていた、と、いうわけだな」
「はい……」
俺は頷いた。
「ただ、そんなことは世界征服が成し遂げられない言い訳にはならん!」
再び、おばあさまの猛獣をも震え上がらせる眼光が俺に向けられた。臓器という臓器が揺さぶられるような感覚に襲われた。
「どんな逆境であっても、己の最善を尽くすのだ、さすれば活路を見いだせる。それがご先祖様からの教えだ」
「わ、分かっています」
「現に、今は千載一遇の機会ではないか」
「へっ?」
うっかり間抜けな声を出してしまった。
……機会? 何の? 俺はおばあさまの言葉の真意が理解できなかった。
「向こうの世界の連中が言うのだろう、このまま薬がなければ、大勢の人間どもが病気で死んでしまう、と。そして今病気を治す薬を持っているのは私たちだけ」
おばあさまの口角が吊り上がり、頬の皺が深くなった。
ようやく、俺もおばあさまの考えを理解できた。「あっ」と声を漏らした。
「やっと理解できたか、レノン。簡単なことだろう、私たちに忠誠を誓う者だけに薬を分け与える。たったそれだけで世界征服は成し遂げられるのだ」
ずっと濃霧に覆われていた山道の視界が晴れ、山頂へと進む道が明らかになったような感覚がした。
そう、今目の前には、俺やおばあさまの目標であった異世界征服を完遂できるもっとも簡単な道が提示されているのだ。これに従えば、近いうちに異世界征服は成し遂げられ、いつまで続くか分からないあっちの世界での生活を早々に切り上げることができる。そうすればアンとまた一緒に暮らせるようになり、彼女を泣かせることもなくなる。手に入れた巨万の富で母上を楽にしてあげられる。
だが同時に、あまりに恐ろしい選択肢に、冷水をぶっ掛けられたかのように震え上がった。
震える足を必死に押さえつけながら、おばあさまに言った。
「お……おばあさま、それは、あまりにも恐ろしい。大勢の人間が死んでしまいます」
「それがどうかしたのか?」おばあさまは冷たく言い放った。「所詮、人間など私たち魔人族に比べれば下等な存在。幾ら死んだところで大したことではない。必要なのは私たちに忠誠を誓う連中だけだ。何を怯えることがある?」
人間など魔人族に比べれば下等な存在、幾度も口に出し心の中で反芻してきた言葉だ。しかし、改めて聞かされると……、違和感と嫌悪感を覚えた。
だから次の瞬間、思わず大声で口にしていた。
「彼らは、人間は決して、劣っていません!」
おばあさまは、俺が突然声を張り上げたことに驚いたのか、何度か目を瞬いた。やがて黄ばんだ歯をむき出しにして叫んだ。
「レノン、この私に口答えするのかい!」
おばあさまの背後から突然、火の粉が舞い上がった。書斎中の本という本が慌てふためいたようにガタガタと震えた。
俺は恐ろしさのあまり反射的に身を縮めた。
「もっとも崇高なる種族である魔人族、その魔人族の中でも最も高貴な存在であるファテルベルク家、人間はそれと同等だというのか! レノン、お前は私たちを、この家を否定するというのか、お前の父親と同じように!」
「違います、違います」俺は必死に首を左右に振った。「そんなつもりはありません。人間に魔法は使えません、力もありません。でも俺たちとは異なる感嘆するような文化、文明を持っているのです。良い悪いという優劣の問題じゃないのです。そんな彼らを虫けらのように扱うことはできません」
もう認めなくてはならない。聡美や清治に向かって魔人族やファテルベルク家の素晴らしさを説き、それに比べ人間が下等な存在であるとどれだけ口先で言っても、心の中で思い込もうとしても、ほんのわずか彼らと過ごしただけで、それが間違いだと分かってしまったのだ。
おばあさまの言葉に反発する気持ちを知ってしまった以上、もう自分の心を騙しきれない。
この認識で今までの出来事を振り返ってみると、突然現れた右も左も分からないくせに、傲岸不遜な男に対して、聡美も清治も学校のみんなも、俺の我が儘に付き合ってくれて、とても親身になって接してくれたのだと理解できた。何度か対峙することになった須賀でさえそうだ。高校での最初の挨拶のあと、初めに声をかけようとしてくれたのは彼なのだ。俺のズレた誇りのため、彼の好意を無駄にしてしまったのだ。そして天野。いろいろ裏があるのでは? と疑ったが——その疑いは晴れたわけではないが——、似た境遇の俺を案じてくれた気持ちはあるのだ。そんな彼らを、ゴミのように扱う気にはとてもなれない。
見捨てるわけにはいかない。今まで助けてくれた分、今度は俺が助けないといけないのだ。
震える両手を必死に押さえながら、おばあさまに向かって言い返した。
「むしろ彼らと俺たちは対等だと思い、敬意を払うことこそ、魔人族の最高貴族であるファテルベルク家に求められているんじゃないでしょうか?」
「黙れ、黙れ、黙れ!」おばあさまが椅子から立ち上がった。俺の方が背は高いのに、圧倒されそうな気配だった。「今この方法を使わずに、レノンはどうやってあっちの世界を征服するつもりだ。ファテルベルク家はこのまま朽ちて滅んでしまえばいい、お前はそう言いたいのか!」
