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第6章:高慢なる“王”を懐柔!

 VRMMORPG《Twilight Fantasia》の世界は、今日も晴天。

 柔らかな風に揺れる草花、澄み渡る空、そして大都市プレリュードタウンに行き交う多種多様なプレイヤー達。

 その中で、小妖精族のシフォン(Ciffon)は、ふわふわロングヘアとパステルフリル魔導服、ウサギ耳アクセで今日もあざとく可憐な姿を誇示しながら闊歩していた。


 彼女は今まで、屈強な戦士グラント、クールなアサシンのカイ、寂しがり屋ヒーラーエルネスト、カリスマギルドマスターレオンハルト、そして職人気質の鍛冶屋NPCロジャーまでも籠絡している。皆、シフォンの無邪気な笑顔と甘い褒め言葉に骨抜き状態だ。

 だが、シフォンはまだ満足しない。この世界にはさらなる“強者”がいることを噂で聞いていた。


 その者の名は……アッシュ(Ash)。

 彼は「黄金王」を自称し、街中では有名な存在だ。誰もが彼を恐れ、一目置いているという。その振る舞いは、Fateのギルガメッシュを彷彿とさせる。誰もが彼を王のように扱わなければならず、自分以外を「雑種」と蔑むほどの傲慢さを持つ。

 レアアイテムを大量に所有し、どんな強敵もねじ伏せてきたらしい。高慢で尊大、まるで全てを支配する覇王。そんな男が、この世界には存在するという。


(王様気取りの超傲慢キャラ、かぁ。面白そう♪ 落とせない男なんていないわ。ましてやギルガメッシュっぽいキャラなら、褒めれば褒めるほど有頂天になるはず。ちょっと手強いかもしれないけど、私の“あざと可愛い”戦術で落としちゃおう!)


 シフォンは上機嫌で街を歩く。

 すると、メインストリートの中央、特別な噴水前広場で、一際豪奢な装備を纏った男性プレイヤーが座していた。金色を基調とした鎧やマントを纏い、その下には煌びやかな宝飾がちらつく。背後には召使いのように従う数名のプレイヤーを連れている。

 まるで王座に腰掛ける王のように、足を組み、こちらを見下ろしている。


 あれがアッシュだ。

 通りゆくプレイヤーたちは彼を恐れ、道を空けている。「アッシュ様、お疲れさまです!」「今日はどんなレア品を見せてくれるんですか……?」と媚びる者もいるが、彼は鼻で笑うか、無視するかだ。

 噂通り、傲慢極まりない態度。


(なるほど、本物の“王”気取りね。ふふ、私が心底から褒め称えたらどんな顔するのかしら?)


 シフォンはゆっくりとアッシュの前へ歩み寄る。ウサギ耳を揺らし、フリル服をふわりとなびかせ、清らかな笑顔を浮かべる。


「わぁ……あなたがアッシュさん? 有名な“黄金王”って聞いてましたけど、本当にオーラがすごいですね♪」

 まずは素直な賞賛から入る。あくまで純粋で無邪気な少女が尊敬の眼差しを向けるような声色で。


 アッシュはゆるりと視線を落とした。その金色の瞳は、すべてを見下す王者の眼光。

「ほう、雑種が俺を称えるとは珍しいな。だが、下等な者たちが俺を褒めたところで価値はないぞ? その可憐な外見で何を企んでいるか知らんが、俺の前で媚びるとは……身の程をわきまえよ」


 辛辣な言葉。さすがは王様気取り。

 普通のプレイヤーならここで心が折れそうだが、シフォンは微笑みを絶やさない。むしろ、「雑種」呼ばわりすら想定済みだ。


「えへへ、雑種とか言われちゃった……でも、アッシュさんがそれだけ高いところにいらっしゃるってことですよね! 私みたいな弱いフェアリーから見れば、アッシュさんは本当に雲の上の存在です♪」

 彼を崇高な存在と位置づけ、自分を下に置くことで、相手の支配欲と自尊心を満たしてあげる。計算ずくの対応。


 アッシュは鼻を鳴らす。「ふん、理解しているようだな。この世界で俺以上にレアアイテムを集めた者はいない。俺はこの世界の宝物庫を独占した王。弱者が俺を崇めるのは当然だろう」


