第八話 知らぬが仏
8/31 PM9:40 紅の部屋
『あ~・・・も~ダメだ~......』
ベッドにうつ伏せになり、枕に顔を埋めて唸っている。
<そんな...世界の終わりみたいに言わなくても...>
『うぅ...だって、転校生って絶対に最初は自己紹介しなくちゃいけないんですよ!そんなの“僕”には耐えられませんよ!...はぁ...鬱だ...死のう......』
<いやいやいや!たかが自己紹介が嫌だからって死ぬ事はないんじゃ...それに口調が変わってますよ?何て言うか...イイですね!>
『フハハハ!......はぁ、ダメだ、今はそんなキャラ作っていられるほどの余裕は残っていないです...すみませんが、少しだけ一人にさせてもらってもいいですか?』
<え?...え、えぇ、いいですよ...>
朱祢ちゃんがベッドから立ち上がり、部屋中をウロウロといったり来たりしている。
ここは大人しく退散しときますか、私も大人ですからね。
PM9:45 2階廊下
<う~ん・・・気になる...何故朱祢ちゃんのしゃべり方が変わったのか...気になる......そんな貴方に!これ!!「ジャンクショーン!!」>
説明しよう!「ジャンクション」とは、怨霊「朧」と少女「朱祢」が使える霊の力である!これを使うことで朱祢は他の人の視界をジャックすることができ、朧は記憶を覗き観ることができ、その記憶の世界に入ることもできるのである!名前は朧が考えたらしい。
<ふっふっふっ、それでは早速、覗き観るとしますか>
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『ここのポゼッションのスウィーーーツはあああああ!?』
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<違う...>
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『春斗が下ネタ連発でウザイけど...僕は元気です...』
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<僕っていってるけど、これは、そういうノリだから、違うわね...>
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『圭お兄様!』
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<お!おぉ!キターーーーー!!なにこの子!ちょーカワイイー!!ぐへへ...もっと近くで見るために早速中へ、じゅるり...>
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『圭お兄様!圭お兄様!どこですかー?圭お兄様ー!......ぐすっ、圭、お兄様ー...』
『ちょっ!紅!泣かないでくれ!俺が悪かったから!紅があまりにも可愛かったからちょっとイジワルをしたくなったというか...その、本当に悪かった!!』
高校3年生くらいの男の人が、小学6年生くらいの男の娘(いや、男の子か...)に土下座をしている。
『圭お兄様のバカ...何処にも行かないって言ったのに...』
女物の服(制服のようなもの)を着た紅が、圭と呼ばれている兄に抱きつき、涙目になりながら兄を弱々しく叩いている。
『いてて...ははは!悪かったって!ごめんごめん、だって、家族に敬語で・お兄様・さらに女の子のような容姿、完璧じゃないか!...キスしていいか?』
なんだ、ただのお兄様だったか、それに、いくら兄が好きだからってキスはねぇよ、ねぇ、
『お兄様なら...その...いいですよ...?......なんて言うとでもお思いですか!?いくらお兄様でも許しませんよ!!』
『なに!?紅!?いつからそんなに冷たくなったんだ!兄さんは悲しいぞ...』
『いつからと聞かれれば...そうですね...僕に敬語とお兄様と呼ばせた時からですかね、あと、この女の子用の服を着せてからもですかね?』
『っ!ちくしょーーーー!!』
圭が全速力で駆けていく。
ダメだこいつ、早くなんとかしないと危ない奴になりかねない...
『あ!!待ってください!嘘です!!嘘ですよーー!!・・・行っちゃった...ぐすっ...圭お兄様ーー!うっく、うぅ』
<あーあ、また泣かせて...「ずっとそばにいる」っていう約束はどうなってるんだか...仕方ない、ここは私が!姿を見えるようにしてなぐさめ――?誰こいつ?>
紅の目の前に、明らかに「不審者です」と言わんばかりの怪しい男が寄ってきた。
『ふへっ!...ね、ねぇ、君一人?フヒヒ...よ、よかったらおじさんと遊ばない?ヒヒ』
キモ!ウザ!、何なんだこいつ、今すぐにでも張り倒してきたい、だいたい、こんな怪しい人と遊ぶ訳ないだろうに。
『え?...あの、えっと...あぅ...』
『遊ぶの!遊ばないの!どっち!!』
キモイうえに短気かよ、救いようがねぇな、はやく...お!あれは!。
『ちょっとおじさん...あまりうちの“弟”に話し掛けないで頂けますか?耳が腐ります』
圭が紅と不審者の間に割って入る。
なんだ、格好いいとこもあるじゃん。
『な、なんだお前!...え?弟?......男なのか!?』
『わかったらさっさとどっかに消え失せろよ、ホモ野郎』
ホモ野郎が怒り狂いながら奇声を発して逃げていく。
『紅!大丈夫か?何か変なことされなかったか?』
『うわーーん!!圭お兄様ー!!ごめんなさい!!ごめんなさい!!』
『な、何で謝るんだよ、お前は何も悪いことはしてないんだから』
『ぼ、僕、圭お兄様に...ひ、ひどいことを言って、それがずっと心残りで、謝りたかったけど、お、お兄様がどっかに行ってしまって、僕、嫌われたと思って、それで、怖くて、ぅう、うわーーーん!!』
紅は一気に喋り終えると、圭に抱きつき大きな声で泣いた。人の目も気にせずに。