2-02 侍女と再会
神暦720年 王の月18日
ナターシャさんの後に続き、使用人棟を歩く。
「そういえば、若様の奥方…ジャンヌ様?付きだって言っていたけど、あなたが抜けて大丈夫なの?」
「今日はジャンヌ様付きで休みを取っているのがいないから、比較的手は余っているわ。特に何もなければ、このまま貴女に付いていなさいってバートン夫人にも言われてるし。」
うーん、かなり気をかけられているみたいね。
だけど、バートン夫人は特別扱いはしないと言っていたから、これが新人に対する普通の対応なのだろう。
となると、お客様扱いも恐らくは今日限り。
明日からは普通に使用人としての扱いを受ける事になるはずだ。
「ここの食事は3食ともに使用人用の食堂ね。人によっては、2食で済ます人も居るけど…貴女は?」
「3食しっかり食べるわね。身体を動かすのが好きだから。」
リネン室に入った私は、ナターシャさんからお仕着せを受け取りながら答える。
この部屋は室内の棚がいくつも置かれ、それぞれに洗濯が終わった布製品が置かれている。
体の前にあわせたお仕着せは…うん、サイズは大丈夫そうだ。
「そうだと思ったわ。着替えはそっちの仕切りの中でね。一昔前は上級使用人と下級使用人で食堂も別れてメニューも別だったそうだけど、経費削減とかで今じゃ一緒になってるわ。私達だと待機室は上級使用人専用のがあるけど、別に下級使用人用で待機してても怒られる事は無いわ。」
ふむ、だとしても一部の人間には嫌な顔はされそうね。
そう考えながら、お仕着せに素早く着替える。
うん、サイズ的には問題ない。
胸の部分に少し生地の弛みがあるが、気にしないことにする。
詰め物も考えるべきか…いや、それは負け犬の考えだ。
まだ勝負は着いていない。
諦めたらそこで試合終了よ?
「基本、手が空いた人から食事を摂るけど、ピーク時は人がごった返すから可能なら避けるのが得策ね。あと休暇中も問題なく利用できるけど、目立ちたくなければお仕着せは着たほうがいいし、着る以上は身だしなみには気をつけてね。…うん、サイズはいいようね。じゃぁこれをつけて。それをもう一着と…。」
着替え用の仕切りから出た私の腕に、エプロン、ボンネット、カフス、リボン、ストッキングなどが積まれてゆく。
「ちなみに、上級使用人のリボンは、侍女が青、客間女中が白、蒸留室女中が緑。乳母と子守り、家庭教師、調理長はお仕着せじゃないからリボンなしよ。あと下級使用人の熟練者が赤ね。」
だから私のは青のリボンだ。
私は再度仕切りに入り、それらを着ける。
「休暇時の外出は自由、それ以外の日はバートン夫人の許可が必要よ。ただし、門限までには戻ること。外泊は事前許可が必要だけど、町の外に出るんじゃなければ、基本下りないわね。」
着替え終わった私に替えのお仕着せを持たせるナターシャさん。
彼女は彼女で、シーツ類を抱えてゆく。
「洗濯は洗濯室の入り口に袋があるからそっちに。シーツは3日に1度だけど、疲れているとついついサボって一巡りに1回って子がほとんどね。上級使用人のお仕着せは基本名前が入るから、リネン室の…そっちの棚に自分用の名札付きの籠が用意されて、仕上がったのはそっちに入れられるわ。あと下着類や小物は自分で洗濯すること。場所は洗濯室や洗面所の流しで…けど洗濯室だと男性使用人も出入りするから、下着は洗面所かな。」
一通り必要な物をそろえてリネン室を出る。
尚、リネン室入り口のすぐ横に渡り廊下があり、その先が洗濯室だ。
「浴室は夕方から使えるけど、行水程度ならいつでもできるわ。ただし、掃除時間中は追い出されるでしょうけどね。夜の5刻(午後10時)までは火が入ってるけど、それ以降は残り湯か行水ね。時間帯は…こっちは仕事内容によって意外とばらけるからそれほど混まないわ。まぁ夜会があった日なんかは、皆が一斉に仕事を上がるから混む時もあるけど。」
彼女について階段を上る。
「使用人棟の入り口…東西2箇所の屋敷側1階に、家令室と家政婦室があるわ。家令室の横には執事室と地下に酒貯蔵室、家政婦室の横には蒸留室ね…。まぁ詳しい案内は、明日以降にすると思うわ。」
そんなこんなのうちに、使用人棟の2階から渡り廊下で別の建物に移る。
途中の扉には、『この先男性使用人立入禁止』の表示が…ここが女性使用人宿舎か?
