雨降る朝に妖しい瞳 参
入ってきたのは男で、年齢は一目には解りにくい。恐らく二十代後半、三十代前半辺りであろうと蓮花は予想した。傘を畳み、傘立てにかけながら付けていたサングラスを取り、男は神奈の方を見てニヤッと笑う。
髪の毛を金に近い茶色に染めた男は、まるで少し年齢の高いホストのようだ。サングラスを取ったその顔は、大人の男性という表現が一番似合いそうな顔立ちである。
「何の用だ」
ニヤッとした顔を完全に無視した神奈は、すこし不機嫌そうに男へと声をかけた。
「ん?いや、近くまで来てたから寄ろっかなー?って思っただけ。なんや、悪かった?」
そう言いながら男は蓮花と涼介の方へと歩み寄り、何故か蓮花のことをじーっと見つめる。蓮花が少し不安になったのを見てとった涼介が、
「なんでずっと白石を見てるんですか」
そう言うと、男はしみじみしたような顔をして涼介の肩を叩き、
「いやー、涼介。お前、可愛い彼女できたんやなぁ!俺は嬉しいよ」
とんでもない勘違いと共にまたニヤッと笑った。
その言葉に蓮花は固まり、涼介は目を見開き、すぐにため息をついた。
「馬鹿か、貴様は」
そう言いつつも神奈も声を震わせている。どうやら笑いを堪えているらしい。
「あの、この人は......」
ただ一人この男を知らない蓮花が涼介に質問する。すると、男はまた蓮花の方を向き、サングラスをかけ直しながらまたニヤッと笑った。
「赤城海人。嬢ちゃんと同じ、妖術士や。とは言っても嬢ちゃんはまだ発展途上なんかな?」
海人はパチンと指を鳴らし、小さな妖気の光を作り出した。その小さな光は雨の中のバーを淡く照らし、少しずつ消えていく。
「白石蓮花です。最近ここに来て、妖気を使う練習してます、よろしくおねがいします」
その光に照らされた蓮花も自らを紹介し、ぺこりと頭を下げる。
海人はカウンター席の一つに腰掛け、神奈が出した水を受け取りながら蓮花の名前を聞き、またニヤッと笑う。
「蓮花って、珍しい名前やな。可愛いやん」
大人のお世辞ではなく、本心からそう聞こえ、またいやらしくも不快感も与えないこの男の話し方は蓮花には好印象を与えた。
「で?何か話があるから来たんじゃないのか」
神奈はまたぶっきらぼうな口調で海人に問いかけた。
「流石にカンがええな」
海人はニヤッとした笑い顔をやめ、少し真剣な表情へと変わった(とは言えど、サングラスのせいで目は見えない)。
「まあ用事言うても妖怪退治の手伝い頼みたいだけやねんけどな。どうする?お国から出る金、多分結構高いけど」
神奈は少しため息を付き、煙草を取り出し、火をつけた
「まあお前が手伝いを頼みたいと言うなら相当だろうな。いいだろう」
「俺とヤマトもやります」
海人の頼みを簡単に引き受けた神奈と涼介に、海人はまた少しニヤッとして、またすぐに真剣な顔つきに戻った。
「妖怪の名前は......鵺や」
その言葉を聞いて涼介は目付きが変わり、蓮花は首をかしげた。
「鵺って?」
「鵺ってのは妖怪の名前だ。昔は猿の頭に蛇の尻尾、虎の足を持つとか、鳥の羽根を持つとか正体が解らない、高等な妖怪だったと言われてる。夜にひょうひょうと鳴くらしい」
涼介が簡単に説明をして、次は海人に質問をした。
「どのあたりで出たんですか?」
すると海人はかなり困ったような顔をして、
「それがな、色んな所で見られてるらしくてなぁ、絞れへんねん。さすがは正体不明やな」
お手上げという手振りを交えて海人は椅子から立ち上がった。神奈はそれを見てエプロンを外し、指の骨を鳴らし始める。
「じゃあ三つに分かれて探せばいい。見つけたら電話で連絡、蓮花は涼介と行け。妖怪退治だ」
涼介は無言で首肯し、蓮花もそれにならう。ヤマトが涼介の頭の上に乗って、涼介も準備運動を始めた。
「じゃあ、やろうか」




