見合いを断った相手が毎日会いに来る件
「見合い、ねぇ」
釣書には軍服姿の男が写っている。黒髪黒目。男の名はアイザック・オルフシュタインというらしい。プロフィールには身長190センチと書かれており、写真だけでもかなりガタイが良いのがわかる。俺の父であるハリフォーク中将の部下で、最年少で大佐になったともっぱら評判だ。おまけに容姿も申し分なく、女性から見合いの申し出が後を断たないらしい。
そんな誰もが結婚したい男との見合いに、残念ながら俺は死ぬほど乗り気じゃない。
数年前、貿易会社を立ち上げた。
軍人である父と違い、俺は運動神経はあまり良くなく、体術や剣術を習ってもどれも鳴かず飛ばずのレベルだった。人間には向き不向きというものがあるということを、俺は幼いながらにも学んだ。
軍人になる以外に、なんとか自分で生きていく手立てが必要だったので、学校を卒業してすぐに俺は貿易会社を設立した。最初は小さな会社だったが、ここ最近になってようやく軌道に乗り始めてきた。
将来的にはもっと事業を拡大させたい。だから、こんな大事な時期に結婚なんて冗談じゃないんだ。
父はそんな俺の事情を知っているし、無理に結婚を強いるような人でもない。だが、今回の見合い相手にだけは会ってやってくれと懇願された。父の頼みだから仕方なく受け入れたが、結婚するかどうかは別の話だ。このアイザックとかいう男には悪いが、適当に断らせてもらう。
写真を見る限り顔は良いみたいだし結婚相手なんて腐るほどいるだろう。
今回はご縁がなかったということで、さっさと帰ってもらいたいものだ。
***
「初めまして。カール・ハリフォークと申します。どうぞお見知りおきを。」
「アイザック・オルフシュタインです」
父から紹介を受けて、挨拶をする。
写真で想像していたよりも大きく、平均的な身長の俺は見上げる形になる。
アイザックはにこりともせずこちらの目をじっと見つめていた。
差し出された手を取って握手するが、ごつごつとした男らしい手だ。こんな拳で殴られたら一発で瀕死だろうな、なんて思いながら会話を続ける。
「父がいつもお世話になってます。」
「いえ、こちらこそ。」
「とても優秀な方だとお聞きしましたよ」
「どうも」
軽く世間話をした後、2人で話しておいでと父に言われ、彼を庭に案内する。一応、庭にある植物の説明をしながら歩くが、アイザックは庭をちらりと見たきりで、あとはずっと俺に視線を向けていた。
「ホルフシュタイン大佐は、今はどちらにご勤務を?」
「本部です」
「その若さで本部とは。どんなお仕事をされてるんですか?」
「機密事項ですので」
「ああ、失礼しました。ではお仕事以外のお話を。休日はどんなことをされるんですか?」
「特になにも」
いやコイツ会話下手かよ。一応見合いの場なんだから会話を盛り上げる努力ぐらいするべきなんじゃないのか。疑問文を返してこないから一方的にこちらが質問し続けるしかない。趣味とか仕事とか、初対面の人間にそんな聞きたいことなんかねえよと内心悪態をつきながらも、外面だけは笑顔を保っている。
父がどうしてもこの男には会ってほしいというから、何か特別な理由でもあるのかと思ったのだが、俺の考えすぎだったようだ。取引先でもあるまいし、ここらで切り上げたい。早いことお断りして、帰ってもらおう。
「いやぁ、今回のお話を頂いたときは驚きました」
「そうですか」
「ええ。実は私、数年前に起業しまして」
「存じてます」
「それは嬉しいですね。その事業がですね、今が頑張りどころというか。今は自分の時間を仕事に使いたいと思っているところなんです」
「そうですか」
「ええ。ですので、申し訳ありませんが、大佐のご期待には添えないかと」
「何がですか」
「……率直に申し上げますと、今回のお見合いはお断りさせていただきたいんです」
この言葉に返事はなく、アイザックは黙り込んでしまった。
