3-03 近侍と別れの季節
3-02のラストを少し変更しました。
…揺れたらしょうがないよね。
神暦721年 玉座の月05日 森曜日
「ふーっ、飲んだわねー。」
ナターシャが部屋着のまま彼女のベッドに倒れこむ。
その顔は彼女の言葉を証明する様に赤く色づき随分と上機嫌そうに見えるが、それは酒精のためだけではなく風呂に浸かって血の巡りが良くなっているためでもある。
ナターシャの旅立ちを4日後に控えたその日、いつもの『川風亭』でナターシャの送別会が盛大に行われた。
私やマリエル、エミリー、ポーレット、アリア、アリスといった私達の部屋に集まるいつもの面々のみならず、騎士団の従騎士達にイングリット率いる水軍の面々と一介の侍女の送別会としては破格の人数が集まり、皆が彼女との別れを惜しんだ。
尚、女中達の外出許可は私が代理で申請したのだが、その時にセリアさんに「くれぐれも悪い遊びを教えないように」と釘を刺されたのだが…そんなに信用が無いのだろうか。
それはともかく、主賓であるナターシャは参加者のほぼすべてから杯を勧められ、いつもにまして度を過ぎてしまったようだ。
だがそれを除けば、別れに付き物の暗い雰囲気を感じさせない、いつものように和気藹々とした飲み会だった。
興に乗った水兵と従騎士が肩を組んで歌をがなりたてる中、マリエルは酔いに任せてエミリーに愚痴を吐き、そのエミリーは笑顔でそれに耳を傾ける。
ポーレットは調子良くあっちこっちを渡り歩き、アリアとアリスは様々な料理を片っ端から取り分けては、どこにそんなに入るのか不思議に思うくらいの量をその口に詰め込んでは果汁で流し込んでいた。
その後は水軍の面々との別れを済ませるのに思っていた以上の時間を取られてしまい、門限に間に合わせるために慌てて屋敷に駆け込み、火の落ちた浴場の残り湯で入浴を済ませて今に至る。
エミリーたちはそれなりにしか飲んでいなかったけど、マリエルは随分と飲んでいた様で屋敷に着く頃にはすっかりグロッキーだったけど大丈夫だったのだろうか?
…けど良く考えたら、彼女は門限が無いから私達に付き合って走る必要も無かったのよね。
「あー、けど、結局この蕾、咲かなかったわねぇ…楽しみにしていたのに。」
そう呟く彼女の視線の先には、窓辺の小瓶に挿さった氷血華の蕾がある。
「もうじき開きそうなんだけどね…ちょっと間に合わないかな?」
私はベッドに座って、濡れ髪を手ぬぐいで乾かしながら答える。
最初は窓辺の花瓶にまとめて挿していた氷血華だが、アリアとアリスがどこぞから小奇麗な空き瓶を持って来ては、一本ずつ挿し替えて部屋のあちこちに置いていき、そのまま今に至っている。
その結果わかったのが部屋中でも魔力の濃さに偏りがあるのか、ナターシャのベッド側のほうが成長が早く、その中でも一番開花に近いのが窓際の瓶に挿さったこの蕾だ。
ちなみに、氷血華はその周囲の魔力が薄いほうが早く実を結ぶとの話だ。
…しかし、この部屋もすっかり彼女達の遊び場になっちゃったわね。
彼女達下級使用人は、普通は上級使用人の領域である侍女の部屋に出入りなどできない。
だが私達が許可したこの部屋には、彼女達がまともに見る事も叶わない物がたくさんある。
おかげで夏が過ぎてもこの部屋に入り浸り続け、部屋入り口の円卓の上には絵本やらおもちゃやらが置きっぱなしになっている事も多い。
「ナターシャの帰郷に間に合うようなら、ついでにブリーヴまで持って行ってもらおうと思ったんだけどね…。」
ナターシャは帰郷の日程が決まると、故郷だけでは無くブリーヴのリース家へもその旨を手紙で伝えていた。