「わぁ、本当にすごい! 宝物庫だなんて……アッシュさん、きっと他の誰も持っていない最高のアイテムをたくさんお持ちなんですよね? 聞くだけでドキドキしちゃう!」

 ここでアイテムコレクターとしての自尊心を刺激する。ギルガメッシュ的な男は、“自分があらゆる宝を所有している”と誇示したいはず。


 彼の眉が僅かに動く。

「ほう、お前程度の雑種が俺の宝物庫に関心を持つとはな。面白い……だが、その程度の甘言で俺は動かんぞ。世界に存在する希少アイテムはほぼ俺の物。それを知ったところで、お前ごときが理解できるか?」


 アッシュの言葉は高圧的だが、すでに“自慢したい”心理が見え隠れする。

 シフォンは更に目を輝かせ、「理解なんて……できないかもしれないけど、憧れます! きっと、アッシュさんが手に入れた宝物には、それぞれ素敵な物語があるんでしょうね! 私、そういう想いの込もったものが大好きなんです♪」と畳みかける。


「想いだと? 宝は宝だ。それでも……面白い見方をするな、お前は。雑種にしては悪くない考えだ。俺が得てきた宝は、ただのデータではない。俺の征服の歴史そのものだ」

 アッシュはちらりと背後の取り巻きを見やる。取り巻きたちは何も言えず頭を垂れている。彼らはアッシュを崇拝するが、所詮は怯えた信者に過ぎない。

 しかしシフォンは違う。怯えてはいるようでいて、その瞳は純粋に憧れを映し出し、心底から称賛する雰囲気を醸している。そこが取り巻きとの違い。


(よし、効いてるわ。もっと褒めて、もっと喜ばせてあげよう♪)


「アッシュさん、もしご迷惑でなければ、あなたが誇る宝物庫の一部でもお聞かせいただけませんか? 見せていただけるなんて贅沢は言いません。ただ、どんな素晴らしいものがあるのか、想像するだけで胸が高鳴ります♪」

 直接「見せて」とは言わない。あくまで「聞くだけで嬉しい」と控えめに振る舞うことで、彼を気持ちよくさせる。


「ほぅ……ふははは! お前、なかなか面白いぞ。その無垢な瞳、俺を楽しませる心意気は悪くない。いいだろう、特別に教えてやる。光栄に思え」

 アッシュは気分を良くしたのか、立ち上がり、金のガントレット越しに指を鳴らす。「取り巻き」たちが意味ありげに頷き、彼の周囲に何やら投影魔術めいたUIを展開する。


 そこには様々なレアアイテムのリスト。伝説級の剣、世界に1本しかないと言われる魔杖、古代魔法書、希少生物の鱗、超レア鉱石など、まさに宝の山。

 アッシュは得意げに、それらを一つ一つ誇示しながら説明する。


 シフォンはうっとりと聞く。

「す、すごい……本当にそんなアイテムがあるなんて……アッシュさんがこの世界の王様みたいだって噂、嘘じゃなかったんだ! あなたこそ、この世界で最も輝く存在なんですね♪」

 「あなたこそ最も輝く存在」――王を擁し、他者を雑種扱いする男にとって、それ以上に甘美な言葉はない。


「ふん、当然だ。俺は唯一無二の王なのだからな。お前がそんなに素直に認めるとは思わなかったが……どうやら見る目はあるようだ」

 アッシュは満足げに頷く。これまで、多くの者は彼を畏れ敬うふりをしても、内心は恐怖や打算だった。だがシフォンは、まるで童話のお姫様が王子様に憧れるような、清らかな瞳で見つめる。


 そんな視線に、アッシュは不思議な高揚感を覚える。

(なんだ、この雑種は……純粋に俺を讃えて、俺の宝に感動しているように見える……まるで価値を解さぬ愚か者ではなく、俺の価値を心から認めているようじゃないか)


 シフォンはここで一押し。

「アッシュさん、あなたのような王がいるなら、この世界はとっても豊かで面白い場所なんでしょうね。私、戦闘は苦手だけど、あなたの存在を知って、憧れで胸がいっぱいです! いつか、私みたいな弱い存在にも、その輝きをほんの少し分けてもらえたら……なんて、図々しいかな?」

 哀願ともとれる遠慮がちな態度。彼女は名声や力ではなく「彼の輝き」に憧れる姿を示している。


 アッシュは「ふん」と息をつくが、冷たさは少し和らいでいる。

「分けてやるかは俺の気分次第だが……まあいい。お前は確かに弱く取るに足らぬフェアリーかもしれんが、その分素直だ。俺が与えれば、さぞ喜び、俺の偉大さをより実感するだろう」


