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対話の行方

『君が、この世界の鍵となる人かな』

 白皙の男性が、爽やかな笑みを浮べてる。先刻、街ごと殲滅なんて言ってた人とは思えない爽やかさだ。

『キュベレイ9さん。この人、何か怖い』

『そうですね。でも、好機でもあります。彼がこの集団のリーダーです。彼に地下遺跡を欲がる理由を訊ねてみては如何ですか』

 そうだった。理由を知らなきゃいけないんだった。何故あたしと会話できるのかとか、疑問は一杯あるけど、今優先する事はそれじゃない。

『貴方は、なんで遺跡を欲がるんですか』

『うん。僕が欲しいというより、彼らに渡したく無い、とうのが本当の処かな』

『それは何故でしょう』

『彼らはあれを使って、自分達を元に戻そうとするからね。僕としては今はまだ元に戻って欲しく無いんだ。大事な実験の途中だから』

 今この人、実験って言った。何のための実験なんだろう。そもそもデモリッシュって何なんだろう。

『彼らは元人間だよ。元々は兵器だったんだ。ミードという生物・医学者に開発させた、ね。あれから随分と改良されてるけど、まだまだ完成してないんだ』

 爽やかな笑顔を崩さない、この人の言い分は、どう聞いても最低なモノだった。聞くだけ無駄な気がしたが、せめてその理由だけは聞いておきたい。

『何の為にこんな実験を。沢山の人を犠牲にしてまでする事なんですか』

 この人の爽やかな笑みに、一瞬だけ翳りがよぎった、ような気がした。勘違いかもしれないけど。

『僕にとって、何よりも大事なひとの為さ。それ以上は言えない』

 笑みはその儘に口が硬く引き結ばれた。

『それが、人の生命を玩具扱いする事の、真っ当な理由になるとでも』

『ならない。それは絶対に。でも僕には……いや言い訳はできないね。でも僕は止めない』

 この人は笑みを浮べながらも、きっぱりとした思惟をあたしに投げ掛けた。

『そのために街がどうなっても、街の人が沢山亡くなっても、多くの人の人生が狂わされても、どうでも良いと言うのね』

 あたし、この人嫌いだ。軽蔑と嫌悪が心の中に渦巻いてるのが分る。この人とはもう話したくない。

『キュベレイ9さん。ここはもういい。次のところに連れてって下さい』

 だから。

『ああ、そうだ。全てを無かった事にできたら良かったんだけどね。流石のあのひとでもそれは出来なかったから……』

 この人のこんな言葉は聞かなかった事にした。


 辺りの景色は一変していた。前方には、身体に貼り付くような黒い服を着た集団が武器の準備に追われていた。男女関係無く、皆同じ服装、同じ装備をしていた。太く短い銃を背負い、刃渡りの長いナイフを肩や腰に下げている。

「トリモチ弾と解除液、受け取ってない奴、早くこっち来い」

「投網弾はこっちだ」

「おーい、糧食はここに纏めて置け」

 彼らはナイフ以外に人を傷つける武器を持っていないようだった。

『キュベレイ9さん。彼ら、あの装備でADeSと真面にやり合うつもりなのかな』

『動きを止めるのが主眼なのでしょう。身動きがとれないところで、戦闘服だけを破壊するのだと推測されます』

『そっか。ねえ、さっき聞き忘れたんですけど。”消滅”みたいに”消灼”の影響範囲ってあるんですか』

『あの戦闘服の全出力で、拳大の太陽位の大きさでしょう。五秒は維持できると思われます。ただ、出現地点にある物は蒸発するでしょうし、超高温の輻射熱で辺りは焦土と化すでしょうね。そして一気に膨張する空気は爆風を生み出し、周囲にある物が原型を留める事は無いでしょう』

