第十四話 親友以上の関係
9/2 AM6:00 弓矢家二階 春斗の部屋
『う~ん...、もう食えねぇ......Zzz...』
定番の寝言をしてアホ面で寝ている春斗......何かより部屋が気になる...、何でこんなに汚ないんだ?17年間ほとんどと言っていいほど毎日一緒に居て、春斗の部屋にも遊びに来ているのにこんなに汚かったことは一度もなかったはずなのに...。
『よし、片付け・・・いや、待てよ...』
一見、散らかっているように見えるこの部屋は、他人から見たらただ汚いだけの部屋なのかもしれない、しかし!部屋主からしたらこの状態は最高と言ってもいいほど片付いており、どこに何があるのか一目でわかるのかもしれない。例えば、ここに転がっているTVリモコン、これは一見ローテーブルから落っこちてそのままにしているように見えるがこれはベッドからも気軽に取れるように設置されている。
このように、迂闊に片付けをしてしまうと春斗の生活リズムが崩れ死んでしまうかもしれない......、あぁ、でも片付けたい...。
涎を垂らして幸せそうな顔をして寝ている春斗に馬乗りになり揺さぶり起こす。
『は~る~と~、お~き~て~、ね~ぇ~』
『ちっ、その喋り方うぜぇ、死ねクズ...Zzz......』
うざい?女の子に向かってクズ?まぁ?心は男ですから?それを分かっている上での発言なら許せ......ん、幼馴染みでもその発言は許せないよ!うざいならまだしも、クズって!クズって!幼馴染みの女の子が朝早くから起こしにきたら普通「ちょ、お前どうやって入ってきたんだよ!」とか「お前は朝っぱらから元気だな』とか!そういう他愛もない会話から始まる恋だってあるのに!・・・!?
『べ...別に、春斗の事なんか何とも思ってないし!何が恋だよ!!もぅ!』
『ぐふっ!』
恥ずかしさのあまり思わず春斗の胸に顔を埋める。
『ん~~~...』
『てめぇ...さっきから人の部屋で何やってんだ、殺すぞ...』
『んぁ~~~~...』
『お前頭大丈夫か?もしかして徹夜のテンションなのか?』
『んー・・・んはぁっ・・・春斗...汗臭い...最悪...』
ほっぺをムニーとされました...。
『片付けたいなら勝手にやってくれ...俺はまだおねむの時間だ...』
『おねむ......あ!そうだ思い出した、ここに来たのは掃除をしようとしに来たんじゃなかったっけ、えーっと・・・時計、時計...春斗の携帯でいいや、んしょ...』
『物を借りるときは本人に許可をとってから借りましょう』
『春斗、誰に言ってるの?...まぁいいや、えーっと...今は...』
時間を確認しようと携帯を開くも画面は真っ暗のままで、電源を入れると「充電してください」の文字を残し、また真っ暗な画面になった。
『ねぇ春斗、携帯っていつもどうしてる?』
『んぁ...?じゅうでん...』
『だよね?じゃあ、何で携帯動かないのかな?ねぇ、何でかな?』
怪訝な顔をしている春斗に鼻の先が当たりそうなまで近づいて、自分でも言っててムカツク嫌味を言うと、春斗が「何が言いたいんだこいつ?うぜぇ」と言わんばかりの溜め息を吐いた。ど...どうしよう...怒らせちゃったかな?
