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第十五話 怪談話は霊を呼ぶ

工事前と前半が変わってます。

『ん…』


『お、やっと起きたか』


『はると……くん……?』


 覚醒しきっていない頭で今の状況を確認すると、僕は春斗君の上に馬乗りで覆い被さる様に倒れている。それでも状況が把握できない僕は春斗君に何があったのか尋ねてみたが、春斗君も状況が把握仕切れていないようで、春斗君が覚えていた状況から考えると。

 おそらく僕が今日、学校が休みだと気付かずに何時もどおりに身支度を済ませ、朧さんの力を借りて春斗君の部屋に侵入し、春斗君を起こしたらなぜか、僕が急に泣き出してしまいそのまま春斗君の上で気を失ってしまった、と。

 これが、春斗君から聞いた状況を僕なりに考えたのだが――。


『これじゃ僕が春斗君に迷惑をかけてるだけ?』


 休みの日に朝早くから起こしに行くのも迷惑だと思うのに、その上泣き出して春斗君を困らせるなんて……。怒ってるかな、もしかしたら愛想をつかされてしまったかも、でも、春斗君なら許してくれる……はず。


 意を決して僕の頭を撫でながらテレビを見ている春斗君の表情を盗み見る。


 怒ってはいない……? むしろどこか嬉しそう、笑いながら怒ってるとか? いや、春斗君にそんな器用なことはできない。本当に怒ってないってことかな?

 一人で考えていても埒が明かないので春斗君に怒っているかどうか聞いてみると、「なんで?」と返されてしまい、あまりの素っ気なさと自分の思いを踏みにじられたような気がして体から力が抜け、ベッドの空きスペースに転がり込む。


『春斗君……』


『何だ?』


『殴っていい?』


『駄目だ』



 蹴りました。





『悪いな、母さんが朝早くから出掛けてる日は毎回朝食作ってもらって』


『全然構わないよ、それに小母(おば)さんがね、「あの子は朝食作らなくても何とかなるでしょ、紅ちゃん、暇なときでもいいから作ってあげて」って昔頼まれたことあるから』


『作らなくていいって、それが実の息子に言う台詞かよ』


『義理の息子だったりして』


『いや、それは……あるかもしれない』


 他愛ない会話をしながら僕は朝食を食べている春斗君越しに外を眺める。

 長袖を着て出たら発火してしまうんじゃないか、というくらいに外は暑そうだ。時々通る子供達は額に大量の汗をかきながらプールで何をしようか楽しそうに話し合っている。それに比べて室内に居る僕たちはエアコンがあるおかげで少しは快適にいられる。あらためてエアコンを作り出した人に感謝しなきゃと思う。


『家ん中は涼しいけど、外見るとなんか暑くなってくるな』


 いつの間にか食事を終えた春斗君が僕の後ろに移動して僕の髪をいじりながらそう言った。


『たしかに、陽炎かげろうが暑く見せ――陽炎がすごい!?』


 さっきは手前ばかり見ていたけど、あらためて遠くの景色を見ると目に見えるものすべてが大きく揺れており、この世の終わりなんじゃないかと思えるほどだ。


『あの陽炎を見てるとアレに見えてくるかな』


『だろ! 暑いっていったらアレしかないよな』


 春斗君もアレに見えるようだ。同じ心霊研究部なだけはある。


『せーの!』


『怪談!』『プール!』


 どうやら違っていたみたいだ。さっきの子供たちもプールに行くとか楽しそうに話していたからきっと影響されたのだろう。行かないけど。


『水泳部?』


『心霊研究部』


『それじゃ、部員を呼ぶね、春斗君も何か話してもらうから』


 僕の髪をいじっていた手が弱まっていく。さすがに可哀想かな……。


『俺の意見もたまには採用してくれてもいいんだぜ?』


逢魔(おうま)が時に行って来れば?』



 それでも春斗君をからかってしまう、許してくれるのを知っているから。







「というのが今までの出来事かな? 何か聞きたいことある?」


 部員全員と、来る途中に出会ったという動画撮影部部長、雛森伊折も加わり、みんなで怪談を話す前に夏休みから今日までの出来事を振り返るになり、僕が総括として一通り話し終えると、みんなが夏休みの思い出を楽しそうに話し合って盛り上がる。僕としては体が女の子になったショックで活動が何一つ出来なかったのが不満だったかな。


「さて、何を話そうかな――ん?」


 みんなが楽しそうに語り合っている横で八雲由紀が僕のことを不思議そうな眼差しで見てくる。


「なに? 顔に何か付いてる?」


 僕がそう言うと、少しうつむき何かを呟いている、何を言っているのか気になり八雲君の近くによる。


「何かが変わった。なに、いったい何が……」


 変わった? 一体何を言っているんだろう? まあ、八雲君は霊感が強くて僕達には見えないものが見えるらしいから、きっと僕達には関係ないことかな。

 さて、と一段落入れてから本題の怪談話に移ろうとしたとき、村沙くんが目を輝かせながら訊ねてきた。


「ね! ね! どうして一人称が何時もの「俺」じゃなくて「僕」だったの、女の子が無理して俺って言ってるような感じもよかったけど、僕って言ってるのもちょー萌ゆる!」


 も、萌ゆる……? かわいいって意味なのかな? いや、今はそんな事よりも村沙君が言った一言だ。一人称が「僕」になってる? そんなはずは無い、だって僕は家族や春斗君、心の中以外では俺って言うように心がけている……はず。春斗君に「変わってないよね?」と聞くと、春斗君は目をそらして「残念ながら……」というような表情をする。


「そんなはずは、ぼ……俺は――」


 例えばの話。それは目の前で少女が純粋な眼差しで僕の返答を待っている時の話。恐らくこの子は深い意味は無くなんとなく聞いてきているのだろう。と思いつつ、自分の事ながら答えられそうに無い問いに早くもこの後のことを考える。


「もしもーし、朱祢ちゃーん! 聞こえてますかー? ……最後の言葉は「ぼ……俺は――」でした。残念ながら朱祢ちゃんはお亡くなりに――」


「<――なってませんよ! もう、あまり不謹慎な事言わないでくださいよ。……でないと、枕元に出ますよ、私が……>」


「あはは、ちょっと不謹慎だったね、ごめんごめん」


「<次からは気をつけてくださいね! まったく >」


「はーい! ……って、あなた誰?」


「<誰って、私は――>」


 さっきまでの賑やかな雰囲気とは打って変わって場は静まり返り、怪訝な顔をしてみんなが私のことを見ている事に気付く。

困りましたわ……、もう少し時間を稼いでおかないと|朱祢(この娘)が思考停止したままなのよね……、仕方ない、|朱祢(この娘)の代わりに自己紹介をして時間を稼ぐしかないわね。


 小さく咳き込み、張り詰めている空気を少し和らげる。

 ソファから立ち上がり先ほどまで日が当たってほんのり暖かい床に正座をする。そして床に両手を添えて、数秒頭を下げてから顔を上げ話し出す。


「<お初にお目にかかります、西沢朱祢に取り付いている怨霊、 朧 と申します。以後お見知りおきを>」


 私が名乗り終えると数秒の沈黙の後みんなが一斉に私に詰め寄り質問をしてくる。なるほど、昨日の朱祢ちゃんはこんな気持ちでしたのね……、苦労させましたわ。

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