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男装お嬢様の冒険適齢期  作者: ONION
第3章 近侍のお仕事
93/124

3-11 近侍と侍女長とおしおき

今年も『男装お嬢様』をよろしくお願いします。


2015/04/12 日付修正

 神暦721年 王の月25日 岩曜日


 マリオンと関係を持ってから1巡りが過ぎた。

 彼女との関係は…今のところ周囲にはばれていない様だ。

 勿論、彼女には人前ではべたべたしないように重ねて言い聞かせてある。

 この関係の所為で行儀見習いを辞めさせられる様な事は…無いと思いたいが、もしそうなった場合彼女にとっても私にとっても非常に好ましくない状況に陥る事になる。

 まぁそうなったとしても、有り余る財力を誇るリース家出身のマリオンであれば舞い込む縁談は引く手数多かもしれないが、我が家は違う。

 行儀見習いの目的自体に影響を及ぼしかねないので、その点は必死だ。

 だがマリオンに言わせれば「いざとなったら我が家に行儀見習いに来られればよいのですわ。我が家であれば家格は十分ですし、みんな歓迎いたしますわ。」との事だが、その場合は紹介状は得られても侯爵家を追い出された事実が消える訳ではない。


 そんなわけで2人の新たな関係は周囲にひた隠しにしているのだが、同僚の中にはマリオンの熱い視線と幸せそうな微笑に何かを感じ取ったのか、妙に生暖かい視線を向けてきたり眉を顰めたりと、こちらに対する態度を微妙に変化させる者もいるが…それでもばれていないと信じたい。


 ちなみに、仲間内ではポーレットは「いつもに増して仲がいいっすねぇ。」と苦笑い。

 アリアとアリスは「わたしたちもゆーりあとなかよし!」とマリオンに対抗してかいつもに増して甘えてきて、エミリーは何故か悲しげな表情を見せる事が多くなり、マリエルは「相変わらずの年下殺しね…。」と諦め顔。


 騎士団の連中は…テオなどは態度は変わらないが、ポールは妙に顔を赤らめている等、挙動不審な事が多い。

 これだと、裏では何を言われてるのか分かったものじゃないわね。


 そして…色々と仕組んでくださりやがったカスティヘルミさんは、マリオンに聞いた限りでは翌日に軽く探ってきて以来、彼女の反応で結果を察したのか満足気な表情で私達を見ているとの事だった。


 大丈夫、ばれていないんだってば。




「それにつけても、問題なのはあの色ボケ森妖精(カスティヘルミ)ね…。」


 ベッドの中で私が呟くと、のしかかるように身を寄せていたマリオンはそれを聞きつけて顔を起こした。

 出来た隙間に入り込んだ冷気が素肌を刺す。

 寝巻き?下帯?

 布団の隙間か、ベッドの下かしらね。


「カスティヘルミ様ですの?私にとってはおかげでお姉様に思いを打ち明けることが出来た恩人ではあるのですが…?」


 そう言って首を傾げるマリオン。


「まぁ、確かにその点においては感謝しないでもないけど…酔い潰した挙句に、拘束して犯そうとした過去は消えないわ。」


 そうして、私はぼかしたままだった事件についてをマリオンに打ち明ける。



「それは…流石に問題ですわね。相手がお姉様でなければ、大事になっていた可能性も高いですわ。」


 彼女も若干…どころではなくどん引きだ。


「やっと自分が置かれていた状況を理解できたかしら?何度注意しても、イマイチ理解していなかったわよね。」


 私がため息混じりに皮肉ると、マリオンは「今はなんと危険な事をしていたのかと反省しておりますわ。」と眉を寄せて応えた。


「どうせ彼女の事だから、今回の件も私へ手出しするための布石なのだろうけど…これ以上貴女にちょっかい出されても困るから、2度とこんな気を起こさないように完膚なきまでに叩き潰して…それが無理だとしても最低でも釘を刺す程度はしておきたいわね。」


