雨降る朝に妖しい瞳 伍
「まじかよ、アタリやん」
叫んでいる座敷童子を前に、冷や汗をかきながらヤマトは呟く。そして、持っていた刀を放し、刀は黒猫の姿へと戻った。
「蓮花がやばい、交代や!」
そう言ってヤマトは黒猫......涼介に触れ、妖気を放出。一瞬のうちに、体は入れ替わり、ヤマトとなった黒猫は更に妖気を放出し始めた。
涼介は自分のベルトに付けているポーチを手早く開け、札の様なものを取り出し、妖気を流し込む。そして、その札をヤマトへ叩きつけた。
「頼むぞ、ヤマト!」
札がヤマトの頭に触れた途端、ヤマトの妖気が膨れ上がり、変化。小さな黒猫は、大きな黒豹へと変化した。
『すぐ戻るし!』
そう言うとヤマトは蓮花がいるビルへと走り出した。涼介はすぐに座敷童子の方へと向き直り、運動術を発動。そして、鵺も地面へと降り、座敷童子は自らの傷を抑えながら笑っていた。
「随分と気色悪い姿だな、これは」
涼介が苦笑した途端、座敷童子が突進した。鵺は地面に降りたものの、辺りをただ見回しているだけだ。
座敷童子の突進をしゃがみながら受け流し、妖気を練り術式を作る。涼介の左手を風の刃が纏い、突進で体勢を崩した座敷童子に向かって拳を打ち出した。座敷童子はそれをかわそうとしたが間に合わず、拳による殴打と風による斬撃を同時に受けた。しかし座敷童子はそれに動じずその左手を掴み、恐ろしい力で握りこんだ。
「がっ......!?」
あまりの力に涼介は顔を歪め、振り払おうとするも、座敷童子の力は強く、振り解くことはできない。また、自由な右手でいくら殴ろうと離れはしない。
「あっはっはっ!オレロ」
高らかに、無邪気に、しかし恐ろしく笑う座敷童子。涼介の腕は少しずつあらぬ方向に曲がろうとしている。
「だったら......」
涼介はその痛みと恐怖を振り払い、もう一度術式を作り、風の刃を左手に纏った。左手を掴んでいた座敷童子の両手は、刃に引き裂かれる。
「ギャッ!」
自由になった左手を一度ぶん、と振り、今度は右手の平に風を作り出す涼介。手の中で渦巻く風は、全てを切り裂くかの如くびゅんびゅんと音を鳴らしていた。
座敷童子は傷だらけの両手を見て表情を歪め、般若の様な形相で涼介へと突進した。今までで、一番速い速度で。
それに合わせるかのように涼介も右手の風を座敷童子に向かって投げつけた。打ち出された風は、巨大な竜巻となって座敷童子へと突撃する。
その時、鵺が動き出した。
その巨体からは想像もつかないような速度で、竜巻と座敷童子の間へと割って入り、竜巻が鵺の片脚を斬り刻むのを無視して、座敷童子を口で受け止め、飲み込んだ。
「馬鹿な、共食いした!?」
鵺はひょー、ひょー、と声をあげた。その声に妖気がこもっていて、涼介はまともに立っていられない。鵺の猿顔がニタァと笑い、尻尾で地面を叩く。
「突然変異種か?俺じゃ手に負えねぇぞ......」
何度目かの冷や汗をかき、涼介は必死に考えを巡らせる。そんな涼介を嘲笑うかのように鵺はひょー、ひょー、と叫んだ。
その鳴き声を聞くまいと耳を塞ごうとする涼介。しかし、涼介は耳を塞ぐのを途中でやめた。
けたたましい鳴き声の間から聞こえる、けたたましいサイレン。
「警察か!」
「突然変異種の鵺と見られる妖怪、確認!」
「了解、熊野は車で待機!鷹見は一般の方の誘導宜しく!」
サイレンを鳴らすワゴン車の中は慌ただしかった。その中を指揮する女性は軍服を着て、ポーチとサーベルが取り付けられたベルトを巻く。
「他のみんなは援護よろしく!天早美波、出ます!」
一つにまとめた金髪が、空へとなびいた。




