夕日は人に無限を魅せる 肆
「いらっしゃい」
最初に聞こえてきた声は女性の声だ。声の方を見やると、背の高い、美しい女性がいた。カウンター越しにいるので腰から下は見えないが、すらっとした目、妖艷な唇、腰まで伸ばした透き通るような黒髪。上らワイシャツに黒いエプロンをかけているだけ、下は恐らくジーンズであろう、シンプルな服装なのに、スタイルの良さまで見て取れる。特に胸のあたりが強調されている、「完璧美人」という言葉がしっくりくる女性だ。
「適当に座るといい。水を出そう」
女性はそう言いながらグラスに氷を入れ始めた。蓮花は少しビクッとしながら周りを見渡した。
「お、なんや涼介可愛いやん!こんな子連れてきたん?」
テーブルの席に座っている青年がにこやかに蓮花を見ながら涼介に声をかけていた。髪の毛は少し外巻きになっているのは天然だろうか。パーカーにジーパンという、上の服装は五月にしては暑そうだ。
しかし、一番気になる点はそこではない。とても大きなゴーグルを着けているのだ。水泳用というよりかは、スキー用の様な大きなゴーグルが、彼の目を隠していた。
「翔、その格好で喋りかけても怖いだけ!あの子引いてるやん!」
同じテーブルに座っている女が、元気な声で男に向かって注意する。首元まで伸ばした髪、大きな目、Tシャツに短パンと、かなり活発そうな雰囲気が漂う。恐らく蓮花と同じくらいの年齢だろう。
「ごめんな?こいつアホやから!あ、私梅村美琴!よろしくね!」
極めつけは出会い頭の挨拶だ。怒涛の自己紹介に蓮花は愛想笑いを浮かべることしか出来なかった。
「白石、とりあえず座ってくれ。話があるんだ」
涼介がカウンター席の一つを引き、そこに腰掛ける。蓮花はその隣に腰掛けた。女性がグラスに水を注いで蓮花と涼介のもとに置く。
「で、話なんだが、お前ヤマトが見えてるんだな?」
涼介は朝と同じ質問をした。
「う、うん。それって妖怪やんな?」
「そうだ。つまりヤマトが見えてるお前は妖気が強いということでいいか?」
妖怪を見るには常人より遥かに強い妖気が必要となる。つまり、蓮花も、恐らく涼介も妖気の強さは常人より遥かに上なのだ。
「うん、病院とか行ったら大概言われる。でも、それが何?」
蓮花は話が読めず混乱している。
「お前、学校で人を避けてるのは何故だ」
「え?」
蓮花は急な質問に戸惑った。
「だって、こんなん見えたりとかしたら引かれるやろうし、嫌われる位なら近づいてもアレやし......」
蓮花は正直に話してみた。そもそも自分以外の妖怪が見えている人に出会うのが初めてだったので、気が緩んだのかもしれない。
「ふむ、成程......」
「両親はそういうのあんま好きちゃうから、家も若干居場所無かったし、今は一人で暮らしてる」
蓮花は水を飲みながら続けた。どうやこの環境は、何か自分の悩みを打ち明けされられる力でもあるのかもしれない。
「まあその話は置いておくとしてだ、単刀直入に言う。力を貸してくれないか」
涼介は唐突に話を進めた。そして蓮花は大いに驚いた。
「え?」
「ここにいる連中はみんな妖術使いでな。妖怪退治をしてるんだが、最近どうも妖怪の数が多くてな」
涼介は淡々と話を進めていくが、蓮花は一つ言わなくてはならないことがあった。
「私、妖術使えへんで?」
その瞬間の涼介の顔は間抜けそのものだった。
「それは本当か?」
「う、うん。見えはするけどこの力、別にいらんからそんなんもできひん」
「それなら」
声をかけてきたのは例の美人だ。名前はまだ解らない。
「その力を拒むなら、少し紹介したい場所がある。ちょっとそこを見てから、話の続きをしないか?」
美人はそう言いながらエプロンを脱ぎ、涼介に渡した。どうやら店番を任せるらしい。
「ついておいで。なに、とって食べたりはしないよ」
そう言うと美人は名刺を蓮花に渡した。名前は出雲神奈というらしい。
神奈は店を出ると、タバコに火をつけた。その仕草ですら美しく見える。
「さて、行こうか」
涼介の性格が変わった理由は次説明します。多分