「こっちが女性使用人宿舎だけど、ここからは殿方は立ち入り禁止よ。もちろん、私達も男性使用人宿舎へは立ち入り禁止ね。なにか間違いがあると面倒だから、用があるときは入り口の外で適当な人を捕まえて。」
棟に入ると渡り廊下の正面に階段とその左右に洗面所と厠がある。
そしてそこで廊下を左に曲がる。
「ここが女性使用人宿舎。2階が上級使用人用、1階が下級使用人用。それぞれ20人と60人ぐらい?2階の部屋はベッドが2台だけど、1階の部屋は2段ベッドが2台の4人部屋よ。あと2階の西側には下級使用人の熟練者が入ってるわ。」
つまり行儀見習いではない職業使用人のリーダー格か。
「部屋数は各階16室ずつ。昔に比べて人が減って多少は空きがあるから、階段脇の部屋は談話室になっているわ。本棚には持ち寄った三文本とかも置かれてるから、興味があるなら見てみるといいわね。」
そして談話室の前を通り過ぎ東側の廊下を奥へと進み、一番奥の扉の前で歩みを停めた。
「ここが私達の部屋よ。角部屋で外気の影響は受けやすいけど、渡り廊下から遠くて静かだし、窓も2つあるから私は結構気に入っているわ。」
そう言って開錠し、扉を開く。
彼女に促され部屋に入ると、部屋の奥に窓を挟むように文机が一対、その手前の左右にベッドが一対、ベッドの手前にテーブルと椅子が2脚。
ベッドの手前の左右にはクローゼットも備え付けられていて、左のクローゼットの前には私の荷物が置かれている。
うん、十分十分。
この部屋ならなんら問題ないだろう。
「部屋の右は私が使ってきたから、あなたは左でいい?なんなら代わるけど?」
「別に構わないわ。そっちのほうが風通しもよさそうだし。」
ベッドの上に持ってきたリネン類を置き、腰掛ける。
「夏を考えれば、そっちのほうがいいかもね。こっちは冬でも暖かいし。」
彼女が育ったコムナは風別れの山脈の際で標高は高かったはず…冬は雪に閉ざされるのだろう。
とそこで、同じように自分のベッドに腰掛けたナターシャさんがこちらに顔を近づけ、声を潜める。
「あと、屋敷内や使用人棟内での恋愛は基本禁止…だけど黙認されてるのが実情ね。さすがに出来ちゃったりすると、作った者、出来た者、監督する者の面子が関るから実家に帰されたりするけど、不器用な子が自分で何とかしようとしてかえって大事にするのでもなければ、ほとんどないわね。大抵は何故か急な退職が決定して、引継ぎ後に故郷に帰ってからすぐにこの屋敷の使用人と婚姻を結ぶ事で決着がつくし、旦那様からも祝い状なりが届くわね。まぁ、旦那様からしてみれば、同じ派閥内での親類関係が深くなればその分派閥の結束が強まるから、そっちを期待して行儀見習いを受け入れてるんじゃないのかしらね。」
つまり、この屋敷における行儀見習いとは、婚活のために箔をつけるため…だけにあるのではなく、実際の婚活の場にもなっているのか。
騎士団が使用人棟を利用しているのも、案外その辺が絡んでいるのかもしれない。
「ところで、ナターシャ…さんはそのところどうなの?」
相手の個人的なことだが、気になったので躊躇いがちに聞いてみる。
するとナターシャさんは手をひらひらと振ると、
「私はこんな性格だからね。最初は声をかけてくる物好きも居たけど、次第にいなくなったわ。まぁ騎士団にも仲がいい奴はいるけど、恋愛となると…ちょっと考え物よね。それよりも、ナターシャでいいわ。故郷には弟妹が5人もいるから、呼び捨てでも私は気にしないわ。けど、仕事中は同僚に対してはさん付けのほうがいいわね。バートン夫人は別として。」
「分かったわ、ナターシャ。この部屋ではね。」
バートン夫人についてはもちろんだ。
