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おせっかい姫は嘆かない  作者: 高月望
6/11

迷惑なんです


 放課後。

 僕は屋上にいた。

 屋上のフェンスに手をかけ、下のグラウンドを見つめている。グラウンドには部活動に励む生徒がたくさんいた。その楽しそうな声がこっちまで聞こえてくる。僕はそれを見ながら、考えにふけっていた。もちろん考えているのは、今日の休み時間の出来事。おせっかい姫は、僕に友達を作ることはできなかった。今思い出しても、あの悲しみがよみがえってくる。僕の手にはますます力が入る。

 すると、

「早まっちゃだめです!」

 その声とともに、いきなり後ろから抱きつかれた。大きな胸が僕の背中に当たる。いったい誰だと思い、後ろを振り返ると、そこにいたのはメガネをかけた胸の大きな女の子だった。

「えっと~何を勘違いしているのかな?僕は自殺する気はないよ」

「あ、ごめんなさい。思いつめたような顔で下を見ていたから、ついそうだと思って…」

「ちょっと考え事をしてたから…勘違いさせてごめん」

「こちらこそごめんなさい」

「……」

「……」

 沈黙が続く。僕は耐え切れなくなり、勇気を出して話しかけてみた。

「えっと、確か、うちのクラスの委員長だよね」

「はい、桐嶋夕子といいます。休み時間の件で、奥村くんが心配になって探していたんです。それでやっと見つけたと思ったら、下を見て思いつめているからびっくりしました」

「そうなんだ、ありがとう、心配してくれて。桐嶋さんは僕のこと怖くないの?」

「私は仲間外れとか、曲がったことは大っきらいなんで。それに委員長ですから」

「そうか…それはよかった」

 僕は桐嶋さんに向かってほほ笑む。久しぶりに笑ったような気がする。でも、クラスの中にはこういう人もいるんだとわかってほっとした。

「桐嶋さん、僕は休み時間のことは気にしてないよ。そうなるだろうなってことはわかったし…でも悲しくないって言ったらウソになるかもしれない。なんか、今複雑なんだ」

「これも全部あの人のせいですよ。私、あの人に一言言ってやりたいとも思っているんです。だってそうでしょ、あの人がいなかったら、奥村くんはが傷つかずに済んだんですから…」

「あの人は悪くないよ。僕のためを思ってくれたんだから」

「でもですね」

 その時だった。屋上に誰かが上がってくる音がする。

「どうしてうまくいかなかったんだろう?」

「当たり前だろ。うまくいかないことは目に見えていた」

「え~」

 上がってきたのは、今噂をしていたおせっかい姫こと春川先輩とその付き人立花先輩だった。何とタイミングの悪いことだろう。

「あ、奥村くん」

 そう言って駆け寄ってくる春川先輩の前に、桐嶋さんが立ちふさがった。春川先輩は、いきなり現れた謎の人物にきょとんとしている。その一方、桐嶋さんはおせっかい姫をすごい顔でにらんでいる。危険を感じた僕は、おどおどと二人の顔を見比べる。

「えっと~誰かな?」

「もう、奥村くんにかかわらないでください。迷惑です!」

「もしかして、奥村くんの友達?」

「ち、違います。私は奥村くんのクラスの委員長をしているものです。これは委員長としてクラスメイトを心配した結果でして…」

 桐嶋さんは後ろにいる僕をちらりと見る。僕はというと桐嶋さんに友達じゃないと否定されたことに、少し傷ついていた。まぁ、否定して当たり前なのだが、言われると結構傷つくものである。傷心の僕を見て、桐嶋さんはどうしていいかわからず、挙句見なかったことにされた。再び傷つく僕である。

「で、ですから、奥村くんはあなたのせいで傷ついたのです。だから、ほっておいてあげてください。あなたがかかわるとロクなことがありませんから。先輩後輩関係ありません、言わせてもらいます。迷惑なんです!」

「わ、私は奥村くんのためを思って…」

「それが迷惑だというんです!」

 きっぱりと言い放つ桐嶋さんに、春川先輩は何も言えない様子である。見ていて先輩がかわいそうになってくるぐらいだ。

「もうそれぐらいでいいんじゃないか。ほのかも反省しているよ」

 これまで黙って見ていた立花先輩が口をはさむ。それを聞いた桐嶋さんは、言いすぎたかと一瞬ばつの悪そうな顔をした。それでも桐嶋さんは、間違ったことは言ってないというような瞳をしていた。

「では、失礼します」

 桐嶋さんは言いたいことを言って満足したのか、二人の先輩に丁寧に会釈して去っていった。屋上のドアが閉まる。その音がやけに響いたのは気のせいだろうか。

 屋上には僕たち三人が取り残された。無言のまま時が過ぎる。



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