夕日は人に無限を魅せる 了
神奈は店を出るとすぐに煙草とライターを取り出し、火をつけた。口から吐く煙は京都の赤い空へと吸い込まれていく。
「こっちだ」
さっき歩いてきた方とは逆に神奈は歩き出す。蓮花は慌てて追いかけた。
「どこに行くんですか?」
蓮花は静寂が訪れるのが嫌で、ふと聞いてみた。
「行けばわかるさ」
神奈は煙草をくわえながら答えた。煙草をくわえている姿ですら綺麗に見えるのは夕日のせいか、はたまた彼女があまりにも美人だからだろうか。
二人は小さな路地を抜け、階段を昇っていた。蓮花は少し不安になってきていた。
「ここだ」
歩くこと三分程。着いたのは小さめのビルの屋上だ。広さはそこまでだが、一つちょこんとあるベンチは何故か懐かしさを感じる。
しかし、一番目を引くものはそれではなかった。
「なに、これ......」
その屋上から見える夕日は、まるで世界を溶かすような紅色に染まり、空を照らしていた。
「驚くのはまだ早いさ」
神奈はそう言いながらベンチに腰かける。蓮花はしばらく空を見つめていると、空に変化が起こった。
妖気が溢れ、バランスが崩れたのか渦巻き出す。そのまま渦巻き続ければ実体化しない妖怪が生まれるのだが、神奈はただ眺めている。蓮花が渦巻きを見続けていると、渦巻きは少しずつ収まり、色とりどりの妖気が空を満たし、その妖気を夕日が照らした。
碧や蒼、紫や黄金に輝く空は、この世を洗う浄化の光のように見える。神奈は煙草を携帯灰皿にしまい、ベンチに腰掛けたまま、話を始めた。
「綺麗だろう?当然だが、妖気が見えないと見ることすら出来ない景色だ」
小さな古いビルの屋上を照らす無数の色の光が神奈を照らす。
「君の話を聞く限り、君はきっとその見える力で人に避けられ、人を避けてきたんだろう。だが、それじゃ面白くない」
「え?」
「人生は有限だ。人の命なんてものは簡単に壊れる。だが、その有限の間に自分の人生は無限に広がるものさ。例えば、この夕日は私に無限を見せてくれたように。例えば、人と繋がり、人と同じ時間を共有する時間が無限に感じるように」
夕日の下で語られる神奈の話は、蓮花の中の何かを破っていく。
「この夕日が見れたのはその力があったからだろう?無限のうちの一つはその力が無ければ見れないものだった。じゃあ、その力はいずれ君の力になってくれる。そうは思わないか?避けられるからといって自分から人を避けると、折角の無限の可能性を無駄にしてるじゃないか。有限の中で楽しむには、自分から動くことさ」
蓮花は答えない。代わりに、目から溢れる涙が蓮花の心境を物語っていた。
「少し説教臭くなってしまったな......私が言いたいことは、その力だって君自身である、ということさ。さて、もう一度頼もう」
神奈はベンチから立ち上がり、蓮花の方を向く。そして、軽く笑みを浮かべ、手を差し延べた。
「君の力になりたい。だから、力を貸してくれないか」
蓮花は、初めて自分の力に感謝した。そして、急に性格が変わってしまった、この人のバーに連れてきてくれたクラスメイト、この美しい女性、そしてこの無限を魅せてくれた夕日に。
「......私の方こそ、妖怪退治も出来ませんが、それでも、それでも......力になりたいです。よろしくおねがいします」
夕日は人に、無限を魅せた。
すみません涼介君の性格説明してないです
とりあえずこれで第一章終わりです