家政婦は基本、未婚でも夫人呼ばわりだ。
「じゃぁ、ベッドメイクしてから荷物を片付けましょう。」
その後、色々と私語を交えつつナターシャとともに荷物を片付けた。
尚、鞄に括りつけられた長剣や短剣、凍える大河を見て引かれたり、鞄から続々と出てくる酒瓶に呆れられたり、室内にあった花瓶に生けた氷血華の価値を聞いてドン引きされたりしたのは別の話である。
その後、片づけが終わって一息ついた頃、部屋の扉が叩かれた。
「ユーリア、居るーっ?」
くぐもってはいるがよく知っている懐かしい声に、私はナターシャに視線を送り、彼女が頷いたのを確認してから扉を開けた。
「ユーリアーって、居た!」
扉の外には、所々汚れたローブを着込み、栗色の癖っ毛を三つ編みにした少女が居た。
彼女は故郷で同じ私塾に通っていた薬師の次女、タレイラン家魔術師見習いのマリエルだ。
「ユーリア、久しぶり!1年でまた大きくなったわね!…胸以外は。」
「ぐっ…マリエルは…まったく変わらないわね。」
何とか返すが、こちらのほうがダメージはでかい。
マリエルの外見は…ぱっと見12歳ぐらいにしか見えない。
彼女は12歳のときに大病を患い、回復はした物のその後はほとんど成長しなくなってしまった。
それと時をほぼ同じくして、魔術の才能が開花したため、口さがない村人には「遠い先祖の森妖精の血が目覚めたのだ。」などと噂されもしたが、その才能を生かすべくお師匠様の伝でタレイラン家の魔術師筆頭にして魔導師のカロン殿に師事したのがおよそ1年前だ。
彼女が故郷を出て以来は数度の手紙のやり取りのみだったが、故郷に居た頃は実の姉のように面倒を見てくれた。
まぁ、近年では傍から見れば姉を世話する妹にしか見えなかったが。
「それよりも、よくこの部屋が分かったわね。」
彼女が鼻息荒く得意げに胸を張る。
「侍女の部屋のうち、最近年季を終えた人がいて、人数に空きがあるところを全部回ったわ。他の部屋はノックしても出なかったけど。」
また随分とはた迷惑な。
その部屋で休みの人が寝ていたらどうするつもりだったのだろう。
「あら、知り合い?って、魔術師見習いのちっこいのじゃない。」
私の後ろから顔を出したナターシャが、わざとらしく驚いたように言う。
「ちっこいのって言うなっ!」
マリエルは大声で叫ぶが、どう見ても大人の冗談にまともに腹を立てる子供にしか見えない。
「同郷のマリエルよ。んで、こっちが同室のナターシャ。」
「へぇ。じゃぁそのちっこいのもデファンス出身だったんだ。」
「だから、ちっこいの言うな。」
「はいはい、とりあえずは廊下で騒ぐと迷惑だからとっとと部屋に入っちゃいなさい。」
と、ナターシャはにべもない。
「そうね。積もる話もあるし、入っちゃって。」
そう言って、私は故郷の幼馴染を部屋に招いた。
「へぇ。まぁ来た初日だから当たり前といえば当たり前だけど、片付いてるわね。」
部屋手前のテーブル脇の丸椅子に皆で座ると、部屋を見回してマリエルがつぶやいた。
ちなみに、文机にも背もたれ付きの椅子があるので、室内に合計4脚あり、ナターシャは文机から椅子を持ってきている。
「私の部屋は本館の1階だけど、本や道具で散らかって…って?」
見回していたマリエルの視線が、文机の間の出窓のあたりで止まった。
「ちょっ、ちょっとユーリア、あれ何よ!」
彼女は椅子から立ち上がり、出窓に置かれた花瓶に駆け寄る。
「うわー、氷血華!?何でこんなのがこんな所に?」
彼女は興奮して大声で問う。
そんなマリエルを他所に、出窓の前に置かれたワゴンをテーブルの横まで移動したナターシャが、ポットの湯を使いお茶を煎れる。
私を案内する前に既に用意していたのだろうか?
