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第8章:新世界の“神”を籠絡!

 VRMMORPG《Twilight Fantasia》の世界で、シフォン(Ciffon)はあざとかわいい魅力で、ありとあらゆるタイプの男性プレイヤーを手玉に取ってきた。

 無骨な戦士、クールなアサシン、寂しがり屋ヒーラー、カリスマギルドマスター、職人気質の鍛冶屋NPC、傲慢な黄金王、そして中二病マッドサイエンティスト――彼女の手中には、既に多種多様な“推しメン”たちが揃っている。


 しかし、シフォンは今日も新たな刺激を求めていた。

 噂によれば、「新世界の理を正す」などと豪語する、極めて頭脳明晰なプレイヤーが現れたという。その人物は、正義を標榜しながら独善的な判断で多くの強者を出し抜き、“秩序”を自らの都合で作ろうとしているらしい。

 名をクロウ(Crow)――闇色のローブを纏い、鋭い眼差しで相手を見下す青年プレイヤーだという。彼は冷静沈着で、狡猾。自分こそが“新世界”を導く神になると信じて疑わない、狂気じみた合理主義者だと噂されていた。


(夜神月みたいなタイプね。賢くて冷徹、表向きは正義を謳いながら裏では自分が世界を支配しようとしてる……面白そう! そういう人ほど、私を見たときにどう反応するか楽しみだわ♪)


 シフォンはふわふわのロングヘアを揺らし、パステルカラーのフリル魔導服とウサギ耳アクセを着け、街の片隅にある静かな書斎風の建物に足を運んだ。

 そこで、クロウは自作の戦略メモや情報資料を整え、独り計画を練っているらしい。

 無論、彼は強大な相手には阿らず、凡庸な者を「無能」と見下すタイプだ。そんな相手をどう落とすか――シフォンは期待に胸を弾ませる。


 小さな木製のドアを開けて中へ入ると、薄暗い書斎には整然と並ぶ本棚、机には複雑な地図とドキュメント。

 中央に立つクロウは、漆黒のローブとクールな面差しを持ち、金属フレーム眼鏡を押し上げながら、軽くため息をつく。

 彼は見た目20代半ばの青年アバター。整った顔立ちだが、その瞳はどこか冷たく、鋭い知性を宿している。


「君は……誰だ?」

 クロウは静かに問う。声は低く落ち着いていて、相手を測るような冷静さがある。


(ここは素直に名乗って、彼に私を利用する価値を感じさせる作戦ね)


「初めまして、私はシフォン♪ クロウさん、ですよね? 最近すごく有名になってる人だって聞いて、ちょっとお話ししてみたくて来ちゃいました!」

 シフォンはあざとく微笑み、軽く頭を下げる。柔らかな声で親しみを込め、彼を立てるように「有名」と言ってみる。


 クロウは目を細め、「聞いてきた? そうか。俺が有名? まあ、計画を進める上で目立つ存在になってしまうのはやむを得ないことだが……」と呟く。

 彼は不確かな笑みを浮かべ、シフォンを上から下まで眺める。その眼差しは人を道具かどうか判断するような冷淡な光を帯びている。


「話してみたい、ね……君はどんな情報を持っている? もしくは何を求めている?」

 直截的な質問。クロウは常に合理的で、感情に流されない。無駄を嫌うタイプだろう。


(そう簡単にはいかないわね。でも、こういう人は、まず私がどれだけ彼の価値を認めているか示す必要がある)


「実は、クロウさんが『この世界をより良い秩序で満たそうとしている』って噂を聞いて、興味が湧いたんです。私、戦闘が苦手で皆に助けられてばかりだから、強くて聡明な人が世界を良くしてくれるなら、すごく素敵だなって思ったの♪」

 ここで「世界を良くする」という彼の建前を肯定し、純粋な感銘を示す。彼が自分を“新世界の神”と信じているなら、それを褒めることは大きな効果があるはず。


 クロウは軽く眉を上げ、「ほう、俺の計画を評価するとは珍しい。多くの者は俺を独善的と非難するか、恐れ跪くかだ。君はそのどちらでもないのか?」

 疑いの目を向けるが、わずかに興味を示したようだ。


「非難なんてとんでもない! クロウさんは頭が良くて、理想の秩序を実現するために努力してるんでしょう? そういう崇高な目的って、なかなか簡単には真似できないと思うんです! 私、本当に尊敬しちゃいます♪」