 そうして私が考えを巡らせ始めると、それを眺めていたマリオンは私の胸に顔を寄せて心音に耳を澄ます。

 だがやがてそれにも飽きたのか、顔を持ち上げるとこちらの表情を窺いながら胸の頂に舌を這わせ始めた。

 私の胸を這い回るマリオンの舌…その感触はむず痒く、舌の通った跡に残る唾液が少し冷たいが不快という訳ではない。


「私の胸にそんな事しても、面白くも何ともないでしょうに…。」


 私が半分呆れつつも微笑むと、マリオンもうっとりとした微笑を浮かべる。


「ふふ、お姉様の今の幸せそうな表情を見ているだけで、私は満足ですのよ?」


「そう?かわいい事を言ってくれるわね。」


 私は彼女を抱き寄せようかと手を伸ばすと、途中でその手が彼女の胸に触れる。

 その少し冷たく…柔らかな感触に思わず動きが止まる。

 出会ってから約一年…彼女の胸は順調に成長を続けており、この調子で進めばジョゼにも匹敵しうると思わせる逸材だ。

 まったく、羨ましいったらありゃしない。

 私がそれを揉みしだきながら目線を向けると、相変わらず舌を這わせ続けていたマリオンと視線が絡み、再び互いに微笑を浮かべる。

 そういえば、この一巡りでマリオンは受身だけではなく私を責める事も覚えて…って、それは別にいいか。


 そして私達はどちらからともなく唇を寄せると、互いの温もりを求めるように布団に沈み込んでいった。





 神暦721年 王の月29日 炎曜日


「まぁ、ユーリアさんが?」


 夕方の食堂で、今日の仕事を終えたマリオンと休暇中のカスティヘルミが向かい合わせで食事を摂っていた。

 そんな折、ユーリアを見かけないが今日は忙しいのかと問うたカスティヘルミの言葉に、マリオンは寝込んでいると答えた。


「はい、昼前に体調不良を訴えられまして…大事を取って休養しておりますの。イネスさんがお休みの日ではなくて幸いでしたわ。」


「そうだったのですか…大事が無いと良いのですが。」


 その見目麗しい面持ちに憂いをうかべて呟くカスティヘルミ。

 マリオンには、それは心からの言葉にしか見えなかった。


 そして互いが相手の表情を伺って一瞬の沈黙が流れた後、カスティヘルミが口を開く。


「もしよろしければ、後でお見舞いに伺いたいのですが…。」


 彼女の言葉に、にっこりとマリオンは笑みを浮かべた。

 カスティヘルミがお見舞いするようにこの話を持ち出したマリオンにしてみれば、正に渡りに船だった。


「ええ、ユーリアさんも喜ぶと思いますわ。」


「ですが、私は彼女に嫌われているとばかり思っていましたが…。」


 悲しげに眉を歪めるカスティヘルミを、マリオンが慌てて慰める。


「そんな事はありませんわ。彼女は常々、カスティヘルミ様は尊敬できる先輩だといっていますもの。」


 マリオンの言葉に、「そうなのですか?」と顔を赤らめて視線を逸らすカスティヘルミ。

 照れている彼女の内心を表してか、その耳がぴょこぴょこ動くのを眼にしてマリオンも微笑む。

 勿論、マリオンはユーリアの言葉に「仕事においては」という一文が含まれる事は口に出さない。


「では、食事の後に一緒に参りましょう。」


 マリオンがそう告げると、カスティヘルミは大きく頷く、

 そして2人は、残った夕食を片付けに取り掛かったのであった。




「お姉様、カスティヘルミ様をお連れしましたわ。」


 鍵を開けて部屋に入ると、まずマリオンが声を掛けた。

 窓際のベッドから覗くユーリアの頭…だが彼女は無反応だ。


「お姉様、カスティヘルミ様がお見舞いに来てくださいましたわ。」


「ユーリアさん、お加減はいかがでしょう?」


「んー、マリオン…?」


 マリオンがベッドに歩み寄って再びユーリアに囁き、カスティヘルミが遠慮がちに声を掛けると、ユーリアは僅かな反応を見せる。

 それを見てマリオンは微笑むと、サイドボードの上にあった水差しを手に取った。


「水を汲んでまいりますので、少々お待ち下さい。」


 そしてそのまま部屋を出て行き、残ったカスティヘルミは手持ち無沙汰に部屋を眺めた。


(そういえばこの部屋に入るのも初めてですか…いえ、過去の持ち主の時に来た事があったような気もしますね。)