まさかここまで速攻で断られるとは思ってなかっただろうから、動揺するのも無理はない。失礼な奴だと思われるかもしれないが、どうせもう二度と会わない人間だろうし、別にどうでもいい。父には後で適当に理由をつけて説明しよう、などと考えていたらアイザックが口を開いた。
「質問があります。」
「どうぞ」
「貴方が見合いを断る理由は、結婚相手として俺がふさわしくないからですか。」
こんな直球の質問をされるとは驚いた。もしそう思っていたとして、それを正直に相手に伝える馬鹿がどこにいるんだ。
「いえ、全くそういうことではなくてですね。先ほどもお伝えしましたが、今は仕事を優先したいと考えておりまして。」
「俺と会うのが嫌なわけではない、ということですか」
「ええ、もちろんです」
さっきまで一言でしか返事しなかったのが嘘みたいに、急によく喋るようになった。俺との見合いが破談になっても他のやつがいるだろうに、どうしてこんなに必死なんだこいつは。アイザックは視線をそらして考えをまとめているようだったが、数秒して口を開いた。
「では今回は保留ということにしてもらえませんか」
「と言いますと?」
「貴方の仕事が落ち着いた時に、もう一度見合いをさせてください。」
「えーっと…」
「貴方にお時間ができるまで待ちます。無理に結婚を迫ることもしません。」
「はぁ」
「ですから、これからも俺と会っていただけないでしょうか」
アイザックがなぜここまで引き下がるのか理由はわからないが、正直、この場で相手をするのも面倒になってきた。ここは適当に言っておいて、この先会わなければいいだろう。
「そこまでおっしゃられるなら、会うだけなら構いませんが...」
「っ!本当ですか」
「仕事がありますので、ご期待に添えるかどうか」
「問題ありません。ありがとうございます」
こちらの返事に満足したのか、アイザックは「今日のところはこの辺で失礼します」と言って帰って行った。なんとも癖のある男だったが、もう会うこともないだろう。父には適当に説明して、もしもう一度見合いを申し込んできても断ればいい。
***
翌日。職場での昼休み。
受付からお客様がお見えです、と内線があり、今日の面会のスケジュールを思い出しながら階段を降りていくと、受付には軍服を着たアイザックの姿があった。
「こんにちは」
なんでこいつがいるんだ?職場の住所とか教えてないんだが。
昨日の見合い相手が職場に突撃してきた場合、正しい対処法というのはあるんだろうか。
「ああ、貴方でしたか。どうかされましたか?」
「仕事で近くまで寄ったので」
「そうでしたか。それはご苦労様です。」
お前は軍の本部勤務だろ。つくならもっとマシな嘘をつけよ。時間があるときに会うのは良いと言ったが、事前連絡もなしに押しかけるのは迷惑だという発想にはならんのか。
カールは内心を悟られないようにニコニコとしながら、「どうぞこちらへ」と俺の執務室に案内する。顧客や社員が大勢いる前で余計なことを言われたらたまったものじゃない。
部屋に到着してから10分程経っただろうか。それにしてもこいつ、相変わらず返事が短すぎる。さっきからずっと俺ばかり話して、アイザックは「そうですか」「はい」以外の返答がない。
見合いをもう一度申し込むと言ったり、今日わざわざ職場に来てまで会いに来たということを考えると、アイザックは俺にアプローチしているということなんだろう。ほぼ初対面の俺のどこを気に入ったのか知らないが、人を口説きたかったらもう少し会話を頑張るべきじゃないのか?
彼ほど整った顔で地位もある男なら無口でもモテるのかもしれない。そもそも自分から動かなくたって、周囲から嫌というほどアタックされるだろう。黙っていれば上手くいく人生だったのかもしれないが、俺はそういうのは「舐めてるなこいつ」としか思えない性質だ。
「あの」
「はい?」
「一つ、お願いがあるのですが。」
俺の部屋に移動してから、初めてアイザックが6文字以上の言葉を発した。
「何でしょうか?」
「俺と話す時は、普段通りの口調で話していただけませんか。」
「…..え?」
突然職場まで押しかけて来て言うセリフがそれか!
