3-02 近侍とお嬢様の関係構築
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神暦721年 知恵の月10日 地曜日
ミリアム・タレイラン、御歳12歳。
父・ガスパール、母・イザベルの間に生まれたタレイラン家の長女。
その他の家族は兄・オディロン、義姉・ジャンヌ、妹・ソフィー、弟・アルフレッド。
美貌の歌姫であった母譲りの青い髪を背中まで伸ばし、未だ幼さが抜けないながらもその将来を期待させる相貌と、やはり母譲りの伸びのある歌声を持つ。
幼少の砌は非常に活発で、両親ですらも彼女のお転婆ぶりに苦笑いが絶えなかったとの事だが、奥様から贈られた『青き剣と白き百合の物語』の本を大いに気に入ってからは読書を好むようになり、落ちつきを見せるようになった。
兄妹仲は良好。
特に公爵家から兄君に嫁いできたジャンヌ様と妹君であるソフィー様との関係は、実の姉妹のように仲睦まじい。
ひそかな悩みは、将来そのふくよかな母君から体型までをも受け継ぐ事になるのではないかとのことだが、こればかりは食生活と運動のバランスに気を配るしかないだろう。
交友関係は社交デビュー前のため親族以外は限られる。
ただ、ブリーヴ伯令嬢マリオンと、ニネット王女とは歳も近い事もあり親密な間柄である。
専属の使用人は、子守りのイネスさんと家庭教師のカサンドラさん、そして新任近侍の私、ユーリア。
現状、お嬢様の身の回りの世話はすべてイネスさんに任せられている
そしてそこには、お嬢様が彼女のわがまますらも全て聞き入れるイネスさんに依存しているという問題が存在する。
貴族の子女と子守りの関係としてのみ見ればそれほどの問題ではないのだが、成人後も使用人とそのような関係しか築けないようであれば、やがてその使用人との関係は澱み始める。
彼女が依存し、贔屓した使用人が屋敷内での使用人の序列を超えた権力を持つようになれば、そこから屋敷内に綻びが広がり、やがて長い年月をかけて作り上げられ、その屋敷の財産とも呼べる屋敷の使用人たちの価値は腐り落ちる事になるだろう。
よって当面の私の使命は、ミリアム様の身の回りの世話をしつつ正常な主従関係を教育し、それを構築することである。
「何で、何でユーリスが!?イネス、そう、イネスを呼んでちょうだい!」
ベッドの上でこちらに背中を向けて丸くなり、お嬢様が叫ぶ。
冬用の寝巻き、その厚い生地越しに背骨と腰のラインが陰影となって現れているが、まだ子供だけあって、そのあたりの肉付きは薄い。
私は小さくため息をつきながら、お嬢様に答える。
「ですから、イネスさんは本日はお休みとなっております。ですので代わりに私がお嬢様のお世話をさせていただきます。」
振り向いた彼女にそう言いつつ執事風に右手を左胸に当て一礼すると、彼女は尚も何かを喚こうと口を開く…が、その動きを止めて目を見開いたかと思うと、急に顔を伏せた。
「そ、そう。わかったわ。だったら、しっかりと仕えなさい。」
そう小声で命じる。
だが、彼女のその顔は真っ赤に染まり、冷静を装おうとしてもその口角はひくひくと引きつっていた。
しばく布団の中でもぞもぞとしていたものの、やがてベッドから起き出したお嬢様は寝巻きのままテーブルに付き、女中の給仕したカップを手にする。
このお屋敷では、ベッドでお茶を飲むような横着は大人の特権となっており、子供達はベッドから起き出てテーブルで飲むように躾けられている。
だがお嬢様は、12歳の誕生日を期に自主的にベッドでお茶を飲む様に決められた…と聞いていた。
その時は大人ぶりたいお年頃なのだろうと微笑ましく思った物だが…イネスさんの情報とは違うようだ。
そんな事を考えながらお嬢様の背後に控えていると、お嬢様が振り向いた。
