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男装お嬢様の冒険適齢期  作者: ONION
第3章 近侍のお仕事
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章外15 もう1人の行儀見習い

 神暦721年 王の月15日 森曜日


 カノヴァス国ブリーヴ。

 その領地を治めるブリーヴ伯の屋敷の中で、侍女のジョゼは伯爵夫人から言いつけられた仕事を終え廊下を歩いていた。

 彼女が窓の前を通り過ぎる度に、肩で切りそろえられた銀髪が差し込む光を浴びてキラキラと輝く。

 それを幾度か繰り返すうち、ふと彼女は窓の外に視線を向けて足を止めた。

 暖かな春の日差しが降り注ぎ、新たな緑が萌え始める季節。

 そんな景色を目の前にしながらも、彼女が思い描いていたのは遠い町の景色だった。


(ヴァレリーで…お嬢様はしっかりとやっているのでしょうか…。)


 ここ最近、事あるごとに繰り返しているように半分血の繋がった妹であり長年仕えた主人でもあるマリオンの事を気にかける。


(行儀作法は奥様と共に十分合格点と言えるレベルまで仕込みましたが…侍女の仕事となると、教わった事以上にどれだけ気配りが出来るかが重要です。それが身に付くまでの間、彼女の足りないところを補ってくれる人がいればいいのですが…お嬢様の傍にはユーリア様が居られますが、手紙では彼女とは別の所に配属されたとの事…その点が些か心配です。)


 そして僅かな間物思いに耽った彼女の思考は、やがていつもと同じ所へと至る。


(ユーリア様…の従兄妹のフェリクス様…。お嬢様が成人の後であれば求婚を受けるとお伝えしましたが…。)


 そして彼女は悲しげに表情を歪めると廊下へと視線を戻した。


(奥様の出産を理由に旦那様に猶予を頂く事は出来ても、それ以上は引き伸ばせません。だからどうか、それまでに…。)


 それだけ心で呟くと、彼女は表情を引き締めてから報告のため主人の部屋へと再び歩き出した。




「さて、マリオンが行儀見習いに出てから、もう一月が過ぎたわけだが…。」


 執務室にて日課である書類仕事を終えたブリーヴ伯サミュエル・リースはため息と共に口を開いた。


「あの小僧(フェリクス)はいつまでジョゼを待たせるつもりなのかね?」


 そうして彼が視線を向ける先には一人の近侍。

 最近は近侍としての主人の身の回りの世話だけではなく、執事としての領主の仕事の管理にまで手を広げ始めた伯爵の庶子、ジャックだ。


「現在入っている報告によりますと…一昨日の時点では特に動きは見られなかった様です。」


 彼は伯爵の言葉にすまし顔のまま答えつつ、たった今サインされた書類のインクが乾いている事を確認する…問題なし。

 ひとつ頷いてそれを丸めると、彼はそれに封をして他の書類と同様に銀盆の上に積み上げた。


「一昨日か…情報源(ギルド)に高い金を出しているだけあって、デファンスとの距離を考えれば新鮮な情報ではあるが…相変わらず面白みのない事だな。」


 伯爵の苦虫を潰したような表情にも、ジャックはすまし顔を崩さない。

 なぜなら、このやりとりも既に幾度も繰り返され、日課の書類仕事の一部になってしまっていたからだ。


「あ奴にはマリオンが行儀見習いに出た事は伝わっているのかな?」


「はい。その旨については奥様の手紙によりアンジェル様を介して伝わったと。情報源の報告からも裏付けは取れております。」


「では何故動かん?ジョゼは既に過去の女なのか?新しい女でも見つけたのか?」


「そのような情報は入っておりません。報告によれば、ユーリア様の護衛任務後は女には目もくれずに騎士隊の任務と修練に明け暮れているようです。」


(そう、あんたとは違ってな。)


