歴史を変える戦争の始まり
連戦の果てに、彼らが選んだのは――本物のエンタメだった。
幾度となく激しい戦いを繰り広げた後、彼らはついに決意する。
「たまには楽しもう」
そうして足を運んだ先は、S46――密森星。別名、《夢幻王国》。
彼らはそこで、ジュラ紀ワールドや白雪姫の物語を次々と体験し、束の間の幸福を噛みしめる。
だが、誰も想像していなかった。
――いかに防衛レベルが高い星であっても、災厄は容赦なく訪れるということを……。
人類の歴史の中で、ユニコーン、アヌナキ、巨人──それらは常に神話の存在でしかなかった。現代の人間は、彼らがかつて存在したことを証明することができず、証言できるのは古人のみ。そのため、多くの人々はただの想像の産物として片付けてしまうのだ。
バミヤナ星を後にした神妖軍団。立倫の心の中にあった不満やわだかまりは、徐々に解けていった。数日間、あちこちを駆け巡った疲労で、立倫はまるで泥のようにぐったりしている。今、彼の頭の中にあるのはただ一つ──思い切りリラックスすること。楽しい場所に行きたいという気持ちだけが膨らむ。
その時、多美格がふと思い浮かべた。彼女はこう提案した。「『夢幻王国』、S46-ミッション星に行きましょう。私、以前一度行ったことがあるけど、一日いても飽きない場所よ」
そこには、具現化された神話や童話の生き物たちがたくさん住んでいるという。皆もその話を聞いて興味津々。これまでずっと忙しかった彼らにとって、今こそ体験する資格がある。多美格は迷わずチケットの手配と案内を引き受け、翌日を出発日に設定。自動ナビゲーションを整え、皆は深い眠りに落ちていく──ただし立倫を除いて。興奮で胸が高鳴る彼は、眠れずにその日を待ちわびていた。
時はあっという間に過ぎ、目覚めた立倫の眼前に、名高い「夢幻王国」が広がる。周囲には入場を待つ人々の波。仲間たちも目を覚まし、窓の外の賑わいに心を躍らせる。
しかし、その時──十尾狐号の屋上に、長方形の飛行船がふわりと舞い降りる。ひとりの人物が天井を突き抜け、皆の前に現れた。彼は真っ先に尋ねる。「神妖軍団の皆さんですか?」
肯定の返事を得ると、上空の船は神妖たちの飛行船を安全に園内へ導く。迷子にならないようにとの配慮だ。移動中もスタッフは園内の施設を説明する。そこには「超古代区」「神話区」「童話区」「動物区」──さらに各区は章ごとに細分化され、まるで総合テーマパークのようだった。
ついに地上に降り立つと、美しい小さな町が目の前に広がる。温かみのある雰囲気、どこか文学的な文化の香り。町を歩けば、様々な異星人とすれ違い、まるで異世界旅行のような体験が続く。そして町の果てに、巨大なブラックホールが待ち構えていた。地面には数千もの小型飛行船が整列している。スタッフは訪問する章と区を確認し、立倫は「超古代区・ジュラ紀章」、多美格は「童話区・白雪姫章」を選ぶ。こうして、二手に分かれた神妖軍団。
小型飛行船に乗り込み、ブラックホールへ進入。立倫の目に飛び込んできたのは、忘れ得ぬ光景──洞窟の壁面に映し出される生物の進化の歴史。海洋生物から四足歩行の動物まで、複雑に絡み合う進化の軌跡を、飛行船は巧みに再現していた。さらに驚くべきことに、映像と相互作用することまで可能だ。
やがて、歴史はジュラ紀に差し掛かる。前方に刺すような光が現れ、光を抜けると──そこには現実の恐竜世界が広がっていた。立倫は息を呑む。想像を超えた大自然の圧倒的な力、その中に自分たちが立っていることに、心からの高揚を覚える。
【ジュラ紀の世界】
操縦士が飛び立った後、神妖軍団の面々は目の前に広がるリアルな恐竜の世界に息を呑んだ。男たちの心は興奮で震え、視界に入るすべての生き物に心を奪われていく。
突然、草むらから三角竜の群れが駆け出してきた。慌てた様子でこちらを見やるその先には、一匹の暴竜が餌を追いかけて猛進している。そして空を見上げれば翼竜たちが悠々と舞っていた。
園のスタッフから「フレンドチョコレート」が手渡される。これを一片ずつ二つに割り、恐竜と自分がそれぞれ一つ食べると、心を通わせた友達になれるというのだ。新吉蘭が真っ先に暴竜にチョコを与えると、暴竜は追跡をやめ、首を折り曲げて新吉蘭を頭上に乗せた。その光景を見た他の面々も、自分の理想の恐竜を探し始める。