今やおばあさまは顔を紅潮させ、長い白髪を逆立て、魔王も裸足で逃げ出しそうな恐ろしい形相で俺を睨み付けていた。完全に頭に血が上っている。爆発するのは目前だったけど、俺は必死に弁明を続けた。
「だから、違うんです、おばあさま。荒っぽい方法を使わずに、もっと別の方法で正々堂々と進めたいと言っているだけです。現に、学校を俺の支配下に置こうと、生徒会長とかいう役職を目指して、努力しています」
「生温い!」
おばあさまが地団駄を踏むと、本たちが驚いたように一斉に飛び跳ねた。
「お、俺を信じて下さい。必ずあっちの世界から、ファテルベルク家に恵みをもたらしてみせます」
「もういい……」おばあさまが地の底が震えるような声を出した。「勘当だ」
「えっ……」
一瞬、聞き違いかと思った。さっきまで止めどなく流れ出ていた汗が一斉に蒸発し、俺の体温を奪っていったかのようだ。
恐怖と絶望で体が激しく震えた。
「私の教えを捨て、そんな軟弱な思考へ傾倒するとは。ファテルベルク家の面汚しめ、この家から出ていけ!」
次の瞬間、おばあさまの全身から熱風が吹き出した。書斎の本たちが、熱から逃れるように一斉に天井へと舞い上がり、鳥の群れのように天井を旋回する。俺もあまりの熱さに両腕で顔をかばった。
「おばあさま、聞いてください……。俺はおばあさまのことを尊敬しています。でも……」
俺の声をかき消すように、おばあさまが猛獣のように吠えた。「今すぐ出ていけ! 顔も見たくない!」
背後の扉が開いたと思ったら、一際強烈な熱風に吹き飛ばされ、書斎から放り出されてしまった。
「お、おばあさま!」
廊下に倒れたまま、書斎へ向かって手を伸ばす、しかし、書斎の扉はバタンと無慈悲な音を立てて閉じられてしまった。
俺はゆっくりと立ち上がる。両腕と顔がヒリヒリと痛んだ。
おばあさまに見限られてしまった。
それが分かった瞬間、震えが止まらなくなってしまった。
もうこの家にはいられない。大きな支えと庇護を失い、これからどうやって生きていけばいいんだ!
俺は間違ったことを言ってしまったのだろうか。やはりおばあさまの言うとおりにすべきだったのか……。
「レノンは間違っていない」
真っ暗な廊下の奥から声がした。そして姿を現したのは、そこら中に穴が開きすっかり光沢を失い灰色に変色してしまったベストを着て、くたびれたように肩を落とした男だった。生気のない瞳と無精髭を伸ばした頬からは貫禄も威厳もまったく感じられない。存在するだけで周囲を圧倒するおばさまとはまったくの正反対。
ファテルベルク家の現当主であり、俺の親父だった。
アン以外には誰にも会うまいと思っていたのに、結局、ほぼ全ての屋敷の住人と出会ってしまったことになる。こうなるんだったら、素直に母上にも会っておけば良かった。
「……親父。な、何だよ、急に?」
親父の顔を見るだけで、無性に腹が立ってくる。
親父は、ゆっくりと影のように音も立てず、俺に近づき、そっと俺の肩に手を置いた。「大丈夫だ」
俺は激しく肩を揺すって、その手を振り払った。
「誰のせいだと、思ってるんだ!」
俺はありったけの怒りと憎しみを込めて親父に向かって叫んだ。
「……親父がしっかりしないから、俺が代わりにおばあさまの言いつけを守って、強いファテルベルク家の男になろうとして……。それから異世界だなんてわけの分からないところにも行かされて、そうしたら向こうの人を傷つけて、その上今度はおばあさまに勘当されたんだぞ」
ずっと心の底に溜まっていたことがどんどん口から溢れ出てきた。もう止められなかった。
ファテルベルク家の面汚しの親父の代わりに、今までおばあさまの厳しい教育に耐え忍んできた苦しみや、学園の同級生たちから、他の貴族たちのおこぼれを頂戴しないと生きていけないくせに、態度ばかりデカくて口先ばかりだと散々馬鹿にされてきたことが、走馬灯のように蘇ってきた。
「全部全部親父のせいだろ! 親父さえちゃんとしてくれたら、アンと離ればなれになることもなかったし、母上の体調だってもっと良くなっただろうし、こっちの学園で俺がイジメられることもなかったんだ。それが何だよ。今更大丈夫だなんて! ふざけるのもいい加減にしろよ!」
最後の方は舌も回らず、支離滅裂だ。でもまだまだ言い足りない。残りの感情は親父の顔を睨みつけることで、ぶつけてやった。
微動だにせず、じっと俺の声を聞いていた親父は、ふっと表情をほころばせた。
「なにが面白いんだよ、子供が苦しんでいるところ見て笑うだなんて、本当に最低な親だな!」
「ああ、嬉しいよ。……レノン、お前も大きくなったなあ、と。子供の成長を喜ばない親がどこにいる?」
「はっ……はあ?」
親父の言っていることが理解できず、怒りも忘れてつい首を傾げてしまった。
「レノンは、小さい頃からほとんど自分の意見や希望を主張せずに、ずっと母さんや、おばあさまの言うことをひたすら黙って聞いていたからな。そんなレノンが、おばあさまに自分の意見を言い、私にも本音を語ってくれた」
「それは……、親父が全然おばあさまの言うことを聞かないから、代わりに俺がずっと我慢……」
自分で口にした言葉に驚かされた。
——俺は何を我慢していたのだろう?
