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男装お嬢様の冒険適齢期  作者: ONION
第1章 お嬢様の旅立ち
20/124

1-19 お嬢様、招待する

神暦720年 王の月16日


ブリーヴの通りを歩く。

時刻は夕暮れ時、仕事を終え家路を急いだり、馴染みの酒場へ顔を出したりする人々…の視線が我々に注がれる。

それもそうだろう、上等な衣服を着たうら若い乙女2人の後ろを、馬を引いた子供とそれに付き従う剣牙猫(サーベルキャット)、そして大きな鞄を手に提げる侍女。

何の一行だと興味深げに眺める者、その中に領主の娘の姿を見つける目敏い者、すぐに興味をなくし歩き出す者…時間帯故か、ミーアを追いかけてくる子供はいない。

昼間だったら子供達が大行列を作っていただろう。


「ジョゼさん、鞄のほうは大丈夫ですか?なんなら馬に乗せても…。」


改めてジョゼさんに目をやる。

肩口までの長さに切りそろえられた銀髪にどこか上品さを窺わせる落ち着いた顔つき、健康的と言うにふさわしい身体に、たわわに実ったふくらみは上等なお仕着せの下からその存在を主張しつつも、過度に主張し過ぎない最大のバランスだった。

そう、まさに理想の美人侍女。

どこぞの良家の子息に見初められて嫁ぎ、何不自由ない幸せな人生を送る…といったことも十分可能な容姿である


「お心遣い感謝いたします、ユーリア様。ですが、衣服が中心の軽い荷物ですので、問題ありません。」


そう断り、そのまま歩くジョゼさん。

力仕事は女中の領分だが、館から宿まではすぐだ。

彼女が言うなら問題ないだろう。


「それと、私のことはジョゼとのみお呼びください。」


「そう?わかったわ、ジョゼ。では私もユーリアと。」


「それはなりません、ユーリア様。私はお嬢様のお付きです。けじめはしっかりとつけねばなりません。」


「そう?別にいいのに。」


そう言って笑うむと、ジョゼさんも困ったように微笑んだ。



程なく宿の前に到着すると、既にジャックさんとボーダンさん、フェリクスと宿の支配人らしき男が宿の前に立っていた。


「『黄金の海原亭』へようこそお出でくださいました、マリオンお嬢様。歓迎いたします。」


私達に駆け寄り、マリオンに頭を下げる支配人。


「はい、よしなに。ですが今夜のホストはユーリア様でしてよ?」


「その通りです、支配人。ユーリア様への計らいを伯爵はお望みです。」


ジャックさんの諫言に顔を青くする支配人。

まぁ、地元領主のお嬢様が宿泊する事なんてほとんど無いだろうし、この宿は上流貴族が逗留するような宿からは1ランク落ちる宿なので、支配人もテンパってるんだろうと同情する。


「これは…大変失礼致しました、ユーリア様。」


「いえ、気にしてはいません。本日も従者共々世話になります。」


とりあえずは水に流す事にする。


「そうだ、遅くなっちゃったけど紹介するわ。こちらはブリーヴ伯が御息女、マリオン様とお付のジョゼさんとジャックさん。そしてこちらが、デファンス領騎士隊の正騎士ボーダンと従騎士のフェリクス。」


「皆様、よろしくお願いします。」


とマリオンが代表して挨拶をすれば、


「は、歓迎いたします、マリオン様。」


とボーダンさんが返礼する。

その挨拶の間中、フェリクスの視線がジョゼさんに注がれていた。

まぁジョゼさん美人だからなぁ。


「詳しい紹介は後でするとして…とりあえずは部屋にご招待を…。」


「お嬢様、お部屋の件ですが、現在のものでは客を招くには少々手狭かと。いかが致しましょう?」


とボーダンさん。ふむ、言われてみれば…。


「支配人、もう少し広い部屋に空きはありますか?」


「はい、最上級の二部屋をご用意してございます。尚、ベッドはそれぞれダブルとツインになります。」


「お風呂は?」


「はい、どちらも4人でもゆったりと入れるサイズのものを備え付けてございます。」


「ではユーリア様、その二部屋からお選び下さい。」


とジャックさんが割り込む。

つまり部屋代は伯爵持ちと言う事か。

まぁその分の借りは父上が返す事になるかもしれないが、甘えさせて頂こう。


「ではダブルで。アンジェル、荷物を簡単にまとめて移るわよ。フェル、スパークをありがとう。」


そう言ってスパークの手綱を渡すが…。


「悪い、アンジェル。スパークを厩舎に連れて行ってくれ。」


「兄ちゃんは?」


「俺は…荷物持ち。ジョゼさん…でしたっけ?荷物をお持ちしますよ。」


そう言ってジョゼさんにアプローチをかけるフェル。

珍しいな。あまり女性には関わらないと思っていたのに。


「いえ、これはお嬢様の荷物になりますので、運ぶのも私の役目です。」


「ですが、部屋までには階段もあります。なに、鍛えてますので軽いものですよ。」


そう言って半ば無理やり鞄を持つフェル。

…というかこいつがどこぞの子息候補かっ!?


「アンジェル、スパークをお願い。では支配人、先に新しい部屋へ案内を。」


「はい、こちらになります。」


そういって、先導する支配人と共に、宿に入っていった。



新しい部屋は、さすが宿一番の部屋だけあって豪華だった。

寝室だけではなく応接間としての前室があり、空間は贅沢に使われ、家具や装飾品は落ち着いたデザインのもので統一されていた。

部屋に入ると、ボーダンさんが一番に各部屋を回り、中を改める。

警護の規定手順だ。


「お嬢様、問題ありません。」


「そう、ありがとう。フェル、荷物は寝室に。置いたらアンジェルを呼んできて。」


「はい、お嬢様。ジョゼさん、荷物はクローゼットの前で良いですか?」


「ええ、お手数をお掛けします。」


「いえいえ、お安い御用です。っと、では後ほど。」


そう言って部屋を出て行くフェリクスに、ジャックさんがちらと苛立たしげな視線を送る。

ん?