 親子とはいえ主人と使用人。

 流石に最後の言葉は心中でのみの物であったが、ジャックの視線に感じる物があったのか伯爵は居心地悪げに椅子に座り直す。


「だとすると…ふむ、つまらんプライドか。佳い女を落とすには、そんな物はかなぐり捨てることも時には必要…とはいえ、若さ故そこまでできんか。」


 伯爵は遠い眼をして呟く。


「それで、ジョゼのほうはどうなのだ?」


「表面上は普段と変わりなく。ですが最近は仕事の合間に物思いに耽る事が多いとの報告も。」


 その報告は、主に彼女の同僚からだった。

 庶子とはいえ伯爵の血を引いて容姿に優れている上に独身、またこのお屋敷の男性使用人の中でも出世株とあれば進んで彼の感心を得ようとする娘も少なくない。


「ただ相手を信じて待つか…健気よの。だが、いつまでも待っているだけでは婚期を逃してしまいかねん。只でさえ行き遅…おほん、うおっほん。」


 ジャックの責めるような視線に、慌てて言葉を濁す伯爵。

 だがそれを聞いてため息を吐くところからして、ジャックも多かれ少なかれ同意見のようだ。


「なので、彼女を行儀見習いに出そうと思う。小僧にこちらも独自に動いている事を知らしめる事で焚きつけると共に、この縁談が潰えた時の保険にだな。」


 そう言ってニヤリと笑う伯爵を見つめた後、ジャックも同様に笑みを浮かべる。


「そして先方との更なる関係強化の為…ですか?」


 相手先を察したジャックの言葉に、満足気に頷く伯爵。


「うむ。となると情報源には更なる働きを願わねばならんが…そ奴は信用できるのか?」


「はい。誰とは申せませんが、相手先の内部にいて、周囲に心許された者だとの事です。」


「そうか、であれば安泰だな。」


 そして2人は揃って窓の外に視線を向けた。




 神暦721年 王の月18日 地曜日


「なぁなぁ兄ちゃん、マリオン姉ちゃんももう行儀見習いに行ったんだろ?だったらジョゼ姉ちゃんを迎えに行かなくてもいいのかよ?」


 デファンスの町、騎士隊詰所。

 私塾の帰り道にそこに立ち寄りスパークや他の顔見知りの馬達と一通り遊んだアンジェルは、訓練場の一角で素振りに励むフェリクスを見つけるとそう声を掛けた。

 …が、それを聞いた途端、フェリクスは慌ててアンジェルに身を寄せて口を塞ぐと周囲を窺う。

 訓練場内には他にも何人もの騎士や従騎士が居たが、彼らは皆手合わせをする隊員に注意を向けており、今の話は

 聞かれてない---と思ったら、同じ従騎士のヤンと目があった。


「えっ?ジョゼ…さんって確かブリーヴ伯ん所の侍女さんだっけ?」


 ヤンの言葉に、彼らに注意を向けていなかった騎士達が振り返る。


「どうしたどうした、フェリクスに女の話か?」


 その言葉と彼らの注目を浴びてしまった事にたじろぐフェリクス。

 その隙に口を塞がれたアンジェルは身をよじって拘束を逃れた。


「マリオン姉ちゃんが行儀見習いに出たら、侍女のジョゼ姉ちゃんと兄ちゃんが結婚するって話だったんだけど…兄ちゃん全然迎えに行かないんだもん。」


 そして腰に手を当てて、「早く行かなきゃだめだよ?」と年上ぶって諭す。

 それを聞いて騒ぎ出すのは周囲の騎士達だ。


「何だよ、浮いた話をちっとも聞かないから女に興味のない堅物かと思っていたんだが…コイツ隠してやがったのか!」


「おいヤン、お前その人知ってるのか?なぁ、美人?美人?」


「すっげー美人ですよ。お嬢様の護衛の時に知り合ったんですけど、コイツ一目で惚れちゃって馬鹿みたいに浮かれ上がってたんですよ。けど、帰りにブリーヴに立ち寄って外泊した後は一言も名前も出さずに任務に明け暮れてたんで、こっぴどく振られたもんだとばっかり思ってたんですけどね…。」


