ホントの気持ち
いきなり大きな声を出したために二人は驚いたようだ。僕自身もこんな大きな声を出したのはいつ以来だろうか。最近は誰かとしゃべることもなかったから、声の出し方を忘れていたような感じだ。
「もう、僕のことはほっといてください」
僕は二人に背を向ける。そんな背中におせっかい姫は優しく声をかける。
「ほっておけないよ。もう私は奥村くんのことを知っちゃったもの。困ってる人はほっておけないの」
「僕は困ってなんかいません…」
「うそよ!だったらそんな悲しい背中なんかしてないもの。奥村くんの背中からは、さみしい、助けてって言っているように聞こえる。本当は、一人は嫌なんでしょ?」
「ぼ、僕は……」
僕は、本当は誰かに助けてほしかったのだろうか…分からない。もう随分と人とかかわってないような気がする。だから、どうしていいのかわからない。自分の気持ちもわからない。僕の心はそれほど空っぽになってしまっていたのだろうか。僕の心はかき乱れていた。
それでも、わかったことがある。
ずっと僕が目をそらしていたこと…それは…
「ぼ、僕は……一人は嫌だ…」
僕は二人のほうを振り返る。すると春川先輩と立花先輩の二人は優しく笑っていた。その笑顔を見た僕は、心が軽くなった気がした。
死神と呼ばれ、一人ぼっちになった時、僕は受け入れたつもりだった。だから抵抗も、反発もしなかった。こういう運命なんだと諦めた。でも、本当はさみしかった。一人ぼっちはさみしかったのだ。でもそんな僕は、今の今まで自分の気持ちを、見て見ぬふりをしていたんだ。だって、誰も僕に声をかけてくれなかったから。
それが今は違った。僕を心配し、声を掛けてくれた人がいる。たとえそれが、あのおせっかい姫だったとしても…
「一人ぼっちはもう嫌だ…嫌なんだ…」
僕は声を詰まらせながら言う、自分に言い聞かせるように何度も。
「うん、わかったよ」
そう言って春川先輩は、僕をやさしく抱きしめてくれた。彼女の髪からシャンプーの香りがした。その香りは僕の心を落ち着かせてくれた。
しばらくして、春川先輩が僕の体から離れる。そして優しく微笑む。
「私と一緒に頑張って友達作ろう」
「はい」
屋上の風は、いつのまにか穏やかな風へと変わっていたのだった。