一瞬何を言われたのかわからなかった。
「俺のことはどうぞアイザックと呼んでください。」
「はぁ...ですが大佐、突然そんな、」
「アイザックと」
「……..アイザック様、突然」
「アイザック」
なんでコイツこんなに押しが強いんだ。
「………..アイザック。急にそんなことを言われても困ります」
まだ不満なのか、じっと俺を見つめてくる。
「………急に言われても困るよ。」
ようやく満足したようで、嬉しそうな顔をした。
「俺の方が年下ですから。貴方のことはカールさんとお呼びしても?」
「もちろん構いませんよ」
「……」
「…..好きに呼んでくれていいよ」
俺がタメ口で話すとわかりやすく嬉しそうな顔をする。
何なんだこいつは。
「えーっと、用はそれだけ?」
「はい。忙しいところありがとうございました。」
今日はこれで失礼します、と言ってアイザックは帰って行った。
昨日の見合いの席で、時間があるときになら会っても良いと言ったがこんなに早く来るとは思わなかった。その行動力は賞賛に値するが、普通に迷惑なのでやめてほしい。
変なやつに懐かれたが、適当にあしらっていれば向こうから諦めるだろう。
***
なーんて思っていた時期が俺にもありました。
顔合わせから約3ヶ月、アイザックは飽きもせず毎日俺に会いにきた。前のように職場に来ることもあれば、家に直接来ることも多々あった。父の部下という立場を利用して、父の送迎だとか書類を届けに来たとか、何かと理由をつけて現れるのだ。
かといって長居するわけではなく、程々のところで「迷惑になるといけないので」とすぐに帰っていく。
最初は、「毎度ご苦労なことで」と冷めた感想しか浮かばなかった。
だか3ヶ月もこれが続くと、なんだか前とは違う感情が芽生え始めていた。
「この花、カールさんが好きだと聞いたので」
「ここのシュークリーム、美味しいんですよ」
「おすすめの店があるんですけど、一緒に行きませんか」
最初の方はおそらく緊張で上手く話せなかったのだろう。今となっては毎日毎日、趣味はなんですか、好きな食べ物はなんですかと質問攻めにしてくる。そして次の日には、俺が好きだといった菓子やら花を用意して持ってくるのだ。
正直、可愛い。
俺に気に入られようと必死になっているところもそうだが、俺がお礼を言うといつもはにかむように笑う笑顔も段々可愛く見えてきた。最近は街に一緒に出掛けることも増えてきたのだが、疲れていないか、どこか行きたいところはあるかと常に俺を気にかけてくれる。
個人的に一番気に入ったのは、必ず21時までには家に送り届けてくれるところだ。昔交際していた相手の中には、勝手に身体を触ってきたり、すぐにセックスに持ち込もうとする輩もいた。だがアイザックはそんな下心を一切出さず、セックスどころかキスもハグさえない健全なデートを続けてくれていた。
見合いなんて適当に断ろうと思っていたのに、今日はアイザックは何時に来るんだろう、次はどこに行こうか、などと考えてそわそわする自分がいることを無視できなくなっていた。
***
「オルフシュタイン大佐の見合い相手知ってるか?」
「確かハリフォーク中将の息子だろ?」
「そうそう。毎日媚び売りに行ってるんだとよ。相当出世したいんだろうな」
「ははっ、必死だよなぁ。中将の後ろ盾欲しさだろ?」
「あれに騙される息子の方が可哀想だぜ」
「昔から女取っ替え引っ替えしてたんだから、男1人落とすなんて簡単だろうよ」
父の荷物を届けに来た帰り、偶然聞いてしまった。話ぶりからして、おそらくアイザックの同僚なのだろう。
なるほどなぁ、出世目当てか。
確かに、ハリフォーク中将の息子という肩書きだけを見て俺に近づいてきたやつは今までたくさんいた。だが、そういうやつは雰囲気や話した感覚でわかるのだ。相手が肩書き目当てなのか、俺自身に興味を持っているのかを見抜くスキルは、経験で培ってきたつもりだった。
アイザックに関しても、俺自身に興味がある人間だと思っていた。俺のことが好きで、俺と親密な関係になりたいんだろう、と。だが、もしかしたら俺はとんでもない勘違いをしていたんじゃないか。好意を向けられていると錯覚して、きっと調子に乗っていたんだ。
俺はずっと、アイザックが俺のどこを好きになったんだろうかと疑問だった。でも簡単なことだ。俺と結婚すればハリフォーク中将が義理の父親になり、後ろ盾は盤石。最年少で大佐になっているぐらいだから、アイザックは出世に貪欲なはずだ。
そう考えれば毎日会いに来るのにも合点がいく。俺の好きなものを手土産にするのも、口説く常套手段なのだろう。彼ら曰くアイザックは遊び人だったようだから、どうしたら相手が落ちるかなんて手に取るようにわかるはずだ。実際、アイザックなら結婚してもいいかなぁなんて考えていたところだったから、彼の作戦は非常に上手く進んでいたといえる。
まあ、仕方ない。彼の真意を見抜けなかった俺にも落ち度はあるし、もっと気を引き締めないと駄目だな。会社だって今が大事な時で、そもそもは仕事を優先したいから見合いを断ったんだ。恋愛にうつつを抜かしてる時じゃない。
だが、
「そっかぁ、出世目当てかぁ…」
口に出すと同時に、ボロっと涙が溢れ出た。自分でもびっくりするくらい、大粒の涙が次から次へと溢れ、頬を滑り落ちる。
どうしてアイザックに疑いを持たなかったか?