騎士達のやりとりに、自分が不利な状況に追いつめられつつあることをひしひしと感じるフェリクス。

だが、そんな彼の思考を遮ったのは会話に参加していない、普段から妙に暑苦しい一人の先輩騎士の言葉だった。


「いかんぞフェリクス!最後の最後に物を言うのは男同士の熱い絆!女に現を抜かす暇など、本物の騎士にはありはしないのだ!」


だがその熱弁を耳にして、他の騎士達は皆一歩後ずさる。


「げっ、コイツやっぱりそっちかよ!」


「寄るな、近づくな!俺には女房も子供もいるんだ!!」


「おい貴様、それ以上一歩でも近づいてみろ!本気で泣くぞ!」


 フェリクス関係なしに騒ぎ出す周囲の騎士達。

 だがその中からヤンだけが抜け出すと、苦笑気味に口を開いた。


「あーあ、酷い騒ぎだな。しかし悪い事をしたか?ばらしちまって。」


「まぁ、いつかはばれるだろうから、仕方ないさ。」


 そう言いつつ、困ったように苦笑いを浮かべてため息をつくフェリクス。


「けど、考えてみればユーリアお嬢様の護衛から帰ってきた後だったよな、お前が任務に真剣に取り組み始めたのも。」


「まぁ…な。一日でも早く彼女に釣り合う男…正騎士になってから迎えに…と思って努力していたんだけど、やっぱり難しいなぁ。」


「ああ。副隊長はお前には人一倍厳しいから、余程の理由があっても叙任の前倒しはなんて認めないだろうな。だけど…副隊長(おやじさん)には報告してるのか?」


 ヤンの問いに、フェリクスは視線を逸らして口ごもる。

 そんな彼の反応に、ヤンは悲鳴とも驚きともつかない声を漏らして表情をゆがめた。


「おいおい、なんだかんだ言ってもお前は領主様の縁戚だろ?だったら他領(よそ)の領民との交際は報告する義務があるだろうが!しかも伯爵家に仕える相手なら尚更だ。」


「ああ。まぁ…そうなんだけどな。」


 伯爵の庶子というジョゼの生まれが、フェリクスに二の足を踏ませる原因のひとつでもあったが…これはヤンの知る件ではない。

 だがこんな事を報告しようものならば、孤立主義を望むデファンス伯(エルテース)に握りつぶされるか、あるいはブリーヴ伯との関係強化を目的に周囲を巻き込んで大々的に祝われるかのどちらかしかないと予想できる。

 その場合、後者であればまぁ仕方がないと納得はできるが、前者となった際のリスクが大きすぎる。

 そんな事を考えながら思考に耽るフェリクスを見て、ヤンはため息を吐く。


「とりあえずは、言い訳の手紙ぐらいは送っておけよ?相手を不安にさせたまま放って置くと、すぐに心は離れていくぜ?」


「じょ、ジョゼさんはそんな人じゃ…って分かったよ。そうしておく。」


 とっさに反論しかけるフェリクスではあったが、ヤンの視線に自分を思いやる真摯な心を感じ取ったのか、渋々頷く。

 そんな2人を、アンジェルはニコニコと笑みを浮かべて眺めていた…。




 神暦721年 王の月25日 岩曜日


「旦那様、デファンスのフェリクス様より、ジョゼ宛に手紙が届きました。」


「おお、やっとか!」


 ジャックの報告に、窓の傍に立って外へと視線を向けていた伯爵が振り返る。


「それで、内容は?」


「迎えに来れない事についての詫びと言い訳、そしてあとはたどたどしい睦言…といったところでしょうか。」


「ふむ、そうか…しかしそれは…手紙を盗み見たのか?」


 ジャックを咎めるような伯爵の問いに、彼は表情を変えずにかぶりを振る。


「いえ、まさかまさか。本人に聞いても口を噤むとはいえ、他人の手紙を盗み見るのは信義に反します。現地の情報源が手紙を書く際に相談を受けたとの事で、おおよその内容について報告をあげてきていました。もっとも、早馬で送られるギルドの情報に対して、手紙自体は商人たちの手を介してゆっくりと届けられた為に本日の報告となりました。」