ありがたいことだ。
「ブリーヴでリース家と知り合って、色々あってお礼に貰ったの。花が咲いたら一本は送ることになってるけど。」
「え?ちょっと本物?ガラスで作った造花じゃなくて?って、造花にするなら蕾じゃなくて咲ききった花にするか。魔力を感じるから…やっぱり本物?」
「多分本物よ。伯爵夫人に直々に貰ったし。」
「ねぇ、それってやっぱりすごく高価い物なの?」
煎れた茶を給仕しつつ、ナターシャがマリエルに尋ねる。
なんだ、信じてなかったのか?
「うん、2本あれば庭付きの屋敷が買えるわ。4本あれば農場付で。」
マリエルが答える。
そしてその視線が私に向く。
「ユーリア、これ1本売る気はない?これを使った魔術触媒の在庫がそろそろ切れるから、前もって確保しておきたいんだけどちょっと今月は研究予算がないのよ。来月…は厳しいか、再来月には予算がつくんだけど、その後に手に入れて加工するとなると、在庫に間に合わないから。」
私はそんな彼女の懇願を他所に、ナターシャが煎れたお茶を頂く。
「あら、美味しいわね。」
私の感想に、ナターシャが得意げに胸を張り…揺れる。
彼女も人並みにはあるようだ…畜生。
「あまりいい茶葉は買えないけど、そこは一工夫。香りも渋みも強い故郷の風別葉に、月夜草を入れて渋みを抑えて、香り付けに甘樹の樹皮を使用した特製ハーブティよ。結構飲めるでしょ?」
「うん、かすかに甘くてさわやかな飲み口ね。で、氷血華を売る件だったっけ?私としては別にいいんだけど…それ貴女が個人で買うの?」
「もちろん、お師様を通して買わせて貰うわ。ちょっと先になっちゃうけど、お師様はお金には厳しいから、支払いは確実よ。」
窓際からテーブルに戻ったマリエルが答える。
マリエルの師匠の件なら、私も聞いたことはある。
マリエルの師である魔導師カロンは研究資金を得る事に対しては人並みはずれて熱心な人物で、資金を得てはそれをすべて研究に注ぎ込み、得た研究結果を元にさらに資金を調達する…『強欲のカロン』と呼ばれる人物だと。
だがそれゆえ、金銭の管理には厳格で、支払い期日は必ず守り、必要とあらば有能な弟子どころか自分の処遇を担保に金を借りてでも支払うという話だ。
「まぁ、その点で不安はないし…お友達価格で多少は安くしておくわよ。」
「え、いいの?こっちとしては、支払いを待ってもらえるだけでも涙が出るくらいありがたいんだけど…って、貴女がお友達価格なんて言うなんて、ちょっと何かありそうで怖いわね。」
暗闇に光明を見出したようなマリエルの顔に影が差す。
私はそれを見てにやりと笑う。
「ええ、実はちょっと頼みごとがあるんだけど…そんなに身構えないでよ。別に面倒事じゃないわ。」
表情を歪めるマリエルを他所に、私は立ち上がるとクローゼットに歩み寄り、中から、凍える大河を取り出す。
「これの鑑定をお願いしたいんだけど。小金貨22枚で買ったら、とんでもない事になった剣よ。」
凍える大河を鞘ごとマリエルに渡すと、彼女はそれを様々な角度から眺めた後で、こちらに視線を送る。
私が軽く頷くと、彼女は鞘から剣を引き抜き、さらにその刀身を眺める。
「これが小金貨22枚って…本当にとんでもないわね。剣については門外漢だけど、魔力についてはかなりの物よ、コレ。」
「ええ、これは最初はただの白銀鋼の剣だと思ったんだけど、アイスエンチャントをかけたら、氷が刃を包んで大剣サイズになったわ。あと、それ以来氷の魔法を使うと威力が上がっているように思えるのだけど…。」