簡単じゃないか。
あぁ、俺アイザックのこと好きだったんだなぁ。
恋心を自覚したと同時に失恋した。最悪だ。
だがこんな誰が来てもおかしくないところで泣き続けるわけにはいかない。どうせ泣くなら、2、3日部屋に引きこもってやる。
でも、ツイてない日というのは、とことんツイてないもので。出口に足を向けた時、今一番会いたくない人間と目が合った。
「カールさん!」
アイザックは泣いてる俺を見るとギョッとしたような顔をして、駆け寄ってきた。
「どうしたんですか!?なんで泣いて、?」
「なんでも、ズビッ、、っない…」
アイザックが納得するわけがないが、話したくないのでそう言っておく。
「一旦、移動しましょう。ここだと人が来ますから」
アイザックに手を引かれて歩く。
初めて手を繋ぐのがこんな状況なんて最悪だ。でもこれが最後になるだろうから、記憶に残そうと繋がれた手をじっと見つめる。
彼の執務室らしい部屋に着くと、彼は俺の視線に気付いたのか、「あ、すみません」と言ってパッと手を離した。たったそれだけのことなのに、また涙の波が俺を襲ってくる。
「い、嫌でしたよね..すみません勝手に」
俺は返事できずに、ただ泣き続けている。
困ったような顔をしたアイザックが、俺の肩に手を乗せるか迷って結局宙に浮かせている。
「何かあったんですか?落ち着いたらでいいので、教えてください」
彼の優しさも全部嘘なのだと思うと、余計に悲しくなり、アイザックの顔を見れない。
「っズビッ。….もう、会いたくない」
「え。」
「明日っ..から、ヒクッ、、来ないでほしい」
「俺、何かしましたか」
ぶんぶんと首を横に振る。
「じゃあ、なんでですか」
「………」
俺は答えられずに俯く。
「じゃあ質問を変えます。俺のことが嫌いだからですか?」
「ちがう」
「迷惑でしたか?」
「そんなことっ、ズビッ…ない」
「じゃあ…誰かに何か言われましたか?」
「…..ぅん、」
答えるか迷ったが、頷いた。
俺の返事に、少し怒ったような顔をしたアイザックが続けて尋ねてきた。
「何を言われたのか、教えてくれますか?」
「俺が、言われたんじゃなくて、聞いただけ、ズビッ」
「何を聞いたんですか?」
「お前の、、ズビッ、、うわさ、みたいな...」
俺の返事を聞いて、「あー」と納得したような声をアイザックが出した。やっぱり心当たりがあるのかと思ってアイザックの顔を見ると、苦虫を嚙み潰したような顔をしていた。
「それ、もしかして俺が昔チャラついてたとか、出世しか考えてない男だとか、そういう噂ですか?」
「…..そう」
そうですか、と言ったきりアイザックは一言も喋らなくなった。
この沈黙が意味することを考えて、また泣いてしまう。
何分経っただろうか。実際は数秒かもしれないが、人生で最も長い沈黙のように感じた。
この沈黙を破ったのは、ばきっという大きな破裂音だった。アイザックが自分の頬を殴ったのだ。
「っは、、?ちょっ、なにしてるんだよ!」
「過去の自分を殴りました。」
「はぁ?」
驚きでいつのまにか涙は止まっていた。
「俺の話、聞いてもらえませんか」
「なんの、?」
「俺が貴方を好きなことについてです」
「は?」
「この話の後で、俺ともう会わないかどうか考えてもらえませんか。俺にもう一度チャンスをください。」
突然のことに脳が追いつかず、俺は「え、、うん」と答えるしかなかった。
***
そうですね、どこから話せばいいのか..。
まず、俺は見合いの前から貴方のことを知っていました。カールさんは軍関連の式典やパーティに何度か出席されてますよね。そこで貴方のことを見かけて、一目惚れしました。
貴方のことを知りたいと思うようになり、自分でも気持ち悪いと思うのですが、貴方の名前や家のことまで、色々調べました。カールさんがハリフォーク中将のご子息だと知ったのもこの頃です。