「ふむ、そうか…ジョゼの事だ、ヴァネッサの事もあってこれ幸いと相手を待つ旨の返事を返すのだろうが…それはあまり望ましくないな。」


「はい。先方との約束も取り付けた事ですし、丁度良い頃合いかと。」


「うむ、そうだな。では、後で…茶の時間にでもヴァネッサと共に話をするとしよう。」




「行儀見習い…でございますか?」


 午後のお茶の時間をヴァネッサと共に執務室で過ごすサミュエルは、折を見て行儀見習いについて口を開いた。

 だが当人にとっては些か唐突だったその提案に、ジョゼは大きく目を見開く。

 尚、ヴァネッサの胎児の為にここしばらくはずっとハーブティーである。


「うむ、小ぞ…フェリクス君がお前を迎えに来るには少々時間がかかるそうじゃないか。この屋敷にいて無為…とまでは言わんが、ただ待ち続けるよりも花嫁修業も兼ねて行儀見習いに出たほうがよいと思ってな。」


「ですが、奥様のお身体の事もあります。せめて、無事に御子が生まれて落ち着かれるまでは…。」


「いや、それはならん。ヴァネッサと子供の事を心配してくれるのは有難いが、お前をいつまでもこの屋敷に縛り付ける訳にもいかん。」


「そうよ、ジョゼ。それに、この屋敷には今まで貴女が指導してくれた娘達がいるわ。だから、安心して行ってらっしゃい。」


 ジョゼの直接の主人であるヴァネッサは微笑んで行儀見習いを勧めるが、ジョゼの表情は優れない。


「それとも…フェリクス君には屋敷で待つとでも伝えたのかな?それだったらあちらの都合で待つのだ。別に新たな縁談を進める訳でもなし、気にやむ必要もあるまい。」


 サミュエルの言葉に、尚も理由を探して行儀見習いから逃れようとするそぶりを見せるジョゼ。

 しかしやがて彼女も、不本意ではあるがそれを受け入ざるおえなかった。


「かしこまりました。では仰せの通りに致します。」


 主人の命令には従う…そう述べる事で、本意ではない事を暗に表明して頭を下げるジョゼ。

 対してサミュエルは困り顔で頷いた。


「先方には既に話を通してある。ちなみに行儀見習いの行き先だが…。」


「それに関してはどちらでも問題ありません。それよりもいつの出発となりましょうか?」


「む?そうだな…準備の時間は3日もあれば十分だろう。それが出来次第、出発しなさい。先方への使者を追いかける事になるが、問題ないだろう。」


 その返事に、ジョゼは相手先にあたりを付ける。

 3日後に出発して使者を追いかけることになるのであれば、相手先へは4日分以上の距離がある事になる。

 北に向かうのならブレイユの先、南に向かうのであればルフルの先となるが…随分とブリーヴ(ここ)と離れる事になる。

 詳細を聞こうにも…腹立ち紛れに「命令である以上、どこであろうと気にしない」と示してしまった以上、今更聞くのも気が引ける。


「かしこまりました。では、準備がありますので失礼致します。」


 未だお茶の時間の最中ではあるが、室内に控える別の侍女に目線で給仕を引き継ぎ、頭を下げるジョゼ。

 そして彼女が退出した室内には、サミュエルのため息が響いた。




 神暦721年 王の月28日 光曜日


「オデット、ブリーヴからの新しい情報が入っています。」


 たった今届いたギルド拠点間の臨時連絡---ギルドにとって「有益」であり、本部であるブレイユからデファンスの支部に早急に共有すべきと判断された情報が書かれた紙を携えて、ブリジットが商館主執務室部屋を訪れた。


