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ファテルベルク家の復活  作者: 三好ひろし
生徒会長、天野駿
14/29

3-3

「今日から僕らの仲間として生徒会の仕事を手伝ってくれることになった、レノン=ファテルベルクくんだ。みんな、よろしく」

 俺の傍らに立つ天野が生徒会室に集まった人間たちに紹介した。彼らはじっと俺の方を見つめながら、パラパラとお世辞のような軽い拍手をしていた。「また新しい人入れたの?」「どうせ、会長の口車にのせられたんだろ?」「あんたも人のこと言えないでしょ……」と、一番隅にいた男女ペアがささやき合っていた。

「じゃあ、みんなで力を合わせて文化祭を乗り切っていこう。……じゃ、由良くん。あとはよろしく」

「えっ! あたしが?」

 真ん中の席に座っていた聡美が勢いよく立ち上がった。

「そりゃ、由良くんが彼のことを一番知っているし」

「知ってるって、どういうこと?」「そりゃ……もちろん」などと周りがざわつく。

「コイツとそんな関係は、一切無いから!」

 聡美が声を張り上げた。

「関係ないとは何事か。俺と妾の間柄ではないか!」

「えっ、聡美ちゃん。どうしてわたしに教えてくれなかったの!」「国際恋愛か……、羨ましい」「由良さんって、てっきり会長とデキてるのかと思ったのに」

「だから、違う!」聡美が生徒会メンバーの面々を片っ端から睨み付けて黙らせていった。「アイツは親の仕事の関係で、今たまたまあたしの家に居候しているだけ、妾とかはただのアイツの妄想!」

「妄想とは無礼な。現実を受け入れろ」

「アンタは黙ってて!」

「は、はい……」

 髪が総立ちしかねないようなオーラを発し始めた聡美の姿に、怒ったときのおばあさまの姿が重なって、口をつぐんでしまった。

「それに、会長とも付き合ってなんかいない。……むしろ嫌いだから」

「いやいや。由良くんも冗談がキツい」天野は笑顔を崩さず言った。「とにかく、由良くんが、一番人手がほしいってぼやいていたから。ちゃんと面倒見て、彼を戦力に育て上げてくれ。……じゃ、よろしく」

 天野の言葉を合図に、メンバーはそれぞれノートPCやら紙の束を手元に引き寄せて作業を開始した。

「はーっ」一人聡美はわざとらしい大きなため息をついた。「……どうして、お父さんにしろ会長にしろ、あたしに変な仕事を押し付けるかな。……しようがない、レノンこっち来て」

 聡美が手招きするので、俺は聡美のあとに続いた。

「ふっふっふっ、遂に俺の真の優秀さを愚かな人間どもに示す時が来たようだな。どんな困難な使命でも俺の手にかかれば、赤子の手をひねるも同然。そして人間どもは俺の非のつけどころのない成果に滝のような涙を流し、声を震わせて平伏するのだ! さあ、どんなことをしてもらいたいのだ、妾よ」

「ぶつぶつ言ってないで、さっさとこっち来て。……明日の部活動報告会で使う資料がここにあるから、五十部コピーしておいて」

 白い大きな機械の前に立った聡美が言った。

「コ……コピーだと?」

 ああ、なるほど。『魔法の鏡』を使っているときもそんな言葉があったな。確か表示された文字列を指で長押しすると、そんな単語が出てきた。

 しかし、今目の前にあるのは文字列ではなく分厚い紙の束だ。……が、大して変わらないだろう。目の前にある機械に紙を置いて長押しすればきっと……。

「な、何してるの、アンタ?」

「コピーだが? ……こう、紙を押してみたが、『コピー』なんて単語は出てこないぞ? 押しが足りないのか?」

 もう一度、機械の上に置いた紙の束に力を加える。ギシッと機械から鈍い音がした。その瞬間、聡美に肩を強く引っ張られ、無理矢理機械から引き離された。

「ちょ、ちょっと。機械を壊す気! そこにコピー機の使い方がちゃんと書いてあるでしょ。その通りにやって」


「そ……それを早く言わないか、馬鹿者。こんなもの俺の世界にはなかったからな」

 俺は聡美が示した、コピー機の脇にある『会長でも分かる! コピーの三ステップ』と書かれた手順書を見た。

 ……何々、紙をセット、コピーオプション設定、最後にスタートボタンを押す。……簡単じゃないか。わざわざこんな説明がないとコピーできないのか、愚かだな会長とかいう奴は。

 ——会長?

 俺は天野の席を盗み見た。天野は片手でボールペンをもてあびながら笑顔をこちらへ向けていた。……やっぱり同じ異世界からの訪問者だったらしい。ほんの少しだけ親近感が湧いた。

 手順に書かれた通り、紙を所定位置にセットしてコピーボタンを押した。すると機械はリズミカルな音を立てて、紙を吐き出し始めた。

「見ろ妾、機械が動き出したぞ。この俺にかかればコピーなど造作もないな!」

 任務を無事遂行できた充実感で、両手を腰に当て気持ちよく笑っていると、突然聡美が「あーっ!」と大声をあげた。

「どうした? 俺の華麗な仕事に感動したか?」

「紙の置き方が上下逆じゃない! これじゃあコピーされないでしょ」聡美は慌てて『中止』と書かれたボタンを押した。「ちゃんと、方向を確かめて置いてよ」

「そ、それを早く言え」

「やり方に書いてあるでしょ!」と、聡美が指差した先には、イラスト入りで紙のセット方法が書かれていた。

「……っ!」

 さすがに言い返せなかった。

 ふと背後からの視線が気になって振り返ると、生徒会メンバーたち全員が作業の手を止めて、ぽかんとした表情で俺の姿を見ていた。その一番奥で、天野が満足そうにこくこくと頷いていた。