何もかもだ。家での俺の立ち振る舞い、あっちの世界での態度。全部我慢して偽って来たんだ。
「お前たちにずっと苦労させてきたことは、本当に悪いと思っている。……でも、私だってこの家……家族のことを、レノンとアンベルカ、それに母さんとおばあさまを大切に思っている、これだけは信じてほしい」
気のせいだろうか、急に親父の体が一回り大きくなったように見えた。
「何を今更……」
と口にしては見たものの、声を荒げて否定する気持ちはもうなくなっていた。
親父が手に入れてきたという老使い魔が抱えていた鳥肉を思い出した。育ち盛りのアンや体の弱い母上のためにそれを手に入れるため、親父はどれだけ大変な思いをしてきたのだろう……。今までまったく考えたこともなかった。
「そうだ、これを……」
茫然として親父の姿を見つめていたら、親父が両手をパンと叩いた。すると突然、目の前に大きな木箱が現れた。地面に落下する前に慌てて、両手で抱えた。
「母さんから借りてきた薬箱だ。必要なんだろう?」
「どうして、これを……」
目を凝らして木箱を見た。全体は黒に塗られているが、所々に施された金細工が美しかった。箱を開けると、様々な種類の薬がぎっしりと詰まっていた。先ほど老使い魔が言った通り相当高価な薬も含まれている。ファテルベルク家の台所事情で、これだけの種類を集めるのはさぞかし大変だっただろう。
「口達者な使い魔とレノンとおばあさまの話を聞いていたから。……本当は、子供たちのために母さんが苦労して長年集めてきたものだから、大切に使いなさい」
薬箱がずっしりと、重く感じた。
「……あ、ありがとう」
そう、小さな声で呟いた。
親父はすっかり髪が薄くなった額を指でカリカリと掻いて、恥ずかしそうにそっぽを向いた。
「その言葉は私から母さんに伝えておくよ。時間がないんだろ、すぐに行きなさい。……その代わり、もっと時間があるときに、また顔を見せにきてくれ。……その時は、お前が必死になって助けたいと思っている、あっちの世界の恋人を連れて来るんだぞ」
「……だから、聡美のことはなんとなく妾とか呼んでいるけど、別に恋愛感情だなんて無いから! 俺が心の底から愛しているのはアンだけだ」
下品な笑みを浮かべる、親父に向かって言ってやった。
「私としては妹溺愛思考の方をなんとかしてほしいと思っているのだけど……。まあとにかく、いつか言葉通りになるかもしれないぞ。おばあさまに楯突いてまでその子を守ろうとしているんだ、きっと主従や友だち以上の感情を抱いているんだよ。まだ自分自身では気付いてないだけで。……異世界恋愛、おばあさまとアンはともかく、私と母さんは反対しない」
親父の言葉に、俺がおばあさまに勘当されたばかりだということを思い出した。この世界に戻るべき場所がなくなってしまったのだ。影を潜めていた悲壮感が再び全身を覆い尽くしていく。
「おばあさまに勘当されたんだ。どうやってここへ戻って来いと? 親父がおばあさまを説得してくれるのか?」
詰め寄ると、親父は薄汚れたハンカチで額を吹き始めた。
「それは私にも難しいな……」
やっぱり駄目親父だ……。一瞬でも見直した俺が馬鹿だった。
「でも、心配ない」
しかし親父は強く言い切った。
「どうして? おばあさまが意味もなく、俺を許してくれるとは思わない。やっぱりもう一度頭を下げて……」
俺は書斎の入り口に目を向けた。
「今は止めておけ、本当に殺されるぞ」親父は俺の腕を掴んで引き止めた。「大丈夫だから。ほとぼりが冷めるまであっちの世界でおとなしく暮らしていなさい」
そして、自信ありげに親父は言った。
「私も既に両手で数えられないくらい、おばあさまに勘当されている」