「あーぁ、帰郷の予定を前もって知らせろって依頼は果たしたけど、今からブリーヴに寄るのを考えるとちょっと気が重いわ。いったい何をやらされるやら。」
行儀見習いに出ていた貴族の子女が、故郷に帰った後にその間の暮らしや屋敷内の情報について、根掘り葉掘り聞かれることは少なくない。
それどころか、お屋敷のお勤めの傍ら、密偵まがいの仕事を親から命じられる事もある…というが、今回の場合は考えづらい。
このお屋敷のタレイラン家とブリーヴのリース家は同じ派閥に属し、関係も非常に良好だ。
それにわざわざナターシャを使わなくとも、必要であれば年頃の親類縁者を潜り込ませればいいだけの話だ。
もっとも、タレイラン家もそういった点には目を光らせているので、あまりにも頻繁に故郷へ手紙を送るような使用人は嫌でも目に付き、それとなく注意されてもそれを改めないようであればやがて家へ帰されることになるだろう。
それに聞いた話ではブリーヴ伯からではなく、マリオン直々の依頼だという話だ。
直に行儀見習いで訪れるというのに、間諜騒ぎを起こしてそれをふいにする筈も無い…一体、あの子も何を考えてるのやら。
「まぁ、それほど悩む必要も無いんじゃないのかしら?」
「そうかしらー。そうかしらねー?まぁ、いざとなれば逃げちゃえばいいか。その時は、行儀見習いに来たお嬢様のフォローよろしくね。」
余程機嫌がいいのだろうか?
無責任にそう言い放つナターシャに、私は二つ返事で答えた。
「さてと、そろそろ寝ましょうかねー。」
ベッドの上に仰向けになり鼻歌交じりで天井を見上げていたナターシャは、しばらくして身体が冷えてきたのか、そう呟いて寝巻きへと着替え始めた。
一方の私は既に着替えを済ませ、髪も梳かして既に寝れる状態だ。
おそらくはそれに気付いて、遅ればせながら彼女も着替え始めたのだろう。
私はナターシャが寝支度をするのをぼうっと眺めながら、考える。
彼女とこの部屋で過ごすのもあと僅か。
次の休日の夜からしばらくの間は、この部屋に1人で寝起きすることになるだろう。
無論今までだって部署の休暇の調整で、1人で眠る事は何度もあった。
だが今度は違う。
彼女と共に過ごす夜は、その日からはおそらくは二度と訪れないのだ。
そう考えると、今のこの時間が無性にかけがえの無い物に思えてくる。
らしくない、らしくないけど、私…気付くのが遅すぎるわよ。
そんな事を考えているうちに、私は思わず口を開いていた。
「ねぇ、ナターシャ…今夜はそっちで寝てもいい?」
私の言葉に、彼女は驚きの表情を浮かべて振り返る。
だがすぐにその表情を笑みに変えると、からかうように口を開いた。
「なに、里心でもついちゃった?」
「そういう訳じゃないんだけど…。」
歯切れの悪い私の言葉。
だが彼女はすぐに「いいわよ。」と頷く。
そしてさっさと寝支度を済ませると、ベッドに入って布団を持ち上げた。
「さ、早く来なさいよ。」
その彼女の仕草に、今更だが気恥ずかしさを覚える私。
だがそのまま頷くと、自分の枕を持ってナターシャと同じ布団に入った。
「さて、それでどんな心積もりかしら?普段の貴女なら、里心なんて鼻で笑い飛ばしそうなのに。」
至近距離にあるナターシャの顔、その目が弓なりに細められ、こちらを見つめる。
私は若干の気まずさを感じて視線をそらした。
「だから、里心じゃないわ。…次の休みの夜からは一人だって思ったら、どうしてもこうしておくべきだって思ったのよ。」
私の答えに、ナターシャはくすくすと笑う。
「そう、貴女がね。貴女って面倒見はいいし、何にでも首を突っ込むけど、人間関係は結構素っ気無い事があるし…でもそれはきっと、寂しさの裏返しなのかしら?」
