第六話 足は痺れるもの
『あれ?何処だ、此処......』
見渡す限りの平原......ではなかった。何だあれ?巨大な工場?なにはともあれ、こんな自然だらけのところにあんなメカメカしいものはいらないな、よし、壊すか......どうやって?というより何故そう思ったんだ、俺は...
『お?おお!?足が......勝手に......うわーーー!!』
速い!速すぎる!これが音速というやつか......ん?音速?...って道がない?!ど、どうしよう!ジャンプするしかないのか!?
『ええい!ままよ!』
俺はおもいっきり地面を蹴った。
下には奈落が続いている...落ちたら死んじゃうのかな...あと、なんだろうこのaボタン、見覚えが......
グッド!
『グッド?』
グレート!
オーサム!
アウトスタンディング!
アメイジング!
****
『アメイジングじゃねえ!』
大声を上げて起きてしまった。
誰かに聞かれでもしたら......
『あっ!お姉ちゃんおはよう!』
『凛か...俺の部屋でなにをしている?』
『ん?ゲームだけど?なんで?』
ああ...だからあんな音速で走れる夢を見たのか...最後は工場の壁にぶつかったし......よし、動揺してるのはばれてないな。
『いや、俺の部屋でやるなよ...』
『いや~お姉ちゃんの目覚ましにもなるかなって...どう?私すごいでしょ、ん?すごいと思ってるよね~、ねー、ねー』
『はいはい、凛は人を起こす達人ですねー』
きゃー、お姉ちゃんに誉められたー!、と上機嫌でゲームを続行している妹を横目に俺は姿見を覗いた。
そこには寝癖ではねた水色の髪が膝まで伸びた少女がこちらを眠そうな目で見つめていた。
『やっぱり女のままか...あ、目が光ってない、よかった...』
『お姉ちゃん、なんか手紙みたいのがあったけど...朧って誰?』
『手紙?...って読んだんかい!』
勉強机の上に一枚の紙が置かれていた。
【西沢朱祢様へ。 『朱祢って言うな!』
この度は取り憑かせていただき誠にありがとうございます。
この手紙は朱祢ちゃんが寝ている間に勝手ながら体を使わせていただき書いたものです。
昨日お伝え出来なかった事をここに書き残します、まず、私は七時以降でなければ姿を現せられません、ですが朱祢ちゃんが使える「霊視」を使えばいつでも会えますよ、それから目が光っているのを止めたい時は目を閉じて「帰依」と念じるか、一時間ほど待っていただくと自然と止まります、あ、そうそう、目が光っていると暗いところでも明るく見えますよ。
色々伝えたい事がありますが、続きはまた今夜に。
朧より。】
『ねー、この朧って人誰ー?それと、お姉ちゃん目が光るの!』
視界の端から凛がニヤニヤしながら顔を覗いてきた。
『いっとくが彼女とかじゃないぞ、ただの友達だ、友達、あと目は光らないからな』
『ほんとにー?じゃあ、いつこの手紙を書きに来たの?』
確かに、友達なら夜中に人ん家に入って来るなんてあり得ない。
『い、いいからお前はもう下行ってろ!』
『あっ!誤魔化した!やっぱり彼女とかでしょ!』
『んなわけあるか!だいたい今俺は女なんだからダメだろ』
『そんなことないよ?女同士だって愛し合ったり......』
『はいはい!いいから出てった!出てった!これからお兄ちゃんは着替えるから、さぁ、さぁ』
『ちょ!お兄ちゃんじゃなくておねえ...』
ゲーム途中の凛を部屋から押し出して、いつもの部屋着に着替えた。
AM 9:40 玄関
『『『『『お邪魔しまーす!』』』』』
『うむ!よく来たな諸君!』
『きゃー!なになに!何なのその可愛い仁王立ちと口調!ねぇ!もっかい「うむ!」って言って!』
案の定、純が抱きついてくる、ここ、玄関だから、家族が見てるから......なんか後ろからシャッター音が聞こえるような......
『と、とにかく、みんな俺の部屋に行こうか』
****
『と、言うわけで、俺の名前が「紅」から「朱祢」に変わって、二学期からは転校生っていう扱いで学校に通う事になったんだ』
『へー、じゃあこれからは朱祢ちゃんって呼ぶね!』
『葵、お前もそう呼ぶのか...』
『も?』
『あー、やー……よ、よし!勉強をするぞ!』
『えー...まだ夏休み二日目だから遊ぼうよ、朱祢ちゃん♪』
『ッーー?!な、なんだ、全身に寒気がはしったぞ...春斗、お前は今まで通り紅って呼んでくれ......』
『春斗!てめぇ・・・』
『な、なんだよ!純には不快な思いはさせてーー』
『問答無用!!』
葵達が春斗を外に連れだしボコボコにしている。
>そっとしておこう 『紅!!助けてくれ!!うわーーーー!!』
~3時間後~
『ねぇ...朱祢ちゃん...いいでしょ...』
『ぁっ...ダメに...決まってるだろ...』
『どうして...?』
『どうしてって...ふぁっ...ダメなものはダメ...だ...』
『ねぇ...』
『んっ...!』
葵が俺の足に触れると足に激痛が走った。
『イッテー!ダメだって言っただろ!』
『わー!本当に痺れてたんだ!』
お腹も空いたし休憩にしようと、勉強を中断しようとしたが、葵が俺の足の痺れに気付き、本当に痺れてるのかどうか賭けをしていた。
『ふぁっ...くぅっ....』
『なんか、紅、辛そうだぞ?』
『春斗!てめぇ・・・』
『ええ!?ちょ!待て純!葵達まで!!話せばわか.......』
『問答無用!覚悟!!』
『うわ!!よせ!!紅!!助けてくれ!!う、うわーーー!!』
こんな奴らと学校生活を送っていたのか俺は...この先大丈夫かな...?
<あれ?私の出番...>