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男装お嬢様の冒険適齢期  作者: ONION
第2章 侍女の生活
61/124

2-27 侍女とお嬢様と休日(7)

おかげさまで総合評価が600Pを突破しました。

これからも『男装お嬢様』をよろしくお願いします。


…そこ、男装はまだかとか言わないっ!


 神暦720年 王の月24日 森曜日


 マリオンを背負ったまま、執政館の勝手口にたどり着いた。

 途中、マリオンが寝ぼけたのか私の首に回した腕を締めてきて、それが絶妙に私の気道を押さえる事となりもがく私からジョゼさんが慌てて引き剥がすなどといった事も有ったのだが、その後は特に何もなく、彼女は私の上着を羽織って大人しく背に揺られていた。

 背中越しにマリオンの体温が伝わってくる…それと二つのふくらみの感触も。

 体を動かしていた私の息は熱く、それが酒精によりさらに熱を帯びている。

 城壁を越えて川上から吹き込む夜風が心地よい。


「ねぇジョゼ、なんかさっきからマリオンの吐息が荒いけど…大丈夫?」


 振り向いて肩越しに私のまとめられた髪に顔を伏せるマリオンと、そのむこうのジョゼを見る。


「おそらくは大丈夫だとは思います。飲み過ぎないように目を光らせてましたし、(もど)したりして呼吸に問題があるわけでもありませんし。」


 ジョゼは苦笑気味にそう言いつつも、明後日の方に目をそらす。

 はて?

 彼女の後ろにはマリエルを背負ったナターシャと、さらにテオが続く。

 マリオンは相変わらず荒く息をつき…これは鼻息?

 時折腰をもぞもぞとひねって、私の首に回した手に力を込める。

 …眠りが浅いのかしらね。

 だけど、流石にこの前のマリエルを背負って帰ったときよりも重いわね。

 まぁ体格が違うから当たり前なんだけど。

 起こすのもかわいそうだし、このまま部屋まで運びましょうかね。



 勝手口から使用人棟を抜けて、執政館へ入る。

 勝手口の門番は背負われたマリオンとマリエルを見ると、こちらが名乗る前に苦笑しながら無言で入るよう指示をした。

 ここに来てからまだ日も浅いが、特徴的な黒髪の所為か、既に皆に顔を知られはじめているようだった。



 使用人棟に入ってすぐにテオと別れ、そのあと執政館の入り口付近でマリエルを部屋に捨てに行くナターシャと別れて、客室の並びへ向かう。

 マリオンの部屋の前でジョゼと同じお仕着せを着た侍女とすれ違ったが…伯爵夫人(おくさま)の侍女かしら?

 ジョゼに扉を開けてもらい、マリオンを背負ったまま部屋に入った私は、そのままベッドへ直行して背負ったマリオンを後ろ向きに下ろした。


「お疲れ様でした、ユーリア様。」


 ジョゼがそう声をかけてくるが、ベッドに下ろしたマリオンは私の首に手をかけたままそれを解かない。

 …相手に首を絞められたときの抜け出し方とかは知ってるけど、それで引き剥がすの気がとがめるわね。


「まぁ、こっちが酔い潰しちゃったんだから、それぐらいはお安い御用よ。さて、マリオン、着いたわよ。起きなさい。」


 首に手を回されたままマリオンに向き直り、その頬に触れる。

 酒精の所為で赤く染まり熱を帯びたみずみずしい肌の感触と、尚赤く小さな花びらのような唇。

 伏せられたままのまつげは長く、普段はくりくりとよく動く瞳は閉じられたままだ。


 あと数年もすれば、男共が放って置かないような美人になるわね。

 実際、昨日の夜会でも、数少ない歳若い男達の視線を集めていた。

 だが彼女はそれに見向きもせず、また男達はその保護者から聞いた彼女の身分と、彼女のすぐ隣にいたニネットを見て怖気づいたのか、彼女に声をかけてくることはなかった。

 まぁ、騒動の所為で会場から消えるのも早かったしね。

 私はマリオンの頬を撫で続けつつ、彼女に声をかける。

 マリオンは相変わらず目を覚まさない。

 が、口元を歪めて…唇を突き出している?


 まったく、いい歳してお姫様ゴッコかしら?