「何をしているのよ、ユーリス。貴方も座りなさい。」
そう彼女が命じる。
彼女の向かいの席について、一緒にお茶を飲めということなのだろう。
私はこちらを窺うような女中の視線を受けながら、首を振る。
「なりません、お嬢様。私はお嬢様に仕える近侍、同じ席に着くことなど許されるはずがありません。」
慇懃に、だが決して譲らないという強い口調で答えると、お嬢様は頬を膨らませる。
「何でよ!イネスは一緒にお茶をしてくれるわよ?」
「子守りであるならば…それも許されましょう。ですが私は近侍です。お嬢様に近侍として仕える以上、お嬢様にも使用人との関係のあり方を学んで頂く必要があります。」
「えーっ、何よそれ!」
お嬢様が抗議の声を上げる…が私はそれを無視する。
「尚、この件はドミニク様およびセリア様のご指示ですので、抗議等はそちらへお願いいたします。」
さらに私に文句を言おうとしたお嬢様は、私の返事に言葉を詰まらせる。
さすがにお嬢様といえども、あの2人にわがままを通すことの難しさぐらいはわかっているのだろう。
「尚、イネスさんとの関係についてですが、現在の様な関係でも程々であれば大目に見られましょう。そしてお嬢様が使用人との適切な関係を学ばれ立派に成長されるのであれば、彼女は安心して子守りの任を終え、お屋敷を去る事が叶いましょう。まぁ彼女の事ですから一抹の寂しさは感じるでしょうがね。」
そう言葉を締めると、お嬢様は少し唸っていたが、やがて観念したようにため息をついた。
「わかったわよ、努力するわ。何時までも子供じゃない所を見せてイネスを安心させてあげないと。」
そう自分に言い聞かせるように呟いて、カップを傾ける。
駄々を捏ねられたらどうしようかとも思ったが、意外と素直なのだろうか。
お嬢様がカップを傾ける中、横に控えながら彼女を盗み見る。
優雅にカップを傾ける深窓の令嬢…を気取っているようだが、お茶をすする際に音を立てたり、一口飲むたびに息を吐いて口内を冷ましたりと、まだまだ色々と残念なところが目立つ。
やはり大人ぶりたい年頃なのだろう。
だが、お茶にはミルクと砂糖がたっぷり入っているところなどまだまだ子供である。
まぁ、寝ぼけた頭を目覚めさせるにはそれもいいかもしれないけど、それを何杯も飲むのは…ね。
「お嬢様、お目覚めのお茶ですが…あまり甘くし過ぎるのは、体型の維持にあまり好ましくないのではありませんか?」
慇懃にその点を指摘すると、彼女は「う」と答えに詰まる。
確かに砂糖や乳脂の摂りすぎはお肌には良くない…が、それはあくまでも遠まわしな表現である。
歯に衣を着せずに言わせてもらうとしたら、「甘いお茶ばかり飲んでいてはすぐに太りますよ?」といった所だろうか。
イネスさんから聞くまでもなく、お嬢様と奥様はとても仲がよろしい。
元歌姫の奥様はお嬢様にその才能を見出し、自ら手ほどきをしている程だ。
そしてお嬢様もその期待に応え、時折ご家族にその歌声を披露しては旦那様を大いに喜ばせている。
だが同時に、お嬢様は奥様を恐れてもいる。
若い頃の肖像画に見る奥様は、それはもうお美しく、王都の劇場で歌姫の座に就いていたのも当然だと納得できる程だ。
そしてその面影はお嬢様にも引き継がれ、お嬢様の将来の美貌も約束されたような物だ。
だが、歌姫を引退し結婚され、お子様達にも恵まれて年月を経られた奥様は非常にふくよかになられた。
しかし今の奥様が決して醜いといった事はなく、殿方によっては健康的な美、完成された美と表現する者もいるだろう。
言うなれば市井の娘達に持て囃されるのが神話に出てくる狩猟の女神のようなほっそりとした身体つきであるならば、奥様は豊穣の大地母神といったところだろうか?