 あえて「崇高な目的」と褒めちぎり、彼の中にある優越感を刺激する。夜神月タイプは、自分が正義であり、他より優れた存在だと思われると気分が良いはず。


 クロウは微かな笑みを浮かべる。

「ふ……面白い子だね、シフォン。俺を正当に評価できるとは、君は愚かではないようだ。普通のプレイヤーは、表面的な強さや金に目がくらむが、君は違うらしい」

 悪くない反応。すでに彼はシフォンを「多少は理解力のある者」と評価し始めている。


(いい感じ♪ ここでさらに「クロウさんの計画をもう少し詳しく知りたいな」って言えば、彼は自分の思想を語りたくなるはず)


「クロウさん、もし差し支えなければ、もう少しあなたの計画について聞かせてもらえませんか? こうやって頑張っている人が、どんな世界を目指しているのか、もっと知りたいんです!」

 シフォンはウサギ耳アクセを軽く揺らし、好奇心いっぱいの表情で尋ねる。あざとい可愛らしさを維持しつつ、相手に語らせる状況を作る。


 クロウは眼鏡を押し上げ、「俺はこの世界で無秩序に行われる殺戮や妄動を抑え、合理的な秩序を打ち立てたい。愚かなる存在は排除し、有能な者を適材適所に配置する。つまり、俺こそが新世界の神となり、理想の社会を形成するのだ!」

 その声は熱を帯びているが、冷酷さも併せ持つ。だが、彼が“神”を自称するあたり、夜神月的な自己陶酔が垣間見える。


「わぁ……新世界の神……! すごい発想ですね。クロウさんなら、本当にそれができちゃいそう。だってすごく頭が良くて、論理的で、強そうなんですもの♪」

 ここは少し大げさなくらい褒める。夜神月タイプは、人並み外れた知性と理性を褒められると満足する。


 クロウは薄く笑う。「当然だ。知性に欠ける連中がのさばるから、この世界は混沌に陥る。だが俺の手にかかれば、愚者は淘汰され、賢者のみが生き残る理想郷が誕生する。それが俺の正義だ」

 彼は全能感に浸るような目をしている。


(効いてる! でもこれだけじゃだめ。彼にとって私はただの称賛者でしかない。ここで私が彼にとって有用な存在になれば、さらに取り込めるわ)


「クロウさん……もし、私みたいな弱い存在でも、あなたのお役に立てることがあったら、何でも言ってくださいね! こんな小妖精族の私が言うのもおかしいかもしれないけど、クロウさんが新世界を作るお手伝いができたら、とっても光栄です♪」

 自らを卑下しつつ、協力を申し出る。彼は権力志向者ゆえ、自分に役立つ駒が増えるのは喜ばしいはずだ。しかも、それが無邪気に称賛してくる愛らしい存在なら尚更。


「役に立てるかどうか……ふむ、君には戦闘力もないようだが、逆に言えば誰も疑わない間者として動けるかもしれないな。あるいは情報収集の手先に使えるかも……」

 クロウは少し考え込み、シフォンを駒として利用できないかと検討しているようだ。


(やっぱり駒扱いか……でもいいの、それで。私の目的は、彼に私を手放せない存在だと思わせること)


「私、強くはないけど、いろんな人と仲良くなって、情報交換するのは得意なんです♪ もしクロウさんが『このギルドの動向を知りたい』とか、『あのアイテムの所在を探れ』とかあれば、私喜んでやってみたいな!」

 情報収集は私が得意、とアピール。既に何人もの男性陣を手玉にとっているシフォンなら、情報も簡単に手に入るだろう。


「ふ、そうか。君が協力するなら、俺の計画は一層円滑になるかもしれない。君ほど無害そうで、人懐っこい存在は疑われにくい……なかなか使えるかもしれないな」

 クロウは満足げだ。シフォンが確保した“推しメン”の中にはギルマスや王気取りの強者もおり、そのコネで希少情報を入手するなど朝飯前だ。


 ここでさらにもう一押し。

「やったぁ、クロウさんの計画に少しでも貢献できるなんて、すごく嬉しいです! クロウさんは本当にかっこいいし頭が良くて……私、あなたの新世界が実現する日が待ち遠しくなっちゃった♪」