 本当に、(アレリア)を見ているようね。

 私は軽く噴き出すと、彼女の頬に口付ける。

 彼女は驚いたかのように目を見開くと、にへらと表情を崩し、両手でその頬を覆った。



「マリオンとユーリアちゃんが戻ったんですってね。」


 部屋の扉が開き、伯爵夫人が部屋の中に入ってきた。

 彼女はもう夜も遅いというのに寝巻き姿ではなく、昼と同じドレスを着ていた。

 彼女の後には、先程の侍女。

 彼女が夫人に知らせたのか。


「ただいま戻りましたわ、お母様。」


 私にキスされてから、顔を覆ったままゴロゴロとベッドの上を転がっていたマリオンが慌てて表情を繕って答える。

 だがその顔はまだ真っ赤だ。


「遅くまで引っ張り回してしまい申し訳ありません、伯爵夫人。」


 私が頭を下げると、夫人は笑顔で手を振る。


「別にいいのよ。ユーリアちゃんが門限に間に合うんなら。それでマリオン、今日はどうだったのかしら?」


「はい、とても楽しい1日でしたわ!」


 マリオンが満面の笑みで答えると、伯爵夫人はため息をついた。


「あらあら、行儀見習いての下見という話だったのに、一体何をしていたのかしら。でもまぁ、こうなる事は目に見えていたわよね…。マリオン、もし次もユーリアちゃんにべったりくっつきたいのなら、別の言い訳を用意しておきなさい?」


 伯爵夫人は窘めつつも、それに助言を添える。

 マリオンはマリオンで、相変わらず満面の笑みで返事をしていた。


「それで、お母様はどのような用件でこのお部屋に?」


 マリオンが首をかしげて問う。

 確かに、彼女が帰ってきたことは侍女を通じて聞いているし、お小言であれば翌日でも十分に事足りる。

 伯爵夫人は大きく皆を見回した後、口を開く。


「それで、この部屋に来た用事は他でもないわ。ユーリアちゃん、お風呂に行きましょう。」




「みんなはお泊り会でユーリアちゃんとお風呂に入ったのに、私だけ仲間外れなんてずるいわ!」


 伯爵夫人が拗ねた様にのたまう。

 彼女ももういい年であるのだが、常日頃欠かさぬ手入れの成果として保ち続けている若さと、その美貌により違和感もなく非常に愛嬌のある表情になっていた。


「だから、ここの客用の浴場にみんなで入りましょう。」


 そう提案する伯爵夫人に、私は食い下がる。


「ですが、侍女である私が客用の浴場を使用するなど…。」


 だが夫人は意味深に妖艶に微笑む。


「大丈夫よ。侯爵夫人から許可を取ってあるわ。」


 む、そう言われてしまっては私もそれ以上異を唱える事もできない。

 結局、皆で入浴することとなった。



 客用大浴場。

 その存在は先達から聞いてはいたが、奥様の入浴は普段は家族用の風呂を使うため、立ち入った事はなかった。

 私は一度自室へ戻り、荷物を置いて私を待っていたナターシャに1人で風呂へ行ってもらうよう頼んでから、着替えを持って心なしか不確かな足取りで浴場へ向かった。

 浴室前の脱衣所で服を脱ぎ、軽く前を隠しながら木戸を開ける。

 まばゆい魔法の光源に照らされた広い総大理石造りの浴室の中、洗い場では伯爵夫人とマリオンの身体を、お付きの侍女とジョゼが洗っていたのだが…何故かジョゼや侍女まで素っ裸だ。

 侍女さんは…彼女も人並にはある…。

 なんという戦力差…いや、むしろここは敵地(アウェー)か?


「来たわね、ユーリアちゃん。」


 マリオンとよく似た栗色の濡れ髪をかき上げて、夫人が振り返る。


「ふふふ、どうしましょう、私もユーリアちゃんに背中を流してもらおうかしら。お願いできる?ユーリアちゃん。私も後で流してあげるから。」


「はい、喜んで。」


 夫人に答えてから一度浴槽に近づき、かけ湯をする。

 昼間も剣術の訓練をしていたのだ。

 多少汗臭いような気もするので前もって流さないのもはばかられる。


「お姉様…お母様ばかりずるいですわ。」


「いいじゃない、この前は私だけのけ者だったんだから。」


 マリオンの抗議も夫人には何処吹く風だ。

 私は夫人に歩み寄り、そのすぐ後ろで屈みこむ。

 その時に夫人の腕を洗っている侍女と目が合うが、彼女にとっても全裸でのお世話は滅多に無い事態なのだろう。

 その頬が上気しているのも湯気の所為ばかりでは無さそうだ。




「奥様、よろしかったのでしょうか?ジョゼばかりか、私までこのような…。」


 普段のチュニック姿であれば、自らが濡れる事も顧みず甲斐甲斐しく世話を焼く彼女ではあるが、それすらも身に纏わない現状では、自らの胸が触れるのを憂い、そのために微妙な距離が開いてしまっていた。

