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おせっかい姫は嘆かない  作者: 高月望
10/11

小さな一歩は大きな一歩


 屋上に着くと、先輩二人が下界を見下ろしながら談笑していた。その光景を見て僕は、自然と笑みがこぼれた。僕もこういう友達がほしいなぁと思いつつ、先輩たちのもとへ近づいていく。しかし、いつの間にかこの屋上が、僕たちの待ち合わせ場所になっている。阿吽の呼吸というのかわからないが、少しうれしくなる僕である。

「あっ、奥村くん。こっちこっち」

 春川先輩が僕に気付き、手を振り招いている。その眼はきらきらしていて、早く作戦の結果を教えてと言っているようだった。僕はそんな様子の先輩を見てたじろぐ。しかし、ここまで来たのだから正直に話そうと心に決め、先輩のもとへ向かう。

「で、どうだった?」

 案の定、聞いてきた。僕は正直にすべてを話した。

 すると、どんどん先輩たちの顔が憐れみの顔になっていく。そして話し終えると、

「ドンマイ」

 二人の先輩はそう言って、僕の肩に手を置いた。何だろう、この励まし方はどこかムカつく。あと、憐れみの目で僕を見るのもやめていただきたい。悲しくなってくるではないか。

「ドンマイ」

 二回言った…本当に悲しくなってきた…

「で、でも、よかった。本当によかった」

 春川先輩が満面の笑みで言う。話の流れから何がよかったのか全然わからない。僕は首をかしげながら、尋ねる。

「何がよかったんですか?むしろ失敗してるんですよ」

「違うの。確かに、話しかけて友達を作ろう作戦は失敗しちゃったけど…奥村くん、ちゃんと話しかけれたじゃない。それが嬉しくて」

「そうですね…緊張はしたけれど話しかけれました。そうか…僕、出来たんだ」

「うん!すごい、すごい。ね?友」

「あぁ、すごい進歩だよ」

 二人が僕を褒めてくれる。僕はだんだんとうれしくなってきた。

 あれだけ、話しかけることを躊躇していたけれど、やってみると簡単なことだった。きっとぎこちなかったと思う。それでも出来たのだ。そう思うと、今まで一人ぼっちに自分の殻に閉じこもっていた自分を情けなく思う。まぁ、あのときは仕方がないと言えばそうなのかもしれない。でも、いいわけでしかないだろう。状況を打破する努力をせずに逃げた自分へのいいわけだ。これからは違う。そうありたいと思う。今の僕は、ちょっぴり自信がついた僕である。何とかなりそうな予感がする。これも、おせっかい姫のおかげ?なのかもしれない。

 すると、春川先輩が僕の頭に手を伸ばしてきた。何をされるんだと身構える僕だったが、その手は優しく僕の頭の上に置かれた。そして優しく頭をなでてくれた。

「よくできました」

 そう言いながら春川先輩は頭をなで続ける。僕はというとちょっぴり恥ずかしく、顔を赤らめている。そんな様子を眺めていた立花先輩が、急に割り込んできた。

「ほのかはやさしすぎるんだよ。こうしろ、こう」

 立花先輩はいきなり僕の頭の上に手を置くと、力任せに思いっきり頭をなでた。その勢いで僕の頭はぐわんぐわん揺れる。案の定、僕の髪はぼさぼさになる。

「なんだ、その頭は」

「立花先輩のせいですよ」

「悪い悪い。でも、よかったよ。いい笑顔だった」

「えっ……?」

「ほのかに頭なでられているとき、奥村、笑ってた。最初に会ったときは、死んだ魚みたいな目だったからな」

 僕自身、自覚はなかったが笑ってたようだ。確かに最初は一人ぼっちだったから、笑うことはなかった。だってそうだろう、一人で笑っていたらそれこそヘンな人である。そうか、笑っていたのか…誰かと一緒に笑えるのは、本当に素晴らしいことなんだ。改めて気付かされた。

「ありがとう」

 僕は心からそう思い、口にした。

 二人はきょとんとしている。

「えっと…なんか照れちゃうね。ねぇ、友」

「あぁ、そうだな」

 そして春川先輩と立花先輩はお互いの顔を見たと思ったら、いきなり僕に抱きついてきた!しどろもどろする僕!

「がんばろうね、奥村くん」

「もう少し付き合ってやるよ、奥村」

 空の夕焼けと同じように赤い顔をした僕は、か細い声で答えるのが精いっぱいだった。

「…はい…お願いします…」



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