 感嘆と憧れを折り重ねて伝える。夜神月タイプは自分を信奉する存在に弱い。「この子は自分を最高に評価している」と思えば、彼女への好感度が上がる。


 クロウは瞳を細め、穏やかな表情を見せる。

「シフォン、君はなかなか理解があるようだ。無能ではなく、俺の価値を見抜く目がある。気に入ったよ。もし君が俺に忠実に尽くし、新世界が成立した暁には、君にふさわしい地位を与えてやるかもしれない」

 これまで他人を「駒」扱いしてきた彼が、「気に入った」とまで言うのは大きな進展だ。


(よし、あと少しで完全に陥落ね! 「私でいいの?」と控えめに感激を表して、さらに彼の保護欲と優越感を刺激しよう)


「わぁ、本当ですか!? 私みたいな弱い子にそんな機会がもらえるなんて……クロウさん、優しいんですね♪」

 ここで「優しい」と言うのがポイント。夜神月ライクな男は通常「優しい」と評されることは少ない。彼は冷酷で合理的だから。だが、シフォンが無邪気にそう言うことで、「自分はただの冷酷な独裁者ではなく、理解者には恩恵を与える慈悲深い存在」だと思わせられる。


 クロウはわずかに頬を紅潮させるかのような微妙な表情変化を見せ、「や、優しい? 俺は合理的に判断するだけだが……君が有用な存在で、その努力に報いるのは当然だ。別に甘くなどない!」と軽く取り繕う。


(かわいい反応♪ 完全にこっちが優位ね)


「はい! クロウさんが決めることは全て正しいって思います。だから私、クロウさんの計画が少しでも前進するよう、全力でお手伝いするつもりです♪」

 ここで“絶対的な信頼”を表明することで、彼に「この子は自分の最高の理解者であり、手放したくない存在だ」と思わせる。


「ふふ、いいだろう。シフォン、君がそこまで言うなら、今後の動向を君にも共有しよう。俺がこの世界の愚か者たちを粛清し、理想郷を築くまで、一緒に歩むといい」

 クロウは静かな自信に満ちた声で言う。まるで自分が絶対的な正義であり、シフォンを特別な配下として認めたかのようだ。


 シフォンはあざとく微笑み、「わぁ、ありがとうございますクロウさん! 私、あなたと一緒にいられるなんて夢みたい。これからもいっぱいお話聞かせてくださいね♪」と両手を合わせて可憐な仕草を見せる。


 クロウはその様子を見て、軽く息を吐く。「ああ、君になら少しばかり計画を明かしてもいい。君は……そうだな、俺の特別な情報員とでも位置づけておこうか。人前では黙っていてくれればいいが、何か困ったことがあれば、俺が助けてやることも考えよう」

 すでに彼はシフォンを守り、使いたい気持ちでいっぱいだ。


(作戦成功♪ 夜神月タイプの理想主義者も、このとおり!)


 こうして、第8の“推しメン”として、シフォンは狡猾な「新世界の神」志望者・クロウを手中に収めた。

 彼女は「みんな仲良くしてね~♪」と無邪気に言うが、実際には策士的行動で強力な男たちを手札に加え続けている。クロウは自分を神と見做し、彼女を有用な存在と認識した時点で、もうシフォンの虜だ。何かあれば彼は知恵と計画力を駆使して、シフォンの望みを叶えてくれるだろう。


 シフォンは最後にあざとく微笑み、

「クロウさん、本当に頼りになるなぁ……これからもよろしくお願いしますね♪」

と甘い声で告げる。

 クロウは「当然だとも、シフォン。お前は俺が作る理想世界で、その存在価値を証明するんだ。楽しみにしておけ」と答えるが、その瞳にはもはや抗えない魅了が走っている。


 こうしてまた一人、狡猾な天才ですら、シフォンの可憐な笑顔と称賛に骨抜きにされ、新たな“推しメン”となったのである。



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