ともあれ、歳若いお嬢様であればやはり憧れるのは前者。
イネスさんの情報によると、そのために常日頃から食事には気を使っている…との事だ。
「甘いお茶も結構ですが、眠気覚ましには苦目のお茶が宜しいかと。あまり子供向けではありませんが。」
「そ、そうね、それもいいわね。じゃぁ、エデも明日からそうしてちょうだい。」
私が悪戯半分で提案すると、お嬢様は当然といった風に同意し、了解したと女中は会釈をする。
ふむ、やはりお嬢様を思いどおりに動かすには、背伸びしたいという欲求をつつくのが有効か。
私も軽く会釈をしながら、内心でそうほくそ笑んだ。
「ではお嬢様、お着替えを。」
目覚めのお茶の後片付けをする女中の横で、朝食の時間に間に合うようにお嬢様に着替えを促す。
お嬢様はそれに頷いて立ち上がる…と、急に自分の身を抱いてこちらに向き直った。
「い、イネスは?」
「ですから、彼女はお休みだと…。」
「そんな、だってユーリスが着替えなんて…。」
「お嬢様、ユーリアです。」
私が怒りを抑えた表情でずいっと迫ると、お嬢様は短く悲鳴を上げる。
彼女は慌てて周囲を見渡し、片付けの終わった女中に目を付けた。
「だったらエデ、貴方が着替えをさせてちょうだい。」
「ええっ、私がですか?」
突然に話を振られて目を白黒させる女中。
「侍女の仕事なんて無理ですよ、お嬢様!」
「そうですよ、着替えでしたら私が。」
突然のお嬢様のわがままに泣きそうな顔でこちらを見る女中を庇う。
だがお嬢様は、顔を赤らめると小声で言った。
「だって、ユーリス…じゃなかった、ユーリアに見られると恥ずかしいし…。」
彼女の言葉に、私は一瞬動きを止める。
いや、だって同性だし。
それに、傅かれる事に慣れている貴族なんて、そういった羞恥心は薄いものだとばかり思っていたが…。
と、その時、開け放たれた窓の外から鐘の音が響いてくる。
これは…2刻半の鐘か?
だとすると、ご家族揃っての朝食まであまり時間が無い…仕方がないわね。
「時間がありませんので…お嬢様、失礼します。」
私はそれだけ伝えると、有無を言わさずお嬢様を抱き上げる。
「ええっ?きゃぁっ!!」
突然の事で、私の腕の中で固まっているお嬢様。
私はそのまま、隣室へ向けて歩を進める。
「エデさん、衣裳部屋への扉を。」
「えっ?は、はいっ!」
そして同じく動きを止めていたエデさんに声をかけると、彼女は慌てて扉へと走る。
「さ、お嬢様、急いで着替えさせますので、大人しくしていて下さいね?」
腕の中で縮こまっているお嬢様に声をかけると、私はエデさんの開けた扉から隣室に入っていった。
「ああ、やっぱり慣れない事すると、いつも以上に疲れるわね…。」
昼食時、お嬢様がご家族と食事を摂られている間にと私も使用人用の食堂へ赴き、いつもの連中が座っているテーブル席の端に腰を下ろした。
尚、着替えが終わったお嬢様は赤らめた顔で「ユーリスに下着姿を見られた…。」とか「見られた以上は責任を…。」とか言っていたが、もちろん無視した。
まったく、どこでそんな言葉を覚えてくるのだろうか…それともそういった大人向けの本にまで手を出しているのか。
「お疲れ様。で、どう、近侍の仕事は?」
いつもどおりの笑顔でそう尋ねてくるニコラス。
私はそれに顔の前で手を振って答える。
「やりにくいったらありゃしないわね。お嬢様が指名してきた割には、近侍としての仕事を必要としていなかったり、色々と他にも仕事を押し付けられたりで…。」
ドミニクさんからの指示については少しぼかす。
ここだと誰が聞いてるかわかりはしない。
「ふーん、そっちは大変なんだな。それだったら、体力的にきつくても騎士団の方が気楽か?」
「だな。」
テオの感想に、従騎士達が同意して頷く。
と、良く見れば従騎士達は皆、いつもの鎧下姿ではなく普段着姿で…って、そうか、彼らは今日は休暇か。
多分みんな、午前中はだらだら過ごしたんだろう。