 まずい! このままでは連中に馬鹿にされてしまう。到底容認できない事態だ。

 俺は慎重に手順書を読み返して、紙をセットし直した。

 今度こそ大丈夫だ、そう確信し、スタートボタンを押した。

 再びリズミカルな音と共に、コピー機から紙が吐き出され始める。今度はちゃんと文字が印刷されている。

「見たか、人間ども。見事コピーを成し遂げてやったぞ! 魔人ぞ……こ、この俺の凄さ、とくとその目に焼き付けるが良い!」

「あーっ!」

 俺の勝利の高笑いは、またしても聡美の悲鳴のような叫び声にかき消されてしまった。

「今度は何だ? ちゃんとコピーされているではないか」

「設定が両面の二面刷りになってないじゃない」聡美は再び『中止』ボタンを押した。「勿体ない。生徒会予算だって限られてるんだから、ちゃんと節約しないと」

「俺の屋敷の老使い魔みたいなことを言う奴だな……。そもそもそういう設定にしなきゃならないんだったら、最初に言え」

「目の前にちゃんと書いてあるでしょ!」

 聡美が指をまっすぐコピー機脇の壁へ伸ばした。そこには『いつまでもあると思うな金と資源。コピーは両面、二面刷り、モノクロ徹底!』と大きな字で赤、青、黄などのカラフルな色彩を使って書かれていた。

「……っ!」

 振り返ると、生徒会メンバーは素知らぬ様子で黙々と作業を進めていたが、耳だけは未だこちらへ向けているようだ。大橋とかいう俺と同じクラスで聡美の隣に座っていた髪の長い女生徒が、両手を口に当てて必死に笑いを堪えていた。

 俺をここまで愚弄するとは、もう耐えられない。今すぐにでも目の前のコピー機を叩き壊して、部屋を飛び出したくなる衝動に駆られた。

 その時、部屋の奥から天野が声をかけてきた。

「ファテルベルクくん。最初だからしかたないさ。僕なんか、初めてコピー機を触った時、十回は失敗したからね」

 天野に同意するように、一同がこくこくとしきりに頷いていた。

 なんだ、コピーとは簡単そうに見えて実は意外に難しいものだったのか。天野は十回失敗し、俺はまだ三回。断然少ない。天野より早くコピーを成功させれば、全員俺が奴より優秀だということを認め、生徒会長ひいては学校の征服も現実のものとなるに違いない。

 俺は気を取り直して、コピー機に向かい合った。

 そして、「ちょっと、今度は六面付けになってるでしょ。字がつぶれて読めないじゃない!」「ページの順序が違う!」「A3じゃない、A4印刷!」「紙が切れた、補充!」などなど、聡美の怒号を聞き流しながら、ようやく九回目にして、「少し行が傾いているけど、ま、いっか」と及第点を得るに至った。

「まったく、コピー一つにどれだけ時間をかけるの……」

 聡美は額にびっしり汗をかいて、疲労の色が滲み出ていた。俺も疲れたが、同時に無事任務を遂行できたという達成感もあった。なにせ俺は魔人族史に残る類稀なる高難易度の任務をやり遂げたのだ。もしアンがこの話を聞いたら、きっと俺と一緒に泣いて喜んでくれるだろう。

 俺はコピー一式を、天野の席に持って行った。天野は柔らかな笑みを浮かべ、俺を見上げた。

「ファテルベルクくん、ありがとう。その調子で由良くんの仕事を手伝ってくれたまえ」

「……まだやるの?」

 と言った聡美を、天野は無言で見つめ返した。聡美は肩を落とす。「分かりました。じゃあ次は……」

 その時、トントンと生徒会室の戸をノックする音がするや否や、大きな音を立てて戸が開き、慌てた様子の女子生徒がポニーテールを揺らして部屋に飛び込んできた。

「あれ、美樹じゃん。どうしたの?」

 超高速で算盤を弾いていた生徒会メンバーの女子生徒が顔を上げた。

「ちょっと大変な……」

「事件だな。すぐ行こう!」

 飛び込んできた女子生徒が言い終わらないうちに、天野がさっと立ち上がると、軍隊行進のようにきびきびとした動作で生徒会室の出口へ進んだ。そして出口前で何かを思い出したかのように俺の方へ振り返った。

「ファテルベルクくん、一緒に来たまえ」

「はっ?」

 突然の誘いに、一瞬面食らった。

「いいから、君にとっても悪い話じゃない」

 どうしようかと聡美を見ると、彼女は顎をしゃくった。行って来い、ということらしい。顎で俺に指示してくるとは生意気な、文句の一つでも言ってやろうと思ったが、天野が、「早く」と急かしてきたので、俺は聡美を睨み返してやると——俺の視線を受けても聡美は眉一つ動かさなかった——、天野のあとに付いて部屋を出た。

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