「それで、何だって?」


 人並み以上の集中力を見せて書き物をしていたオデットは、手元から視線を逸らさずに尋ねる。

 そんな彼女にブリジットは苦笑を浮かべた。


「結局、ブリーヴの侍女はこの街に行儀見習いに来るようです。」


 その言葉に続けて、ギルド外の者が読み取れないように暗号化された情報をそのまま脳内で平文に直して読み上げる。

 本来であれば拠点の暗号担当が時間をかけて複号してから彼女の元に届くのが筋であるが、情報の優先度を考慮してそこを通す前に持ってきたのだろう。

 そんなブリジットの有能さに、やはり彼女に目をかけた自分の判断は正しかったと視線を上げて満足気な笑みを返すオデット。

 尚、行儀見習いへの出発を伝える手紙は現在伝書使が運搬中であるが、ギルドはブリーヴ伯の周囲に存在する提供者から入手したこの情報を最優先で伝えてきたのだ。


「そう。となると、ブリーヴとこの町の情報伝達は益々活発になり、情報の価値も上がる…そう見越してるんでしょうね、ボスは。」


 そう呟きつつ、「法を犯さずとも、金が転がり込む方法などいくらでもある。」が口癖な上役の顔を思い出す。


「となると、今のうちに使える人手を確保しておきたいけど…それでどう、子供達の方は?」


「はい。メッサーの話ですと、『荒事はまだまだだが、使いっぱしりなら問題なくこなせる。』との事です。」


「そう。ならぼちぼち実習ね…それについては貴女に任せるわ。けど、あの騎士の坊やも純情そうに見えて酷い男ね。女を待たせ続けるなんて。」


 書き物を終えて紙を脇に避けたオデットは、机に両肘を突いて手を組みため息混じりにそう言った。

 ゆっくりと仲を進めようとしていたフェリクスの意思を無視してブリーヴ伯が半ば強引に進めた縁談ではあるが、部外者のオデットからしてみればそんなことは関係ない。

 悪いのはいつも男で、泣くのはいつも女の役回りだ。


「だから…こっちも色々と応援しちゃいましょう。ついでもあるし。」


 そう言ってニヤリと笑みを浮かべた。





 神暦721年 剣の月01日 森曜日


「兄ちゃん兄ちゃん、大ニュース!!」


 私塾での授業を終えた後、一目散に騎士隊の詰所を目指したアンジェル。

 そんな彼女が詰所の前に差し掛かると、フェリクスを含めた騎士隊の一団が騎乗の上で整列しているのが見えた。


「あれ?兄ちゃん、どこか出かけるの?」


 馬上のフェリクスに駆け寄ると息を切らしたアンジェルが尋ねる。


「ああ、東の街道に盗賊が出没したんだとよ。だから、ちょっと見回りにな。」


 そう答えるフェリクスは、鎧の上にマントを身につけてた巡回任務用の姿だ。


「おいフェリクス、出るぞ!」


「はい、すぐに!…だから悪い、遊ぶのは帰ってからな。」


 彼と同様の装備を身に着けた騎士達の一群…巡回班の班長であるボーダンの指示に応えた後で、少し申し訳なさそうにフェリクスが言うと、それに釣られてスパークも(いなな)いた。


「ええーっ、そうなの?まぁ仕方ないか。じゃぁ兄ちゃんたちも気をつけてね!」


 多少不満げにしながらも、気を取り直したアンジェルが手を振ると、フェリクスだけではなく他の騎士達も手を振り返す。


「よし、では出発!」


 そしてボーダンの号令の元、騎士達は隊列を維持したまま常歩で行進を開始する。

 アンジェルは彼らが街道へと進むまでをそのまま見送ると、残念そうに呟いた。


「あーあ…折角ジョゼ姉ちゃんが行儀見習いに来るって教えてあげようと思ったのに…。」


 だが、その呟きもすぐに風に流されて消えていった。



 その後、気を取り直して訓練の為にと農場に出向いたアンジェルを待っていたのは、留守番として残ったギルドメンバーの一人と、メッサーを含めた子供達は急な野外訓練で数日の間出かけているという事実だった。

 流石に泊りがけの訓練となると、屋敷での仕事のあるアンジェルでは参加は難しい。

 急に予定が空いてしまった彼女は、仕方なくそのままお屋敷へと帰るのであった。


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