「けどユーリアの配置変更については、結構複雑な心境だったりするんだよね…僕は。普通、近侍になるにはその前に従者を数年間こなさないとなれない物だから。」
とニコラスが愚痴る。
その後で「ま、僕は近侍よりも執事希望だけど。」と続けて茶化した。
だが、確かに彼にしてみれば並んでいた列に横入り…どころか、お嬢様の権限で並ばずに近侍になったような物だから、その気持ちは分からないでもない。
「その点はちょっと悪い気はするけど…まぁ、仕事内容は侍女とほとんど変わらないんだけどね。」
「だから大目に見て」と言外に臭わすとニコラスはあっさりと頷く。
どうやら本当に愚痴りたかっただけのようだ。
「あ、あとは髪だね。従者や近侍となると、畏まった席ではカツラを付ける必要があるけど、ユーリアは自毛で十分格好が付くのが羨ましいよ。あのカツラ、長い時間つけてるとかなり蒸れて髪に良くないんだ。執事の中には生際の後退が悩みの種だ…って人も結構いるし。」
ほう、執事達にはそんな悩みもあったか…。
確かに重いカツラが必要ないのは楽だ。
「そういえば、ユーリアは近侍になったんだから、執事室にも出入りできるよね?」
ニコラスの問いかけに頷きで答える。
執事室とは家令配下の執事、近侍、従者が使用できる執事用の仕事部屋兼、休憩室だ。
お屋敷では家令室と貯蔵庫の並びにあり、それぞれの部屋は内部で出入りできるようになっている。
「暇な時は良くそこで休憩したり、雑用ついでに駄弁ったりしてるんだけど、執事達のおこぼれで上等な酒にありつく事も多いからユーリアも顔を出してみるといいかもね。」
上等なお酒と聞いて、思わず身を乗り出す。
だが…。
「うーん、お酒は魅力だけど…私以外はみんな殿方じゃない?行儀見習いの立場上、殿方に囲まれてお酒を飲むとか、ちょっと周囲の視線とかもあるから遠慮した方がよさそうよね…。」
「あー、そっか。ユーリアが顔を出すようになれば、むさくるしい部屋も少しは華やぐかとも思ったんだけど、それなら仕方ないか。それに良く考えたらしょっちゅうご婦人には聞かせられないような話で盛り上がってたりするから、それが正解かな。」
そう言いながらも、ニコラスは残念そうだ。
「だが、流石ユーリアだな。女だてらに、男所帯に物怖じすらしないとは。」
感心したように、従騎士のデニスがしみじみと呟くと、私はニヤリと笑みを浮かべた。
「騎士団の教練に参加してるんだもの。そんなの今更よ。」
「ふーっ。」
今日も一日の仕事を終えて、ナターシャと一緒に湯船の中で一息をつく。
湯船といえば、お嬢様の入浴も大変だった。
やはり恥ずかしい等とのたまって入浴を嫌がったので、優しく抱き上げて浴室まで運び、言葉巧みに説き伏せてからその身を清め洗った。
決して嫌がる彼女を肩に担ぎ上げて浴室まで運んだり、無理矢理服をひん剥いて浴槽に叩き込んだりなんてしていない・・・していなんだから。
だが彼女が浴槽に入る時に浴びた飛沫で湯着が濡れてからは、何故か彼女は大人しくなった。
その彼女の視線に哀れむような感情が見えたような気もしたが、それもきっと気のせいだろう。
…畜生。
そんな事を思い出しながら深くため息をつくと、脱衣所への扉が勢い良く開かれた。
「誰かいるっすか~?…って、ユーリアさん達が居るじゃないっすか!丁度いいっす、この子をお願いできますか!?」
お仕着せのまま浴室に入ってきたのは台所女中のポーレット。
そして彼女はその体の前に、小さな少女を抱えて…ってアリアか。
やはりお仕着せ姿のアリアであるが、その服は大部分がぐっしょりと濡れて雫を垂らし、そしてその肌は妙にてかっている。
「何事よ?」
湯船の中を歩いて扉に近づくと、ポーレットはアリアを床に下ろす。
「厨房の掃除中に油をひっくり返しちゃったんです。この子はもう上がっていいって許可はもらったんで、洗ってあげてもらえないっすか?」
そのアリアではあるが、その身を固めたまま身じろぎすらしない。
体を動かして雫が垂れたりしないようにしているのだろうが、自分の仕出かした事を悔いているのか、その表情は優れない。