龐は巨大な雷竜を選び、立倫はその俊敏さにぴったりな迅猛竜を選んだ。馮馬克司雅は温和な三角竜を、迪巴斯は剣竜を仲間に迎え、全員が理想のパートナーを得た。
さらに、入場者全員には旅行用のバックパックが支給された。中には設置すればすぐ使える「カプセルホテル」、方角を常に示す「万能マップ」、食料も完備されている。準備を整えた神妖軍団は荷物を背負い、古代世界の探索に出発する。まだ腹は減っているが、地面で食べるのは面白くない。龐は提案した。「山の上で食べれば、景色も最高だ!」
地図を確認した龐は、高台にある円形のプラットフォームを発見。草原を一望でき、標高6,894メートル──まるで仙境のような霧の景色だ。距離はわずか39キロ。皆は迷わず龍に乗って山を目指した。
途中、河を通りかかる。新吉蘭は魚を見つけ、空中で驚異の反応速度を駆使して捕獲。しかし満足せず、雷で河中の魚を一掃、二十匹もの追加の獲物を得る。しばらく進むと山麓に到着。しかし頂上へどう登るか──徒歩では時間がかかりすぎる。疲れも相まって、最終的には力任せで登ることを決意。
一分一秒を刻み、ほぼ一時間かけてプラットフォームに到達。眼前には絶景が広がる。世外桃源のような景色と熱々の食事が完璧に調和していた。
しかし遠くから轟音が響く。数百キロ先の火山が噴火していたのだ。溶岩が流れ、周囲の樹木が燃え上がり、地震の揺れで恐竜たちも逃げ惑う。巨大な火の塊が飛んできて、辛うじて避ける。ここに留まるのは無謀だ──神妖軍団は恐竜の大群とともに平原へ逃げ込んだ。火山の影響は少し落ち着き、灰もほとんど消えていた。
この楽園では、各エリアでの時間が早めに進む設定になっており、気づけば黄昏時。皆はカプセルホテルを広げると、中は四次元空間で小さな温かみのある空間が広がる。寝室、浴室、リビング、すべて完備。外装は硬く、雷竜が踏んでもびくともしない。立倫は設備を調べ、ボタンを押すと窓が開き、キャンプ気分も演出。さらにもう一つのボタンでカプセルは最大100メートルまで上昇し、大きな窓から景色を一望できる。上下は支柱で支えられ、まさにエレベーターのようだった。
夕陽を背に、皆は地面に座り、焼き肉を頬張りながら絶景を楽しむ。これほど穏やかで贅沢な時間は、戦いか戦いへの移動中しか知らなかった人生で初めてだ。食後、カプセルホテルに戻り、100メートル上空から古代の景色と丸い月を眺める。入浴する者、歯を磨く者、すでに夢の中の者……しかし、この楽園の裏では、ある大戦の予兆が静かに迫っていた。
翌朝、立倫が深い眠りについていると、新吉蘭に強引に起こされる。「ジュラ紀章を離れるわよ」
既にほとんどの体験を終えたためだ。ボタンを押して出発しようとした瞬間、背後から異音。振り返ると、遠くの島に赤い隕石が落下してくるのが見える。地図も警報を発し、直径12キロの隕石が地球に衝突する危険を示していた。恐怖が皆の胸を満たす中、飛行船が現れ、緊急搭乗を指示。隕石が地面に衝突する瞬間、操縦士は飛行船をブラックホールに進入させた。
「これは、恐竜絶滅の恐怖を体感してもらうための演出です」
その言葉に、皆は身震いしつつも、サービスの狙いが成功したことを悟った。
【白雪姫、でもキャスティングがちょっと変】
パイロットが宇宙船をブラックホールへと操縦した後、彼らが最初に選んだのは「白雪姫」だった。そして、その姫役を務めるのはもちろんドメグ。彼女の兄であるモディアクは王子役を担当。しかし、グループには他に女性がいなかったため、やむを得ずヘビスが女王役を務めることに……。ロックは狩人役を任され、残りのテアンと六体のロボットは小人役に決定。こうして配役がすべて揃い、白雪姫の物語がついに幕を開けた!
晴れ渡る朝、魔鏡に問う
その日、ヘビスはいつものように魔鏡に問いかけた。
「魔鏡、魔鏡、この世で一番美しいのは誰?」
しかし、返ってきた答えは、これまでとはまるで違っていた。
「世界で最も美しいのは――ドメグです。」
その名を聞いた瞬間、ヘビスの心は怒りと嫉妬に燃え上がった。
――よりにもよって、あの娘!しかも自分の義理の娘……!