「はい! だって、そんな素敵なアイテムや加護を頂けたら、私は幸せです♪ あなたがどれほど素晴らしいか、みんなに自慢したくなっちゃうかも!」

 ここで「みんなに自慢」なんて言えば、彼はますますご機嫌になる。自分の価値が広く知られることを望む彼にとって、彼女は宣伝塔にもなりうるのだ。


 アッシュは口元をゆがめるように微笑み、周囲の取り巻きを見回す。

「見たか、お前たち。この娘こそ、俺に相応しい讃歌を捧げる者よ。お前らなど形ばかりの信者だが、彼女は純粋な目で俺を讃えているではないか」

 取り巻きたちは困惑混じりに頭を垂れる。まさか王が、こんな名もないフェアリー娘を褒めるとは。


 シフォンは内心でほくそ笑む。

(ふふ、もう少しで落ちるわね……こんなに気分よくさせたら、彼は私に何か特別なものを与えたくなるはず。強引に要求はしないけど、自然とそう導くのがコツ)


「アッシュさん……私、あなたのような方にお会いできて、すごく嬉しいです! これから先、何か困ったことがあったら、少しだけ頼ってもいいですか? あ、もちろん、アッシュさんの負担にならない範囲で……」

 あくまで控えめに甘える。絶対の王である彼は、自分が頼られることを当然のように受け入れ、また喜ぶだろう。


「ほう、俺に頼るだと? この俺に声をかけるなど、お前ごとき雑種に許されるのか……だが、まあいい。お前は俺を正しく讃えた。その褒美として、お前には俺の名と存在を心に刻むことを許してやる。」

 アッシュは腕を組み、やや照れ隠しをするように高慢な口調を維持するが、その態度には微妙なデレが滲んでいる。


「わぁ……嬉しい! アッシュさん、ほんとに優しいんですね♪ こんな風に相手を認めてあげるなんて、やっぱり王様って器が違うんだなぁ!」

 「優しい」と言われてアッシュは一瞬息を呑む。王たる存在が優しさを指摘されるなど滅多にないだろう。

 しかしシフォンはわざと「強い」「偉大」だけでなく「優しい」という形容を交えることで、彼をより自分に好意的にさせる。


「なっ、優しいだと……俺は王だ。心優しいなどと……だが、まあ、この俺が下等な存在に慈悲を施すのは当然の王道……その程度の言葉で喜ぶなら、好きなように言うがいい!」

 言い訳がましいが、アッシュはまんざらでもなさそうだ。顔がわずかに赤らんでいるような気すらする。


(やった、完全に落ちた♪)


「ありがとうアッシュさん! これからも……私、アッシュさんの偉大さを胸に、頑張ってこの世界で生きていきます。もし私がどこかで困ってたら……ほんの少しだけ、アッシュさんの力を借りられたら嬉しいな♪」

 シフォンは上目遣いで愛くるしく微笑み、ウサギ耳をぴょこりと動かす。まるで「私を守ってね」と暗にねだる子ウサギのような仕草だ。


「……ふん、お前程度を守るなど容易いこと。俺の名を汚す無粋な敵がいれば、瞬く間に蹴散らしてやる。ありがたく思え」

 アッシュはそう宣言し、周囲の者を睥睨する。もう彼の中でシフォンは他の“雑種”とは違う特別な存在になってしまった。

 その純粋な賞賛に応えることで、自分がより王たる器を示せる。彼女を守り、助けることで、より強く自分の偉大さを証明できると信じている。


 こうして、あざとかわいいシフォンは、Fateのギルガメッシュを彷彿とさせる高慢なる“王”アッシュをも攻略した。

 彼は今後、レアアイテムが必要な時や、強力な敵が現れた時、シフォンがほんの少し甘い声で呼べば颯爽と現れ、圧倒的な火力と財宝を駆使して助けてくれるに違いない。

 シフォンは「みんな仲良しだね~♪」と無邪気な口調でまとめるが、実際には凄まじいハーレム状態だ。屈強な戦士、冷酷なアサシン、優しいヒーラー、傲慢なギルドマスター、職人気質の鍛冶屋NPC、そして自称王である黄金の覇者まで、皆が彼女を崇め、守る。


(ふふっ、ログインするたびに推しメンが増えていくわ。アッシュさんまで落とせるなんて、私って本当に天才かも♪)


 シフォンは心の中でほくそ笑む。彼女が“あざとかわいい”仕草で讃えるだけで、王ですら彼女の虜となる。

 どんな個性を持った相手でも、彼女の手にかかれば魅了されてしまうのだ。

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