 そんな事を考えながらも、片方のベッドに敷かれたシーツに使用感がほとんど無い事や、そこにあったであろう枕がユーリアの使用しているベッドに置かれている事などを眼に留める。


「ユーリアさん、お加減はいかがでしょうか?」


 屈みこんでユーリアの顔を覗きながら再び尋ねると、今度は彼女は薄目を開けて微笑んだ。


「なぁに、マリオン…。」


 そして寝ぼけながらもその右手を伸ばしてくる。

 その伸ばされた手が頬に、そして耳に触れるとカスティヘルミの身体が一度だけ震えた。

 手を伸ばせば届く距離で、熱の所為か少々しまりの無い笑顔を浮かべるユーリア。

 彼女の身体には布団から出ている範囲では下着の肩紐しか見えず、おそらくは布団の中も下着だけだろうとカスティヘルミは推測する。


「まぁっ!」


 思わず漏れたカスティヘルミの嬉しげな悲鳴。

 それを聞いたユーリアは再び口を開く。


「マリオン、貴女はいつも声が激しいんだから…他の部屋に聞こえないようにしなきゃ駄目よ…?」


 その呟きを聞いて、ふと彼女は周囲を見渡した後、視線を扉に向ける。


(マリオンさんはまだ戻らない…けどそれも時間の問題。しかしこんなチャンスは放っては置けませんわね。)


