僕と白いパンツと
「そんな顔するなよ、死神。あきらめるんだな。私はそのおせっかい姫の友達の立花友、よろしく」
そう行ってポニーテールの少女が手をあげる。いったい僕は今どんな顔をしているのだろうか。きっと嫌そうな顔をしているんだろう。ポニーテールの少女、立花友はそんな僕を憐れんでいるようにも見える。
「…ぼ、僕は死神じゃない。奥村啓太という名前がある…」
「それは悪かったな、奥村」
「それで、僕に何の用ですか?」
僕は春川先輩に尋ねる。きっといい答えは返ってこないだろう。
尋ねられた春川先輩は、待ってましたとばかりに僕の前で、腰に手を当て仁王立ちになり、高らかに宣言する。
「あなたに友達を作ってあげる!」
そのときだった。
屋上は先ほどから強く風が吹いていた。
ひときわ強い風が屋上を吹き抜ける。
すると、
春川先輩のスカートが舞い上がり、座っている僕の目の前に白いパンツが現れる。
僕はそのパンツに目が釘付けになった。
一瞬の静寂ののち、
「きゃあ~!」
バチン!……
いい音が屋上に響いたのだった。
痛い…春川先輩に殴られた。
あれは、僕は悪くないと思う。不可抗力だった。
春川先輩はというと、隅のほうに座りこんでめそめそ泣いている。
「う~う、パンツ見られた~お嫁にいけないよ~」
「パンツぐらい別にいいと思うが」
「友はいいかもしれなくても、私は嫌なの!」
「あ~そうかいそうかい」
まだ泣いている。僕はというと叩かれたほほをさすっている。まだジンジンする。もしかしたら赤くなっているかもしれない。僕はため息をつく。今日はどうやら厄日のようである。
泣いていた春川先輩が急に立ち上がり、こちらに近づいてくる。その顔は怒っているような何とも言えない表情だった。そして真剣な目で僕に顔を近づけて言う。
「今見たものは忘れないさい!いいわね?」
「…はい…」
それで満足したのか、春川先輩は機嫌を直して僕に言う。
「なんかうやむやになっちゃった感があるから、もう一度言うけど、私はあなたに友達を作ってあげたいの。いいかしら?」
「どうしてそんなことを…」
「だってそうでしょ。高校生活の中で友達がいないなんて、青春を無駄にしているわ。私は奥村くんにい高校生活を送ってほしいの。そのためには、まずは友達作りからでしょ」
「どうして僕なんですか?ほかにも友達がいない子だっていると思いますけど…」
「だって死神なんて呼ばれているのよ、かわいそうじゃない。一人でこんなところでご飯食べてるし…ほっとけないわ。前にたまたま奥村くんを見かけたことがあって、クラスの人たちに死神と呼ばれ、からかわれていたわ。それを見て私は、助けてあげなきゃって思ったの」
あぁ、これがおせっかい姫なのか…改めて僕はその凄さに圧倒されている。おせっかい、余計な世話を焼くこと、他人のことに不必要に立ち入ること。その言葉を今、身にしみて感じている。僕はとんでもない人に目をつけられてしまったのかもしれない。
僕は不安そうな顔で春川先輩ではなく、その後ろにいる立花先輩に目をやった。立花先輩なら、僕の気持ちを分かってくれるだろうと思ったのである。彼女はおせっかい姫ではないのだから。
「おいおい、そんな目で見られても困る。さっきも言っただろうけど、あきらめろ。おせっかい姫に目をつけられたら、解決するまで付きまとわれるんだから。私にはどうすることもできないよ。それにほのかは言って聞くような子じゃないし…」
僕は落胆する。この人なら何とかしてくれると思ったが、しょせんはおせっかい姫の友達ということなのだろう。今、僕に味方をしてくれる人は誰もいない。この困難をどう切り抜けるかを必死になって探している。僕は立ち上がり、二人からなるべく離れようと後ずさる。しかし、二人もぴったりとついてくる。
「私と一緒に友達を作ろう、ね?」
春川先輩は目を輝かせながら、僕に迫ってくる。もう僕は我慢の限界だった。
「いいかげんにしてください!」