表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
あの星空の下で  作者: 神城 奏翔
改正後
32/38

第5話 秘密の場所

「それじゃ、これをもって終わりだ。最近の世の中は何かと物騒だから……全員、帰り道に気をつけろよ。と、言い忘れるところだった。お前ら出来るだけ部活には入るように。以上、解散」

 帰りのSHRを短縮して終わらせた川村先生は、言いたいことは言い切ったのか、帰る準備を済ませ、勝手に教室から出て行った。

 この先生は新しいクラスの担任となっても、全然かわんねぇな。

 ちょっとぐらい変わってもいいはずなのに……。他人任せなところとか、いつもと同じだわ。

「んーっ」

 新しいクラスになって一日しか経っていないのに、ここまで疲れるとか。

 絶対に最後の体育で走らされたのが、原因だろう。

「……兄さん」

 背伸びをしていると不意に声をかけられた。

 この聞きなれた声と呼び方は………。

「んっ? あぁ、優奈か。どうした?」

「今日、家に理恵さんを呼んでもいいですか?」

「別に良いけど、理恵さんって誰?」

 俺がクラスに来たのが一日、遅かったせいでみんなの自己紹介が聞けていない。

 つまり、顔と名前が一致しないというわけだ。

「佐倉理恵って言って、朝、兄さんがキスした相手ですよ」

 ――ああ、あの遅刻してきた子か。

 そういえば、キスしてしまったことを謝らないといけないな。

 悪気はなかったとはいえ、女の子からすると好きな男とキスはしたかっただろうし。



「いいぜ。呼んでくれても」

「はい、ありがとうございます兄さん」

「気にすんなっつーの。じゃ、俺はスーパーに寄ってから帰る」

 鞄を持った手を肩にかけるようにして持つ。

 ……夕食、俺と優奈だけでないなら品数を増やしたほうがいいのかな。

 確かリクエストの品は、親子丼だったよな。外食したときに親子丼を頼むと、メインの親子丼以外に何がついてきたっけ。漬物がついてきたことは知っているんだ。

 ついてきたとして可能性はあるのは、味噌汁か赤だしかな。

 それじゃあ味噌汁でいいかな……。

 ――じゃ、今日のメニューは親子丼に味噌汁に漬物で決定だな。

「てか、佐倉は和食でいいのか?」

 あれから一度も話していない彼女のことを考えたが、優奈が何も言わないのであればいけるのだろう。急に洋食を作れるように洋食の材料も買っておくといいかな。

 今回、使わなくても明日から使うことも出来るし。

 冷蔵庫のなかの材料の残り具合だと……オムライスは確実に出来るな。

 卵が足りるかどうかわからないが、今のうちに買い足しておけば十分だ。後はサラダでもつけていたらいいだろ。

「……おっと、通りすぎるところだった」

 夕食をどうするか考えていたら、いつの間にか店の前を通り過ぎかけていた。

 出来れば佐倉には、美味しい料理を食べて欲しいからって、本気を出して失敗したらダメだよな。

 とにかく、自分が作れる料理の材料を買ったらいいかな。

 ……親の仕事を手伝って、かなりのお金をもらってるから余裕あるしな。



「ただいま」

 玄関の扉を開け、挨拶をしてみるが返事がなかった。

 しかも優奈が登下校に使っている皮靴もないし、二人で寄り道してるのか?

「まぁ、いいや。優奈達(あいつら)がいない、今のうちに晩御飯を作っておくか」

 どうせいつかは帰ってくるだろ。

 帰って来たときに食えるように、俺は作っておくだけだ。


ーーSide out




優奈Side


 私は今、理恵さんと一緒に街中をうろうろしていた。

 兄さんに一言かけることなく、私達は街中で買い物を楽しんだ後、とある場所に向かっていた。

 ――なんでも、私に対して話したいことがあるみたい。

 だけど、こんなところでは話したくないから、人通りの少ない秘密の場所とやらで話すらしい。


「……やっぱりこの辺りって、いい景色よね。まだ星は出てないけど」

 そして私達は無事に、その目的地についたのだが。

 私は動揺しまくっていたことでしょう。何故、彼女がこの場所を知っているのか。

 普通の人なら入ることすらない無人な場所。

 ここに来るまでの道程に、【この先、立ち入り禁止】という立て看板を置いている。

 なので、普通の人が立ち入ることはない。だが、理恵さんは迷うことなく入っていった。

 つまり事前からこの場所のことを知っていたことになる。

「理恵さん? どうしてこの場所を知ってるんですか」

 私ですら知ることのなかった秘密の場所……、教えてくれたのは兄さんだった。

 だからここは、兄さんと私だけの秘密の場所だったのに……。

 どうして理恵さんがこの場所のことを知っているの。

「10年ぐらい前に教えてもらったのよ。とある男の子にね」

「………」

 その男の子って、もしかして……。

「でも、それ以来、その男の子とは会えなかったの」

「……なんでですか?」

「その男の子は、引っ越したみたいで会えなかったのよ」

 ――やっぱり、その男の子は兄さんだ。

 私は理恵さんの話を聞きながら、そう思った。


 私達はこの秘密の場所からかなり近い場所に住んでいたのだけど、

 両親の仕事の関係上引っ越すことになり、この場所から遠く離れた今の家に引っ越したのだ。

 それが10年前、理恵さんのいう男の子がいなくなった時期と同じ。

 家から学校は近いのだけど、ここに来るには30分ぐらいの時間がかかる。

 今の年頃なら来ることは出来るけども、子供のときでは来ることすら出来ない。

 どちらかと言えば、両親が許さないだろう。


 ……私にはもう、理恵さんがいう男の子が兄さんだとしか思えなかった。



「……今日、優奈のお兄さんを見たとき、その人にそっくりだったの」

 理恵さんが言い終えた直後、胸が締め付けられるような感覚になった。

「優奈、知ってたら教えて。昔、この近くに住んでたことあった?」

 この質問に正直に答えると、【はい】だ。

 だけど私は――。

「いえ、住んだことないですね。この星空が綺麗に見える場所のことは知ってましたけど」

 理由はそう、私が言いたくなたかったからだからだ。

 ……というのも、私のなかにある想いに嘘をつきたくなかったという自己満足のために嘘をついた。

「そう、じゃあ人違いね。ごめんなさい、急にこんな話をしちゃって。……さて、帰りましょうか」

「そうですね」

 それからはくだらない話をしつつ、帰路を歩く。


(……ごめんなさい、理恵さん。だけど、この気持ちに嘘はつけないから)

 心の中で嘘をついてしまった理恵さんに謝りながら、新たに決心をする。

 ――もう、余裕なんてものはない。

 この気持ちを偽ることなんて出来ない。



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