 彼女が職業侍女としてリース家の屋敷に仕え、奥方付になって早数年…ジョゼよりも僅かに年下だが、彼女よりも半年ほど長い経験を持つ。

 だが、彼女の出身は良家とはいえ平民の出だ。

 そんな彼女が、屋敷の住人、そして公然の秘密ではあるがその血族たるジョゼと共に同じ湯に浸かる事となり、彼女は当惑していた。


「別に問題ないわ。私たちの世話が終わったら、貴方もゆっくりすればいいのよ。」


「モニク、その当惑については同意いたしますが…あまり深く考えないほうがよいですよ。私も諦めました。」


 ころころと笑って答えるヴァネッサと、悟ったような眼差しで告げるジョゼ…モニクは大きくため息をつくと、自分に言い聞かせる。

「これも仕事」と…。




 侍女さん…モニクさんだっけ?が色々と思い悩んでいるうちに、備え付けの石鹸で垢すりを泡立てる。

 その垢すりも、客の好みに応じてか何種類も置いてある。

 絹に木綿、網の木の樹皮を加工したもの…流石に麻や毛織物は無いか。

 ちらと横目でモニクさんの持っている垢すりを見ると、どうやら絹を使っているようなので、私もそれに習う。

 石鹸を泡立て、モニクさんの反対側に移動し、夫人の左手を優しくこする。


「ふふ、ユーリアちゃん、ありがと。」


 夫人の肌は…まだ20代といっても信じられるくらいの瑞々しさだ。

 常日頃から金と暇を湯水のように使ってお手入れしているだけの事は有るわね。

 まぁリース家だし、金は貯めるよりもそれを使用して市井にまわしたほうがよっぽどいいとは分かっていても、つい勿体無いなどと考えてしまう。

 そして腕を洗った後は背中側にまわる。

 正面はモニクさんに任せよう。

 精神衛生上もそれが一番だ。



 そのまま夫人の背中を洗い終わり、泡を洗い流すのはモニクさんに任せる。

 そして隣の洗い場に座り、自分の身体を洗い始めると、背後に気配が…。


「お姉様、お背中をお流ししますわ!」


「ユーリアちゃん、約束通り背中を流しに来たわよ!」


 リース母娘(おやこ)の襲来である。


「マリオン…に奥様、ちょっとまっ!」


 慌てて断ろうとしても既に遅し。

 二人は垢すりを手に素早く左右に分かれると、こちらが止める間も無く私に取り付いてきた。


「あらあら、本当によく鍛えているのね。服の上からはわからなかったけど、腹筋がこんなに。」


「二の腕の盛り上がりも相変わらずですわ。この腕が私を抱きしめて…。」


 私の腹部を指でなぞって騒ぐ奥様と、腕を撫でつつもうっとりと自分の世界に入るマリオン。

 そしてジョゼとモニクさんは、少し離れた所から生暖かい眼差しでこちらを眺めていた。


「ちょっと、ジョゼ、止めてよ!」


「奥様とお嬢様がお望みである以上、どうして私が止められましょうか。ユーリア様、ご辛抱下さいまし。」


 私の助けを呼ぶ声に、にっこりと笑みを張り付かせて答えるジョゼ。

 これは…いつかの意趣返しか!?

 と、その時、ジョゼたちの後ろ、脱衣所への扉が開かれた。


「伯爵夫人、こちらに居られると伯爵よりお聞きしたのですが、ご一緒させて…。」


 そこに立っていたのは…一糸纏わぬ奥様と、チュニック姿のカスティヘルミさん?

 こちらの惨状を見て驚きの表情を浮かべ、動きを止めている。

 だが、やがて奥様の驚きの表情は好奇心に変わっていき…って?