「分かってるの、マリオン?」


 そしてユーリアの呟きに笑みを浮かべると、カスティヘルミはユーリアの耳に口を寄せた。


「はいお姉様、分かっておりますわ。」


 そして小声で呟くと、自分の精霊を呼び出す。


『―――野分の宮(ストームウインド)よ、我が命により部屋と外とを分け隔てよ。』


 周囲に精霊の力が満ち、それが広がってい行く。

 やがてそれは室外の物音を断ち、室内をその音だけで満たした。

 勿論、この部屋の物音も外には届かない。


「お姉様、これで大丈夫ですわ。」


 マリオンの声色に似せるようにしてカスティヘルミがそう答えると、ユーリアは満足そうに笑みを浮かべ、そしてそのまま彼女のの耳を撫でる。

 彼女の事をマリオンと勘違いしたユーリアが、無意識のうちにその行為を行っている事はカスティヘルミにも分かる。

 だが、その森妖精にとっての親愛の情を表す行為に彼女の気持ちは高まり、そしてその視線は熱い吐息を繰り返すユーリアの唇に引き寄せられる。

 やがてゆっくりと近づく二人の距離。

 やがてそれが零になろうという時、ユーリアは左腕をカスティヘルミの首に巻きつけ---。


「捕まえたぁ。」


 そのままカスティヘルミをベッドの下へとひねり倒した。




 熱に浮かされた状態からの突然の衝撃と上下がひっくり返った事による混乱に、カスティヘルミさんは悲鳴を上げる。

 だが、それが部屋の外に届くことは無い。


「今日という今日は許さないわよ!さぁ、大人しくしなさい!!」


 布団ごと彼女をベッドの下にひねり倒した私は、そのまま下着姿で布団に覆われた彼女に馬乗りになる。

 そして腕を伸ばしてベッドの下からロープを引き出すと、そのまま手早く彼女を簀巻きにして縛り上げようとする。

 抵抗する彼女…だが衝撃で混乱しているおかげか、何とか腕も動かないように縛り上げる事が出来た。


「なっ、何をするのですか、ユーリアさん!!」


 既に首と足だけを出した簀巻き状態でも、そこから逃れようと暴れ、こちらを非難するカスティヘルミさん。

 だが、どの口でそういうのだろうか。


「まったく、こっちが前後不覚と見るや即座に手を出してくるんだから…油断も隙も無いわね。」


「だって、貴方が私の耳を撫でるんですよ?そんなことされては辛抱たまりませんわ!」


「普通は辛抱するのよ!そんな時でも!!」


 私達がぎゃぁぎゃぁと言い争っていると、部屋の扉が僅かに開く。

 そしてそこから顔を出したのは、水差しを手にしたマリオンだった。

 彼女は何やら口を開く…が、こちらには何も伝わらない。

 成程、これが彼女の精霊術の効果か。

 私じゃ経験の所為かまだ上手く使えなかったので彼女に使わせたが、とりあえずは上手くいっているようだ。

 私が身振りでマリオンに入るよう伝えると、彼女は恐る恐る部屋に入ってきて…ある一定の線を越えたとき、彼女の僅かな足音が聞こえるようになった。


「聞こえる?中々に面白い効果ね。」


「はい。カスティヘルミ様は…上手く行ったようですね。」


 彼女の見下ろす先には、簀巻き状態で私に馬乗りにされているカスティヘルミさんの姿があった。


「マリオンさん、これはどういった事ですか!…まさか、貴女も!?」


「申し訳ありません、カスティヘルミ様。私の思いを打ち明ける事を後押しして頂いた事には感謝しておりますが、お姉様に手を出そうとした事は到底許すことはできませんわ。」


「くっ、ユーリアさん、このような無体な事をされる様でしたら、家政婦のセリアさんへの報告も…。」


 マリオンの助けも期待できないと見ると、家政婦の名前を出して考えを改めようとさせるカスティヘルミさん。

 だが、私はそんな彼女を冷たく見下して彼女の言葉を遮る。


「この件については、セリア様へ相談の上に行っております。」


「えっ?彼女がこのような事を許す筈が…。ま、まさかあの時の事を恨んで?」


 私の言葉に、顔を青くして自問するカスティヘルミさん。

 それにしても…恨み?

 セリアさんの所へは何度かカスティヘルミさんの事を相談に行ったのだが、その話の途中で口ごもる事が何度もあり、その度に話題をそらされたりしたので何かあったとは思って居たのだが…。


「恨み?何か心当たりでも?」


「はい、セリアさんには、過去に故郷のお酒を振舞った事がありまして…。」


 お酒…って事はあの毒玉の木(ボールツリー)から造った物だろうか?

 どうやら、見初めた娘を落とすための常套手段にしている様ね…。


「酔いつぶれた彼女を『介抱』したのですが、彼女には何をしても喜んでもらえず、最後には婚礼前の夫君の名を呼び助けを求めて泣くばかりで…終いには私も興醒めしてしまいましたわ。」


 …………えっ?

 彼女の言葉を理解すると同時に、思わずその上から飛びのきたくなる。

 いくらなんでもドン引きだ。

 マリオンも顔色を悪くして腰を引いていた。


「やがて私も彼女に対しての興味を失っていったのですが…。我々森妖精の間では人族はすぐに物を忘れると言われておりますが、彼女はまだその事について根に持っているのでしょうか?」


 いや、嫁入り前の娘が同性から無理矢理犯される…なんて、下手すれば誰にも相談できずに1人で墓の下まで抱え続けて行く事になってもおかしくないレベルのトラウマだ。

 そんなトラウマを乗り越えて彼女を従える立場まで出世するなんて、セリアさんも苦労したのね…。

 私は遠い目をしてしみじみそう思う。

 けどまぁ、これを聞いたおかげでこの女に対する罪悪感も消え去った。

 制裁するは我にあり。



「だけど貴女、よくこのお屋敷に残っていられたわね。」


「ええ、侍女の仕事は得意ですから。」


 嬉しそうに答える『お屋敷の魔物』。

 いや、そういう意味で言ったんじゃないんだけど…隣国(オウトライネン)の氏族長の娘という立場上、なまじ仕事上の瑕疵以外では罷免する訳にも行かなかったのでしょうね。


「さて、じゃぁどうしたものかしらね…セリアさんの話だと、何度叱責されたり減給処分を受けたりしても効果がなかったそうだし…貴女には何が一番効くかしら…いっそのこと、耳でも切り落としましょうか?」