当時の俺は階級が低く、天地がひっくり返っても貴方を射止められる力はなかった。それでも諦めきれなかったので、出世のために必死になりました。上官に媚を売り、同期を蹴落としてでも自分が功績を上げることに全力を尽くしていました。俺が出世を第一に考えている男だという噂は、ここから出ていると思います。
昔、女性を取っ替え引っ替えして誰とでも寝ていたというのも事実です。上官の愛人や奥さんとも関係を持ちました。彼女たちが俺を推薦して、昇進しやすくなると思ったからです。狙い通り、俺は最年少で大佐になりました。昇格後すぐに異動願を出し、貴方のお父上であるハリフォーク中将の直属の部下になりました。
カールさんに見合いを申し込みたいと何度も中将に話したのですが、毎回断られていました曰く、大事な息子を俺みたいな男にはやらん、とのことでした。軍の中での俺の評判はあまり良くなかったので、中将が嫌がるのも仕方ないと思いました。
ですが、俺は諦めきれませんでした。
そして、半年前のことです。
ここからは極秘事項なので内密にお願いします。実は半年前、ハリフォーク中将の暗殺未遂事件がありました。軍幹部の暗殺未遂なんてことが発覚したら、軍の威信に関わります。そのためこの事件はなかったことにされました。中将もカールさんに伝えてなかったはずです。
実は、その事件の犯人を取り押さえたのが俺でした。中将から、礼として何か欲しいものはあるかと問われ、そこでようやく貴方と会う機会を頂きました。
その後のことは、貴方の知っての通りです。貴方の喜んだ顔が見たくて、貴方が好きだと言ったものを持って会いに行きました。だんだん貴方と話す時間が増えて、貴方のことを知って、一緒に出掛けるようになって。貴方との距離が近づいていると感じてとても幸せでした。
…俺は、貴方のことが好きで、貴方と結婚したいです。
毎日顔を見て、話をして、一緒に食卓を囲んで、同じベッドで眠りたい。
好きな人を泣かせるような情けない男ですが、どうか、俺と結婚してくれませんか。
***
「…ちょっと待って」
「はい、いくらでも」
聞きたいことは山ほどある。
だが、
「俺のことずっと前から知ってたの?」
「はい」
「俺と結婚したくて出世したの?」
「そうです」
「上官の妻と浮気までして?」
「そうです」
「なんで?」
「貴方に振り向いてもらいたかったからです」
こいつ、頭おかしいんじゃないか。
話を聞いている限り、アイザックの人生の大半は、俺と結婚することを目的にした行動ばかりだ。パーティで見かけただけで個人情報まで調べるのはストーカー行為以外の何者でもないし、出世のために上官の妻と不倫するのも倫理的にどうなんだ。それに父の暗殺未遂事件なんて初めて聞いたし、はいそうですかとすぐに納得するなんてできない。
だが、アイザックの言葉を冷静に分析する自分がいると同時に、嬉しいと感じる自分がいるのも事実だった。こんな話をされて気持ち悪いと思ってもおかしくないのに、可愛いとか愛しいとか感じている時点で、俺もどこかおかしくなっているんだろう。
俺が考え込んでいるのをじっと待っているアイザックを見ると、ひどく不安そうな顔だった。
ああもう、そんな顔しないでよ。
ちょいちょい、と手招きしてアイザックを屈ませる。
「ちゅ」
アイザックが自分で殴ったのと反対側の頬に軽くキスをした。その瞬間、ぶわぁっとアイザックの顔が赤に染まる。
ガチガチに固まったアイザックの耳元でカールは囁いた。
「俺も、アイザックのこと好きだよ」
彼の首に腕を回して、ぎゅうっと抱きしめる。アイザックはカールからのスキンシップに脳の処理が追いつかず気絶寸前になりながらも、しっかりとカールの背中に腕を回すのだった。
fin