彼女のそんな心を見透かされたような分析に、どきりとして思わず視線を合わせる。
すると彼女は、そのまま私の目を覗き込んで話を続けた。
「貴女は意外と寂しがりやだから、心を押し殺して大したことのないように装い、あっさりと別れる。私も何事も無くそのまま別れていたら、その程度の関係だったんだ…ってちょっと落ち込んでたかもしれないけど…少し安心したわ。」
彼女の言葉に、私は安堵の息をつく。
こうして彼女と話す機会を持ててよかった、少しとはいえ彼女を悲しませずに済んでよかった、と。
「けど本当、この1年は退屈しなかったわ。貴女がお屋敷に来てから、今までの退屈な日常がどんどん変わっていって、そしてどんどん仲間も増えた。全部貴女のおかげよ?」
彼女の言葉に、再び気恥ずかしさを感じる…しかし、今度は目をそらさない。
「もっとここで暮らしていたかったけど…それももうお終い。名残惜しいけどね。」
そう言って彼女は笑う。
名残を振り切るために、まるで本当は名残など無いとでも言うように。
「ふふ、貴女とは最初に会った時から同い年のような関係だったけど…見てるこっちからすれば、危なっかしくて心臓に悪いったらなかったわ。でも、多少は成長した今の貴女なら安心して見ていられる。だから、貴女は私が居なくても大丈夫。これからは、貴女が後輩の面倒を見る番よ。」
「私は…。」
私は口を開くが、彼女の言葉に心が動かされ、上手く言葉にすることができない。
だがそれでも、偽らざる本心をと無理矢理に搾り出す。
「私は長女で姉なんか居ないけど…もし私に姉がいたとしたら、きっとナターシャのような人だと思う。強くて、優しくて、面倒見が良くて、でも私を信頼してすぐそばで見ていてくれる…そんな人だと思う。」
なんとかそう伝えると、こみ上げるものを隠すために布団で顔を覆う。
そんな私の髪を、ナターシャが優しく撫でた。
「そう、ありがとう。私も兄弟は多いけど、貴女もその一員みたいなものよ。さ、明日も早いわよ、早く寝てしまいなさい。」
そう言ってナターシャの手が布団の中の私の顔に伸びて、頬を撫でつつ涙を拭い、再び髪を撫でる。
そしてすぐに私は、深い眠りに落ちていった…。
神暦721年 玉座の月09日 闇曜日
その日の朝、執政館の通用門の前に使用人達の姿があった。
そこに居るのは旅装のナターシャと、故郷から彼女を迎えに来た2頭立ての古びた馬車と年老いた御者、見送りを行うセリアと特に親しかった侍女と女中達、そのほかには顔見知りの使用人が仕事を抜け出してきては、一言挨拶を交わしてそのまま仕事に戻っていった。
「ナターシャさん、お元気で。」
「お元気で。必ず手紙書くっす。」
「ナターシャ、バイバイ。」
「ナターシャ、いっちゃうの?」
女中達の別れの言葉に、笑みを返すナターシャ。
歳若いアリアとアリスにとってもこれが初めての別れという訳ではないが、かといって決して慣れているという事でも無い。
アリアはエミリーのスカートに顔を押し付けて涙を堪え、アリスはナターシャに縋りついていた。
彼女達への挨拶も終わり、そろそろ出立を…と御者が声をかける頃になって、屋敷から二つの影が飛び出してきた。
侍女のお仕着せ姿のユーリアと、代わり映えの無いローブ姿のマリエルだ。
「よかった、間に合った!」
「だから、急ぐ必要なんてないって言ったじゃない!」
「何言ってるのよ、ギリギリよ!」
言い争いつつもナターシャの前に駆け寄り、荒い息を整える2人。
セリアは「若い娘が、はしたない。」と眉をひそめるが、2人は意に介さない。
そしてユーリアが息を整えつつも、その手に持った筒を差し出した。
