魔法
9話でいす
「……で、結局、魔法って何種類あるんだ?」
森を抜ける道。
俺は、レオンハルトの背中を見ながら聞いた。
背負子には、干し肉と薬草。
今日は珍しく、街へ行く日だった。
「急に聞くな」
レオンはそう言いながらも、歩調を緩める。
「基本は六つだ」
(意外と少ないな)
◆
「まず、火属性」
「一番分かりやすく、一番事故が多い」
暖を取る、料理、戦闘。
用途は多いが、感情と直結しやすい。
「怒ってると、勝手に強くなる」
「子どもが扱うと、だいたい家が燃える」
(……笑えねえ)
「次、水属性」
回復、浄化、操作。
火と逆で、感情が沈むほど安定する。
「泣き虫が得意になりやすい」
「……俺に向いてるか?」
「さあな」
◆
「風属性」
速さ、索敵、移動補助。
「器用貧乏になりやすい」
「だが、生き残る」
(レオンらしい評価だ)
「土属性」
防御、構築、強化。
「軍と相性がいい」
「帝国が好むのは、だいたいこれだ」
なるほど。
◆
「雷属性」
一瞬の破壊力。
制御が難しく、才能差が激しい。
「天才か、死体か」
「極端だな」
「現実だ」
◆
「最後が、無属性」
俺は、足を止めかけた。
「……無属性?」
「どれにも属さない」
「強化、干渉、歪み」
「地味だが、嫌われる」
(……嫌われる、ね)
「制御できるやつは少ない」
「だが――」
レオンは、ちらりと俺を見た。
「お前は、これだろうな」
否定はできない。
(……派手じゃないのは、助かる)
◆
そんな話をしているうちに、
景色が変わり始めた。
森が途切れ、
道が整い、
人の気配が濃くなる。
「……あれが街?」
「ああ」
見えてきたのは、石壁と門。
「ミレア」
交易都市の一つ。
俺が初めて見る、本物の都市だった。
◆
門をくぐった瞬間、音が変わる。
話し声。
荷車。
金属音。
(……人、多っ)
子どもの体には、情報量が多すぎる。
「ぼーっとするな」
レオンが言う。
「財布を狙われる」
(いきなり現実的だな)
街は活気があった。
露店。
布屋。
魔道具らしきものを並べる店。
「魔法は、ここじゃ“技術”だ」
レオンが言う。
「神秘じゃない」
「だから、値段がつく」
(……なるほど)
◆
路地裏。
小さな店の前で、俺は足を止めた。
「……なんだ?」
「魔力、感じる」
レオンは、少し驚いた顔をした。
「分かるようになったか」
店先には、簡単な魔力灯。
火属性でも、水属性でもない。
弱いけど、安定している。
「無属性の加工品だな」
「街じゃ、こういうのが普通だ」
(……俺の力も、こう使えたら)
◆
日が傾く頃。
宿の窓から、街を見下ろす。
森とは違う光。
違う匂い。
違う生き方。
「どうだ」
レオンが聞く。
「怖い?」
少し考えて、答える。
「……面倒そう」
レオンは、声を出して笑った。
「正解だ」
「だから、学ぶ」
「だから、選ぶ」
街の灯りが、一つずつ灯る。
(……世界は、思ったより広い)
そして同時に――
思ったより、近い。
泣けない赤ん坊は、
泣かない少年として、
初めて“世界の中”に足を踏み入れた。
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