マリエルは相変わらず刀身をためつすがめつしている。
「うん、確かに属性強化はありそうね。少し時間がかかるかもしれないけど、まずはお師様に話してみるわ。お師様が駄目でも、私が出来る限りは鑑定してみるから安心して。」
「分かったわ。だったらお願いするわね。金額と支払い期日に関しては、また次の機会にでも。」
「うん、任せて。私なんかじゃまだ鑑定なんて任せてもらえないから、結構楽しみよ。だけどユーリア、魔剣に氷血華なんて持ってても、無駄遣いの癖を付けちゃ駄目よ?あぶく銭なんて身につかないんだからね?」
マリエルはそう言って剣を鞘に収めると、立ち上がり左手を腰に当て右手をこちらに突きつけるようにして椅子に座った私を見下す。
彼女がお姉さんぶるときの昔からの癖だ。
もっとも、ここ数年は見上げるばかりで、めったに見下ろす事などできていなかったが。
マリエルは満足したのか大きく一つ息をつくと、椅子に座ってナターシャの煎れたカップに手を伸ばす。
そして一口つけると、驚きに目を見開く。
「うわホントに美味しいわね。月夜草なら薬師の手伝いでよく摘まされたけど、ウチだと薬にするばかりでハーブとしては使わなかったから。」
「デファンスだったっけ?たしかあっちは紅の森の瘴気の影響であまり生えないって聞いてたけど。」
「うん、だから霧の丘陵のこっち側ぐらいまで足を伸ばして摘んでいたわ。まぁそれだけ摘むのに苦労するようだと、気楽にハーブには使えないわよね。一度だけハーブティーにしたことがあったけど、すぐに眠くなっちゃったし。」
月夜草には、沈静効果がある。
体の小さいマリエルならその効果も顕著に出るだろう。
「ふーん。お子ちゃまなら、ハーブティー程度でもすぐにお眠になっちゃうわよね。」
「だからお子ちゃまゆーな!」
相変わらずナターシャがマリエルをからかい、マリエルがむくれる。
結構いいコンビになるのではないだろうか、この二人は。
そんなこんなで談笑していると、街の鐘が12刻(午後5時)を知らせた。
「あ、もうこんな時間なのね。そろそろ食堂が混みだす時間だから早めに夕食にする?」
「はーい、街に出てユーリアの奢りで豪遊!氷血華があるんだし、これぐらい奢っても大丈夫でしょ?」
ナターシャの提案に、身を乗り出して挙手するマリエル。
「却下。私は別に今日は休日じゃないし、外出許可を取るのが面倒。」
だが、ナターシャに有無を言わさず切り捨てられる。
「それに、新入りに集ってどうするのよ。こっちが歓迎の意味をこめて奢る物じゃない?」
さらに、マリエルがもっとも望まない方向に風向きが変わる。
「あたしは…今月もカツカツだし。」
「だったら、大人しく食堂で食べてなさい。ユーリアが奢るにしても、貴女が奢った後だからね?もっとも、そんなの何時になるか分からないけど。」
マリエルはぐうの音も出ないようだ。
「まぁ、私としては常識的な範囲内であれば奢っても構わないのだけどね。」
彼女達とお酒も飲みたいしー。
私の言葉に、マリエルの顔に喜びがあふれる。
「だけど、浪費癖をつけないようにって、マリエルから言われてるからしょうがないわよね。(棒)」
がっくりとうなだれるマリエル。
まぁ、街に繰り出すのは又の機会にして、今日は宿舎で大人しくしていよう。