 想像してみた。拳大の太陽が、地上に出現する光景を。それも何発もだ。そしてその後に出現する光景は、地獄だ。

『ね、ねぇ。それってADeSだって無傷では……』

『ええ、本当に。使用者は勿論生存できないでしょう。それに爆風の影響はこの街の中だけでは収まらない。あの野戦本部だって決して無事では済まない筈です』

 あの人は何故そこ迄するのだろう。本当にそこ迄しなければいけないものなのだろうか。

『あの人、自分が死ぬかもしれないのに。何でここまでするんだろう』

『幾つかの世界のあの人を見て来ました。あの人は自分の肉体には何の未練も無いようです』

 あたしたちに話し掛けてきた位だから普通の人では無いと思ってたけど。

『あの人もルシエラさんやゾーイさんみたいな存在なんですか』

『いえ、どちらかというと肉体を失う前のゾーイさんの様な存在です。各々の世界での同一存在の意識を渡り歩く。あの人の場合は、必ずしも同一でなくても良いようですが。そうですね、憑依と呼ばれるものに似てるかも知れません』

 だからあんな決断が下せるのか。最低な人で無しと思ってたけど、本当に人とは言えない存在だったとは。

『もう一度、あの人と話してみますか』

『ううん、今は止めておきます。あの人はもう何も話さないだろうし、翻意させる事も難しいと思いますから』


 あたしは、考えに更けっていた。デモリッシュ達の理由はまだ聞けてない。あの人の言う通りなら、彼らは自分達を元に戻す方法を求めて地下遺跡を目指してきた事になる。

 けど、彼らが遺跡に手を掛ければ、あの人は自滅兵器の使用を躊躇わない。彼らも、街も壊滅する。

 なら、彼らを説得して遺跡を諦めさせれば。でもそれは彼らを永遠の犠牲者にする事だ。彼らは救われない。ずっと。

 どちらも選べない。選びたくない。何故、あたしがこんな目に合わなくちゃいけないの。

 重い責任を負わされ、癇癪を起しそうになったとき、その人は現れた。

『よう、さっきから俺達をじろじろ見てたけど何か用でもあるのかい。ああ、俺はロウ。宜くな』

 あの人と同じだ。あたしの存在を感じられる人が、デモリッシュにも居るなんて。

『あなた、ロウさんだけどロウさんじゃないんですよね。いえロウさんでもある何者か、なんですよね』

 念の為確認してみた。

『まあ、そういう事だな。俺はラウでもありロウでもある。で用件は。そろそろ教会へ出向くんで、手短に済ませてくれるとありがたい』

 ここは単刀直入に聞いてみよう。

『ロウさん達が教会を目指すのは、地下の遺跡にある装置で、自分達の身体を元に戻すため、で合ってますか』

『ああ、そうだ』

『ADeSがロウさん達の邪魔をしに来てます。このまま行けば何方にも、そして街にも被害が出ます。延期またはADeSの方達と話し合いで解決はできませんか』

 あの人が居る限り話し合いは出来ないだろうと思いつつ、提案してみる。

『あいつがADeSを仕切ってる限り、それは無理だろうな。そもそも俺達をこんな身体にしたのはあいつだしな』

 やっぱり無理そうだ。そして実験と言ってた通り、あの人が元凶だった。

『それに俺達にもそれ程時間の余裕が無いんだ』

『時間の余裕、とはどういう事』

『俺達を変異させた元凶は、人に感染するんだ。放っておけばその内、この世界全体がデモリッシュの世界なっちまう』

 嗚呼そうか。ルシエラさんの世界はそうやって人間が減少していったんだった。

『あ、それじゃ、どこかに引き篭って、というのも人権無視してますよね』

『ああ。それだけじゃない。まだ少数だが俺達の中で変異を起した奴がいる。そいつらは、より原種に近い。どういう事かと言うと、身体が崩れたり変形したり、一種の畸形だな、そうなってしまう。更に不味い事に、そうなるとだんだん理性を失くして凶暴性が増してくるんだ。今は未だそこまで酷くないんだが、時間の問題だな。

 そんなのがじゃんじゃん増えて逃げ出してみろ。人は感染だけじゃなく、化物の恐怖を抱え込む事になるんだ』


 そんな事になっているとは想像してなかった。え、これどっちにしても詰んでるじゃ。

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