 森妖精を知るために彼らの風習について書かれた本を読んだりもしてみたが、なんでも森妖精にとって耳を傷つける事はかなり重い禁忌(タブー)なのだそうで。

 欠損した場合でも上級の治癒魔法であれば治す事ができる。

 だが、もしその事が周囲に知られれば一生その噂は付きまとうとの事だ。

 過去、この国でも奴隷が使用されていた頃には森妖精は男女を問わず愛玩用として重宝され、奴隷の証として耳を半ばで切り落とされていたという事だし、現在でも森妖精が戦場に出る際には必ず耳に覆いを付けて守るとの事だ。


 私の呟きと、その後の沈黙に表情を青くしていくカスティヘルミさん。

 だが私のそんな思考を止めたのは、ため息混じりにマリオンの声だった。


「お姉様、流石にそれはオウトライネンとの外交問題になりますわ。」


 それに慌ててこくこくと頷くカスティヘルミさん。

 確かに、耳を切られて半奴隷状態にされるくらいであれば、そのまま実家に帰されるべきであろう。

 もっとも、その時にはこんな一使用人の裁量では収まらずに奥様や旦那様が裁きを下すべきでしょうけど。


「それもそうね。でも叱責じゃ駄目で、減給も効果がない…かといって追い出す事もできない…となればアレしかないわね。」


 彼女に対して、唯一効果らしきものがあった懲罰。

 あまり取りたい手段じゃないけど、他に手段が無いのであれば仕方がない…わよねぇ(棒)

 私が目配せをすると、あらかじめ決めてあった通りにマリオンがベッド脇の引き出しを開け、中から布製の帯を取り出す。

 さぁ…て、この身で覚えた母上仕込のお仕置き術、その第二段よ。




「痛い痛い痛い痛い、み、耳がちぎれ…っ、ひうっ!!」


 目隠しをしたカスティヘルミさんの耳をマリオンが引っ張り、簀巻きからはみ出た彼女のスカートを捲り上げて私が尻を叩く。

 いつ耳を引っ張られ尻を叩かれるか…目隠しをされた彼女にはそれを知る事ができず、その瞬間に怯えながら心の準備が出来ない状態でそれを受ける事になる。


 これって、地味な様でかなり効くのよねぇ…時間の感覚もおかしくなって、実際以上に長く責められているように感じるし。

 彼女を見下ろしながら、少し遠い眼でそう考える。



 ちなみにマリオンには「ちぎれても構わないから思いっきりやってしまいなさいな。」とわざと聞こえるように指示したので、実際には前もって言い含めてあった通りに手加減されているのにも関らず、カスティヘルミさんは大げさに騒いでいる。

 最後の情けと下着を着けたままで叩かれ続けたお尻は、既に下着からはみ出ている部分は真っ赤に腫れている。

 そして股間からは僅かな湿り気が…汗や粗相じゃないわよね。


「ふふっ、痛い痛いと言っているけど、本当は喜んでいるんじゃないの?まるで盛った雌犬の様だわ。」


 私が耳元で囁くと、彼女がびくりと身を震わせる。

 ああ、自分でも嗜虐的な表情をしているのが分かる。

 マリオンに引かれてないわよね…と思って彼女の方を見ると、うっとりとした表情でこちらを見つめていた。


(ああ、流石は私のお姉様。いつも優しくて素敵ですが、嗜虐的な表情も魅力的ですわ。)


 彼女は顔を背けると垂れかけたよだれをじゅるりとすするが、何故かその音にぞくりと悪寒が走る。

 ま、まぁ続きをしますか。


「けど本当に綺麗な耳ね。傷ひとつ無くて…美味しそう。」


 そう囁いてから耳に指を這わせると、びくりと震える。


「どうしようかしら…火であぶってから塩をかけて、一口だけでも…。」


 興に乗った勢いで色々言ってはいるが、勿論私に食人の(そんな)趣味は無い。

 精々が嘗め回したいな…などと思う程度ではある。


「どうか、どうかそれだけはご容赦を…。」


 そう懇願してガタガタと震えているカスティヘルミさん。

 まぁ、火傷に塩を摺り込まれて齧られればどう処置をしても一生物の傷は残るから、それはそうよね。

 さて、反省もしているようだし、そろそろ潮時かな?