『紅...』
『な...なに?』
どうしよう...愛想つかされちゃかな......そういえば、春斗くんと喧嘩したことないっけ、謝らなきゃ...。
『あ...あのね、さっきのは冗談で...』
『重い...』
『え?』
『だから重い...どけ、内面デブ』
『内面デブ!?』
違った...さっきの溜め息は愛想をついたとかそんなんじゃなかった、ただ単に寝起きで機嫌が悪かっただけだった...、よかった。
『って、よかないわ!何だよ!内面デブって!』
『るっせぇなぁ...、甲高い声で喚いてんじゃねぇよ...、小型犬かよ...』
『こが...』
春斗くんに嫌われたかと思って色々不安になってたのに...、謝ろうとしたらただ寝起きで機嫌が悪かっただけ、あげく内面デブなんて悪口まで...。
『うぅ...、うわぁーーーん!!』
『っ!?な...何だよ、何でいきなり泣くんだよ!おい!』
『うぇーーーん!!うっぐ...うぁーーん!...』
『あぁ!何なんだよ、どうしたらいいんだよ!』
俺が紅を泣き止ませようと奮闘していると、向かいの部屋の扉が開閉する音がして、音がした方に顔を向けるとそこには弓矢家長女、弓矢薫が目を輝かせてこっちを見ている。
『ね...姉さん...おはよう...』
『おはよーおはよー、うん、おはよー、うんうん、おはよー、うん、おはよー』
ダメだこいつ...、何か勘違いしてやがる...。
『あらあら、こんな朝早くから......、お姉ちゃんは味方だからね!男の子かな?女の子かな?』
『だから違うって!別にそんなんじゃねぇからな!勘違いしてんじゃねぇよ!』
『あら、そうなの?でも...』
『あ?』
姉さんは俺の股間...もとい、お腹に乗っかって姉さんが入ってきたことに気付かずまだ泣いている紅を見据えながら考え込んでいる。
『どう見てもはい――』
『もうお前出てけよ!!』
『っ!?...うぅ、うゎーーーん!!春斗くんこわいーー!!ぅえーーん!!』
姉さんに向かって怒鳴っているのに何故かお腹の上に乗っかっている紅が反応して泣き止んでいたのがさらに悪化してしまった。
『ねぇねぇ春ちゃん、ところでその子は誰だい?彼女......じゃないよね、だって、春ちゃんは私のものだから...』
『さっきと言ってること違うじゃねぇか!』
『冗談冗談、で、誰なの?』
『あ?えーあれだ、お前が愛してやまない男だった人...というかなんというか...』
『もう、やだ!春ちゃんったら!紅ちゃんは男の子よ、この娘は女の子じゃない、変なこと言わないでよキモイわよこの産業廃棄物以下』
『お、弟に言うか?そんなこと...いいや、教えるから紅あやすの手伝ってくれ......、実は......』
『へー、そんなことがあったのね...この娘が紅ちゃんだなんて...信じられないわね...』
『ほら、誤解が解けただろ、紅をあやすの手伝ってくれ...まったく、こいつは何しにここに来たんだか...はぁ...』
『あら?春ちゃんはこの17年間紅ちゃんの何を見てきたの?』
『厨二病』
『厨二病は...、ま、まぁとりあえず、紅ちゃん...もとい朱祢ちゃんを泣き止ませますか!』
そう言うと姉さんは一階に降りていき、手に苺のショートケーキを持って戻ってきた。
『ふっふっふっ、朱祢ちゃんを泣き止ませるなんて朱祢ちゃんをお姫様だっこするより簡単なのだよ!』
『基準がわかんねぇよ!』
『まぁ見てなさいって、朱祢ちゃーん!』
『ぐすっ、んぅ?あっ...!ケーキ!』
『欲しい?』
『ほしー!』
『食べたい?』
『たべたーい!』
『泣き止んでくれる?』
『うん!』
『私のこと好き?』
『好き!大好き!』
「私もー!」と紅にケーキを渡す。てか、俺のお腹の上で食べないでもらいたいな...、重い...。
『あれ?「途中変なこと言ってる!」ていうツッコミは?』
『あ?あぁ、はい』
『はいって何!?ねぇ春ちゃん!?』
『うるさいなぁ...、さっさと大学行けよ』
『やーん!冷たいー!朱祢ちゃんなんとか言ってー!』
『ぁっ...、お母さんと同じこと言ってる...』
「うわーん!まだ若いもーん!」と泣きながら春斗くんの部屋から出ていく薫さん。いつから居たんだろう?部屋から出ていくならお皿とフォークも持っていってもらいたかった。
『さて、紅はこんな朝早くから俺の部屋に何しに来たんだ?泣きに来た訳じゃないんだよな?』
『は!そうだった...春斗くん・・・すぅ、はぁ、おい春斗、今何時だ?』
『知らね、この部屋には時計何てもの置いてないからな、時間は携帯かテレビで確認してるし』
『っ!テレビ!リモコンは?...あった!よいしょ...!』
『そんなに焦ってどうした?今日は何かあるのか?』
急いでテレビをつけて時間を確認すると時刻は丁度7時になったばかりだった。あぁ...、折角朝早くに起きて学校にゆっくり登校しようとしたのに...。
体から力が抜け、春斗の少しだけ筋肉のある胸を枕にして瞼を下ろす。
『・・・あ~...なんだ...、お前が何しに来たか大体わかってきたわ...とりあえずお前はカレンダーを見ろ』
春斗がようやく僕がここに来た意図を分かってくれたようだ、といっても僕自信も少し忘れてたけど...。とりあえずカレンダーを見ろと薦められている以上見ないわけにはいかない。閉じた目を再び開いてすぐ右に掛けられているカレンダーに目線を移す。
『えっと...、今日は九月二日の土曜日......土曜日!?』
『やっぱり気づいてなかったか...そう、今日は休日なんだよ』
あまりのショックに僕はそのまま意識を失う。