どうしても許せない。
自分こそが一番美しい存在でなければならないのに。
そして、ヘビスは決意する。
「ドメグを消し去る……それしかない。」
彼女はロックを呼び出し、命じた。
「ドメグを森へ連れて行き、始末しなさい。そして証拠として、心臓と肝を持ち帰るのだ。」
「ねぇ、ドメグ。森に遊びに行かないか?」
ロックの言葉に、ドメグは目を輝かせた。
「ほんと!? 行きたい!」
無邪気に喜ぶドメグを見て、ロックの胸は痛んだ。
……どうしてこんな命令を受けてしまったんだ。
しかし、森に着いても、ロックには刃を振るうことができなかった。
彼は決断した。代わりに一頭の猪を仕留め、その肺と肝をヘビスに持ち帰ったのだ。
「これで、ドメグは――」
ヘビスは本当に信じてしまった。
だが、ドメグは生きていた。
森をさまよっていたドメグは、一軒の小さな家を見つける。
扉を開けると、そこには七人の小柄な男たちがいた。その中にはテアンの姿もあった。
「よく来たな! ここに住むといい!」
彼らの温かい言葉に、ドメグの心は安らいだ。
その頃――。
「魔鏡よ、魔鏡、この世で一番美しいのは誰?」
再び問うヘビス。だが答えは変わらなかった。
「ドメグです。」
怒りが再び燃え上がる。
「ならば……私が自ら手を下す!」
老婆に化けたヘビスは、ドメグのいる家を訪れる。
「お嬢さん、美味しいリンゴはいかが?」
「わぁ……おいしそう!」
一口かじった瞬間――ドメグは崩れ落ちた。
駆けつけた小人たちは悲しみに暮れ、涙を流しながら言った。
「彼女を眠り続ける美しい姿のまま、棺に納めよう……」
透明なガラスの棺が、深い森の奥に置かれた。
どれほどの時が流れただろうか。
モディアクという若き王子がその棺を見つける。
ガラスの中で眠るドメグを見た瞬間、彼は心を奪われた。
「どうか……この娘を私に譲ってくれ!」
小人たちは涙をぬぐい、頷いた。
棺を運ぶ途中――大きな衝撃で棺が揺れた。
その拍子に、ドメグの喉から毒リンゴの欠片が吐き出されたのだ。
「……ここは……?」
ドメグが目を覚ました。
モディアクは歓喜し、彼女の手を取った。
「愛している! どうか私と結婚してくれ!」
驚きながらも、ドメグは頷いた。
結婚式の日、豪華な宴が開かれた。
招かれたヘビスもその場にいた。
――そして、目にした。生きているドメグを。
怒りと絶望に狂ったヘビスは、宴を壊そうと暴れた。
しかし、モディアクは命じた。
「こいつに焼けた鉄の靴を履かせろ!」
ヘビスは踊り続け、やがて命を落とした。
その結末を見届け、ドメグとモディアクは幸せな未来へ歩み始める――。
【戦いの起源】
白雪姫の章を終えたドメグは、心から満ち足りた気分だった。
まさかあんな幸福を自分の身で体験できるなんて……本当に最高だ!
「いやぁ、まだまだ他の章も遊びたいな……」
そんな気持ちもあったが、今の彼らには別の問題があった。そう――お腹が空いていたのだ。
第一陣と合流するため、全員でロビーに戻る。そこでは、新吉蘭が恐竜世界での冒険を楽しそうに語っており、ドメグも白雪姫のロマンチックな体験を笑顔でシェアした。
この小さな町にはレストランがたくさんある。料理も地球人の好みに合わせたものばかり。みんな適当に一軒を選び、それぞれ高級ステーキを注文した。値段は普通だが、味は――期待していいのか?
ロックが一口かじる。
「……うまい!」
ステーキは柔らかく、肉汁が口いっぱいに広がる。一噛みで切れるほどで、塩の旨味がしっかり染み込んでいる。しかも、嫌な臭みは一切ない。まさに絶品だった。
和やかな食事の最中、リツロンはふと窓の外に目をやった。
――黒服の集団?
彼らは何かを探しているようだ。リツロンは隣のポンに小声で告げる。
「なぁ、あれ……見てくれ」
ポンの表情が一変する。
「……嫌な予感がする。何かが起きる」
そう言うや否や、彼はナイフとフォークをテーブルに置き、全員を手で制した。
「行くぞ、気付かれないように」
神妖軍団は静かに店を抜け出し、黒服たちを尾行する。しかし、いくら観察しても目的が掴めない。逆に、相手の警戒心が強まり始めた。
――チッ、バレたか。
黒服の一人が何かを通信で呼び出す。
「千猫格沙を呼べ! こいつらを消す!」
次の瞬間――
上空から、圧倒的な存在感と共に一人の影が舞い降りた。
それは団長。
肉球のマークが刻まれた掌を、まるで優しく撫でるかのように振り下ろす。
「何だ、この程度の攻撃……!」
そう思った瞬間、全員の視界が弾け飛んだ。
ドゴォッ――!!!
ロックもリツロンも、ドメグも。
誰も彼も、触れられた瞬間、信じられないほどの力で吹き飛ばされる。
しかも――飛ばされた方向は、全員バラバラだった。
こうして神妖軍団の仲間たちは、密森星のあちこちへと散り散りになってしまったのだ。
――無一例外に。
思い出したよ、S46-密森星の章を書いていたとき、すごく満足してたんだ。
戦闘シーン、自分ではかなりかっこよく書けたと思うし、みんなもきっと気に入ってくれるはず。