第二話神圧
第二『神圧』
朝日が訓練場を照らす。
木槌がぶつかる音。
兵士たちの掛け声。
金属同士が擦れ合う音が、武羅江の朝に響いていた。
「整列!」
低く、それでいてよく通る女性の声が響く。
兵士たちは一斉に背筋を伸ばした。
エミュール・アドラーも慌てて列へ並ぶ。
「危ねぇ……。」
「全然危なくない。」
横から冷たい声が飛ぶ。
リリア・ヴァンシアだった。
腕を組み、呆れたような表情でエミュールを睨んでいる。
「一歩間違えれば遅刻よ。」
「間に合ったんだから結果オーライだろ?」
「そういう問題じゃないの。」
二人が言い合っていると、
コツ――コツ――
軍靴の音が静かな訓練場へ響いた。
兵士たちの表情が引き締まる。
現れたのは、一人の女性。
鮮やかなピンク色のポニーテール。
緑色の瞳。
凛とした空気をまといながら歩くその姿には、一切の隙がなかった。
「全員、前を向け。」
その一言だけで、訓練場は静まり返る。
彼女の名は――
ガーネ・レドナップ。
二十七歳。
武羅江軍・斧士団の教官である。
「今日の課題は、神圧制御。」
「能力は強ければ強いほどいい……そう思っている者は甘い。」
ガーネは静かに右手を掲げる。
「石解。」
その瞬間。
彼女の背後に、三つの黄色い隕石のような石が現れた。
空中でゆっくりと回転する。
兵士たちが息を呑む。
「能力名――」
『雷石借』。
黄色い石から一筋の雷光が走る。
ドォン!!
訓練場の端に置かれた鉄柱が、一瞬で真っ二つになった。
「すげぇ……。」
エミュールが思わず声を漏らす。
ガーネは振り返りもしない。
「能力だけに頼る者は、必ず死ぬ。」
「重要なのは、神圧の管理だ。」
「神圧が尽きれば、石解は暴走し、やがて身体は痙攣を起こす。」
訓練場の空気が張り詰める。
「今日は模擬戦だ。」
ガーネはエミュールを見る。
「エミュール・アドラー。」
「はい!」
「前へ。」
「お、おぉ!」
エミュールは前へ出る。
「相手はリリア・ヴァンシア。」
「またアンタ?」
「文句ある?」
「いや、負ける気しねぇ。」
リリアはため息をついた。
「その自信だけは一流ね。」
ガーネは腕を組む。
「始め。」
その瞬間だった。
エミュールの右手から、蒼と黒の糸が空へ走る。
ピィィン……
糸が震えた。
澄んだ音色が訓練場に響く。
兵士たちが驚いたように顔を上げる。
「また速くなってる……。」
リリアが目を細める。
エミュールは笑った。
「まだまだこんなもんじゃねぇ!」
青い糸が空を裂く。
黒い糸が地を這う。
二色の糸が交差した瞬間――
ガーネの口元がわずかに緩んだ。
「面白い。」
しかし、その笑みはすぐに消える。
「……来る。」
彼女は西の空を見つめた。
その視線の先には――
武羅江の国境。
西隣の国家、
**破蛙**の方角があった。