「まぁ、マリオン嬢にユーリアちゃんまで!なになに、何してるの?」


 そう言って、そのまま一糸纏わぬ姿でこちらに歩み寄る。

 ふくよかなその身体…古代の裸婦像のような美しさを備えたその身体が、妙に軽い足運びで近づいてくる。

 彼女の迫力にマリオンが少し引くが、伯爵夫人が奥様に気付くと、手をひらひらと振りながら話しかけた。


「あら侯爵夫人、丁度いいところに。この鍛えられた身体、ご覧になった事がおありかしら?」


「まぁ、凄いわ。私はユーリアちゃんに世話はされてるけど、裸を見るのは初めてよ!」


「ほら、こうして髪を上げると、まるで歳若い殿方のよう。」


「まぁまぁまぁ、とても凛々しくて素敵だわ!」


 そしてそのまま、私の体をなで回し、舐めるように眺めまわしながら、やいのやいのと騒ぎ出す奥様たち。

 やがてマリオンもそれに加わり、最早それはぎゃぁぎゃぁと騒ぎ立てているようにしか聞こえなくなった。

 ゆれるゆれるゆれる…彼女達の動きに合わせて、6つのふくらみが目の前でうごめく。

 私はその身を隠す事もできずに、彼女達にされるがままであったが、ジョゼたちは何処からかサイズの大きなタオル手に入れ、それを巻いて体を隠しており、カスティヘルミさんは私たちを微笑ましそうに眺めていた。

 誰か、何とかしてよ…。



 結局、彼女達の饗宴は湯冷めした私が盛大にくしゃみをしたところで一旦幕を下ろした。

 だが、それは場所を湯船に移しただけであり、私を肴に奥様たちのおしゃべりは続いた。

 だがそれも夜半近くまでで、その後はマリオン、ジョゼと共にマリオンの部屋に戻っていた。


「今日はとても有意義な一日でしたわ。」


 寝巻きに着替え、寝台に横たわるマリオン。

 その手元では、腕輪につけられた月長石が室内の明かりを受けて白く輝いている。


「そうね。随分と連れ回しちゃったけど…この町での私の休日、少しはわかったかしら?」


 私の質問に、彼女は「それはもう。」と笑顔で答える。


「でも、大丈夫かしらね。ジョゼも伯爵達もここにいない状態で、マリオンはしっかりお役目を果たせるかしら?」


 私は意地悪くそう問いかける。

 だが彼女は、寝転がったままこちらに視線を向けると、


「ですが、お姉様がここにいますわ。それだけで、私は何でもできそうな気がします。」


 そう言って、じっとこちらの顔を見つめていた。


「それじゃぁ、2年間しか頑張れないじゃない。」


 私がそう苦笑気味に返すと、彼女は「ですが」と続ける。


「その後は、2年間の経験と思い出で何とかなりますわ。」


 そう呟いて、にこりと笑った。

 まったく、だったらその2年間で彼女を立派な侍女に仕上げないと…といっても、私自体まだ駆け出しでしかないんだけどね。


「さてと、じゃぁ私も部屋に戻るわ。」


 私がそう声をかけると、彼女はそれを予想していたのだろう、残念そうに呟く。


「そうですか…泊まってはいかれませんの?」


「明日は朝早くからお仕事だから、起こしたら悪いし遠慮しておくわ。これでしばらくはお別れ…といっても、奥様が見送るんだったら顔ぐらい見れるかしら?」


 そう言って私はベッドから立ち上がる。

 振り返ってみれば、彼女は眠たげで、まぶたは今すぐにも落ちそうなくらいだ。


「じゃぁ、またね。」


「はい、お姉様。おやすみなさいまし。」


 私は眠たげに別れを告げたマリオンの頬にキスをすると、部屋に控えるジョゼに軽く手を上げて挨拶し、そのまま静かに部屋を出た。

 既に夜半近く…夜半過ぎか?

 私は所々明かりの灯った廊下を歩き、私たちの部屋にたどり着く。

 音を立てぬよう静かに部屋に入ると、そのままクローゼットを開けて寝巻きに着替える。

 そして『睦言の腕輪』を眺めて少し逡巡した後で、それをクローゼット内の宝石入れに仕舞い込む。

 別に夜寝る間はつける必要も無いわよね。

 私は脱いだ服がすべて整えられたのを満足気に確認すると、クローゼットを閉じてベッドに潜り込んだ。

 さぁ、明日も早いし、さっさと寝てしまおうと…。


な、長い一日でした…マリオンの可愛さを出すために、話的に冗長な所もかなりあったと思います。

特に今回…でもお風呂回は外せませんでした。


以降はちょっと巻いていきたいと思います。

次の話は…いろいろと矛盾点が出てくるとアレなんで、一気に書き上げてしまいたいが…GW中に間に合うかな?


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読んでいただき、ありがとうございました。

次の話を楽しみにしていただけたら、幸いです。


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