「これは?」
ナターシャが尋ねると、未だ息の整わないユーリアは身振りでそれを開けるように示す。
言われるがままナターシャが従うと、中からは2本の小枝が出てきた。
それは氷血華の小枝…だがそのうちの1本は、今までほころぶ事のなかった蕾を開花させていた。
真っ赤な雪の結晶のような雌蕊を内側に持ち、それを氷のように青く透明な八重咲きの花弁が囲む。
それは赤と青のコントラストが見事な一輪であった。
「これって…!」
それを目にした一同から歓声が上がる中、その花の姿に目を奪われたナターシャが呆然と呟くと、やっと息の整ったユーリアが答える。
「ほころびかけていた蕾を、周囲の魔力を遮断するように保管して開花を早めたの。」
「うち…にあった箱で…開花させたのよ。」
ユーリアの説明に、まだ息の荒いマリエルが自慢げに口を挟む。
「その花を、ブリーヴに寄るついでに、リース家の奥様に届けて欲しいのよ。」
「それは構わないけど…もう一本は?」
「そっちはナターシャ、貴女に。今日を記念しての贈り物よ。少し時間がかかるかもしれないけど、それと同じような花が咲くはずだから。」
「そう、ありが…って、またこんな高価い物を!一体いくらすると思ってるのよ!」
思わず頷きかけた所で、その価値を思い出して声を荒げるナターシャ。
その叫びに、息を整えたマリエルが答える。
「ユーリアがお師様に売った花は、1本で大金貨18枚だったわ…咲いた花はほとんど色づいていなくて、あまり綺麗じゃなかったけど。それに比べて、その花なら長い間魔力を溜め込んで触媒としての価値も高い上に、花も綺麗に色づくでしょうから25枚は硬いわね。」
「25…って、そんな物、もらえる訳ないじゃない!」
ナターシャが叫ぶとすぐにマリエルがその前に近づいてきて、期待に満ちた目でナターシャに向けて手を伸ばし待ち受けた。
そんな彼女をナターシャは胡乱な目で見つめる。
「何よ?」
「いや、いらないんでしょ?だったらちょうだい。2本ともでもいいわよ?」
マリエルの言葉に、ナターシャは引きつった笑みを浮かべたまま無言で手を伸ばす。
そしてマリエルの耳を摘むと、そのまま力任せに引き上げた。
「痛い痛い痛い!ちょっとナターシャ、身長差が有るんだからシャレにならない!!」
「黙りなさい!まったく、一本は伯爵夫人に届けるんだから、2本ともあげれる訳ないじゃない。それに、私だってもっと眺めていたいのは山々だし…。」
「だったら、咲いて実を結ぶまで借りておけばいいじゃない!実が一番価値があるんだから、それを取ったら同じような色のガラスで代わりの実を作って、残った花弁で飾りにでもすれば…ってマジで痛いんじゃボケェ!さっさと離さんかい!!」
耳を引っ張られて吊られたままのマリエルの言葉に、思わず納得したナターシャがその手を緩めると、すかさずマリエルは身をよじってその手から逃れる。
そしてすぐに耳に手を当て、揉む事で痛みを紛らわせた。
だがナターシャはそれを無視して視線をユーリアに向ける。
「それで…いいの?」
ユーリアはその視線を受けて、微笑みながら頷く。
「私としては花を崩すのが忍びないから、実ごと貰ってもらえるのが一番なんだけど…受け取ってもらえないんじゃ仕方がないわよね。」
その言葉を受けて、一瞬逡巡を見せるナターシャ。
だがやはりすべてを受け取る事はできないと考えたのか、ユーリアに大きく頷いた。
「ユーリアには悪いけど、やっぱり実は返す事にするわ。それまでは責任を持って預からせてもらうわね。でも、価値がありすぎて信用できない相手じゃそれを預ける事もできないし…だとすると、ユーリアが故郷に帰る時にコムナまで寄ってもらう…ってのも遠回り過ぎるわね。」