「油?…って、それって火傷とかは大丈夫なの!?」
ナターシャが慌てたように問いかけると、ポーレットは苦笑を浮かべる。
「幸い、半分固まったような豚脂だったから、それは大丈夫っす。けど、いつまでも油まみれじゃ気持ち悪いじゃないっすか。だから早く洗ってあげて欲しいのと、洗い残しとかがあると臭うから、しっかり見てやってほしいんです。」
そう言ってアリアをこちらに押し付けてくる。
豚脂…夕飯の一品に揚げ物があったわね。
あれで使った物か。
「わかったわ、後は任せて。」
「じゃぁ、お願いしまっす!」
それだけ言うと、ポーレットは身を翻す。
これだけ油をこぼしたとなると、厨房も酷い状況だろう。
早く片付けないと睡眠時間がどんどん短くなるし、彼女も必死だ。
そんな事を考えながら自分で服を脱ぎはじめたアリアを眺める…うん、ちょっと1人じゃ手が足りないわね。
「ナターシャ、手伝って。あと他にも誰か手伝ってもらえるかしら?」
周囲にいた使用人達に声をかけながら、湯船のそばに立たせたアリアに桶で湯を浴びせる。
浮いた油が足元に流れ落ちるが、この程度じゃ落としきれないし、床に油が広がって滑るのも危険か。
「ユーリア、ごめんなさい。」
しおらしく謝るアリアを見て、悪戯がばれて謝る妹を思い出して思わず噴出す。
そしてその髪をくしゃくしゃと撫でると、その三つ編みをほどいていった。
「やっちゃったのはしょうがないわ。けど、次は気をつけなさい。熱い油は危ないから。」
私の言葉にアリアが頷くのを見てから、周囲に声を上げる。
「とりあえず、桶で煮詰め椰子を泡立てて。それが終わったら、アリアを泡まみれにするわよ?」
集まってきた使用人達に指示してから、自分も桶で煮詰め椰子を泡立てる。
「はい、目を瞑って。」
アリアが目を閉じたのを確認してから、頭上から泡の混じったお湯を落としていく。
そして一糸纏わぬ…者によっては手ぬぐいを腰に巻きつけている者も居るが…娘達が腕を伸ばしてアリアの髪を、体を洗っていく。
くすぐったさに笑い声を上げて身をよじるアリアに、ついつい悪戯心で弱いところを責めたてていく娘達。
その結果どうなるかと言うと…揺れる揺れる揺れる。
たわわな物も慎ましやかな物も、彼女達の体の動きに合わせて上下左右に揺れ動く。
それに比べて、揺れる程の物の無いわが身の寂しさよ…。
目の前で揺れ動く双丘たちに手を伸ばしたくなるのを必死に我慢し、何度もアリアを泡だらけにしては、油と混ざって白濁した泡を洗い流す。
その甲斐もあってやがて白濁は薄くなり、終いには泡立ちが落ちなくなったところで一息ついた。
「こんな物かしらね。あまり洗いすぎても、お肌が荒れちゃうし。」
「ユーリア、まだー?」
未だ泡まみれで目の開けられないアリアがせがむ。
「もうちょっと待ってね。じゃぁ、これで最後…っと。」
桶で湯をすくい、念入りに泡を洗い流す。
そしてその後に髪を絞って水を切り、油が付いていない事を確認して…うん、大丈夫ね。
「よし、温まっておいで。」
時折湯がかけられていたとはいえすっかり冷えたアリアのお尻を軽く叩くと、彼女はその体を温めるためにとてとてと湯船に歩いていく。
そんなアリアを見て、満足気に大きく息をつく娘達…その身体は、アリアを洗う際に飛び散った泡にまみれている。
「さて…それにしても…随分と見せ付けてくれたわね…。」
私の呟きに暗い影を感じ取ったのか、娘達が一歩あとずさる。
「ゆ、ユーリア?」
「今度は私がその胸を洗ってやるわ!」
私が至近にいたナターシャに跳びかかると、娘達の間から悲鳴と何故か嬌声が上がる。
「ユーリアがまた壊れた!」
「は、早くセリア様に連絡を!」
「ちょっと待って!その前に私、他の娘呼んでくる!!」
にわかに活気付く浴場の中、湯船に浸かったアリアは大きく息をついた。
そしてその横では、洗濯場での最古参の中年女中が目を細めて「若いわねぇ…」と呟いた。
結局、その日もセリアさんにすっごく怒られた。