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魔法

9話でいす

「……で、結局、魔法って何種類あるんだ?」


森を抜ける道。

俺は、レオンハルトの背中を見ながら聞いた。


背負子には、干し肉と薬草。

今日は珍しく、街へ行く日だった。


「急に聞くな」


レオンはそう言いながらも、歩調を緩める。


「基本は六つだ」


(意外と少ないな)



「まず、火属性」


「一番分かりやすく、一番事故が多い」


暖を取る、料理、戦闘。

用途は多いが、感情と直結しやすい。


「怒ってると、勝手に強くなる」


「子どもが扱うと、だいたい家が燃える」


(……笑えねえ)


「次、水属性」


回復、浄化、操作。

火と逆で、感情が沈むほど安定する。


「泣き虫が得意になりやすい」


「……俺に向いてるか?」


「さあな」



「風属性」


速さ、索敵、移動補助。


「器用貧乏になりやすい」


「だが、生き残る」


(レオンらしい評価だ)


「土属性」


防御、構築、強化。


「軍と相性がいい」


「帝国が好むのは、だいたいこれだ」


なるほど。



「雷属性」


一瞬の破壊力。

制御が難しく、才能差が激しい。


「天才か、死体か」


「極端だな」


「現実だ」



「最後が、無属性」


俺は、足を止めかけた。


「……無属性?」


「どれにも属さない」


「強化、干渉、歪み」


「地味だが、嫌われる」


(……嫌われる、ね)


「制御できるやつは少ない」


「だが――」


レオンは、ちらりと俺を見た。


「お前は、これだろうな」


否定はできない。


(……派手じゃないのは、助かる)



そんな話をしているうちに、

景色が変わり始めた。


森が途切れ、

道が整い、

人の気配が濃くなる。


「……あれが街?」


「ああ」


見えてきたのは、石壁と門。


「ミレア」


交易都市の一つ。


俺が初めて見る、本物の都市だった。



門をくぐった瞬間、音が変わる。


話し声。

荷車。

金属音。


(……人、多っ)


子どもの体には、情報量が多すぎる。


「ぼーっとするな」


レオンが言う。


「財布を狙われる」


(いきなり現実的だな)


街は活気があった。


露店。

布屋。

魔道具らしきものを並べる店。


「魔法は、ここじゃ“技術”だ」


レオンが言う。


「神秘じゃない」


「だから、値段がつく」


(……なるほど)



路地裏。


小さな店の前で、俺は足を止めた。


「……なんだ?」


「魔力、感じる」


レオンは、少し驚いた顔をした。


「分かるようになったか」


店先には、簡単な魔力灯。


火属性でも、水属性でもない。

弱いけど、安定している。


「無属性の加工品だな」


「街じゃ、こういうのが普通だ」


(……俺の力も、こう使えたら)



日が傾く頃。


宿の窓から、街を見下ろす。


森とは違う光。

違う匂い。

違う生き方。


「どうだ」


レオンが聞く。


「怖い?」


少し考えて、答える。


「……面倒そう」


レオンは、声を出して笑った。


「正解だ」


「だから、学ぶ」


「だから、選ぶ」


街の灯りが、一つずつ灯る。


(……世界は、思ったより広い)


そして同時に――

思ったより、近い。


泣けない赤ん坊は、

泣かない少年として、


初めて“世界の中”に足を踏み入れた。

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