「そう、だったら誓いなさい。まず最初に、貴女がセリアさんにしでかした過ちについて、ちゃんと謝罪する事。過去の事とはいえ、今も彼女の心に傷を残しているはずよ。』


「はいっ、反省しておりますわ。セリア様には必ず謝罪し、許しを請います。」


 うん、ここまで責めたおかげか、非常に素直だ。

 心を鬼にしてきた甲斐があるというものだ。


「次には…今後、女性使用人たちに無理に迫らないこと。少なくとも酔い潰したり、拘束したりして行為に及んだら、そうね…悲しい事故が起きるかもしれないわね。」


 そう言いつつ、指先で長い耳を弾く。


「はいっ、酔い潰したり拘束したり、仕事の立場を利用して無理矢理迫ったりも致しません。」


 って、そんな事もしていたのか。

 まぁ一応は侍女長だし、彼女の性格からしてそれを利用していない可能性は…低いか。

 よく表沙汰にならなかった物ね。

 これがばれていたら、少なくとも一発で実家に帰されていたでしょうに。


「そして最後に、私の仲間に手を出さないこと。少なくとも、私とマリオンがこのお屋敷に居る内はこれに従ってもらうわ。」


「はい、従います。仕事については奥様・セリアさんに従う事を改めて誓い、私事についてはユーリアさんに服従を誓います!」


 彼女の誓いの言葉に、私はニヤリと笑みを浮かべる。

 こっちの要求以上の誓いだったけど、これで彼女が私やセリアさんの頭痛の種となる事は二度と無いだろう。


「そう、良く言えたわ。その誓いを守る限り…貴女のその綺麗な耳は安泰でしょうね。」


「は、はい。ありがとう…ござい…ます。」


 そこまで言って、カスティヘルミさんの首ががくりと落ちる。

 長時間の責め苦に、体力も限界だったか。

 私は彼女の拘束を解き、ついでに目隠しを外した。



「お姉様、お疲れ様でした。」


 笑顔で駆け寄ってきたマリオンが、コップに入った水を差しだす。

 それを見て急に喉の渇きを覚えた私は、礼と共にそれを受け取って飲み干す。

 下着姿のまま長い時間を過ごして居たが、折檻の為に体を動かして居た所為で寒さはまったく感じない。

 それどころか長時間尻を叩いていた所為で私の手も真っ赤になり、うっすらと汗をかいている位だ。


「これで一安心ですわね。」


「ええ、しばらくの間は…ね。」


 この先の事を考え、まずは安堵しあう私達。

 だが、熱い視線でこちらを見つめるマリオンの顔は上気し、そしてもぞもぞと足をすりあわせていた。

 お手洗いでも行きたいのかしら?


「どうしたのよ?」


 私が問うと、彼女は視線を逸らして逡巡する。


「いえ、その…美しいカスティヘルミ様を責めるお姉様を見ていましたら…その…。」


 目をそらしたままの彼女を見て、私は苦笑を浮かべる。


「まったく、しょうがないわね。」


 そう呟いてから私は立ち上がると、大きく背伸びをして凝り固まった関節を伸ばす。

 ふと気付けば、いつの間にかこちらに向いたマリオンは私の下着姿を見つめていた。

 こんなメリハリの無い身体なんか見つめても、つまらないでしょうに。

 そして一通り体を伸ばし終えた私は、今度は彼女に手を伸ばした。


「さぁ、いらっしゃい。」


 私の言葉にあふれんばかりの笑顔を浮かべたマリオンが飛びついてくる。

 それを受け止めた後に口付けを交わすと、私達はそのままベッドに倒れこんだのであった。




 朦朧とする意識の中、彼女は僅かに眼を開く。

 その眼に映るのは、自らの恋焦がれる黒髪の少女とその妹分との秘め事。

 彼女はそれをぼうっと眺めながら、自らの誓いを思い出してうっすらと笑みを浮かべる。


(ふふ、好いた娘を従える事は叶いませんでしたが、惚れた娘に従う事を確約させたのですから、上出来ですね…。)


 彼女は笑みを深くすると、そのまま眠りの淵へ落ちてゆく。

 その室内に、彼女の笑みに気付いた者はいなかった。

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