第九話 幽霊だって嘘をつく
<あれ?ここは......?>
周りを見渡してもどこまでも続く真っ暗闇の中にぽつんと朧だけが立っていた。
<おかしいわね、私は今、とても感動的な兄弟愛を見ていたはずなのに、急にノイズみたいのがはしったと思ったら、こんな何もない真っ暗な所に出てきて......もう!続きが気になるじゃな――>
【朧、こっちに来なさい】
続きが気になって文句を言っていた朧の頭の中に、とても冷たい女性の声が響き渡り、体が勝手に動き出す。
<あー...バレちゃったかな...どうやって誤魔化そう......>
朧は勝手に動く体に身を任せ、紅の記憶を覗いていたことをどう誤魔化すかを考えた・・・。
****
『おかえりなさい』
<た...ただいま......>
が、ダメ......結局何も思い浮かばず、紅の前に正座をさせられている。
『どうですか?僕の【手招き】、上手くなったでしょうか?』
【手招き】
朧と朱祢が使える霊の力の1つ。
これを使用すると、何処に居ても、朱祢の元に来てくれる。
<えぇ!それはもう!私の体が朱祢ちゃんの元に行きたいと、疼くほどでしたから!>
『本当ですか!わぁ!本当の幽霊に誉められると嬉しいですね!』
<そ、そうですか...私も誉めたかいがありました。>
あれ?もしかして記憶を覗いていたこと、気づいてないのかな?よし!それなら黙ってれば・・・
『楽しかったですか?』
<え?>
『ですから、僕の記憶を覗いて、楽しかったですかと聞いているんですよ?朧さん?』
満面の笑み......なのに、目が笑っていないんですが...これは多分......殺らなきゃ...殺られる。
<すいませんでした!>
土下座だ、ここは素直に謝って土下座をすれば許してくれると、誰かが言ってたような...
『どこを見ていたんですか?』
<え?、え、えーっと...そう!朱祢ちゃんが女の子用の服を着せられてた所です!>
『本当ですか?』
<武士に二言はない!>
『ふーん...』
嘘って気づいてない?誤魔化せた?...ふぅ...よかった......よし!このまま話を反らせば...
<いや~!それにしても子供の時の朱祢ちゃんは本当に可愛かったですよ!本当に男の子なのって疑うほどでしたから、もしかしたら本当は女の子だったとか!いや!そうに違いないだって――>
『も...もういいですよ!そんなに言われると、その...恥ずかしいです......』
勝った!
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『よし!僕、決めました!明日、ちゃんと学校に行きます!』
あの後、朱祢ちゃんはまた「学校に行きたくない」だの「自己紹介したくない」と悩んでいたが、急にベッドから立ち上がり、何か吹っ切れたようにそういい放った。
<お~!遂に行く決心をしましたか!えらい!>
『いや~...朧さんに女装をさせられた姿を見られたら、自己紹介とかどうでもよくなってきちゃって...』
<吹っ切れたわりには、一人称が「僕」のままですけど?>
『嘘です!ごめんなさい!自己紹介とかどうでもよくないです!助けてください!』
<はぁ...仕方ないですね、明日は私に任せてください>
『本当ですか!ありがとうございます!でも、それって、罪滅ぼしですよね?』
<うっ!・・・で、でも、途中で朱祢ちゃんに記憶を閉ざされて少ししか見てませんでしたし>
『でも、見たんですよね?』
<はい...見ました...>
この子、恐ろしいわ......これからは慎重に記憶を覗くとしよう。
『それじゃ、明日に備えて今日はもう寝ましょうか』
<そうですね、おやすみなさい>
『はい、おやすみなさい』
就寝時間、深夜1時40分