ユーリアに視線を向けると、彼女は「別に構わないわよ?」と首を傾げる。
「いいわ、故郷に帰る時がわかったら、連絡をちょうだい。ブリーヴまで出て来るからそこで。」
「そう?わざわざ悪いわね。だったら、その時にでも出来上がった飾りを見せてもらえると嬉しいわ。」
「ええ、約束するわ。」
そしてその約束を形とするように、手を握り合い互いを見つめる2人。
その手が離れると、ナターシャの後ろに立っていた年老いた御者が出立を告げる。
ナターシャはそれに頷き、皆に別れを告げた。
「それでは皆さん、短い間ですがお世話になりました。」
「おつかれー!」「元気で!」「気をつけてね!」「おてがみちょうだいね!」「ばいばい、ナターシャ!」「今度は貴女が奢る番だからね!」「いままでありがとう!」
皆が別れを告げる中、ナターシャは一礼してから馬車に乗り込む。
そして御者は扉を閉めると、やはり見送る一同に一礼してから御者席に乗り込んだ。
「ハイヨッ!」
御者の鞭が飛び、馬車が進み始める。
皆が手を振る中、馬車はゆっくりと通りを進み、そのまま城壁を抜けると跳ね橋の向こうに見えなくなっていった。
街道を北へ進むアーロン家の馬車、その御者席でアーロン家お抱えの老齢の御者マルコは馬の様子を眺めながら、緩めた手綱を手にとっていた。
幾分年老いてはいるが、まだまだ十分に仕事をこなす長年の相棒。
彼はその相棒の様子から、そろそろ蹄鉄の交換時期だなと判断する。
と、馬車の扉が開いてナターシャが顔を出すと、彼女はそのまま足場伝いに御者席へ進んできた。
マルコは苦笑を浮かべながらナターシャが来た側の席を開けると、彼と並んで御者席に座った彼女に語りかけた。
「お嬢様はこの3年で随分とご立派になられましたが…そのようなところはちっとも変わっておりませんな。」
ナターシャは子供の頃から御者席が大のお気に入りで、家族で馬車を利用する時も兄弟達をさしおいていつも一番に御者席にやってきていた。
「ここからの眺めが一番だからね。」
ナターシャも子供の頃から知っているマルコの変わらぬ髭面の笑みに、懐かしさを覚えながら答える。
「そうそう、手紙でも伝えたけど、今夜はリース家から招待されてるの。ブリーヴに着いたらそのままリース家の屋敷へやってちょうだい。」
「はい、かしこまりました。しかし、お嬢様は良い御友人を持たれましたな。」
マルコの言葉に、ナターシャは一瞬驚きの表情を浮かべると、「ええ、そうね。」と笑みを浮かべる。
「何やるかわからないユーリアに、頭はいいのにだらしないマリエル、人懐っこくていつもくっついてくるポーレットに、いつもニコニコ笑顔を浮かべてるエミリー…元気一杯のおてんばアリスに、おしゃまなアリア…みんな…ひっ、みんな、私の自慢の妹分よ。」
自慢気に後輩達の名前をあげるナターシャ。
だがその言葉にはやがて鼻声が混じり、言葉もどもりだす。
マルコは横目に見たナターシャの目に光る物を認めると、そのまま前だけに視線を向けて無言で馬車を走らせる。
「…うぅ、すこし寒くなってきたわね。ぐすっ、昨日は遅かったから、中で寝るわ。」
「ええ、それがよろしいでしょう。ブリーヴに着いたらお知らせしますので、カーテンを閉めてゆっくりお休み下さい。」
「ぐすっ、じゃぁ、ひっ、よろ…しくね。」
そして彼は馬車の中から聞こえる嗚咽を無視し、そのままブリーヴへ向けて馬車を走らせる。
天高く流れる雲が日を陰る中、一陣の風が馬車を追い抜いていった。
マリエル「姉みたいな人…って私は!?」
ユーリア「チェンジで。」