「ユーリア様、お食事は当宿自慢のフルコースを用意させて頂きますが、お部屋にお持ちするという事でよろしいでしょうか?」


そう問いかける支配人。

ジャックさんに視線を向けると、機嫌を直したのか普段どおりの表情で頷いている。

だが、それではあまり面白くないなぁ…。


「支配人、下の酒場にテーブルの空きはある?」


「はい、どのような席をお望みですか?」


「人数は…9人。テーブル席で1刻半後から予約取れるかしら?」


「はい。個室をご用意いたしますか。」


「いえ、個室よりも酒場の隅の席がいいわ。」


「はい、畏まりました。お料理はいかが致しましょう?」


「大皿料理を3枚に分けて。お酒に合うもの中心で内容は任せるわ。あと、昼に捕まえた棘鶉も。」


「はい、当宿の料理人が腕によりをかけた料理をお約束いたしましょう。」


「よろしくね。じゃぁ話が決まったら紳士一同は退出!これよりここは淑女の部屋よ。」


そういいつつ手を叩き、男共を追い出す。

一礼をして下がる支配人とボーダンさん。それに遅れてジャックさんが一礼する。


「それではユーリア様、お嬢様と姉をよろしくお願いします。」


そう言って、彼はこちらに口を挟む隙を与えずに退出する。

そうか、やっぱり姉弟だったか。

出て行ったジャックさんと入れ違いにアンジェルが戻ってくる。


「姉ちゃ…お嬢様、おまたせしました。」


「おかえり、アンジェル。早速だけど荷物を運ぶから付いてきて。マリオンたちは少し休んでいて。それが終わったらお風呂に入るわよ。」


「ではユーリア様、その間に私が入浴の準備を致しましょう。」


「そう?悪いわね、ジョゼ。お客様を使っちゃって。」


「いえ、湯を貯めるだけですので。」


「お姉様、私もお手伝いいたしますわ。」


「そう?休んでて良いのに。」


「早く片付ければ、その分ゆっくりお風呂に入れますわ。」


「それもそうね。じゃぁ行きましょう。」


二人を引き連れ、元の部屋に向かう。



部屋では私が荷物をまとめて、2人に運搬をお願いした。

多少重いものがあったがそれは後で1人で運ぶとして、それ以外を2人がかりで運んでもらったため、思ったより早く済んだ。

伯爵令嬢を荷物運びに使うのはどうかとも思うが、マリオンも楽しげに運んでいたし、まぁいいのかな?



最後の荷物を新しい部屋に運び込む。

ちなみに、ミーアは既に部屋の隅で丸くなっている。

そしてマリオンとアンジェルは部屋の隅でなにやらいじっていた。


「どうかした?」


それを覗き込むと、2人は革鎧と鍛錬用の長剣を前にしていた。


「荷物の中にこのようなものがあったので…つい。」


まぁ、いいとこのお嬢様なら懐剣はともかく長剣に触れる機会はあまりないだろう。

普通は。


「こっちの鎧は、姉ちゃんが着ていたやつだぜ。それで盗賊をやっつけたんだ。」


アンジェルが興奮気味に説明する。というか、口調。


「まぁ、そんな事が?」


「うん、傭兵崩れの盗賊にばばばばーって氷の矢を撃って、そのあと何人も切り伏せて…かっこよかった!」


「まぁっ!」


マリオンはその光景を想像してか、うっとりとした表情をしている。

あまりお嬢様の教育上、いい話でもないので切り上げさせるべきか?

と、浴室の扉からジョゼさんが現れる。


「ユーリア様、湯浴みの準備が整いました。」


「ありがとう、ジョゼ。」


これでみんな揃ったな。

ちょうどいいから、考えていた話を聞いてもらおうか。


「さあ、ちょっとみんな聞いて。これよりお泊り会を開始します。ホストは私、参加者はこの4人、ルールは1つだけ。これより明日の朝まで、この部屋での身分の上下をないものとします。」


それを聞き、ジョゼさんがあわてる。


「ユーリア様、私はマリオン様のお世話を奥様より命じられております。ですのでそのような決まりに従う訳には…。」


「まぁそれはそれ。自発的にお世話をするのは構わないわ。ただし、命令して世話をさせては駄目。お泊り会といっても人数が少ないから、黙って参加してもらえると助かるわ。」


「それでしたら…問題は…ないのでしょうか?」


ジョゼさんは納得しかねるようだが、このまま押し切れそうだ。


「お嬢様、つまり…どういうこと?」


アンジェルはよくわかっていないようだ。


「今夜はマリオンもジョゼも、もちろん私も『姉ちゃん』で構わないわ。」


「うん、それなら大丈夫。」


「マリオンも大丈夫?」


「はい、お姉様がお姉様でしたら。」


「うん、それに今夜はジョゼも『お姉様』よ?」


「ええ、それは楽しみですわ。」


「というわけだけど、ジョゼもいい?」


「すべき事が出来るのならば問題はありません。」


「そう。じゃぁ早速お風呂にしましょう。」


そう言って私は微笑んだ。


ユーリア :次回、お風呂回!刮目せよ!!

アンジェル:姉ちゃん、テンション高いな。


=====================================================================================================


読んでいただき、感謝いたします。

次の話を楽しみにしていただけたら、幸いです。


ご意見、ご感想などありましたらお気軽にお寄せください。

誤字脱字など指摘いただければ助かります。

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